美早side
今日は休日、私はいつも通り朝早くに店に行き、開店準備をする。店内の掃除、厨房のチェック、他にもやることは沢山ある。まずは入り口の掃除から。
(ガチャ……
「あれ?開かない?」
店の中から入り口に出ようとしたけど、扉が開かなかった。仕方がないと思って、私は裏から出て入り口に行く。すると、入り口の扉が開かなかった理由がそこにあった。
「人が倒れてる?」
このまま放っておくわけにはいかない。とりあえず個室に運ぼう。
美早side out
???side
頭が痛い……どこかで打ったのか……とりあえず起きなきゃ。僕は目を開けると、知らない天井があり、後頭部には何かがある?
「これって……クッション?」
「起きたのね、なら一安心」
扉が開いて、きれいな女の人が入ってきた。その人の手にはケーキがあった。
「起きたならこれ食べて」
「えっ……」
「お腹空いてるでしょ?なら食べて」
「で、でも」
「食べて」
「はい……」
女の人の圧に押されて、ケーキを食べることになった。早速一口食べてみることに……。
「っ!?おいしい……」
「口にあってよかった。ところでなんで倒れてたの?」
なんで倒れてたか……あれ?なんでなんだろう……思い出せない……
「わからない……」
「名前はわかる?」
名前……僕の名前……なんだろう……
「わからない……」
「記憶喪失……かもしれない。私は掛居美早。ここの店長をしてる」
「美早さん……僕の名前は……」
「無理に思い出さなくていい、ゆっくりと思い出せばいい」
「嵐」
「えっ?」
「僕の名前、苗字はまだ思い出せないけど、多分これが僕の名前」
「OK、よろしく。しばらくはここでゆっくりしてて」
僕は美早さんの言う通り、この部屋でくつろぐことにした。でもやることがない……とりあえず寝ようかな。
嵐side out
美早side
嵐を個室に運んで数時間後、私は店を従業員に任せて、彼の昼食を買いに行く。近くのコンビニに着くと、弁当を買ってるあきらと遭遇した。
「ミャア?珍しいの、ミャアがコンビニ弁当なんて」
「色々あったの」
「色々?」
「そ、色々」
弁当を買い、あきらと別れ、店に戻る。個室に入るとソファで眠っていた嵐がいた。起こすわけにはいかないと思い、弁当だけ置いて、部屋から出る。
「あ、美早さん!おかえりなさい!」
「ただいま」
「今日もいつものお客様が来てますよ」
「OK、ありがとう」
受付の前で待ってるお客様の元へ向かう。
「よおパド!今日もいつもの個室に行っとくぜ!」
ニコはそう言って個室に行こうとする。私はいつもニコが食べてるケーキを持って個室に行こうとした。その時に気づいた。あの個室には嵐がいることを。
「ニコ!待って!」
「あれ?先客?」
「き、君は?」
遅かった……
「sorry嵐。彼女は知り合いのニコ」
「う、うん。大丈夫ですよ」
「パド、こいつは?」
「今朝倒れてたのを助けた。名前は嵐、記憶喪失」
「記憶喪失ねぇ……まあいいや、パド、この部屋使わせてもらうぜ。別に誰かがいても平気だしさ」
「嵐はそれでもいい?」
「大丈夫ですよ」
「じゃあニコ、これいつものやつだから」
「お、サンキュー!」
「ごゆっくり」
さて、閉店時間まで頑張って仕事。
美早side out
嵐side
僕は多分美早さんが買ってきてくれた弁当を食べていた。何から何までお世話になりっぱなしだ。
「嵐だったよな?」
「え、う、うん」
「記憶喪失って聞いたけど、何にも覚えてねえのか?例えば年齢とか、どこの学校とか」
「残念ながら、自分の名前しか……」
「それは災難だなぁ。まあ見た感じだと、パドの一つ年下ぐらいか?」
「そうですね。美早さん、お姉さんみたいなところがあるからたぶん僕のほうが年下でしょう」
「ニューロリンカーの使い方とかわかるのか?」
「うーん……なんとなく?」
「なら安心だな。それが使えなかったらこの先生きていくのは困難だからな」
この首についてるやつが使えなかったらそんなに困難なのかな……。あ、そういえば僕家がわからない……。
「アタシ暇だからさ、話し相手になってくれよ」
「僕でよければ」
それから数時間ずっとニコちゃんの話し相手になった。この子も楽しそうにしてるし、よかったかな。部屋の扉が開くと、仕事が終わったのか、私服に着替えた美早さんがやってきた。
「店を閉める。嵐、家はわかる?」
「わかりません……」
「じゃあしばらくは私の家に住むこと」
「え……ええっ!?」
「お、ラッキーじゃねえか!」
み、美早さんの家に住むって!?ご両親はいいの!?
「NP。一人暮らし、部屋も余ってる」
「み、美早さんがいいなら……お言葉に甘えて」
「ニコ、今日は送れない」
「いいよいいよ!アタシも寄るとこあるしな!」
「THX。嵐、私の家に案内する」
僕らは店を出て、ニコちゃんと別れ、駐車場に向かう。そこにあったのは赤いバイクが一台だけだった。もしかして後ろに乗れってこと……?もしそうだったら、美早さんに抱きつくことになるんじゃ!?
「どうしたの?早く乗って」
「は、はい!」
「しっかりつかまってて」
「そ、それじゃあ失礼して……」
僕は美早さんに抱きつくように捕まる。僕の心臓はもうバクバクと動いている。しばらくすると、バイクは停まり、駐車場に向かう。
「ここですか?」
「ここ」
アパートみたいなところです。一人暮らしならここが丁度いいですからね。
「上がって、好きなようにくつろいでいて」
僕は中に入ると、凄く綺麗に掃除された部屋でくつろぐことにした。
「シャワー浴びてくる。テレビかけておくから好きなように見て」
美早さんは脱衣所に向かってシャワーを浴びに行った。僕はテレビを見ていたけど、どうしてもシャワーの音が気になる。変なことは考えたらダメだと思い、頭を振って忘れることにした。
「嵐」
「は、はい!」
「申し訳ないけど、下着を取ってほしい」
「は、はいいい!?」
「持って行くのをわすれた」
え、ええっと……下着ってどこに……いやいやそんなことより!いいんですか!?で、でも美早さん困ってるし……し、仕方ない!
「美早さん、入りますよ」
下着を持って脱衣所に入ると、タオルで体を隠した美早さんがいた。僕は自然と目線が下にいってしまった。
「ど、どうぞ……」
「THX」
「それじゃあ……失礼……します」
僕はリビングのソファーに座り、テレビを見る。けど、さっきの光景が目に焼き付いて頭から離れない。
「美早さんって……優しいだけじゃなくて、スタイルもいいんだ……」
なんでこんなことを思うんだろう。今日初めてあの人に出会ったのに、あの人のことを凄く知りたいと思う。自然に目線があの人に向いてしまう……。でも、もし記憶を取り戻したら、この想いは消えてしまうのかな……。
「おまたせ、あなたもシャワー浴びてきなさい」
「わ、わかりました」
「これ着替え、私の中学の時のジャージ」
「ありがとうございます」
ジャージを受け取り、シャワーを浴びる。僕は長くシャワーは浴びないからすぐに出た。ジャージを着て、戻ると、エプロンをつけて夕食を作ってる美早さんがいた。
「もうすぐできる。座って待ってて」
座って待ってると、さっき作っていた料理とご飯の入った茶碗を持ってきた。もう一度戻ると、お皿とお箸を持ってきた。
「いただきます」
「い、いただきます」
野菜炒めを取り、口に運ぶ。口の中で野菜がシャキシャキという。
「美味しいです!」
「まだあるから、遠慮せずに食べて」
「はい!」
僕は止まらなくなり、あっという間に平らげてしまった。食器は僕が洗うと言って、美早さんにはゆっくりしてもらう。洗い終えて、ソファに座る。
「嵐、ちょっとは思い出せた?」
「いいえ、全く……」
「記憶が戻るまでここにいていい。戻った後でも構わない」
「え?それって……」
「好きなだけここにいていい」
「あ、ありがとう……ございます……」
今日から僕の新しい生活が始まろうとしていた。ただ生活するだけじゃダメだ。ちゃんと美早さんに恩返しできるようにならなきゃ。