HACHIMAN VS 八幡 〜 オレハオマエデオマエハオレデ・いやちげぇから。こっち見んな 〜   作:匿名作者Mr.H

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タイトル通りのしょーもない作品ですが宜しくお願い致します


身勝手なおせっかい焼き・比企谷小町の章

 

「ふぁっ……」

 

 カーテンの隙間から差し込む光で目が覚める。残念ながら、今日も愛しのお布団ちゃんと決別しなくてはならないのか……。

 

 しかし、嫌々ながらも布団ちゃんとお別れをしようとしたとき、俺は妙な違和感を憶えたのだ。

 

「あれ?」

 

 確かにカーテンの隙間からは光が差し込んでいる。だが、普段起きる時間帯に差し込んできている様子とは明らかに違うのだ。いつもなら直接差し込んできて、憎らしくも俺の顔を照らすはずの日の光が、今日はやけに弱々しい。

 簡単に言うと、いつもよりも太陽が随分西へと傾いていて、日の光が直接差し込んでくる時間などとうに過ぎてるって感じ?

 

 そしてなんだこの空腹感。もう20時間近く何も胃に収めてないってレベル。いやいやちょっと待て。

 

 

「おいおい……」

 

 慌てて枕元に置いてあった暇潰し機能付き携帯電話ことスマホに手を伸ばす。

 

「……げ」

 

 スマホ画面に映し出された時刻は、昼を優に回っていたのでした……。俺オワタ。

 

***

 

 マジか……。俺どんだけ寝てんだよ。

 やべぇな。今月何回目の遅刻だっけ。また平塚先生に愛の鉄拳食らっちまうじゃねーかよ。

 まぁ遅刻もなにも、さすがに今から学校行ってもしょうがないから休んじゃうんですけどね。体調不良の上手い言い訳を考えておくとしようか。

 

 にしても小町ェ……なんで起こしてくれないのん? 朝起きて来なかったら、一言くらい声掛けてよぅ……。

 まぁ何度起こしても起きなかったから、仕方なく放置した可能性も微レ存。微どころか多大にあるね!

 

 そんな事を考えながら、とりあえずはこの空腹感をなんとかしましょうかねと、あまりの空腹感に目が腐ってしまった俺は(あ、エブリタイム腐ってました!)、まるでゾンビのように一路リビングを目指す。リビングデッドってね☆

 

 

 しかし、意気揚々とリビングの扉を開けた俺の目に飛び込んで来たのは、予想だにしなかった光景だった。

 

「小町?」

 

 そう。なぜか小町が居たのだ。今頃昼飯を食い終わって5限か6限辺りに臨んでいるであろう小町がだ。

 しかも小町はソファーにうなだれるような格好で小さく座っていた。

 

「ど、どうした、体調でも悪くなって早退してきたのか?」

 

 だとしたらこれは由々しき事態である! 弱ったマイスウィートエンジェル小町たんを、お兄ちゃんは一刻も早く保護しなければッ!

 

 しかし……しかし小町は……。

 

「ヒィッ!」

 

 俺の顔を見るなり小さく悲鳴を上げてガタガタと震えだしてしまった。

 え、なに? 俺ってばリアルにリビングデッドにでもなっちゃってるのん?

 

「ど、どうした!? なんかあったのか!?」

 

 慌てて駆け寄る俺に小町は一層全身を震わせ、光彩を失った目から涙を溢れさせて「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」と、お経でも唱えるかのようにブツブツと呟く。

 

「小町! どうした! なにがあった!」

 

 これは所謂パニック状態というやつだろう。俺は多少乱暴ではあるが、震える小町の肩を掴んでゆさゆさと揺する。

 

 

「ごめんなさいごめんなさい……小町が全部悪いんです……小町はお兄ちゃんを身勝手に傷付ける最低な存在です」

 

「小町!」

 

「ごめんなさいごめんな…………あ、アレ……?

 お、お兄ちゃん……? お兄ちゃん、だよね……? 本物のお兄ちゃんだよね……?」

 

「おう! 本物ってのがよく分からんが、お兄ちゃんだぞ! もう大丈夫だ! なんも心配すんな!」

 

 小町、こんなに怯えちまって……。くっそ! 俺がいつまでもアホみたいに眠りこけてる間になにがあったんだ……! 俺がしっかりしてさえいれば……。

 すると小町はようやく色が戻った瞳から大粒の涙をぼろぼろ溢し、思いっきり俺の胸に飛び込んできたのだった。

 

 

「ふ、ふぇっ……ふぇぇぇええっ! お兄ちゃんだぁ! 本物のお兄ちゃんだぁ! やっぱりあのお兄ちゃんは、偽者だったんだぁぁ!」

 

「……は?」

 

 なんすかね、偽者のお兄ちゃんって。

 

***

 

 謎の言葉を残し俺の胸にうずくまっていた小町がようやく落ち着きを取り戻し、おっかなびっくりながらも事のあらましをゆっくりと話してくれた。

 

 

「……小町が朝ごはん用意してたらね? メガネ掛けた葉山さん並みのイケメンなお兄ちゃんが、アホ毛をぴょこぴょこ揺らして起きてきたの」

 

 いや、ツッコミどころ多すぎだろ。これはあれだな、小町は悪い夢でも見てしまったんだろう。

 

「落ち着け小町、俺はメガネなんか掛けねーし、ましてや葉山並みのイケメンなわけがない」

 

 確かに目以外は整っている方だとの自負はあるが、それはあくまでも人並みにはってレベルだ。メガネ掛けたくらいで葉山並みのイケメンになどなるはずがないのである。

 どこの漫画の世界の話だよ。メガネ外したらとんでもない美少女でした! なんて世界はこの世に存在しねーから。美少女はメガネ掛けてたって初めっから美少女だから。逆説的に言うと、メガネ掛けたくらいで葉山並みのイケメンになるスペックあったら、黒歴史量産工場とか言われないから。

 おい、誰だそんなこと言ったやつ。

 

「あとぴょこぴょこしたアホ毛ってなんだよ。俺にそんなもん生えてた事あるか?」

 

 

 そりゃ確かにキャラデザの関係で後々そういうもんも付け足されたかもしれんが、それはあくまでもただのキャラデザだから。本文でアホ毛が語られたことなんて一切無いから。

 なんだよキャラデザって。ちょっとメタが過ぎませんかね。

 

「それ完全に別人だよね。なんで小町ちゃんはそれをお兄ちゃんだと思ったのかな?」

 

 完全な別人が不法侵入してる時点で問題大アリですけどね。

 

「だ、だよね……今実際に本物のお兄ちゃんを目の前にしてそう言われたらおかしな事だらけなんだけど、なんでかあの時は間違いなくお兄ちゃんだって思っちゃって……」

 

 なにそれ恐い。

 

「……で、なにがあった」

 

 そう訊ねると、小町はなんとも哀しげに俯いてしまう。

 

「お兄ちゃん……あ、その、偽物のお兄ちゃんがね? 小町にこう言ったの……」

 

 

『お前は本当に最低な妹だな。俺の為だとか言って、おせっかいという名の自己満足を俺に押しつけてくる。俺の居ない所で勝手に俺の知り合いと連絡を取ったり勝手に待ち合わせ場所に呼んだり、あまつさえ俺を騙して勝手に千葉村に連行したりしたよな? 時には「夕飯はトマト」だの「お兄ちゃんと口聞いてあげない」だのと脅してまでも』

 

『なぁ、お前はお兄ちゃんの為とか言うけど、それをされた方はどんな気持ちになるか考えた事はあるか? もし俺が小町の為だとか言って同じような事をしたら、お前は嫌な気持ちにならないのか?』

 

『お前はいつも身勝手なんだよ。身勝手なおせっかいとやらでいつも俺を傷付ける。少しは自分がされたらって事くらい考えてみたらどうだ? この歪んだ気持ちを兄妹愛と勘違いしているクズ女め! 制裁だ!』

 

「……って」

 

「」

 

 なんだそりゃ。いくら悪い夢とはいえ勘違いも甚だしいのはそいつの方だろ。

 

「……お兄ちゃん……ごめんなさい。小町、そんなつもり無かったんだけど、でも確かに小町はお兄ちゃんが嫌がってるかもとか、全然考えて無かったよね……」

 

「待て小町。小町が謝る事なんてひとつもないだろ。小町が身勝手に俺を傷付ける? そんなん初耳だわ」

 

「お、お兄ちゃんっ……」

 

「なんかよく分からんが、それはあくまでも第三者から見た一方的な見方でしかなくないか? まさに他人の家の事情に、なにも知らないヤツが身勝手に踏み込んでくんなよってレベルだ」

 

 なにが自分がされた時のことを考えろだ、アホか。

 俺と小町は14年も家族やってんだぞ。そんなのお互いがお互いを理解した上での行動じゃねぇか。

 

 小町はこんな情けなくてしょーもない兄貴を、14年間も見守り愛してくれた大切な妹だ。だが俺は自分の情けなくてイタい行動で、そんな大切な小町を今まで何度も傷付けてきた。

 中学の頃だって、俺は何度小町に悲しい思いをさせてきたのだろうか。身の程も知らず馬鹿みたいに何度も女子に告白しては振られて笑い者になった。

 そんな笑い者な兄貴を持つ妹として何度も何度も辛い思いをしたはずなのに、それでも小町はいつだって俺の味方でいてくれた。

 

 だからこれは、恨み言のひとつも云わず、ただ傷付く俺を優しく抱き締めていてくれた小町だから“こそ“の優しいおせっかいだろ。

 小町には分かってるんだろう。自分がおせっかいを焼かなければ、このダメな兄貴はいつまでたっても家以外では笑えないだろうと。

 

 事実、この一年間は小町がおせっかいを焼いてくれたからこそ、俺は外でもそれなりに楽しく笑って過ごせているまである。

 それを薄っぺらい表面しか見てないようなよく知りもしないヤツが、身勝手な価値観を俺達兄妹の間に押し付けてくるんじゃねぇよ。

 

「いいか小町。俺はお前が身勝手だなんて思ったことは一度たりとて無い。だから謝んな」

 

「……うん!」

 

「だからお前が見たイケメンなお兄ちゃんとやらはただの悪い夢だ。気にしなくていい」

 

「……分かったよ。ありがとね、お兄ちゃん……! 小町、お兄ちゃんの妹に生まれてきて、本当に良かったよ! あ、今の小町的にポイント高い!」

 

 ホント最後の余計なのが無ければな。

 未だ涙ぐんではいるものの、心配させまいと無理に笑顔を作っておちゃらける小町に、俺は苦笑を浮かべながらも常よりもさらに愛おしさを感じるのだった。

 

「俺の方こそありがとな。俺の妹として生まれてきてくれて。あ、今の八幡的にポイントたっかーい♪」

 

「……うわぁ、お兄ちゃんさすがにそれは気持ち悪いよ……」

 

 解せん……。

 

 

 

 ――しかし、それはそうとである。

 

「……で? まぁ下らない夢に間違いはないんだが、そのイケメンな偽お兄ちゃんとやらは、それからどうしたんだ?」

 

 夢。そう、夢であるはずなのだ。だがしかし、なぜか胸騒ぎがする。

 小町が言っているようなふざけた話が現実に起きうるわけはないのに、なぜだか俺の心臓は目の粗いヤスリで削られているかのように、さっきからずっとザワザワと酷く騒つき続けている。なぜなら、単なる夢とは思えないくらい具体的な内容を切々と話す、先程までの心底狼狽した小町の姿を目の当たりにしてしまったから……。

 

「……あ、うん。泣きだしちゃった小町を見てニヤッてしたら、満足したのかそのまま学校に行っちゃった……」

 

「なっ!?」

 

 おいおいマジかよ! そんなイカれたヤツが俺の替わりに学校に行った……だと?

 待て待て落ち着け。そんな事あるわけねーだろ。小町の夢だ小町の夢に決まっている。決まってる……よな?

 

 ……くっ。

 

「小町、お前はゆっくり休んでろ。俺はちょっと学校行ってくっから」

 

「え!? い、今から学校行くの!?」

 

「ああ」

 

「でも! 朝のお兄ちゃんは小町の悪い夢なんでしょ……!?」

 

「あたりめーだろ。どんなにイケメンだろうと、世の中に俺が2人も居てたまるかよ。超めんどくさそうだろうが」

 

「ぷっ、えへへ、確かに超めんどくさそう」

 

 またもや不安になりかけた可愛い妹を渾身の自虐ネタで落ち着かせると、俺は小町の頭をポンと撫でる。

 

「だがな、万が一億が一とはいえ、人生ってやつは最悪な展開の予測をしておいて損は無い。なにせ神様は常に最悪な展開を用意して俺のライフをゴリッと削りにきてるからな」

 

 神様、少しは俺にも優しさを下さい。

 

「だからだ。もし億が一小町の言っている事が夢では無かったとしてだな。そうすると、その偽者とやらは小町を傷付けたのと同じように、薄っぺらい表面上の事しか見ずに俺の知り合いに危害を加えてる可能性だってある」

 

 本当にそうだとしたら、思い当たるフシがすげーあんだよなぁ……。

 

「……うん」

 

「そうすっとあれだ……べ、別にそいつらを心配しているわけでは無いんだが、こ、今後のお兄ちゃんの学校生活に支障が出っかもしれんだろ……? だからこれはあれだ……あくまでも俺の為に様子を見に行かなきゃならんだろ」

 

「……うん! 小町分かったよ! 要するにあれでしょ? お兄ちゃんの捻デレでしょ?」

 

「……ちちち違ーし。デレてなんかねーし」

 

 

 

 

 

 ――こうして俺は心配そうに見守る小町を残して、一路学校を目指す事になった。

 本当は小町を1人残して行くのが不安ではないと言えば嘘になる。

 しかし、もしこれが現実で、もしそのイケメン八幡が小町をこれ以上痛め付ける気があるのなら、朝の時点でその猶予はいくらでもあったはず。それなのにあの壊れ具合で満足して早々に家を立ち去ったという事は、とりあえずは小町への敵意は一旦落ち着いたと見て間違いないだろうし、標的が“他“に移ってしまったとも言える。

 であるならば、小町を安全な家に残して俺から動いた方がいいはずだ。なぜならそんな有り得ない存在が本当に実在するのなら、この俺自身をそのまま放置しておくとも思えないのだから。

 

 ぶっちゃけアイツらのことも少しだけ、ほんの少しだけ心配してないこともないこともない俺に出来ることといったら、なるべく早く学校に赴いて、なるべく早くこれが単なる悪い夢だったのだと証明することだけ。

 

 

 今から急いでも、学校に到着する頃には放課後になってしまっているだろう。

 もしかしたらすでに手遅れかもしれない。俺が大切に思うあの場所が、先程の小町のように壊されているかもしれない。

 

 頼むから夢であってくれ。夢であるなら、放課後に登校したところを平塚先生に速攻で見つかって鉄拳を食らったって構わない。

 そんなことを考えながら、俺は玄関を飛び出て自転車置き場へと走るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 俺のチャリが無い……。昨日確かにここに鍵を掛けて置いておいたはず……だよな。

 

 

 ――やはり、なにかが居る……!

 




元々は1話終了の短編でと予定してたのですが書いてみたら少々長くなりそうだったので5話前後程度の連載作品としました
週1くらいの更新を目指してます

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