春を迎えると月城学園は入学式を行う。在校生代表は例年通り生徒会長の役目で、風紀委員長は式典での役目はなかった。しかし入学式への参列は義務づけられているため面倒ながらも顔を出す。
緋田信長と出会って二年経つが、今まで成績の面では何度か勝つこともできた。試験の順位においても同率一位ということが多い。だが三年生になるとそこには不動の一位が君臨している。
卒業もせず理科室で謎の実験ばかりしている三年生は石黒三成という。授業に出ず理科室にこもる風変わりな生徒だが、試験の成績だけは良い。噂によれば授業内容をすべて覚えてしまっているらしい。さらに言えば外国の研究機関からの誘いがいくつか来ているとも聞く。
そんな風変わりな男でも、秀吉にとっては目の上のたんこぶだった。
「また万年二位なんて言われとうないもんな」
なんとしても勝たなければとひとり気合いを入れながら桜の木を眺める。すると見知らぬ生徒が近付いてきた。
「こんにちは」
「こんちわ、新一年生はホームルーム終わったん?」
胸についた白い花を眺めつつ秀吉は笑顔で問いかける。すると長身の新一年生はふわりと柔らかに微笑んだ。
「はい、なので告白に来ました」
幼さの残る顔にまんべんの笑みを乗せた生徒の発言に秀吉は目を点にして固まる。今まで何度も告白されてきたが、ここまで唐突に始めるのは初めてだった。
「豊白先輩、好きです。付き合ってください」
あまりに突然の流れに、そもそも初対面じゃないかという疑念も外に出せない。ただ……と、秀吉は相手を頭からつま先まで眺める。
このスタイルの良さなら自分にまとわりつく男たちを蹴散らせるだろう。加えてこの無害そうな一年なら、後々に面倒な事になりそうもない。
それだけのことを考えた秀吉はふと中庭の向こうで教師と口論する緋色の頭を見つける。窓の外から見られていることにも気付かないほど生徒会長は英語教師に夢中らしい。その様子を遠目にした秀吉は笑顔を作り一年生に視線を戻した。
「ええよ。恋人になったら美味しい思いとかさせてくれるんやろ?」
金持ちの子息が通うここに来たのだから相手も金持ちのお坊ちゃんだろう。そんな考えの上で、秀吉は笑顔のまま問いかける。すると一年生は少し驚いたような顔を見せた。あげく苦笑いを浮かべると学生にできる範囲でならと答える。
「それなら交渉成立やね」
恋愛なんてそもそもするつもりはない。この一年生がうるさい虫たちの駆除に使えればそれで良い。その上で美味しい思いができれば一石二鳥だ。そんな簡単な考えで秀吉は相手の告白に返していた。
「それで、名前なんて言うん?」
「浅日長政です」
まんべんの笑みで名前を告げる一年生の胸ポケットでペンについたウサギの飾りが揺れる。趣味まで無害で可愛らしい一年生に秀吉は手を差し出した。
「よろしゅーな」