HACHIMAN VS 八幡 〜 オレハオマエデオマエハオレデ・いやちげぇから。こっち見んな 〜   作:匿名作者Mr.H

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感想返信が遅れてしまっている方すみません
ひとつひとつの感想が熱くて長いものですから返信に物凄く時間が掛かってしまい、こちらの作品どころかメインで書いている方の執筆時間も全く取れなくなってしまったので、今後もどうしても遅れてしまいそうです

ゆっくりでも最終的には全て返信させて頂きますので、どうかご容赦くださいませ




聖職者の面汚し、暴力教師・平塚静の章

 

 特別棟に入ると、そこはいつも通り静けさ漂う無人の廊下。遠くから聞こえる運動部員達の掛け声が、この空間のより一層の静けさを演出してくれる。

 放課後なのだから文化系の部員くらい歩いていたってよさそうなものだが、時間的に見て今は各部活にあてがわれた教室内で、青春という名の時間を各々楽しんでいるのだろう。

 

 そんな、いつも通りな特別棟の廊下のはずなのに、今我が身に起きている不可思議な出来事を思うと、このいつも通りの静けさがなんともいえない不気味さを醸し出す。

 

 だがそんなのは今さらだ。ビビるよりもまず成さなければならない事がある。今は一刻も早く部室にたどり着きたい。

 本当はまだ1人になるのが不安で堪らないはずの由比ヶ浜が、行ってこーい! と力強く送り出してくれたのだから。

 

 階段を一足飛びに駆け上がり2階へ。さらに上の階へと掛け上らねばと、3階へと伸びる階段を2段飛ばしで一気に走りぬけてやろうと足を踏み出した時だった。

 

「うう……」

 

 2階から3階へと伸びる階段の途中、つまり踊り場から、そんな呻き声が聞こえた気がしたのだ。

 

 予期せぬ声により一瞬だけ体が硬直し、踏み出した右足を階段ではなく床へと引き戻す。

 

 ――誰か、居るのか……? 踊り場に……?

 

 いや、そりゃ誰か居たってなんら問題はない。だって今は部活動時間で、ここは文化系の部室がいくつもある特別棟なのだから。

 大方どこぞの部室にでも向かう途中、荷物かなんかを踊り場でばらまいてしまった生徒でもいるのだろう。どうということもない。

 

 そんな事よりも急がなければ! と、一旦引いてしまった右足をもう一度階段へと伸ばすと――

 

「……うっ……うぅっ」

 

 またも踊り場からは声が漏れてくる。

 しかも階段を駆け上がる事に集中していた先ほどと違い、今度はその声がはっきりと聞こえてしまった。

 それは……呻き声というよりは嗚咽。しくしくと、世界の全てを涙の海で覆い尽くしてしまうかのような、そんな哀しげな泣き声……。

 

 俺はゆっくりと階段を上る。

 今現在降り掛かっている奇妙な出来事。そして、その不可思議な事態を終わりにしてやろうと走る途中に聞こえてきた、この哀しげな泣き声。

 これでは、この事態に関連が無いわけないではないか。であるならば、いくら急いでいるとしたってこのままこの泣き声を放置するわけにはいかない。

 

 ようやく辿り着いた踊り場までの最終段。手すりの陰から恐る恐る覗き込んだ踊り場には――

 

 

 

「うぅっ……しくしくしく……私はもう結婚できないのかぁ……」

 

 

 体育座りでしくしく泣いている平塚先生がいらっしゃいました。

 

 ……うわぁ、めんどくさそう。

 

***

 

 声掛けから「ひぃっ」までの一連のルーティンを済ませ、ようやく先生が落ち着きを取り戻してきた。

 今回ばかりは倫理的にさすがに抱き付かれるわけにはいかず、ドキドキ緊張しながら少し離れて説明させていただきました。

 

「偽者……か。いや、しかしそんな事が……」

 

 と、先の小町由比ヶ浜のお気楽コンビとは違う大人の反応とでも言うべきか、3回目にしてようやく偽者という奇妙な出来事に首をかしげる被害者平塚。

 てか前の2人の順応が早すぎただけだよね。泣いてた次の瞬間には「やっぱり偽者だったんだ!」となんなく事態に対応してみせたあの2人はさすがです。

 

「だがしかし……そう、だな。君は下らない嘘はたくさん吐くが、人を弄ぶ嘘は決して吐かない。そもそも今考えるとまったくの別人だしな。葉山くらいハンサムだったし」

 

「……」

 

 さすがは平塚先生。イケメンではなくハンサムと来ましたか。今日び中々聞かないよね、ハンサム。

 

「……まぁ、早々信じられるような事態ではないんですけども、残念ながら実際に起きてしまっている事実です」

 

「そうか」

 

 よし、とりあえず説明も済んだことだし、とにかく今はあの場所へと向かわなければならない。詳しい話は後々聞くとして、今は先を急ごう。

 ……てかさ? 後々聞くもなにも、このふざけた騒動が無事片付いたら、この世にも奇妙な物語はみんなの記憶から消えてくれるよね!? 消えてくんないと、クラスメイトに不良瞬殺のハーレムイケメン君ていう謎の記憶が残っちゃうんだけど。強くもないしイケメンでもないしハーレムなんてもってのほかなくらい目がどんより腐った普通の男の子なのにっ(白目)

 

 そんな恐ろしい未来にひとり恐れおののきつつも、涙を飲んで先を急ごうと部室に向けて足を踏み出した時、不意に平塚先生がこんな恐ろしいセリフをぼそりと呟いたのだった。

 

「では、先日転校してきたばかりの結城と一緒にいた比企谷は、やはり偽者だったのだな……」

 

「え、なんだって?」

 

***

 

 つい目上の聖職者に対してタメ口で難聴系してしまうのも致し方ない。

 だってさ、この人いきなり変なこと言いだすんですもの。八幡ビックリしちゃったよ!

 

「せ、先生、今なんて……?」

 

「ん? いや、だからあれは偽者だったのだなと」

 

「いえ、その前」

 

「ああ、転校生の結城と一緒だったというところか?」

 

「誰だよ結城」

 

 おい、マジで勘弁してくれ……ここにきてさらなる追加シナリオ発生かよ。

 

「ははっ、君はなにを言っているのかね。結城だぞ結城、結城明日奈に決まってるだろう。君と一緒にあのSAO事件を見事生き残り、その君を追い掛けてつい先日わざわざうちの学校に転校してきた結城明日奈だ」

 

「……」

 

 おうふ……さす俺。

 俺ってばいつの間にかあのデスゲームの生き残りになってたのかー(棒)

 しかも俺を追い掛けてきたんだね、アスナ!

 

「しかし偽者とはいえさすがはあの英雄ハチというところか。先ほどこの私にあそこまでの罵倒を浴びせた際の見事な胆力。なかなか出来る事ではないよ」

 

 やだ! しかも英雄にまでなっちゃってるってさ!

 ねぇ? キリトは? キリトくんはどうなっちゃったのん!?

 

「フッ、しかし私とてあの時ナーヴギアさえ手に入っていれば、みすみす可愛い生徒を危険に曝さずとも済んだだろうに」

 

「先生落ち着いて下さい! それラノベの話です! ナーヴギアなんかこの世界には無いですよ! 俺達にはまだプレイステーションVRが関の山ですから!」

 

「ははは、君は一体何を言っているのかね。現に……ん? ……ハッ!? そう言えば先日、開店前のビックロに行列が出来ていたから何事かと思ったら、VRの購入抽選をしていたような……!」

 

 なんだよその余計な情報。あんた朝の10時前に新宿でなにやってたんだよ。

 

「くっ……こ、これが記憶の改ざんというやつかっ……あまり気分の良いものではないな」

 

 苦々しく笑ってそう呟いた先生は、胸ポケットから取り出した煙草に火を付け、なんともサマになる格好良さで煙と溜め息をふぅと吐き出した。

 ……あの、ここ校内なんですけど……。

 

 

 しかし……。

 

 ねぇねぇ、俺ってどこか違う世界とかに出張サービスとかしちゃってんの?

 しかも俺を追い掛けてきたヒロインといい英雄呼ばわりといい、それ完全に嫁も活躍も奪っちゃってるよね? その世界ではキリトさんはどこ行っちゃったのかな?

 キリトに憑依とかしたならまだしも、まさか俺の隣で俺に嫁と活躍を略奪されるところをしっかりと見せつけられたりしちゃってないよね!?

 

 ……やめてぇぇ! キリトくん欝になって死んでまうよぅ! 出張したならしたで、美味しいとこだけ持ってかないでちゃんと自分自身の活躍をしてよぅ!

 そもそも俺、なんで自ら進んで英雄の道を歩んじゃおうと思ったの? どう考えても、絶対に攻略組になろうとか思わないよ?

 ヘビーゲーマーでもなければ反射神経が人並み外れてるわけでもない。ましてリアルで剣道かじってるわけでもないただの面倒くさがりでヘタレな俺が攻略してやるぜ☆だなんて、ただの死亡フラグですから! 適材適所って素敵な言葉に従って、ほぼ間違いなく始まりの街に引きこもるから!

 

 ……大体、アスナはキリトだから好きになったんじゃないのかよ。

 別に強さとか活躍に惚れたわけじゃなくて、彼の内面の強さも弱さも全部含めて、一生寄り添っていたいと思えるほどに心底惚れ込んだんじゃないのかよ。

 そしてそんな素敵な女の子だからこそ、ヒロイン・結城明日奈は読者に愛されてるんじゃねぇの? ファンとして愛してるんじゃねぇの?

 

 それなのにただ同じ活躍をした(奪った)ら、別にキリトじゃなくても誰でもいいっていうような尻軽なチョロインになっちゃっても、ファンとしてはそれでいいの? それってヒロインに対してとても失礼だと思うわ。

 悪いけれど、一読者として客観的に物語を楽しむ読書家としては、その考え方はよく分からん。

 

 

 

 はぁ……それにしてもどうしよう……まさか俺、さらに色んな世界を旅して至るところで略奪行為とか働いちゃってないよね……? 俺達が助かったのは全部ハチマンのおかげだよ! とか言われちゃってないよね……?

 

 お願いだから余所様にご迷惑をお掛けして各所から恨み買わないで!

 どうかクロスは相手先の主人公のファンも居るのだという事を忘れないでッ!

 

「どうした比企谷、真っ青になっているが?」

 

「あ、いや、はい」

 

 もう、なんでもいいっす……。

 

「……しかしいくら偽者とはいえ、君に……いや君ではない君に浴びせられた罵倒はなかなか心に響いたよ」

 

「す、すいません。俺急いでるんで、またあとにしてもらえな――」

 

「フッ、バッサリと言われてしまったよ」

 

 

 

 

『この職権乱用の無能暴力教師が! 部活動を生徒に強要させるなんて、聖職者として恥を知れ!』

 

『依頼にしても千葉村にしても文化祭にしても体育祭にしても、自分はなにもしないで全て生徒に押し付けやがって! しかも暴力を振るってまでなぁ! そんなんだからいつまで経っても結婚出来ないんだよ!』

 

『お前のような無能で無責任な教師は教育委員会に訴えて、どこかの地方に飛ばされるか懲戒免職処分に追い込んでやる! ハハハ! もうそうなったら結婚どころでは無くなるなぁ。ま、もともとお前なんかに嫁の貰い手があるわけがないがなぁ! ザマァ見ろ! 制裁だ!』

 

 

 

 

「……とな」

 

「」

 

 

 結局聞かされちゃったよ! なるべく聞きたくなかったのにぃ……。

 てか口調! すでに俺に寄せる気ゼロかよ。

 

 

「……すまん。まさかそんな風に思われてしまう行為を平然としていたなんてな……これでは本当に教師失格――」

 

「待ってください。先生はなにも間違ってないですよ。むしろすげぇカッコいいまである」

 

「ひ、比企谷……」

 

 

 まったく……その偽者ってやつは本当になにも見えてねぇんだな。

 

 確かにこの人は奉仕部に入部することを強制した。それは間違いない。

 だがどうだ。もし先生が俺を奉仕部に入部させなかったら、俺のこの1年はどうなっていた?

 

 特に語ることもないような、ただ生きているだけの、ただ感情を捨てて学校に通っているだけの無味無臭な味気ない1年間。それが、俺が総武高校に入学してからの1年間だった。

 

 もし奉仕部に入部しなかったら、俺の2年目の高校生活はその1年間となにか変わっただろうか? 答えは否だ。変わるわけがない。なぜならその時の俺がそれを望まなかったのだから。

 

 偽者はそれを職権乱用した強要と言うが、じゃあ2年目の俺が1年目と同じような無味無臭の高校生活を送っていたら、そちらの方が幸せだったのにと思うのだろうか?

 

 

 

 ――平塚先生は素敵な人だ。なにせこの捻くれた俺が唯一格好良いと認める大人なのだ。あと10年早く生まれていたら心底惚れていただろうと迷わず思える人なのだ。

 そんな格好良くて素敵なこの人には最初から分かっていたのだろう。このままではこいつはろくな成長をしないだろうと。

 だからこそだ。だからこそだろ。無理矢理にでも奉仕部に入部させたのは。

 

 そして今の俺はどうだ。確かに奉仕部に入部してから、辛いこと苦しいこと色々あったけれど、今俺はあの場所が大切な場所だと思えている。

 雪ノ下の淹れる紅茶の香りに包まれ、由比ヶ浜の楽しそうな笑い声に耳を傾け、そしてなぜかいつも居る一色のあざと可愛い我が儘に苦笑する日々。

 

 今ならはっきりと言える。あの場所を失うのは嫌だ、と。1年目の無味無臭な高校生活に戻るのは面白くない、と。

 

 そのことは一時期の自分自身の行動が証明している。あれだけ嫌悪していた葉山グループの上辺だけの付き合い。こんなものはただの欺瞞だ、青春とやらの下らない押し付け合いだと蔑んでいた。

 それなのに俺は、そんな嫌悪していた上辺だけの付き合いに縋ってまでも、あの場所を失いたくないともがき、毎日あの場所に通い続けたのだから。

 

 完全に平塚先生の目論み通りだ。

 どうだよ偽者。俺は平塚先生の無茶な強制入部のおかげで、今なかなか悪くない高校生活を楽しんでいる。それでもお前は、味気なかった1年目の俺の高校生活を……ひとりぼっちの夏休みを、ひとりぼっちの文化祭を、ひとりぼっちの体育祭を、ひとりぼっちの修学旅行を、ひとりぼっちのクリスマスを見てみたかったのか?

 

 

 それと無責任教師だっけ? 自分はなにもしないで、生徒に全部押し付けた?

 え、なに? 先生が本当に無責任に全てを押し付けたとかマジで思ってんの? ホントおめでたい頭してんな。

 まぁ子供には分からんかもしれんけど、社会に出たらさすがに分かると思う。悪い上司と良い上司とは一体どういうものなのか。

 

 悪い上司ってのは、部下に仕事を押し付けて、同時に責任も部下に押し付ける。それくらいならいくらお子様にだって分かるだろう。

 でもな、それよりもっと悪い上司がいる。それは部下を一切信用しないで全部自分でやってしまう上司。

 

 前者なら反面教師として成長できても、後者では何一つ成長出来ず仕舞いになる。なにせ責任ある仕事を責任を持ってやらせてもらえないのだから。

 

 それに対して良い上司というのは、道筋だけはきっちりと示してくれた上で、あとは部下を信用して仕事を任せるんだよ。

 しかし任せた以上はどうしたって責任問題が付き纏う。もしも仕事が失敗したら? もしも取引先に迷惑を掛けてしまったら?

 そんな時、黙って責任だけは引き受けてくれるのが良い上司なのだ。

 

 この考え方で言えば平塚先生は間違いなく良い上司だろ。

 無責任に押し付けるとか言うけれど、生徒が生徒に悩みを相談してそれを解決するだなんてふざけた活動の部活にはどうしたって責任問題ってやつが付き纏う。そしてもしなにか問題が起きたとき、果たして生徒だけで負える責任で済むのだろうか?

 

 そんなもの、たかが生徒が負えるはずがない。生徒がどう責任を負えば、生徒の心の問題に責任を負えるというのか。

 そして、会社で駄目な上司が部下に責任を押し付けるのとはわけが違う。勝手に生徒がやりました! なんて、教師が生徒に責任を押し付けるなんて事が出来るわけがない。

 

 そう。奉仕部という部活の顧問には、どうしたって生徒がやらかした事態に対しての責任が付き纏うのだ。

 無責任に生徒に押し付けるだ? 仕事舐めんな。

 あぁ、やっぱ働きたくないなぁ……。

 

 千葉村の件でこの人は言っていた。「一歩間違えれば問題になっていたかもしれない」と。

 いやいや、冷静に考えたら大問題だろアレ。ボランティアに来た高校生が小学生を脅してボコろうとしたんだぞ? あんなの下手したら引率者のクビくらい軽く飛ぶぞ。

 

 

 それでもあの人は俺になんと言った? 「時間もない中でよくやった」と褒めたんだぞ? しかも責任者にあんな危険な橋を渡らせるのに、こちらからはなんの報告もしていなかったのに、だ。

 問題が起きたら自分が責任取らされていたはずなのに信じられねーよ。

 

 さらにそんな事態を受けてもなお、彼女は2学期からも黙って俺達の背中を押し続けている。

 

 普通の大人なら、責任を負いたくないから生徒の問題を生徒になんか任せたりしないし、そもそも顧問自体引き受けないだろう。

 それなのにこの人は全てを理解した上で、なお生徒に任せるのだ。優しく……時には強く背中を押して。

 

 こんな格好良い大人、少なくとも俺は他にしらねーよ。

 

 

 それと暴力教師?

 いやいやあれは単なるギャグ描写だろ。しかも俺のどうしようもないボケに対する鉄拳制裁という鉄板のギャグシーン。

 あのギャグシーンでダメなら、風呂を覗いたのび太くんに、当たりどころが悪ければ下手したら死ぬかもしれない鈍器を大量に投げ付けてくるしずかちゃんは、殺人さえも厭わないメンヘラ殺人未遂女になっちゃうわ。

 

 ギャグはあくまでもギャグ。創作に彩りを与えてくれる素敵なスパイスだ。

 普段はやりたい放題書きまくって、いざ厳しい指摘を受けると「創作は自由です(キリッ)」「エンターテイメントですから(ドヤッ)」「たかが創作になに本気になっちゃってんのプゲラ(涙目)」とか言ってるくせに、なにこういう時だけは急にリアルを持ち出してきちゃってんの? 自由でエンターテイメントなたかが創作なんじゃなかったのん?

 ほらほら、巨大なブーメランが頭に突き刺さってますよ?

 

 

「前に言いましたよね。相手に見る目がないんですよって」

 

「あ、ああ。そんなことも言っていたな」

 

「だからその偽者が言っていた中身の無いセリフは、見る目がない人間の単なる妄言ですよ」

 

「比企谷……」

 

 由比ヶ浜の時とおんなじだ。よく知りもしないくせに、きちんと知ろうとも見極めようともしないくせに、表面の薄っぺらい部分だけを見て悪口ばっか言ってんじゃねぇよ。

 俺の皮を被った中身の無いヤツが、俺が心底格好良いと憧れている大人を、俺のフリをして勝手に貶すんじゃねぇ、不愉快だ。

 

「そ、そうか! 見る目がない人間の、ただの妄言か! そうかそうか!」

 

「え……あ、は、はぁ」

 

 と、俺が柄にもなく真剣に考え事をしていたというのに、つい先ほどまでのお通夜モードはどこへやら、先生が急に元気に詰め寄ってきた。

 あまりの詰め寄りっぷりに若干引き気味の俺はほんの少し距離を空けるが、逃がすまいと先生はさらにずいと顔を寄せ、キラッキラな瞳で俺を真っ直ぐに見つめてくる。

 

「では! やはり私は結婚出来るのだな!?」

 

「え」

 

「さっきまで、もう私は結婚出来ないんじゃないのかとびくびくしていたよ! いやー、良かった良かったぁ! あの捻くれ者の比企谷がそう太鼓判を押してくれるのなら、もう結婚したも同然だな! ふひっ」

 

「」

 

 す、すんません……確かに格好良くて素敵な大人だとは思いますが、そればかりは俺にはなんとも言えないっす……。

 てかあんた、どんだけ偽者の「結婚出来ない」を気にしてたんだよ……せっかくのシリアスが台無しだよぅ!

 

 

 だがまぁしかし、やはり格好良いものは格好良い。こんなお茶目で残念なところも含めて、この人は素敵な大人だと胸を張って言える。

 

 だから俺は、俺に色んなものをくれたこの素敵な女性にこんな言葉を贈って、貰ったものをほんの少しでもお返しするのだった。

 

 

 

「大丈夫です先生。今どき初婚が40代の女性なんてザラですから。先生にはまだ10年近く猶予がありま――」

 

「貴っ様ぁ! 10年“近く“ってなんだ! 私はまだ20代だぁぁ! ラストブリットォォ!」

 

「ぐはぁ!」

 

 

 力なく膝から崩れ落ち、うわぁぁん! あと10年“以上“独り身は長すぎるよぉ! と泣きながら走り去っていく恩師の背中を霞む視界でなんとか捉えつつ思う。

 ――ああ、これはギャグシーンだからセーフなんですね分かります。

 

 

 

 暴力ダメ、ゼッタイ。

 




俺ガイルファンの間だけで我慢できるのであればまだしも、クロス先のファンに『俺ガイルアンチ』になられてしまっては元も子もありません

ストップ HACHIMAN化!



そして次回はちょっと遅くなってしまうかもしれませんが、残り三話なので完結まではきっちり書きます
よろしくお願いいたします
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