スクールガールストライカーズ~Ains channel~ 作:アインス=ウォーレン
協力戦が終わった次の日、いつもなら昼間まで寝ている隊長の様子がおかしいことに気がついた小織は、隊長の跡をつけていくことに。その先には、なぜか満面の笑みの高嶺アコが隊長を待っていて……!?
「………」
少女、降神小織は味噌汁を飲みながら、横目でチラリと猫を見た。
「ふにゃあ~………」
昨日は、協力戦最終日。今朝はようやく訪れた平穏な平日であり、小織もいつもより30分遅く起きた。
そんな中、なぜかこの猫隊長、アインスは、珍しく自分よりも早く起きていた。昨晩は夜中まで急襲妖魔の討伐任務を終えた後、たくさんの隊長たちとの会合があり、普段の隊長ならば昼過ぎまで寝ていてもおかしくはない。
「……むふっ、ふんふ~ん♪」
しかも、さっきから伸びと変な鼻歌を繰り返している。よく見ると、尻尾に100均の椿オイル櫛を括り付け、自分で毛並みを整えツヤツヤにしていた。
「……隊長。今日はどこに行くつもりなの?」
「え? あーいやー、そのー、今日はティエラ先生の残業を手伝いに楓さんと仕事に……」
隊長の目は、明らかに泳いでいる。隊長は非常にウソが下手で、尻尾や声の震え具合でだいたい小織は隊長の言動の真偽は見破れる。
「………ふーん、仕事なんだ……」
「う、うん」
「……無理しないでね、いってらっしゃい」
「あ、うん!」
隊長は、ちらりと小織を見ると、そそくさと宿舎を出て行った。
そんな隊長を見て、小織はぼそりと呟いた。
「………怪しい」
そして、小織は、こっそり後をつけてみることにした。だいたいあの隊長のことだ。どうせ杏橋天音か高嶺アコあたりとデートにでも行くつもりなんだろう。
「………デート……」
前も自分も、森林公園や砂浜に連れていってもらったことがある。自然の中に生きる生き物が見たい、と言ったら彼は蝶々がたくさんいる花の植え込みをみつけてきたり、魚がたくさんいる場所を教えてくれたりと、たくさん生き物に触れさせてくれた。
「………」
小織は、ふるふると首を振った。あれは女好きで変態ではあるが、あくまで仕事をすると言ってでかけただけだ。そんなデートとか、そういうのもらしくない自分の考えすぎで、冷静に考えれば自分が疑っているだけ。小織はそう自分に言い聞かせた。
そうこうしているうちに、隊長はぽてぽて楽しそうに尻尾を揺らしながら歩いていく。
(ここ………エテルノランド?)
エテルノランド。エテルノにいる女の子が退屈やストレスを解消できるよう、緋ノ宮二穂が中心となってエテルノに建設されたレジャー施設だ。中にはボウリング場やシューティングハウス、カフェなどもあり、任務のない日には生徒たちがよく遊びに行く場所である。
(やっぱりデート……)
と、思いかけて小織はまたぶんぶん首を振った。自分はすぐに決めつける部分がある。先入観の固執は、余計な思考を生みだけ。たまたま今回の仕事がエテルノランドの運営や施設増築などの打ち合わせだったんだろう、と小織は思い直した。
「あっ!」
隊長が、声を上げた。
(誰かいる………)
小織は、建物の物陰に隠れて、様子をうかがった。
「お~い!ボス~❤」
「アコっち~❤」
現れたのは、可愛らしい私服(しかも珍しく妙に可愛いピンクのミニスカート)姿の高嶺アコだった。とびついてきた隊長の頭を、満面の笑みでなでまわしている。
「…………」
小織は、心の中で舌打ちした。多分これ、十中八九デートだ。
「ごめんねアコっち、遅くなっちゃった」
「ううん。まだデートの約束まで1分もあるのだ。約束の時間にちゃんと間に合って来れて、ボスはさすがなのだ~❤」
「そんなに褒めないでよ~、も~❤」
もう二人の周りにハートマークが飛び交っていた。完全に間違いなく確実にデートだ。
「………殺す」
小織は、2人を射殺したくなる衝動でメモカをインポートして戦闘服に変身した。
「………でも、ちょっと小織ちゃんに悪かったかな……」
「も~、デートのときくらい小織っちのことを考えるのはやめるのだ!さ、いこ、ボス❤」
アコは、隊長の尻尾をにぎって二人は手をつなぐように並んで歩き始めた。
「…………隊長」
小織は、知っている。隊長がどれだけ優しいかを。優しすぎるが故に、どんなときでもストライカーズ全員のことを考えている。決して浮気をしたいというやましい気持ちではなく、単純に好きで心の支えになりたいから誰にでも優しくするのだ、ということを小織は身を持って知っている。
「………おいかけなきゃ」
とはいえ、デートの最中に小織のことを考えられるのも、それはそれで腹が立つ。
(小織が見守らなきゃ………)
小織は、こっそり後をつけた。
「ボス~、今日もいいお天気でまさにデート日和だね~」
「そうだね~、ふわあ、気持ちいい……」
「ちょっと飲み物でも飲みに行くのだ」
2人は、境界も移動しながら歩き続けていた。
(街の境界………)
街には誰一人としておらず、まさに人目をはばからずイチャイチャできる、といった雰囲気だった。最近このあたりで妖魔の反応はなく、まさにデートにはもってこいだろう。
「こっちなのだ!」
「はいは~い」
2人は、ファミレス《メイプルスター》に入っていった。
「ボス~、美味しい?」
「うん、ちょうどミルクあってよかった~」
アコと隊長は、ファミレスの席に座り飲み物を飲んで休憩していた。
「…………」
小織は、窓から様子をうかがう。
「…………!」
「!」
すると、高嶺アコと小織の目が合ってしまった。
「………にひっ♪」
アコは、小織を見て微動だにすることなく、にやりと笑った。
「ねぇ、ボス………」
「ん?」
時をさかのぼること、数分前。
(前々からボスと計画して、たっくさん楽しむはずだったデート………)
高嶺アコは、考えていた。
(ボスの好みの格好は完璧にできたし、あとは誰にも邪魔されず楽しむのみ、だったのに………)
「アコっち~、甘いもの欲しくならない? パフェ持ってこようか?」
「あっ!食べたいのだ~❤ありがとボス~」
アコっちは、笑顔の裏で画策していた。
(さっきから、というかボスが来た時から誰かが付けているのだ………誰なのだ?)
「ボス~、今日はこれからどうするのだ?」
「そうだね~……湖畔でデートもいいし、前行った山のコテージもイチャイチャできそうだよね~」
「わかるのだ~❤ よし、じゃあ今日は山の美味しい空気を吸いながら、のんびり歩くのだ♪」
アコは、考えていることを顔に出さないように、アインスと話していた。
(天音っちなら、そんなこそこそはしないはず……第06チームは任務中、ハヅ姉たちも今日は映画観賞中、他を考えて……)
「そういえばね、俺の住んでるところから車でちょっと行くと、大きな山にあるんだ。そこの牛乳とソフトクリームが、また美味しくてね……」
「ボスって元から牛乳好きなのだ?」
「そうそう。子供のころから水みたいな感覚でがぶがぶ飲んでね。おかげでお腹を壊すこともあったりなかったり……」
アインスは、気付く様子もなく会話を続けている。
(となると、陽奈っちか小織っち辺りと考えて……いや、他にもいる可能性も)
「ボス~。山登りって大変だから、アコっちが抱っこしてあげるのだ❤」
「きゃ~❤ アコっちにしてもらうの久しぶり~❤」
ボスはすっごくボディタッチが好きな甘えん坊さんなのだ。
そんなところが可愛くてアコっち好きなのだ❤
(華賀利っちや二穂っちに見つかると後々面倒なのだ……)
と、惚気と画策を同時並行で考えていると、窓からぴょこんと黒髪が見えた。
(あれは………小織っち!)
「!」
しかも小織と目が合ってしまった。
(しめた、あれなら………ボスのお気に入りナンバー1~3争い、確実にここで決着をつけてやるのだ!)
アインスは、しょっちゅう(この3人にのみ)公言しているが、「俺の推しは、アコっち、天音ちゃん、小織ちゃんがメインかな!皆好きだけどね!」と言っている。基本的にはどんな女の子でも好きになってしまうそうだが、以降この3人はたびたび隊長を取り合い、親愛イベントを深めようと競争し、戦闘でも実力を競っている。
「………にひっ♪」
アコは、小織に見えるようににやりと笑った。
「ねぇ、ボス………」
アコは、艶やかな声でアインスに言った。
「ん?」
「一緒に飲も?」
アコは、アインスが飲んでいたミルクのコップに、ストローを刺した。
「そ、それは……/////」
「デートなんだから、こういうの。やってもいいでしょ?」
甘える猫のような声で、アコはアインスを上目づかいで見つめた。
「う、うんっ………」
「じゃあ、んちゅっ………」
アコは、ストローを吸い、アインスと同じコップで同じミルクを飲んだ―――。
「なっ……!」
突然、自分が見ている前でだいたんなイチャイチャアピールを始めたアコに、小織は愕然とした。
「二人で、同じコップの……/////」
落ち着いて、小織。生物学的に、関節キスにはなんの性的なこともない。ただ同じものを飲んだだけ。恥ずかしくなることもドキドキすることも何もない。けど、
「………ううう」
見せつけてきたんだろう。小織は冷静になって思った。
「絶対に………負けない……高嶺アコ………」
そこまでされたら、自分が引き下がるわけにはいかない。小織は、そう固く決意すると、その場から立ち上がった。
「行き先はわかってる………先回りする」
小織は、変身すると跳躍して姿を消した。
山
「は~、なんか風が気持ちいいね~」
「ああ、お腹にボスの背中が当たってると、ぽかぽかするのだ……」
アコと隊長は、山の緩やかな斜面を歩いていた。
「あっ、たんぽぽ!」
「どれどれ~………にしし、ボス、これで腕輪を作ってあげるのだ」
「おっ、いいね!……たんぽぽの花って、いいニオイするんだよ?」
「食用たんぽぽっていうのがあるくらいだからね!……はい、できたのだ!」
「おっ~、かわいい!」
「ボスはかわいいのだ~♪」
「きゃ~❤」
隊長が無邪気に喜ぶ中、アコはやはり画策していた。
(小織っち………おそらく先回りして何かをたくらんでいるハズ……あの子も実は執念深いのはアコっち把握済みなのだ………)
「アコっち、ではそろそろ」
「はいなのだ! 抱っこで歩くのだ♪」
(少なくとも、ボスをこうやって持っていれば、いきなり弓で奇襲なんてことはまずできないはずなのだ)
「はぁん、アコっちのお腹もちもち」
「ちょっと、どういうことなのだ!」
「ああごめん!お肌が女の子らしくて柔らかくて気持ちいいってことにゃ」
「まあ、ボスは女の子のお肌に弱いよね~。ほら、二の腕とか好きでしょ?」
「猫タッチしたいです」
(となると、狙ってくるのは………アコっちのミス?デートを続行不能にするために、何かを仕掛けてくるはず………)
「ところでアコっち、髪になんかつけてきた?」
「ちょ、ちょっとだけハネ毛直しを……ローズの香りだったと思うけど」
「うん。フローラルな女の子って可愛いよね……」
「アコっち、ボスが女子と認めるくらいの女子力は持ち合わせてるつもりなのだ」
「合格です………ハネてるアコっちも好きだけど……」
「いやいや、寝ぐせヘアーで任務に出された時はきつかったのだ……ん?」
アコは、足を止めた。道の真ん中。なぜか丸状に土の色が変わっていた。
「………ボス、これ」
「なにこの怪しい土は……落とし穴かな?」
(いやいや!小織っち、さすがにこれはわかりやすすぎるのだ!こんなんでアコっちが落ちると思って……)
と、思ったところではっとした。
(いや、これは罠を装った罠! アコっちが、落とし穴を避けると踏んでその避けた先に……)
落とし穴の横の草むらに、怪しげな木の板が置かれていた。
(……にっしっし!戦いとは、二手三手先を読まなければ勝てないのだよ!)
「にっしっし、ボス、心配ないのだ」
アコは、笑ってアインスを地面に降ろした。
「これはおそらく、この辺りに出現する妖魔の仕業なのだ」
「妖魔の?」
「たしか、えーとね………ニゲハジオブリ!穴を掘ったあと、恥ずかしい思い出を埋めてなかったことにして逃げ出す妖魔なのだ!」
いま適当に作った作り話だけどね。
「この中に妖魔の恥ずかしい思い出が埋まっているのか………」
「つまり、落とし穴ではないから、こうして踏んでも大丈……」
ヅルッ。色の違う土を踏んだ瞬間、滑った。そのままアコは、体勢を崩して転倒した。
「あ、アコっち、大丈夫!?」
「い、痛った~いのだ~!!」
土の下から、黄色い何かが顔を出していた。
「ば、バナナの皮………?」
「な、なんでバナナの皮が仕込んであるのだ~!」
「あ、まさか妖魔もコレで転んで恥ずかしい思いをしたんじゃ……」
なぜかつじつまが合っちゃったのだ!
「うう、ちょっと土で汚れちゃったのだ……せっかくの勝負服が~」
「って、アコっち! ヒザが!」
「え?」
ちょっとだけひざをすりむいていた。
「大変!怪我してる!ちょっと待って、ポーチにばんそうこうと消毒液入ってるから」
アインスは、自分のポーチをアコの鞄から取り出した。
「ボス!いいのだ、これくらい!」
「ダメダメ、バイキンでも入ったらどうするの!もう、せっかくアコっちの柔肌が……」
アインスは、ささっとアコに消毒し、ばんそうこうを張った。
「ボス……」
「女の子は、傷が付いちゃったらお嫁に行けなくなっちゃうんだよ!……さ、俺の後ろについて来て。危なくないように俺が先にいくから」
「ボス………////」
アコと隊長は、また歩き始めた。
「………くっ、なんかまた負けた……」
小織は、木の陰でその様子をずっと見ていた。
「でも、今のは小織が悪い……」
ちょっと転んで服が汚れればいい、その程度に考えていた。だが、自分の思慮が足らないせいで、逆にアコを怪我させる結果になってしまっていた。
「…………隊長、知ったら怒るだろうな」
普段は滅多なことで怒らない隊長だが、以前妖魔との戦いで、アコが負傷した時には、人が変わったようにブチ切れていた。怒号で自分に妖魔を殲滅するように命令し、あの時は自分が恐怖を覚える程だったことを、今も憶えている。
「…………でも」
奪われたくない。小織だって、隊長と一緒にいたい。
「………」
小織は、再び二人のあとをつけ始めた。
「やっとついたね、コテージ」
「ふう、大変だったけど、なんとか登れたね~」
コテージに入ると、アインスは言った。
「アコっち、シャワー浴びて着替えておいでよ。汚れたままだと、気持ち悪いでしょ?」
「え?ま、まあ確かにそうなのだ……」
「俺ベッドで寝ながらテレビ観てるから、ゆっくりしておいで」
「………わかったのだ」
アコは、シャワールームがある脱衣所に入っていった。
「…………どうやら、隊長と高嶺はここに入ったみたいだね……」
と、小織がコテージの裏から様子をうかがっていた。
「小織っち~?」
「!」
すると、小織の上から声がした。シャワー室の窓だ。
「高嶺……アコ……」
「まさかアコっちがあんな見据えた罠に引っかかるとは計算外だったのだ……おかげでボスに余計な気づかいさせちゃうし」
壁越しにアコは、シャワーを浴びながら言った。
「…………高嶺アコ。ごめん」
「ん?なんで謝るのだ?」
「なんでって………転んで怪我までさせたのに」
「転んだくらいで怪我をしたのは、アコっちの落ち度なのだ。……それに」
アコは、濡れて落ちた前髪をかきあげた。
「アコっちだって……小織っちがどれくらいボスと一緒にいたかは知ってるつもりなのだ。ボスが、どれだけ小織っちを心配しているかは、知ってるのだ」
「隊長が……?」
なぜ、自分にそんな話を?と小織は口にしようとしたが、その前にアコは続けた。
「ボス、アコっちにだけ話してくれたのだ。小織っちを、どんなことがあっても絶対に一人にしたくないって。いつもボスは小織っちが寂しくないように、どんなに任務が忙しくても、何時間に一回かは小織っちの様子を見に来ることも、知ってるよ」
「…………隊長」
そういえば、探索任務の時も、特訓の時も協力戦の時も、いつも隊長は自分のそばにいた気がする。仕事で他のチームについていなきゃいけないときも、自分の様子を見に来てくれる。
「………あれは、当たり前の誰にでもできることじゃないのだ。ボスが、本気で小織っちを心配してるからこそなのだ」
「…………」
「小織っち。あたいは怒ってなんかないよ。アコっちも、小織っちと同じくらいの歳だったら、間違いなく今の小織っちに嫉妬して同じことをしていたのだ。恋する女の子の気持ちは、皆同じなのだ」
「えっ……」
自分は、まだ高等部の生徒ですらない。姉たちと比べても、周りの少女たちと比べても、自分はまだ幼く、未熟な部分がほとんどだ。対するアコは、高等部三年。先輩チーム第02チームとしても、そもそも人間としての『経験』が圧倒的に違う。いつも戦術的に確実な手段で、情報を収集し、勝つための方法を考え、自分の目的のためならどんなニーズにも命令にもこたえる。そんなアコの恐ろしく、そして女として確実に優れている部分に、自分の浅はかな考えでは、どう考えても勝てない。小織は、その『数年の経験の差』に、呆然とするしかなかった。
「今日は、アコっちとボスが楽しみにしてたデートの日だったのだ。いつもは皆のボスが、今日だけはアコっちのボスでいてくれるはずだったのだ」
「アコ……」
「心配しなくていいのだ。少しくらいなら、アコっちは我慢するし、ボスは『今は』誰のものでもないのだ。ちゃんとアコっちが望めば帰ってきてくれる。そして、それと同じように、小織っちの前から、勝手に消えたりなんかしないよ。それはアコっちが保障するのだ」
アコは、シャワーの栓を閉めた。
「今日だけは……ボスをアコっちに貸して欲しいのだ。アコっちとの時間を……過ごさせて欲しいのだ。きっと、明日になったら、小織っちと一緒に遊んでくれるのだ」
「ま、待っ」
「じゃあ、そろそろボスのところに戻るね♪」
アコは、シャワー室を出て行った。
「…………そんなこと言われたら、小織は、なにも……なにも、できないよ………」
一人残された小織は、地面に崩れ落ちた。
「ボスっ、ほかいまなのだ♪」
「おー、ほかえり~……って」
濡れた栗色の髪。小さな肩。滑らかなうなじ。鎖骨が見える胸。健康的な白い肌。
バスタオル一枚のアコが、隊長の前に立っていた。
「いやんっ❤ ボスのヘンタイ❤」
「服着てってば!そんなに誘惑しても何もしないよっ!」
目を伏せる隊長にアコは、わざとみせつけつつ、
「にししっ、わかってるのだ♪」
アコはメモカでショートオーバーオールの私服に着替える。
「さーて、ボス!あっちの牧場に、極上ミルクがあるはずなのだ!」
「じゃあアコっちがソフトクリーム食べてるとこ、見てみたいな~」
「も~、仕方ないボスなのだ~❤ じゃ、いくのだ!」
アコと隊長は、手と尻尾を繋いで歩き出した。
(………これでいい)
小織は、山を下りる準備をしていた。
(今日は……全部高嶺アコの言う通り……隊長も、楽しみにしていたんだ。彼女との一日を)
遠くなっていくコテージと、アコと隊長の姿。
(これ以上小織が邪魔をすれば………隊長の迷惑になる。隊長も、アコにあそこまで言わせるほど、本気で彼女を想っているのは、小織でもわかる)
今日は、ほとんど高嶺アコしか見てなかったが、思い出した。隊長の顔、本当に嬉しそうだった。自分は、あの隊長が心から嬉しいと思う時間を、壊そうとしていたのだ。
(だったら、明日。任務の時一緒だから……そのときに、隊長をデートに誘ってみよう。明日なら……明日なら、隊長は小織と一緒にいてくれる……)
小織は自分に言い聞かせた。だけど、
(胸が苦しいのが………なんで、小織は泣きそうになってるの……)
『あのとき』小織は言った。自分は、泣かない。感情的にならない。行動だけが、運命を変えられる。
それを伝えたとき、隊長は、鼻をぶるぶるふるわせながら、今にも泣きそうな目で、うなづいていた。
(小織は、隊長に迷惑をかけたくない……嫌われたくない……見捨てられたくない)
小織は、足を止めた。
(でも、それ以上に)
すると、小織はふと顔を上げた。
ざわざわ、と木々が揺れ、暗雲が流れ始めていた。
(この気配………まさか!)
小織は、くるりと元来た道を走り出し始めた。
「うふふ~、あっちに木陰と売店があるのだ!」
「さっすがアコっち、デートスポットはきちんと調べてるね」
「当然、なのだ!それもこれも、ボスのためなんだから、持って褒めてくれてもいいのだぞ?」
「ではよしよしなでなでを………あっ、身長的にキツイ」
「あはは、背伸びしてもとどかないのだ~」
アコは、隊長をベンチの上にのせた。
「あっ、そうそう!ソフトクリームの機械をどっかで見たんだけど」
「ここなのだ!……機械も使えるみたいだし、ぽちっとな」
アコは、隊長用の極上ミルクと、自分のソフトクリームを用意した。
「はいっ、ボス」
「ありがと~………あっ、なんかこのベンチ、一枚だけ座布団があるから、座りなよ」
なぜかアインスの隣に、紅い座布団が置かれていた。
「おお、そんなおあつらえ向けに……ボス、優しいのだ~❤」
アコは、ベンチの上の座布団に座った。
ぶっ。
「………はにゃ!?」
「……えっ!?」
アコの方から、変な音がした。
「ちっちちちちがっ、ボス誤解なのだ!アコっちはそんなの絶対にしな」
「わわわわかってるって!聞いていない!聞いていないから!」
「ほんとにちがうのだ!……って、これは!」
アコは、素早い手つきで自分の座っていた座布団をめくった。
「これは……ブーブークッション?」
座布団の下にあったのは、もはや若い人は知らないんじゃないかと思うようなレベルのイタズラ道具、ブーブークッションがしぼんでいた。(わからないひとはググるのだ!)
「久しぶりに見たけどそんなの……」
「てか、誰なのだ!こんなふざけたものを置いておく奴は!」
と、アコが怒ってブーブークッションを投げ捨てた時だった。
カシャ!
「こ、今度は誰なのだ!撮るななのだ!」
アコは、振り向いて怒った。
「オ、オブー!!!」
頭に、大きな『春』の漢字の大きな文字オブジェ、股間に『分』の小さな文字オブジェを象ったマギレオブリが、カメラを構えて佇んでいた。
「お、お、オブリ~!?!?」
「春……分……春分オブリか!?確かにそろそろそんなシーズンだけど!」
「いいえ、アレは『スクープオブリ』です!」
ティエラが山登りコスに身を包んで説明した。
「ティエラ先生!?なんでここにいるのだ!」
「私も偶然ソフトクリームを食べにですね……そんなことは些細な問題です」
(あーこれ、いつものノリだ……)
アインスは呆れながらミルクを飲んだ。
「あれはいつも誰かの弱みを握って権力のままに何でも言うことを聞かせようとするせこいオブリです。その持っているカメラで色んな人の弱みをたくさん握っては、週刊誌に書いて売上まで伸ばそうとするまさに下衆の極み!」
「ちょっと待って、それ以上は俺が危ない」
「みてください!今の間に週刊誌に『アインス隊長高嶺アコとの密会デート!』『高嶺アコ放屁の瞬間録音』『アインス隊長36股疑惑』などありもしないことをさらに捏造して書いています!」
「それは絶対に公開したらアコっちが死ぬのだ!」
「俺も色んな方面から殺される!」
「見てください、さらにスクープオブリに弱みを握られたニゲハジオブリが、週刊誌を全部買って地面に埋めようとしています!」
指だけ✓マークのような形になっているオブリが、穴を掘って週刊誌を埋めていた。
「ほんとにニゲハジオブリいたのだ!?」
「さらにそれだけではありません!」
「お、オブ~!!!」
スクープオブリは、股間の『分』の部分から荒縄を発射した!
「はにゃ!?」
「きゃっ!」
ビシィ!ビシィ!
「ちょっ、なんなのだ、これぇ……」
「あらら、油断しました……」
アコとティエラが、縛られて木の上に宙づりにされてしまった。
「アコっち!ティエラ先生!」
「スクープオブリは、荒縄を出して敵を拘束するという攻撃もするんです。非常に進化した厄介な妖魔と言えるでしょう」
「てか、なんでアコっちだけ亀甲縛りになってるのだぁ!しかもソフトクリーム顔に落したのだぁ!」
アコの顔はクリームでべとべと、しかも縛られて股や胸に縄が食い込んでいた。
「………///////」
アインスは、鼻血を垂らしながら目を逸らした。
「ボス!内心でスクープオブリGJとか思ってる場合じゃないのだぁ!うわーん!/////」
「オブオブ~!」
そしてその様子をスクープオブリはパシャパシャ撮影をしまくり、『高嶺アコSM束縛A○デビュー』と書き込み始めた。
「絶対にアコっちはそんなの出ないのだ~!ぐっ、せめて手が使えれば……」
アコのパトリは、ズボンのポケットに入っている。このままでは、戦闘をすることすらできないただの少女だ。
「私も、今の衝撃でパトリを落としてしまいました……」
「って、俺しか動けないって事!?」
隊長がジャンプするが、思いのほか高くアコの足にすら届かない。
「お、オブ~……」
スクープオブリは、じりじり、とアインスに近寄り始めた。
「いけません!隊長さんを捕まえて強請りのネタにして、エテルノ中の皆のスクープを暴く気です!」
「な、なにぃ!?」
「ボス!アコっちのことはいいから、逃げるのだぁ!」
「で、でも……」
アインスは、アコとスクープオブリを交互に見ながら、その場を動けずにいた。
「オブ………」
「くっ……俺が、戦えれば……」
一歩、一歩、スクープオブリが、アインスに近づいていく。
「ぼ、ボス~!」
「オブゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
スクープオブリが、アインスに手を伸ばした!
ヒュンッ。
「……え?」
アコは、空中に投げ出されていた。
「隊長には、指一本触れさせない」
ヒュン、ヒュン、ヒュン。 連続で弓矢が空を切り、スクープオブリの往く手を遮った。
「こ、小織ちゃん!」
「隊長は……小織が守るの」
降神小織は、アインスの目の前に着地した。
「こ、小織っち!どうして……」
「話は後。今は目の前の敵を殲滅して」
「………了解なのだ!」
アコは、メモカをセットした!
「アコっち、フルパワーなのだっ!」
アコは、究極装備に身を包んだ!
「お、オブゥ………」
スクープオブリは、周りのニゲハジオブリを集め自分を守りはじめた。
「……あれくらい、殲滅できるよね」
「あたいを誰だと思っているのだ?ボスの……№1ストライカーなのだ!」
アコは、さらにサブメモカから砲台を出現させ、一気に撃ち放った!
「あんちまてりあるシュピオナージェWキャノンなのだ!!!」
怒涛の連続砲撃で、ニゲハジオブリをあっという間に爆発の渦に巻き込んでいく!
「オ、オブゥゥ!!」
「オブッ!?」
次々倒れていくニゲハジオブリに、スクープオブリは焦りに表情を隠せない」
「絶対に逃がさない」
小織は、弓を引き絞った。
「アコっちたちのスクープは、絶対に渡さないのだ!」
アコは、背中の砲台を構えた。
「「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!!」」
2人は、同時に全身全霊の攻撃を放った!
「オブゥゥゥゥゥゥぅ!!!!!!!!!」
スクープオブリは、心臓を貫かれ、またたく間に消えていった。
「………ふう、これでスクープオブリの脅威は去ったようですね」
宙づりにされたままのティエラが言った。
「スクープオブリとニゲハジオブリが持っていた週刊誌も、全部集めて焼き払ったのだ。もうこれで心配ないのだ」
「………隊長」
小織は、隊長の前に立った。
「小織ちゃん。おかげで助かったよ。ありが……」
「ごめん。小織……デートの邪魔をしようとしてた。高嶺アコに、怪我までさせちゃった………」
小織は、震え声で、うつむきながらそう言った。
「えっ!?それを言っちゃうのだ!?」
「小織ちゃん………」
隊長は、小織の目を見て言った。
「謝る相手が違うでしょ? それならアコちゃんに謝らないと」
「え………」
「ぼ、ボス……小織っちは、もうアコっちには謝ってるのだ!だから」
「ああ、そっか。なんかシャワー室で話してたもんね?」
「え?隊長、知ってたの?」
「ああ、なんか聞こえてたから……それにね。小織ちゃんが途中から何かしてたなぁっていうのは、薄々感じていたよ」
隊長は、ミルクの残りを飲みながら言った。
「アコっちが、デートの最中なのに悪いこと考えてる顔してたもん。なんかつけられてる気配もあったし、絶対小織ちゃんだなぁって」
「ボス、そこまでわかってるならなんでアコっちに言ってくれなかったのだ!」
「えー、だってアコっちとのデート楽しみたかったんだもん」
隊長は、笑顔で言った。
「………こ、こほん。とにかく小織っち」
アコは、小織に耳打ちした。
「助けてくれたのは、感謝しているのだ。……だけど、これ以上はデートの邪魔なのだ。だからもう帰っ」
「隊長」
アコの話の途中で、小織は言った。
「隊長、今から帰って、大富豪やろう。お姉たちと一緒に大富豪するよ」
「え?でも今は、あのその………」
「今からじゃなきゃダメ。だから、今日はもう帰って遊ぼう、隊長」
「ちょっちょっとぉ!どういうことなのだ小織っち!」
慌てるアコに、小織は静かに言った。
「………これが、小織の出した『答え』だよ」
小織は……隊長が好き。それは、例え先輩が相手でも、どんな正論があっても、ねじ曲げられない事実。
絶対に、高嶺アコだけには、いや、誰が相手でも、絶対に隊長は渡したくない。隊長には、小織のそばにいてほしい。迷惑をかけることを恐れる自分では、隊長が遠くへ行ってしまう。自分の本当の気持ちを、自分勝手な恐れで隠すのだけは、絶対にしたくない。自分の意志を伝えられない人間は、それを行動に移せない人間は、運命を変えられない。
だから、小織は『わがまま』を言うことにした。隊長に、そばにいてほしい。ただそれだけの気持ちを、行動に移すために。
「………小織ちゃん」
隊長は、口元をぬぐうと、小織を見た。
「いいよ」
「ボス!」
アコは、泣きそうな目で隊長を見た。
「ただし、条件がある」
「………何?」
「大富豪にはアコっちと天音ちゃんも参戦だ。この条件が飲めなかったら今日は帰らない」
アインスは、アコを見てにこりと笑った。」
「今日はあくまでアコっちと付き合うための休日だったんだからね。約束は守るよ」
「ボス……!」
「…………」
小織は、そんな隊長を見て、口元を緩めた。
「いいよ………一緒に帰ろう」
そして小織は、アコに言った。
「高嶺アコ…………大富豪では、絶対に負けないから………」
「………にししっ♪ アコっちに勝とうなんて、100万年早いのだ!」
「………あのー、そろそろ降ろしてくれませんかねー……?」
ティエラが、困りながらそう言った。
――その夜。
「いけっ!革命だ!」
「うわっ、お姉それキツイ!」
「ふん、甘いわね!革命さえ来ればあたしの時代よ!」
「はにゃあ!?天音っちそれはまずいのだぁ!」
「………(次のターン、アレが来れば勝てる……)」
その夜、天音、アコ、小織、陽奈、あから、隊長で大富豪大会になっていた。
「ふっふっふ……そろそろ新ルール追加っていうのはどうだ?」
「新ルール?」
隊長は、にやりと笑った。
「この戦いで俺に負けて大貧民になったやつは………水着でポーズをとって写真に撮られる!」
「ええ……嫌だよ」
「アインス、アンタが負けたらなんかあるの?」
「そうだな………来週の土曜日、大富豪になったやつとなんでも好きなものを買いに買い物に連れてってやる!」
「!」「!」「!」
つまり、大富豪になったら、隊長とデートに行けるということだ。
「面白いじゃないの!乗ったわそれ!」
「アコっちも絶対負けないのだ!」
「小織が、絶対に勝つ」
「ひなちゃんも負けないよ!」
「勝って絶対に……ねぎとか味噌とか買って欲しいものはいくらでもある!」
全員に、火がついた。
「にししっ、決まりだな!……じゃ、始めますか!」
「おーっ!!」
こうして、大富豪は、夜通しで大盛り上がりするのであった―――。
「………じゃ、撮るよ~。ポーズとってね!ハイ、チーズ!」
アインスは、パシャリとシャッターを切った。
「み、み……認められないのだぁ~!!!!////////」
アコっちが可愛い。しかし小織ちゃんも可愛い。隊長ならば、そう気になってしまうところだけど、答えを待っている女の子たちは、どんな気持ちなんだろう。そんなことを考えながら書いてましたが、ちょっとシリアス気味になっちゃいました……画面の向こうのあの子たちも、ただの普通の女の子なんだよなぁ……と、思ってしまうのは私だけでしょうか。はぁ、逢いたいなぁ……