逃げるように寮へ帰った秀吉は廊下で何者かと激突する。互いに正面からぶつかり、その勢いで両者とも倒れ込んだ。しかしすんでのところで誰かに支えられ床に倒れることは防がれる。
「まったく君は、鬱陶しいこと極まりないね」
支えられ体勢を整える秀吉の耳に聞きなれた声が飛び込む。そのため目を向けた先で、生徒会長が黄緑色の目を見開いて黙った。
「豊白、どうかしたのかヨ」
黙り込んだ生徒会長に代わって、彼を支えていた真葉が口を開く。そのため秀吉は涙で濡れた目元をぬぐい何でもないと返した。そう言えば真葉はこれ以上の追求をしない。彼はそういう男だ。
しかし正面に立つ彼は違った。
「僕の部屋に行こう。政宗はそれを連れてきて」
急に真剣な表情を見せた生徒会長はくるりときびすを返す。そして伊達川に支えられていた秀吉は、そのまま生徒会役員たちに連行されて行った。
異様なほど華美に飾られた生徒会長の部屋に入ると秀吉はため息を漏らす。
「相変わらずむっさい部屋やなぁ」
「うるさいよ。それよりも君が泣きながら僕に激突してきた事だけど、釈明させてあげるから動機を説明しなよ」
「動機て、犯罪者みたいに言わんといて」
「早くしてくれるかな。僕はこれでも忙しいんだ」
相変わらず人の話を聞かない生徒会長に、秀吉はうんざりしながら口を開いた。そして長政に好きな相手がいたらしい事を端的に告げる。
すると生徒会長は驚くでもなく、それがどうしたと言い放った。
「君は彼を都合の良い存在として扱っていただろう。そんな君が、今さら彼に好かれようなんて虫が良すぎて笑いもでないよ」
「長政クンが虫よけのこと知っとるなんて、思わへんかったわ」
「それは君が間抜けだからだよ。むしろ君は間抜けでしかないけどね」
黄緑色の瞳を細めた生徒会長は室内のソファにどかりと座った。そんな生徒会長を他ふたりは疲れた少し呆れた顔で眺めている。
「だけど、間抜けな君にチャンスをあげるよ。2月に生徒会は最後のイベントを開く。君はそこで彼の本質を知ることができるだろう」
「2月のイベントて、バレンタインか?」
「これはまだ構想段階で、僕以外には政宗と幸村しか知らない。そこで僕は最後の賭けに出るから、君も参加すれば良いよ」
次のイベントで告白のチャンスが与えられる。そう言われても、秀吉は喜んでいいのかわからなかった。むしろそんなチャンスなど最初から放棄したほうが、傷付かずに済むのではないだろうか。
そう考え込む秀吉の目の前で、生徒会長は目を細めて頬杖をつく。
「……負け戦には出ない、なんて臆病者のすることだよ」
「うっさいわボケ。誰が出えへんて言うた」
「今の彼はとても人気があるらしいから、せいぜい頑張りなよ」
「それを言うたら明紫波センセもやろが。あんたは知らんやろけど、あのセンセこっそりファンクラブあるからな!」
アホめと強く言い捨てた秀吉は顔をしかめた生徒会長に背を向け部屋を飛び出した。