日が少し傾き掛けた頃。灰色の国を囲む壁の前に1人の青年を相手に2人の門番が話をしていた。「だから何度も言っている通り、この国に入国審査をした時からあんたはもう参加しなけりゃならないのさ」青年はかぶっていたキャスケットを取りこう言った「わかりました。何を言っても無駄そうですね。参加します。日程は明後日でしたか?それなら出国できそうです」すると門番は顔を見合わせ大声で笑いだした。「あんたはバカだな。この国に入国したとしたら。もう死ぬまで出られないのさ」「全くだ。この国は今は人手がいない。だからこうやって人手を稼いでるのさ。わかったなら入った入った。あんたが無事安らかに死ねる事を祈ってるぜ」青年は門番におされ、強引に国へと入国させられたのだった。「…やれやれ。面白くないね」そんな呟いた青年の前にホビー(浮遊する事が出来る乗り物)に乗って現れたのは兵士らしき者だった。「新しく来たお方ですね?まず私が王の元まで案内させていただきます。ではこちらにお乗りください」兵士は青年をホビーに乗せると空へ浮遊した。上から見ると国が東と西の二つに分離し、両国の手前に一つづつ、大きな塔が見える。中央には瓦礫や乗り物などの残骸などが広範囲に渡って存在する荒野があった。「見てお分かりになるでしょう。この国は2つの街。いえ、国が存在するのです。あちらは東の国、こちらは西の国とあの瓦礫が散乱する荒野を境にして」「つまり。僕らはあそこで明後日に”戦争”をするんですね?」兵士は青年を一瞥した。「えぇ。そうです。貴方は西国の兵士としてあの場に立つんです。私たちの”代わり”に」青年はそれ以上何も言わなかった。ただただ。街並みを見下ろすだけだった。
ホビーが西の塔につき、青年は塔の一番上にいる王の元へと兵士に連れられてきたのだった。「おぉ。おぬしが新たな兵士じゃな?よう来たよう来た」歳は60を過ぎたあたりだろうか。それくらいの老人だった。「どうも王様、この度は戦争への参加。心より嬉しく思っております」青年はいかにもわざとらしい言葉を並べ軽く礼をした。しかし、それを聞いた王は大変喜んだのだった。「そうかそうか。やはり西の国へ兵士として来て正解だっただろう?よろしい!ならば儂が直々にこの国の素晴らしさを語ってあげようではないか」青年は引きつった笑顔でお願いしますと言わざるおえなくなってしまった。「はぁ…疲れた」王の話が終わったのは日が暮れた頃だった。青年は先ほどと同じ兵士に案内された宿屋で休む事にした。兵士によれば明後日の朝、自分が呼びに来るのでそれまでは自由にしていいらしい。夕食を済ませシャワーを浴び。フカフカのベットの上に倒れこんだ青年は、ふと思い出した様に呟いた。「…歴史、聞いてないや」しかし眠気と疲労の為かすぐに眠りについてしまった。
次の朝。青年は軽く朝食をとった後、宿屋の主人にこの国の歴史を知ることのできる場所がないか聞いた。「歴史?あぁ。なら街はずれにある春夜堂に行ってみるといい。そこに行けば大体の事は聞けるはずさ」「そうですか。ありがとうございます」青年は軽く礼をし、モトラドに跨り街はずれまで走った。街はずれに行くにつれ活気は無くなり、寂れた印象を受ける。春夜堂はそんな街はずれの大通りに面してあった。青年はモトラドのエンジンを切り、おして店内に入った。店内はガラス細工などが沢山置いてあり、窓から差し込む光を受け煌びやかに輝いている。カウンターには一人の年老いた女性が座っていた。「おや。お客さんだなんて珍しい。旅のお方ですかな?」女性はゆっくりとした口調で話しかけてきた。「えぇ、歴史を知りたいならここに行けばわかると言われたので。ですが、見た限りではガラス工房の様に見えますが…」青年はキャスケットを取り店内を見渡した。「そりゃそうさ。ここはガラス工房だからね。ま、この国の歴史を知りたいってんなら確かにここが一番だね。こちらにどうぞ旅人さん。立ち話もなんでしょう?」女性は青年をテーブルに案内しお茶を差し出した。「そうだね。まず何から話そうか、この国が二つに分かれる前からの話をしよう」女性の話によると、この国は元々1人の王が統治しており、国もそれなりに栄えていた。しかし王が病で倒れ息を引き取ってしまった。その時に後継はどうするかという話になり王の息子二人の間に軋轢が生じたのだという。どちらも自分が王になると引かず、遂には戦争にまで達してしまった。最初こそ自国の兵で戦争をしていたものの、長引く戦争の為、人も資材も食料も尽きてきてしまった。その為兄弟は戦争にルールを追加した。国の中央を戦争区域とする事。それ故に東の国と西の国に分かれ中央に荒地が存在するのだ。次に決められた日から戦争を起こし、その戦争の終わりの日までに敵陣を殲滅させた方がこの国の王になる事、そして、女性は次の事が最も重要だと念押ししてから語った「戦争に参加するのはこの国の人じゃなく、入国した人に”代理”してもらうのさ。そんな事を知らず旅人がこの国に入国し何人も犠牲になった。生き残ったとしても出る事は叶わない。次の戦争の兵士として扱われてしまうからね、まぁ人を殺したいからと言う理由で入国する輩もいるみたいだけどね。因みにだが脱走も無理よ、戦争時に門には鍵が掛かってて鍵は二人の王が一つづつ持ってるからね」女性はお茶を飲み青年を見た、青年は冷静な表情のままだ。「なるほど。そんな背景があったんですね。因みに、勝敗はどうなってるんです?」女性はため息をつき、こう答えた「見ての通りだよ。その答えは旅人さんだってわかってるんじゃないのかい?勝敗なんざついていないさ。何十年もね。いくら私らに被害が無いとはいえ、何も知らない旅人を犠牲にするのは心が痛い。だが、街の連中はそれに慣れちまったのさ誰も間違ってるとも思わないし否定もしないそれがこの国さ」女性はお茶を一気に飲みほし青年に話しはこれで最後だと告げた。「お話。ありがとうございました。お茶美味しかったです」キャスケットをかぶりなおし、モトラドをおして店を出ようとした青年を女性が呼び止め言った。「生き残ったらまたおいで。今度は旅人さんの話を聞かせて欲しいものだね」それに対し青年は笑顔で「えぇ。またいつか」店を後にモトラドのエンジンをかけ走り去った。「戦争…か。何処の世界もあるんだな。人故の競争心から生まれる物なのだろうか」そう呟いた青年は何処か哀しげだった。
青年は携帯食料などを店に寄り調達していた、そんな時近くにいた兵士の会話が耳に入ってきた。「そういや向こうの国で兵士同士の殺しがあったんだってな」「なんでも殺した側は、最近入って来た、黒ジャケットのパースエイダー使いらしいな」「まぁ。襲ってきたのは殺された方らしいし、自業自得だよな」兵士らは早々にその話を打ち切り別の話題に入ってしまった。青年はそのまま店を出た。「黒ジャケットのパースエイダー使い…ね。覚えがあるけどまさかね」もう日も暮れ宿屋で夕食など一通り済ませた後、部屋で誰かと話していた。「僕が何をしてるかって?手入れさ久々にやる事が出来た。ん?いや、別に戦争に興味を持ったわけじゃ無いよ。うん…そうだよ。僕はこの戦争を終わらせる為の準備さ」
三日目、太陽が顔を出し夜の終わりを告げる。夜が明けた街の通りを一つの群衆が兵士達と共に戦場へと向かっていた。その中に青年もいた。しかし、他のものは剣や、パースエイダー、槍や斧など武器を手に持っているにもかかわらず。青年は何時もの格好に手にはカバンと杖のみだった。荒野にて両軍が睨みあう。「これより。東西戦争を始める。ルールは簡単だ。この戦場にいる、敵軍を殲滅したら勝ちとなる。戦争が終わる日は1ヶ月後だ。支給物は随時支給されるから安心してくれて構わない。では。始め!」国中に鳴り響く鐘の音と共に両軍が声を上げ自軍の敵に向け駆けて行った。しかし無理やり兵士として捕まった者達はその場に留まって震えたり、瓦礫の陰に隠れたりしていた。そんな彼らを横目に青年は北へ歩いていく。やがて、北の端に着き辺りが一望できる瓦礫に立って戦争の様子を眺めた。
悲鳴、爆音、銃撃音、そんな音が鳴り響く青空の下。黒いキャスケットの下から見える短い銀髪、金と水色の澄んだ眼、白いシャツの上に膝下まである黒いコートを着て、ズボンをベルトで腰に留めた青年が何も言わずずっとその様子を眺めていた。そんな時青年の後ろから少し高い声の者が話しかけて来た。「いいんですか?参加しなくて」「その言葉そっくりお返しするよ」青年は声がした方を見ず答えた。そして声の主は青年の横に来て同じく光景を眺めながら言った「お久しぶりですね」青年は冷静に答えた「あぁまた会ったね。キノさん。やっぱり噂になってたのは君だったんだね」キノと呼ばれた者は、短めの黒髪で黒いジャケットをベルトで留め、太ももにホルスターに入ったパースエイダーを吊っていた。「どう思いますか」キノは青年に尋ねた。「どうって…この光景を見てかい?」「いいえ。僕が今日しっかりと出国できるかどうかです」青年は少し考えながらコートの内に手を入れながら聞いた。「キノさんは生きるか死ぬか何方がいい?」キノは太もものホルスターに手をかけて答えた「その質問そっくりお返しします」その時近くの岩陰がチラリと動いた。暫くの静寂「答えは」青年が聞いたその瞬間、ナイフを持った男二人が岩陰から青年とキノめがけて両脇から飛び出してきた。発砲音が2回。キノと青年がほぼ同時にパースエイダー抜き、1発づつ撃った。飛び出して来た1人は額を撃ち抜かれ、もう一人は心臓を撃ち抜かれて息絶えた。「もちろん。死にたくはありませんよ。パースエイダー…お持ちだったんですね。それもかなりの腕ですよ」「こいつはサブだよ。普段はこいつを使ってるのさ」青年はパースエイダーをしまい手に持った杖を少しずらすと隙間から刃物が見えた。要するように仕込み刀なのだ。
「ならやるしかないよね。情報として、鍵は二人の王が一つづつ持っているらしい。君がやるかやらないかは君次第。僕はやるよ?旅を終えたくないし。僕は西に行くよ。もし生きて出れたら国の外で会おう」青年は西の塔へ向かっていった。キノは青年を静かに見つめるだけだった。
〜昔々、一つの国は二人の王子によって二つの国となってしまいました。そして王になった彼らは戦争を始めました。しかし次第に人手が足りなくなり来訪者を兵士とする事にしました。しかし何十年経ったある日。二人の王は亡くなってしまいました。西の王は首と胴が離れてしまい、東の王は額から後頭部に向け穴が開いていたそうです。その日を最後に来訪者が兵士になる事は無くなったそうです〜
広い荒野の中、夜空を見つめる青年が一人、誰に聞かせるでもなく呟いた。「人間は欲に呑まれてしまえば非道になる。それを気づかない者は救いはない。だからこそ争いは無くならないのさ」夜空に一筋の光が流れた。