HACHIMAN VS 八幡 〜 オレハオマエデオマエハオレデ・いやちげぇから。こっち見んな 〜   作:匿名作者Mr.H

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更新は来月になる予定でしたが、3月1日に始まった作品が3月中に終わる方がキリが良かったので、ギリギリ今月中での最終話更新となります






自己犠牲を厭わず他者に救いの手を差し伸べる最強最高の格好良すぎるみんなのヒーロー・比企谷八幡の章

 

 なんとも爽やかなどす黒い微笑を浮かべて佇む美形な好青年。頭上には噂通りのアホ毛が、屋上ゆえの強い海風にぴょこぴょこと自由気ままになびいている。

 

 なにあれアホ毛だけ別の生命体なのん? っていう一連の流れもなんかテンプレめいてて気持ち悪い。

 

「……なぁ」

 

 俺はそんな気持ちの悪いイケメンに話しかける。本当はこんなのと言葉など交わしたくもないのだが。

 

 しかしこいつが俺の予想する通りの存在であるならば、こいつを消滅させる算段などとうについている。

 多分俺の口からある言葉を投げつけてやれば、こいつは断末魔と共に消滅することだろう。

 故にそこに話を持っていく為に、嫌で嫌で仕方ないがこいつとは多少なりとも会話をしなければならないのだ。

 

 だからまずはこいつが“アレ“なのだという事の確証を得ようか。この質問を持ってして。

 

「……なんであんな真似をした?」

 

「あんな真似?」

 

「わざわざ聞き返すほどのことじゃねぇだろ。……なぜ小町を悲しませた。なぜ由比ヶ浜を苦しめた。なぜ雪ノ下を泣かせた。なぜ相模を追い込んだ」

 

 あれ? 誰か1人抜けてない? 誰だっけ? ま、いっか。

 

 さぁ、どう返してくる。まぁ、まず間違いなく返ってくる言葉は……。

 

「なんだよあらたまって。そんな事か。そんなの決まってんじゃねーか――」

 

 そしてこいつは言う。なんの迷いも躊躇も揺らぎもなく、さも当然のように。

 

 

「――全部、お前の為だろ」

 

「……」

 

 

 

 やれやれ、これで完全に決まりだな。正直薄気味悪くて仕方がないから、こいつの口からこのセリフを聞きたくはなかったのだけれど。

 とにかくこいつの正体も思考回路も全て予想通り。やはりこれは陳腐でチンケなただの茶番。

 

 

 

 ――やはりこいつは、…………HACHIMANだ。

 

***

 

 HACHIMAN。

 

 文字通りHACHIMANであって八幡ではないモノ。

 

 これはあれだ。一時期どこぞの趣味の世界で流行ったとかいうUー1とかスパシンとかってやつだ。

 第三者が登場人物に過度の感情移入……いや、そのまたさらに上のおぞましい感情を抱いてしまったせいで生まれた、第三者の願望の思念体、第三者の願望の権化。

 

 あれは創作の世界の話だから、この現実でなぜこんな事態が起きているのか、その仕組みはまるで分からない。

 え、この世界って創作の世界じゃないよね? この世界がラノベだと俺だけが知っているわけじゃないよね?

 

 おっと! メタな話はここまでだ! むしろこのお話はメタしかないまである(白目)

 ま、まぁそこはあまり深く考えるのもなんだしね! 今はまず割り切って、目の前の現実と向き合おう。

 

「……俺の為、ね。……あ、それともうひとつ聞きたいんだが」

 

「ああ、別にいいぜ」

 

 いや、俺あんまり語尾に「ぜ」とか付けないんですけど。

 

「……そういやなんでお前が……もしくは俺が居るんだ? 本来であればお前って、俺が居ない世界に現れる存在なんじゃねーの?」

 

 この質問に関しては、別にこいつを消滅させる為に必要だからとかではなく、ただ純粋なる興味本位。こういう展開の場合、本人と偽者がかち合う事なんてないはずだから。

 だからこいつが現れるのだとしたら、それは俺が居ない世界のはずだ。……いや、もしくは俺の代わり? 俺を消して?

 まぁそこはどれでも構わない。どちらにせよ偽者が人の人生を略奪する事に変わり無いのだから。

 

「さぁな。確かに俺はお前に成り代わってここで生きていくはずだった」

 

 ――生きていく? ふざけんな、文字列だけを追って表面をなぞるだけじゃ“生きてる“とは言わねぇよ。しかも大概途中で投げ出してエタっちゃうくせに。

 

「だがなぜかお前も居たんだよ。ほら、あれじゃねーの? 神様の転生ミスとかってやつ?」

 

 そう言って、悪役よろしくククッと可笑しそうに嗤うHACHIMAN。いやいや全然可笑しくねーよ。神様転生とか聞きたくなかったわ。お願いだから生前トラックにはねられたエピソードは語らないでね!

 

「……とにかく、気が付いたらリビングの扉の前に立ってたんだ。なんとなくお前も消えずに存在している事にも気が付いてはいたが、それならそれで逆に面白いと思ったね。なにせ俺は……俺達はお前を救ってあげたいと願う“たくさんの大いなる意思達“によって生まれた存在なのだから。だから八幡を苦しめる奴らに制裁を与えてやれば、八幡の為になるだろ?」

 

 成る程。神様の転生ミスかどうかはどうでもいいが、少なくともこいつが狙って同じ世界に居ることを望んだわけではないことだけは理解した。

 それと“たくさんの大いなる意思達“と“俺達“……ね。

 

 救ってあげたいとか八幡の為とか寝呆けたこと言ってるから、てっきりどこぞの誰かの個人的な押し付けの権化かと思ってたら、誰かどころかまさかのみんなからの押し付けでした!

 HACHIMANて元気玉かなんかなのん? オラ(作者)に地球のみんな(読者)がちょっとずつ力を分け与えちゃったのん?

 

 つまりHACHIMANとは1人1人の意思により創り上げられる存在ではなく、HACHIMANを望む多くの願望が集まって創り上げられた存在ということか。

 なんてはた迷惑な……。

 

 

 とにかくもういい。こいつの話はもうたくさんだ。

 とっとと消え去ってもらう為にも、こちらとしてはあくまでも冷静に、淡々と事務的に粛々と事態を収拾させてしまおう。

 

「そしてキッチンではクズな妹が朝飯の用意をしていた。そしたらもう、する事なんぞ決まってんだろう?」

 

「おいてめーの口からクズな妹とか語んな殺すぞ毒虫が」

 

 やだ! 全然冷静じゃなかった! つい情熱的になっちゃった。

 

「おいおい毒虫とか殺すぞとかひでぇなぁ……俺の知ってる八幡は、そんな風に他者を貶すようなことはしねぇぞ……」

 

 お前の知ってる八幡てどこの八幡だよ。俺って地の文でウィットに富んだ小粋なパロネタ時事ネタを華麗に織り交ぜて、相手を小馬鹿にしてフヒッと笑う事で有名な男の子なんですけど。地の文って言っちゃった。

 

 あれかな? 小町に近付く大志を毒虫殺すぞ扱いしたり、大岡を童貞風見鶏扱いしたり、結構いい連中な柔道部員の同級生と後輩達を、面倒だからって見た目だけでじゃがいも、さつまいも、さといものお芋三兄弟扱いしてたりするのも知らないのかな?

 え? 柔道部? なにそれおいしいのレベルですよね分かります。なにせパロネタ織り交ぜたテンション高いモノローグも相手を小馬鹿にした底意地の悪さも、さらにはわけの分からない柔道大会までも、これまたアニメではオールカットですからね!

 

 ねぇ知ってる〜? いろはすって、実は夏休み前の柔道大会が初登場なんだって〜。

 

 

 

 ――あー、もうやめだやめ。冷静に粛々とご退場願おうかと、サクッとあの言葉を言って終わりにしようかと思ってたが、この際だからぐうの音も出ないくらい叩きのめしてから消してやろう。

 小町を愚弄した罪を後悔しながら無惨に消え去るがよいわ!

 

 

「とにかく、だ。俺は……いや、俺達はずっと八幡を見てきたんだ。そして俺達は、そんなお前にずっと感情移入していた。……ずっと、共感していたんだ」

 

 あまりのイラつきに、生まれてきたことを後悔させてやろうと秘かに決意を固めていると、HACHIMANは急に何事かを勝手に語りはじめやがった。なんか自分にものすごく酔ってそうな、まるで厨二病を拗らせちゃってる最中っぽい語り口調と身振り手振りで。

 

「……八幡、お前は本当に可哀想な奴だ。自己犠牲を厭わない誰よりも格好良い生き方を理不尽な連中に上手く利用され、いつも割を食うのは八幡ばかり……。本当に酷い話じゃないか……!」

 

 いや、なに熱くなってきちゃってんだよ。もう俺の面影皆無だし。

 こっちはあまりの寒さに冷え冷えしてますよ?

 

「言いたくもないことを根掘り葉掘り聞き出され余計なお節介を焼かれ、人の気持ちを考えないバカにやりたくもない仕事を勝手に請けさせられ、時には職権乱用で……時には暴力で脅され、仕事はすべて八幡任せ……! それなのに独善的な無能に責任さえも全て押し付けられて……。そして卑怯な偽善者に利用された挙げ句、自分さえ良ければいいクソ女に悪評をバラ撒かれて学校1の嫌われ者の烙印を押され、孤独に辛い人生を歩まされる……っ」

 

「……」

 

 ……どうしよう。なんか目に涙をいっぱい浮かべちゃってるんですけど。

 どんだけ酔っちゃってんだよ。年末年始や花見でどんちゃん騒ぎするサラリーマンだってそこまでは酔ってないぞ。

 

「それなのに八幡はそんな辛い人生を甘んじて受けて、誰にも文句も言わず、誰のせいにもせず、ただ1人、黙って傷ついていくだけ…………。ああっ、なんて格好良いんだよ八幡……っ。俺は……俺達はそんな八幡が大好きなんだ!」

 

 ……うわぁ。これはヤバいやつだ。思ってたよりもずっと重症ですね。

 だいたい誰にも文句言わないとか誰のせいにもしないって、俺むしろ文句しか言ってなくない? 社会のせいとか世間のせいにしまくってない?

 

「……だからだよ八幡。俺は……俺達は……そんな格好良くて可哀想なお前に救いの手を差し伸べる為に生まれたんだ。だから俺はお前に理不尽な思いをさせる連中を制裁してやった。八幡は強くて優しくて最高に格好良い男だ。そんなお前から理不尽なクソ共を取り除いてやれば、お前はもう辛い思いなんてしなくて済む。お前には誰よりも幸せに生きる権利があるんだ」

 

「……」

 

 幸せに生きる権利ってなんだよ。なんで今の俺が不幸だとお前なんぞに決めつけられなきゃなんねぇんだよ。

 

「でも八幡は優しいから、あんな最悪なクズ共でさえ痛め付けるのは忍びないんだろ? 本当はあいつらと決別したいはずなのに、あまりにも優しすぎるから俺の邪魔したんだろ? だって普通に考えたら、あんな連中どうなったっていいに決まってるもんな。本当に優しい男だな、八幡は」

 

 決別したい“はず“とか“普通に考えたら、決まってる“とか、本当にお前はただ自分の一方的な価値観を押し付けてくるだけだな、HACHIMAN。

 今更ながらに、なんと中身の無い独り言だろうか。

 

 ……さすがに、もういいか。

 

「……だったらもう一度俺が全部やってやるよ。お前を傷つける理不尽を全て消して、そして俺とお前はひとつになろう。……だって、俺はお前で、お前は俺なん――」

 

「なぁHACHIMAN」

 

 今度こそもうこいつの戯れ言は聞きたくはない。もう黙れ。

 ここからはずっと俺のターン!

 

「……? ああ、俺は八幡だが?」

 

「あ? 勘違いすんなローマ字。てめぇはHACHIMANだから」

 

 本当にお願いします! 俺を嫌いになっても、八幡もHACHIMANも一緒だろ? っていう風潮だけは勘弁してください!

 

「黙って聞いてりゃ好き放題言ってくれてるが、さっきからお前が言ってる“はず“だの“決まってる“だのって、それ単なるお前視点での価値観だろ? なんで俺も同じ考えだという前提で語っちゃってんの?」

 

「なに言ってんだよ八幡。そんなの常識だろ。普通に考えたらあんな理不尽な目にばかり合わせてくる連中なんて、本当は嫌に決まってんだろ」

 

「……だからお前の価値観を俺に押し付けてくんじゃねぇよ。お前らの普通は俺の普通じゃねーんだよ。お前らは人類代表かなにかか?」

 

 なにが幸せになる権利だアホだろこいつ。俺は今、結構悪くない毎日を送れてるんじゃねーの? って自負があるんだよ。学校に行けばあいつらが笑う居心地のいい場所があるし、今までの学生生活では存在しなかった信頼の置ける先生だっている。

 なにより学校に居れば戸塚、家に帰れば小町が居る。なにそれ最強。もはや幸せ過ぎて怖い!

 

 

「なにが俺の為だ、なにが可哀想だふざけんな。お前の物差しで俺の人生語んな。誰が救けてくれと頼んだ。俺にはな、お前なんぞに同情される謂われもなければ、お前なんぞに救けを求める事なんか一生ねぇんだよ」

 

 まるで、普段俺を見る雪ノ下のような蔑んだ目をHACHIMANへと向け――

 

「俺が可哀想だの俺を救ってあげたいだの俺が大好きだなどと宣いながら、じゃあなぜ当の本人の気持ちを一切尊重しないんだ? なんならあえて無視してるまである」

 

 さらに普段俺を罵る時の雪ノ下の如く、絶対零度の言葉を叩きつけ続ける。

 

 

 

 俺メンタル強すぎだろ。

 

 

 

 ――そう。こいつは言ってる事とやってる事が違いすぎるのだ。

 

 いつぞやのダブルデートの時の葉山よりもよっぽど酷い同情の押し付け。

 あの時の葉山は俺の事なんてまるで知らなかった。知らなかったが故に、あんないらんお節介をしてきたのだ。

 

 しかしこいつは知っている。なぜならこいつは俺と浅い付き合い……どころかギリギリ知り合いレベルでしかない葉山とは違い、自分でこう宣言しているのだから。

 

「お前さ、俺の事をずっと見てきたって言ってたよな」

 

 どんな原理かは知らんけど、こいつは俺の人生を知っている。少なくともこの1年間に起こった出来事は。

 だったら知らなければおかしいのだ。俺がなによりも嫌悪しているあの行為を。

 

「――俺はな、理解したつもりになって上から目線で同情されるのが、憐れまれるのが……“なによりも“嫌いなんだよ」

 

***

 

 いつかのダブルデート。

 あの日葉山は俺の為だと勝手に判断し、憐れんだ目で俺に同情を押し付けた。

 

『君は自分の価値を正しく知るべきだ。……君だけじゃない、周りも』

 

『……君はずっとこんなふうにしてきたんだろう。もう、やめないか。自分を犠牲にするのは』

 

『君が……、君が誰かを助けるのは、誰かに助けられたいと願っているからじゃないのか』

 

 

 あの時ほど気持ちが悪いと思った事はなかった。だから俺は、俺にしては珍しく激昂した。燻る感情を葉山に吐き出した。

 ガキの時分から今日(こんにち)に至るまで、ハブられてぼっちになったり告白して振られてクラス中からからかわれたりと、今までの人生で様々な不快感に曝されてきた事はあったけれど、あの時くらいではないだろうか。相手に怒りの感情をそのままぶつけたのは。

 

 つまりそれほど嫌いなのだ。救けてやりたいとか可哀想とか上から目線で同情されるのは。

 

 しかしあの時の葉山はそんな胸の内なんか知る由も無いし、人によってはああいう同情をされて嬉しく感じる人間だっているのだろう。だから葉山の事は一概には責められない。

 だって葉山は、少なくともわずかながらにでも俺を想って行動を起こしたのだから。

 

『君に劣っていると感じる、そのことがたまらなく嫌だ。だから、同格であってほしい。だから君を持ち上げたい、それだけなのかもしれない。君に負けることを肯定するために』

 

 ま、ほぼ自分のプライドを守る為なんだろうけれど。

 

 でも下手にきれいごとで飾られるよりは、よっぽどそっちの方が気持ちがいい。普段の爽やか仮面の葉山よりよっぽどいいだろ、人間臭くて。

 

 

 まぁなんにせよ、俺の事など何も知らない葉山が起こした行為だからこそ、余計なお節介ではあってもそこに悪意は感じられなかった。

 

 ……しかしこいつは違う。HACHIMANは俺が憐れまれたり同情されるのが何よりも嫌いだと知っているはずなのだ。それなのにこいつは俺を憐れんだ。同情した。

 

 可哀想。救けてやりたい。そう上から目線で宣うのだ。

 

 ここまで俺の信念をどこかへ放り投げたこいつが『俺はお前でお前は俺』だと? 笑わせるにもほどがありすぎるだろ。

 つまりこいつは本心では俺の……比企谷八幡の為だなんてこれっぽっちも思ってはいない。こいつの思考は、そう――

 

「お前はお前の為にやってんだよ。いや、お前達か。……お前達の為に、俺を好きなふりをしているだけ。俺に同情したふりをしているだけだ」

 

 自分が気に食わないから、自分が納得いかないから、だから自分の思う通りの……自分が気持ちのいい幸せな世界を創りたいが為だけに俺のふりをする。

 ……こいつは俺に感情移入してるんじゃない。共感してるんじゃない。

 こいつは、比企谷八幡に自己投影して、比企谷八幡という器が欲しいだけなのだ。

 

「ち、違う! 俺達はお前が大好きナんだ! 八幡が大好きだから、八幡を幸せにシてやりたいんだ!」

 

 先ほどまでのニヤけ面などどこ吹く風、あからさまに動揺しはじめるHACHIMAN。

 

 ……まぁ、こうなることはなんとなく分かっていた。こいつの正体に気付き始めた辺りから。

 

 こいつは、なんでかは知らないが、なぜか超格好良いと思い込んでいる比企谷八幡になれたつもりになった自分に酔い痴れている。

 だからこいつの耳には誰が何を言っても響かない。何を言われたところで「どうせ八幡が嫌いだから言ってるんだろ!」と、思考を停止させて都合の悪いところから目を逸らしてしまうから。

 

 唯一。こいつの酔いを揺らがせられるとしたら、こいつを消し去れるのだとしたら、それは他でもない、俺自身がHACHIMANを否定する事だけ。そう思っていた。

 

 ……そしてそれはものの見事に的中したわけだ。ならばもうこちらのもんだ。攻めて攻めて攻めまくって、そしてあの言葉をこいつらの頭のど真ん中にブチ込んでやる。

 フハハハハ! 圧倒的じゃないか我が口は! 小町の恨み、はらさでおくべきか!

 

「違うな。俺を幸せにしたいんじゃない。お前が気持ち良くなりたいだけだ」

 

「ソ、そんなこトはッ!」

 

「ならなんで俺を幸せにする為に、俺の姿で俺が大切に思っているものを傷付ける。……お前、ずっと俺を見てきたって言うくらいだから知ってるよな? 俺がいかに奉仕部に居心地の良さを感じているのかも、俺が小町や平塚先生に多少の理不尽な目に合わされても、それ以上に大切なものをたくさん貰っていかに感謝しているのかも」

 

「ッ……!」

 

「普通さ、幸せにしてやりたい相手が大切に思っているものを傷つけようとか思わんだろ。ましてやその幸せにしてやりたい相手のふりをして」

 

 ビチヶ浜だの暴力教師だの屑山だのと嘲笑って悪口を書き込みまくったりね。

 アレ、単なるネットを使った陰湿な集団虐めだからね? あ、葉山は大切でもなんでもないから別にいいけど。

 

 俺を救う為に俺が中学時代にクラスの連中にされて傷付いた事(告白バラされて黒板に書かれて嘲笑られたりとか、罰ゲームラブレターで呼び出されて笑い者にされたりとかね)と同じような行為を嫌いな相手に行って集団で嗤う。本末転倒すぎだろ。

 

「そんな事したらむしろ傷付いちゃうだろ、その幸せにしてやりたい相手が。その時点で気付けよ、いかに自分の弁が支離滅裂なのかって事くらい。お前進学校の学年トップなんじゃねーの?」

 

 まぁ学年トップ(笑)だけどな。

 よく言うだろ。作者は作者の頭脳を超えるキャラクターは生み出せないと。

 さっき雪ノ下も言ってたろ?

 

『そんな品行方正で素晴らしい女性なはずなのに、私はその2人に、品位も教養も疑ってしまうかのような口調で口汚く罵られてしまったのよ』

 

 と。つまりはそういう事だ。

 

「違うチガウ違う!」

 

「違わねぇよ。お前は俺の為だとか言って、独りよがりで喜んでいるだけだ」

 

「ひ、独りヨがりなんカじゃない! お、俺には俺を理解してクれル味方だっテ居るンダぁァぁッ!」

 

 髪を掻き乱して必死に辺りを見渡すHACHIMAN。あれれー? 自慢のアホ毛が元気ないみたいだよー?

 なに? メアリーでも探してるのん? それともアレかな?

 

「味方? ああ、お前ってアレだよね。戸塚とか川崎とか材木座とか陽乃さんとかを、妙に味方に付けたがるよね。あれかな、自分の事を無条件に認めてくれる素晴らしい存在だから大好きなのかな?」

 

「そ、そうだ! 戸塚ァ! 助けテくれよォ! 川崎ィ! 守ってクレよぉ! 材木座ぁ! 駆け付けテくれヨォ! 陽乃さァん! こいつ黙らせてよォォ!」

 

「だが残念だったな。戸塚がお前みたいな人を嘲笑って集団で虐める卑怯者の味方になるわけねーだろ。天使舐めんな。川崎だっておんなじだ。曲がった事が大嫌いなあいつからしたら、ぼっちでさえないお前なんざ、キラキラな葉山よりもさらになんのシンパシーも感じないどうでもいい存在だっつの。材木座? アホか。お前どう見てもイケメンハーレムのリア充クソ野郎じゃねぇか。なんなら材木座の仇でしかねーよ」

 

 そもそもなんで戸塚達が無条件で味方になってくれると思ってんだよ。

 少なくとも今この場にあいつらが来たら、お前なんて跡形もなくなるからね?

 だってさぁ……。

 

「あとな、陽乃さんが俺の事を気に入ってんのは面白い玩具だからだ。あの人がお前みたいな薄っぺらくて下らない奴に興味なんか示すわけねぇだろ。むしろ嫌い過ぎて率先して壊される対象まである」

 

 よりにもよって大魔王を味方にしようとすんなよ……。

 知らないのか? 大魔王からは逃げられないんだぞ?

 

「うガァァぁぁァァッ!」

 

 この無慈悲な口撃に、さらにアホ毛を掻き乱して悶え狂うHACHIMAN。ヤベェな。なんか笑えてくる。

 だって今のこいつって、こいつが大好きな崩壊葉山くんの終わり方にそっくりなんだもん。

 

「俺の嫌悪する行為を俺に“身勝手に押し付けておせっかいを焼き“、“人の気持ちも考えず“に人の気持ちを踏み躙り、言葉の虐めという“暴力“で嫌いな人間を痛め付け、それらは全て正しい事だと“独善的“に考える。そしてこれらの行為を俺が可哀想だから、俺を救ってやりたいからと正当化した、どうしようもなく“偽善者“な、“自分がよければ全ていい“と思っているお前ら。……なぁ、気付いてるか? お前らが小町達を批判する主張、全てお前自身に当てはまっているということが」

 

 なんとここでまさかのサブタイトル全回収!

 ここまでくると、HACHIMANって某リアクション芸人さん並みに狙ってるとしか思えませんね。どうぞどうぞ。

 

 

 

 ――さて、そろそろ頃合いか。ここまで完膚なきまでに叩きのめしてやれば、あとはあの言葉さえ投げ付けてやれば、こいつはもう綺麗さっぱり消滅するだろう。

 だってこいつ、さっきから黒く淀んでる変な煙みたいなのが身体中から漏れ出してて、なんかうっすら消え始めてるし。なんつうか、魂が抜けかけてる感じ?

 

「なぁ、お前ってさ、俺の事が好きなんだよな」

 

「ス、好きダ! お、オレハ八幡ノ事が大好キだ!」

 

「ほーん。……でもさぁ、俺がハーレムなんざ一切望んでいない事も、俺が自分から面倒ごとに関わっていって、まして目立つのなんかまっぴらだと思っている事も、お前らは全部その目できっちり見てきたんだよな?」

 

 

「ぐギぎ……!」

 

「だがお前は、俺のそういう考えを全てないがしろにする。なんで英雄呼ばわりされて喜んでんだよお前。……そして俺が大切だと感じているものを身勝手に否定し貶し虐めて嘲笑い、俺が心から嫌悪するものを俺に望んで押し付ける」

 

「も、モうヤメロぉぉっ……!」

 

「さらに八幡の皮を被った自分を俺よりイケメンにして俺よりも優秀にして俺よりも人気者にして――」

 

 あ、俺よりももなにも、俺ひとつも人気者じゃなかった。むしろ嫌われ者だったわ。

 ついちょっぴり見栄張っちゃった☆

 

「俺が一切望んでいない世界を身勝手に創り、そしてお前はそこで悦に入る。……なぁ、色々と踏まえた上でふと思ったんだが、お前らってさぁ……」

 

 そして俺は言う。こいつに……HACHIMANにどうしても言ってやりたかった、とどめのあの言葉を。

 

 

 

 

 

 

「――誰よりも一番比企谷八幡っていう存在を否定してるよね」

 

 

 

 

 

 ――ピシィッと。その瞬間、どこかでなにかが壊れたような音がした。

 

 次第に、薄まり崩れ始めるHACHIMANの体。そして漏れ出す……いや、噴き出るほどに溢れでていた黒い煙――オーラ? は、その勢いを段々と弱めていく。

 まるでHACHIMANの本体が、その怨念めいたどす黒いオーラであるかのように……。

 

「チ、違うッ……! 俺ハ……俺タチはぁッ! 俺達は八マンが大好キなんだァァァ!」

 

 未だ頭を抱え泣き叫び続けるHACHIMAN。本当はもう気付いているだろうに、こいつはまだ認めたくないというのか。こんな今際の際でさえも。

 

「……めンどくサイと言いながラも、進んで人ヲ救けてシマうッ……! 自己犠牲も厭ワズ人を救ッてしマうッ……! そしてソンな不器用ナ優しサを理カイしてクれる美少女タチに囲まれル、そんナ、ソンなカッコいい八幡がぁッ……俺達はぁぁァァ……! ……お、俺はァァ!」

 

 ……そしてHACHIMANは断末魔の叫び声を上げ、ついにこの世界から、まるで夢幻(ゆめまぼろし)であったかのように儚く消え失せるだった。

 

 

 

 

 

 

「俺が大好きなんだァァァ!」「自分が好きなだけじゃねーか」

 

***

 

 

 ――こうして、大いなる意思達が感情移入したつもりになって、単に自己投影した八幡のようなナニカに陶酔していただけのHACHIMANという脅威はひとまず過ぎ去った。

 しかしこれは哀しい事に、HACHIMANという脅威のほんの一例に過ぎないのである。

 

 これからもほんの少しでも気を弛めれば、第二第三第十第百のHACHIMANがいつまた現れないとも限らない。

 しかしみんなの世界をHACHIMANの自由にさせてはならない! HACHIMANをはびこらせてはならないのだ!

 戦え八幡! 守りぬけ八幡!

 いつの日か、この恐怖が終息するその日まで……!

 

 

 

 

 

 などと脳内で熱いナレーション(CV材木座)を繰り広げつつ、俺は重い重〜い足取りで、ゆっくりと特別棟の廊下を歩きながら途方に暮れていた。

 そして前方に見えますは、ご存知奉仕部の扉でございます。

 

 

 ……ど、どうしよう。目論みがハズレちゃったよぅ……!

 

 HACHIMANが消え去ると、その瞬間に謎の睡魔が襲ってきて意識を失い、……目が覚めるとそこは俺の部屋だった。

 

『なんだ夢か……』

 

 までのシナリオが頭の中では出来上がってたというのに、どうしてなにも起こらないのん? どうしよう、睡魔どころかお目々パッチリ!

 まさかここで大寝坊のツケが回ってこようとはッ……!

 

 これは非常にマズい。HACHIMANと対峙する前までに漠然と想像していた、あの恐ろしい事態に陥ってしまうのだろうか……!?

 いや待て、諦めるにはまだ早い。今まさに手を掛けた部室の扉。ここを開ければ、なんとビックリ何事もなかったかのような日常の風景が! って可能性もワンチャン――

 

「ひ、比企谷くん! 無事だったのね! ……よ、良かった……っ」

 

「ヒッキー! 大丈夫!? 怪我とかない!?」

 

「比企谷……! さすがだな、君は」

 

「ひ、比企谷ぁ! 良かったぁ……! うち、うち……っ!」

 

「」

 

 おうふ……見事なくらいあのまんまでした!(白目)

 

 

 うっそーん……HACHIMAN消えたのにマジで記憶とか残っちゃうのん?

 え、マジでヤバくない? なにがヤバいってマジヤバい。だってこれ、こいつらはこの事態を知ってるからまだいいとしても、明日俺どうやって教室に入ればいいの?

 クラスの連中の記憶の中の俺って、葉山並みのイケメンで雪ノ下以上の頭脳で不良数名を瞬殺しちゃうくらいに喧嘩が強い、モテモテハーレムで人気者なSAOの英雄のままなんでしょう?

 そんな認識の中に俺が入っていったら、一体どんな不幸な未来が待ってるん……?

 

 いやいや無理無理。てかまさかメアリーとかこっちの世界に残ってないよね!?

 

 

「そ、その……先程のあなたは……とても遺憾ではあるのだけれど……その、な、なかなか格好良っ……た、頼もしくもなくはなかったわ」

 

「えへへ、なんだかんだ言っても、やっぱりヒッキーは頼りになるよね……! 部室に走ってくヒッキーの背中、ちょ、ちょっとだけカッコよかったしっ……!」

 

「……やっぱり俺は君が嫌いだ。なんていうか……悔しいよ、君のその強さが……。はは、情けない。こんなのはただの嫉妬かもな」

 

「比企谷……! さっきは言いそびれちゃったけど……その……色々とごめんなさい。あと……色々ありがとね……! そんな資格ないけど……うち、出来れば比企谷と少し仲良くなり……たい、かな〜なんて。あ、あはは……」

 

 やだ! こっちはこっちでなぜか謎の好感度UP!

 なんだよせっかくHACHIMAN消したのに、今度は俺がHACHIMAN扱いになっちゃうのん?

 ちくしょうてめぇHACHIMAN! どこまではた迷惑なんだよお前!

 小町、由比ヶ浜、平塚先生、雪ノ下、葉山、相模。次々とHACHIMANの被害に合ってきたけれど、実は一番の被害者は俺でした! てへ☆

 

 

 

 ――明日から不遇な学校生活を強いられるであろう可哀想な自身への憐れみと、なんとも熱い眼差しを向けて俺を取り囲む面々の称賛の言葉に、俺はピクピクと引きつったキモい笑顔でハハハ……と乾いた笑い声を上げつつ、誰にも聞こえないほどの小さな小さな蚊の鳴くような声で、ぽしょりとこう呟くのでした。

 

 

 

 

「……救けてHACHIMAN!!」

 

 

 救け求めちゃうのかよ。

 

 

       了

 






【後書き追記】
完結から一年以上経つにも関わらず、未だに感想を送っていただき誠にありがとうございますm(__)m

ただ、現在返信が滞ってしまっております。
理由(言い訳)としましては、ひとつひとつの感想があまりにも熱く長く、ひとつ返すのにかなりお時間を頂いてしまって返信が大変なのと、また、一度返信し終えたと思ったらまた感想を多数いただいてしまった為、返信する気力が尽きてしまいました。
私の語彙力の問題でもあるのですが、頂く感想が同じような内容だと返信する内容も同じような物しか書けず、返す気持ちが折れてしまった…というのも返信が書けなくなってしまった一因です。

なので申し訳ないのですが、作品に対する応援・肯定の感想に関しては返信するメドが立ちません(汗)
ですので今後も返信の方は期待しないようお願いいたしますm(__;)mスミマセン。

ただしこういった作品を書いた以上、ご批判に関してはきちんと返信するのがアンチアンチを書いた匿名作者の責任かと思っておりますので、引き続きご批判感想に関してはバリバリ返信してゆく所存でございますm(__)m


ここからは元の後書き↓


こちらの作品は、「八幡を否定するヤツは絶対に許せない!制裁だ!」とか言ってアンチ行為をしているHACHIMAN派の人達が一番「八幡を否定してるよね」が言いたかったが為だけに始めた作品でした
あとはただHACHIMANに対して「おかしくね?」と疑問を持った方誰しもが一度はツッコんでやりたかったであろう事をつらつらと書いただけの作品でございました
まぁ八幡の性格上、彼もこの惨状を目の当たりにしたら、同じように嘆いて、より激しい悪態を吐くでしょうけれど


さて、こんな問題作ではありましたが、最後まで楽しんで頂けたのなら……そしてつまらなくても憎くても、何かを考えるきっかけになれたのなら幸いです


それでは最後までお読み頂きまして、本当にありがとうございました!




ここからは感想についてです

頂いた感想につきましては、時間が掛かっても基本的に全てお返しする予定なのですが、予想される以下の感想につきましては今まで何度も頂いて答えてきた質問でもありますし、下手にお答えしてもまた感想欄が荒れて運営様にご迷惑をお掛けしてしまう可能性がございますので、先にこちらにて定型文という形での返答とさせて頂きます

ですので感想への返信は一律で「後書きをご覧ください」のみとさせて頂きますし、この定型文に対しての反論は運営様へのさらなるご迷惑となりかねますので返信致しません。ご了承くださいませ



Q.HACHIMANとやってる事は同じレベル。原作者でもないのに偉そうに代弁者のつもり?

A.本来であればこういった作品(HACHIMANにせよアンチアンチにせよ)なんか元々無い方がいいに決まっているというのを大前提とした上で、こういった不特定多数が見る場(俺ガイルを知らない、または興味ないという人が多く居る場)において、原作に悪印象しか与えないHACHIMANA側と、その悪印象を少しでも防げる可能性があるこの作品、どちらが原作『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』にとって有益か、どちらが害になるかをまずお考え下さいませ
代弁者などと偉そうに宣うつもりは甚だありませんが、原作を貶める存在に対して原作ファンが一言声を上げる行為はそんなにおかしな事でしょうか?そして果たして『やってる事は一緒』でしょうか?

原作にとって有益か害かの違いがあるのに、『やってる事は一緒』と言う“だけ“の行為に意味があるとは思えません、と、少なくとも私は思います



Q.ただ八幡というキャラに自分の意見を言わせているだけだろ。なんで八幡でやる必要があるの?
それこそ他キャラやオリ主でやればいいだろ

A.最終話本文でも述べましたが、他キャラやオリ主にこれをやらせたら、HACHIMAN側は「どうせ八幡が嫌いなだけだろ!嫌いだから八幡を痛め付けたいだけだろ!」と思考停止になるのが目に見えていたので、その反論をさせない為に、少なくともHACHIMAN“よりは“原作に近い八幡で作品を作りました



Q.結局お前が書いてるのだってHACHIMANだろ

A.お手数ですが世間でHACHIMANと揶揄されているモノがどんなものか、まずご自身で調べてみてください
私は原作者様ではないのでもちろんいくらかのキャラ崩壊はしてしまうとは思いますが、“実力不足でキャラ崩壊してしまった八幡“と“そもそもキャラに寄せる気のないHACHIMAN“は根本的に別物です
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