僕のヒーロー(オリキャラをそれなりにぶちこむ)アカデミア 作:チョコラータ・フォンドゥータ
頑張る
「合格おめでとう! 雄英高校ヒーロー科が君のヒーローアカデミアだ!」
3月某日夜、全国で40人のプロヒーローを目指す少年少女がその言葉を聞いた。
国立雄英高校ヒーロー科とは!
そこはプロに必須のあらゆる資格取得を目的とする養成校!
全国に存在する同科中で最も人気で、最も難しく、その倍率は例年300を超えるという!ちなみに今年の偏差値は75のまさに最難関である。
その卒業者たちの中には――
「平和の象徴」「ナチュラル・ボーン・ヒーロー!」国民栄誉賞を固辞したナンバー1ヒーロー"オールマイト"!
「燃焼系!」「事件解決数史上最多」精力的な活動を次々とこなすナンバー2ヒーロー"エンデヴァー"!
「ベストジーニスト8年連続受賞!」堅実さがヒーロー活動と人気で安定性を見せるナンバー4ヒーロー"ベストジーニスト"!
「若手実力派の成長株!」ヴィラン戦、災害救助、警察捜査協力と多方面に華やかな活動で人気急上昇中!ナンバー5ヒーロー"PKエンプレス"!
等々のプロヒーローたちがトップ5に名を成しており、偉大なヒーローには雄英卒業が絶対条件とまで言われるほどなのだ!!!
さしあたっては
○
朝、目を覚ました春臣は伸びをすると寝間着にしている聡明中のジャージのままで階下へ行く。
1階の台所では母・真緒が食卓に朝食を並べているところだった。妹の
「おはよう春臣。ちょうど支度ができたとこだから早く顔を洗っていらっしゃい。硝子もテレビ消して食べちゃいなさい」
「はーい。おはよう兄さん、遅いわよ」
「おはよう母さん、硝子。遅くないよ。で、母さんはなんでそんなにご機嫌なのさ……」
ぼやきながら春臣は洗面所へ向かい、洗顔と歯磨きをすませ、顔色の確認をする。
「んーーーー?」
目が充血してるということはない、普段どおりの冴えるような菫色の目だ。しかしそれも当然だ。特に寝付きが悪いとか夜中に頻繁に目を覚ましたりだとか、眠りが浅かったなどということもなかったのだから。
春臣がなぜ日頃やらない顔色の確認をしたか?
それは今日が日本のヒーロー志望中学生たちの憧れの学び舎、国立雄英高校の入学式の日だからである。
母の機嫌が良かったのもおそらくはそれが原因だろうと春臣は思っていた。
というかあの、もう高校生にならんとする息子がいるにしてはやたら若々しく、少女のような溌剌さを失わない母が朝から上機嫌な日は、だいたい父・夏輝か自分たち兄妹の節目の日だったりするのである。「冷めちゃうから早く来なさい」そんな物思いにふけっていたら母の柔らかな声で注意された。
「父さんはまだ仕事?」
納豆に辛子とネギをぶち込みながらかき混ぜつつ、食卓にある小型のテレビから流れる朝のニュースに耳を傾けながら春臣は母へ問う。
「なんでも捜査中のヴィランを逮捕出来そうな目処がたったからもうしばらく帰ってこれないって言ってたわね」
「もう一週間くらい帰ってきてないもんね、結構慎重に進めてるみたいだよ」
「現役ヒーローは大変だ」
母と妹の声を耳に入れつつふっくらとした白米をかっこむ。
「あら、あなたも将来は夏輝さんみたいに活動しないといけないのよ? それともやっぱりオールマイトみたいなヒーローに憧れる? もしそうなら夏輝さんは複雑な顔で喜ぶでしょうね」
「父さんもオールマイトも同じくらい凄いと思うし尊敬もしてるよ。でも憧れっていうとなんかちょっと違うんだよね」
「はっきりしないね兄さん。そんなことで立派なヒーローになれると思っているの?」
「いまいちぴんと来ないんだからしょうがないだろ! ボクがなりたいヒーロー像もボクが決めるよ。それ立派かどうかは知らないな」
「あらあら。今日からヒーローの卵になるにしては可愛げのないこと言うのね。ふふっ」
母のその息子を面白がるようなたしなめ方に、少しばつが悪くなった春臣は顔色を隠すように味噌汁に口をつける。真緒はそれ以上からかうようなことはせずやや真面目な声色で口を開いた。
「春臣、あなたがこれから雄英で3年を過ごしてどんなヒーローを志すか、それは私や夏輝さんにはわからないわ。でもね、たった三年間、けれど長い三年間でできるだけ広い視野を持てるようになりなさい。あそこは色々な意味で型破りだからきっとあなたの世界を広げてくれるわ」
「…………」
「そう、私が夏輝さんと出会ったのも雄英の体育祭だった……。そんな素晴らしい出会いもあったりするわ。まあ春臣にはそんな出会いは必要ないかしらね?
「そういうのやめて」
やや顔を赤らめる春臣。
「兄さんにそんな甲斐性あるかなあ? こないだ泊まりに来たときも智満ちゃんとくに進展ないとか言ってたよ?」
「やめろや!」
「夏輝さんも私も応援してるわよ? でも避妊はきちんとしなさいね。あなたたちどちらもヒーロー科なんだから」
「本当によして!!?」
これ以上のんびり朝ごはんを味わっていると何を言われるかわからない。春臣はもうこれ以上無いという勢いで朝食を口に放り入れる。
「こら、早食いは健康に悪いわ。もっときちんと噛んで落ち着いて食べなさい」
誰のせいだと思いつつもそれを咀嚼しきれていない朝食とともに飲み下し席を立ち洗面所へ向かう。
「ごめんなさい、ごちそうさま!」
○
春臣は雑事を済ませたあと、自室で登校の用意をする。
今彼が身にまとっているのは国立雄英の制服。春臣が数ヶ月前まで通っていた私立聡明中学もブレザーだったのであまり新鮮味を感じられない。だがそれとは別の高揚感が身中から温かく沸き上がっている。
「中学が詰め襟だったらもうちょっと興奮したのかな? まあいいか」
姿見でネクタイの位置を直しながらひとりごち、身だしなみの確認。
少し癖のある茜色の髪、冴えるような菫色の瞳、やや浅黒い肌、身長は180センチに迫り、体型はこの個性社会ではいたって普通、なんの特徴もない二腕二足のヒト型。そんな自分の高校生バージョンの出で立ちを確認する。
「春臣ー。
母の声に、春休み中に用意した各種教科書や体操着等々を詰め込んだザックを持ち、ハンカチとティッシュや携帯端末など必要雑貨の忘れ物の無いことを確認して階下へ降りた。
「おはようございますハルくん。今日から楽しみですね」
鮮やかな黒髪を肩口まで伸ばし、後頭部に朱色のリボンを留めている色白の少女が三和土から春臣を迎えた。彼女の周囲を雀程度の大きさの金色のカラスが飛び回っており、カラスとは思えない綺麗な声音でぴぃと鳴いて挨拶する。
「おはよう智満。鳥も元気だな」
「いい加減名前で呼んであげてくださいよ、ヤタが可哀想ですよ?」
「なんか恥ずかしいからまた今度な。母さん! 弁当できた?」
出待ちしていたのか台所から聞き耳を立てていたのか、春臣が言うが早いか真緒が顔を出す。
「はいお弁当。うん、夏輝さんに似て良い男ぶりだわ。しゃんとしなさいね? 高校デビューなんだから」
高校デビューは少し意味合いが違うのでは? というか死語じゃなかったかなそれ?
そう思うも声には出さず白地に鮮やかな赤が染め抜かれたナプキンで包まれた弁当箱、まだ少し暖かい、を受け取り傾かないようにザックへ入れる。
「ありがとう、行ってきます」
「いってらっしゃい、智満ちゃんも気をつけてね。愚息のことよろしくね」
「任せて下さい真緒さん、ハルくんの扱いは慣れたものですから。では行って参ります」
「ひでえ言い草」
「そうですか?」
智満がその色違いの目。赤い右目と青い左目で春臣の目を見つめ小首を傾げる。
「べっつにー。もう慣れた」
前日は緊張もなかった春臣だが、やはり日本一のヒーロー校へ入学するということに思うところがあったのか、春休みに奮発して新調した革靴を履き玄関を開く。
新品の靴底が堅い音を立てる。春臣はなんだかその音に思わず笑みをこぼしてしまった。
○
春臣宅から徒歩5分のバス停からバスで揺られてさらに5分、最寄り駅から三駅、そしてそこから徒歩10分を行ったところに超広大な敷地を誇る国立雄英高校がでんと構えられている。
もはやそれはランドマークタワーじゃないか? と思うこと請け合いの、HEROの頭文字Hを模した本校舎ビルが見える。
全面特殊ガラスで覆われており午前の日差しが反射し煌めいている。今日入学する子供たちの前途ある未来を祝福してくれているかのようだ。
周囲を見ればヒト型、異形型、それは本当にヒト型と分類していいのか? と思うような体型や、とにかく様々に多種多様、千差万別、十人十色な若者たちが清潔な制服に身を包んで歩いている。
彼らの顔に浮かぶものに共通しているのは、自分が日本全国から選りすぐりの、超難関試験を抜けたヒーロー候補生であるという自負であろうか? その若々しい頬を薔薇色に染めて本校舎ビルを夢見る瞳で見つめている生徒もいた。きっと春臣たちと同じ新入生なのだろう。
やたら堅牢な作りの校門をくぐり抜け「1」と大きく書かれた昇降口へと向かう。
下駄箱で用意した内履きに履き替え、まず校内見取り図を頼りに予め指し示られた教室へと向かう。春臣と智満が所属するのは1年A組だ。
ヒーロー科一般入試は毎年倍率が300を超過する恐るべき狭き門だがその理由は至極単純である。
定員40名。
つまりひとクラス20名で、2クラスしか存在しないのである。なお推薦合格枠が8名であり、ひとクラス総員24名からなるエリート候補生の名を欲しいままにする、それが雄英高校ヒーロー科合格者たちなのだ。
ごく自然な動きで廊下を珍しげに見回す
廊下は広く高い。通り過ぎる教室の扉もやたらでかい上にスライド式の引き戸で、取っ手の部分も金具が取り付けてあるというより、扉の天地を沿うように補強された溝が掘られている。どんな体型の学生・教師でも不自由のないように考えられたつくりだ。
春臣が腕時計で時間を気にしながら歩いていると
「あ、ありました1-Aってでかでかと書かれてますね」
智満が指すほうを見るとたしかに覗き窓のついた扉にペイントされている。
「うん、これなら遅刻はしないで済むな。今日と同じくらいの時間に家を出れば余裕だわ」
「……そんなこといちいち計ってたんですか? 真面目というかこまめというか律儀というか」
「うるさいなあ。遅刻するのは馬鹿らしいだろ? 焦って朝から全力疾走なんてボクは絶対にごめんだね」
「それは確かに同感ですけどね……」
さて第一印象が決め手……。
春臣は扉に嵌めこまれているガラス製の覗き窓から内部を盗み見ると、すでに幾人かの生徒がまばらに席に付いていることがわかる。無人でないことを確認したらやることは決まった。
「おはよう!」
扉をがらりと開けると明るくよく通る声で宣言した。
「おはようございます」
同じように教室に入る智満。そんな二人に教室内にいるうちの何人かは挨拶を返してくれた。
「おはようふたりとも! また同じクラスになれるとは思わなかった。また一年間よろしく頼む!」
キレの良い声がズバッ! ビシッ! というような擬音がまるで聞こえてくるかのような動きとともに教室に響いた。
背筋のぴんと伸びた生真面目そうな四角い眼鏡の少年、飯田天哉だ。
「これで3年目の腐れ縁ってことになりますね飯田くん」
「腐れ縁って……。もう少し良い表現をしてくれると友人として嬉しいよ
「そいつ丁寧語なくせにたまーに毒を吐くのが芸風だから言うだけ無駄だぜ飯田。そいつと16年目の腐れ縁なボクが保証する」
「まあ! 酷い言い草ですね」
「無視して続けるけど、飯田はやっぱり一番乗りだったのか?」
また始まった。そんな顔をしながらも飯田は春臣へ返答する。
「ああ。今日は目覚めもすっきり鮮やかだったから、これからの新しき第一歩を踏みしめるためにも、絶対に遅刻などしてはいけないからね。思わぬ事故で遅延が起こっても困るので普段より早く家を出た」
などと旧友とじゃれあっていたが、飯田の「黒板に座席表が貼られている」という発言で一端この会話も打ち切りとなった。
[――――――教卓――――――]
轟 口田 麗日 青山
葉隠 砂藤 尾白 赤熊
爆豪 障子 紙木城 芦戸
緑谷 耳郎 上鳴 蛙吹
峰田 瀬呂 切島 飯田
八百万 常闇 光鎧路 斎女
「飯田の近くじゃん! っていうかほぼ真後ろじゃないか! わざわざ行って来いとか、飯田がそのまま教えてくれてもよかっただろ?」
席に座りながら憮然とした顔で春臣がぶつくさ言う横で苦笑いする智満。
「いや、やはり進学して新しい場所を自分の目で確認するというのは何者にも代えがたい喜びだと思うんだ。新天地に共に赴いた友人とはいえ、みだりに君の席はここだったぞと言うのは憚られる」
「そういうところが本当に飯田くんですよね……。悪いとは言わないですけど、いわゆる学級委員長気質」
そんなやりとりをしてる間にも続々と教室に入ってくる新たなクラスメイトたち。
そのたびに飯田はわざわざその生徒に向かって行き、四角四面な自己紹介を始め、お互いこれから切磋琢磨しがんばって立派なヒーローになろう! などと言っている。
「無理して僕を俺って言い直さなくて良いと思うんだけどな」
「同じ僕使いとして仲間が減るのは寂しいんですか?」
「はあ!? 一人称でジャンル分けとかあんの? なにその僕使いって」
「なんでも男の子はそういう年頃になると、やたら一人称にこだわったりすると姉さんが言ってたので。ハルくんもそういうこだわりで他人より深い仲間意識を飯田くんに持っていたのかな、と。さっきの発言もその意識が成せる技だったんでしょう?」
なんとも曰く言い難い苦り切ったような表情を智満に向ける春臣。智満は、これが苦虫を噛み潰したような顔というものでしょうか、などとお気楽に感じていたが
「
「姉さんはつねに今を最高に楽しめればそれでよしと考えてる節がありますからね。享楽主義者というものです」
享楽主義とか快楽主義とはまたひと味違う気がするけどね、と一つ年上の幼馴染の普段の言動を思い浮かべながら黙りこむ春臣。
二人がそんな他愛もない会話を繰り広げている間に座席の半分ほどが埋まっていた。
「チッス! 俺は切島ってんだ。これからよろしく頼むぜ」
春臣の真ん前の座席にいい音を立ててカバンを置きながら快活な挨拶をする、髪の毛をギザギザにおっ立てたつり目気味な少年。右まぶたに小さな古傷がある。
「ウィース。ボクは
「よろしくお願いしますね切島くん」
春臣の幼馴染発言にいかな感想を持ったのか切島は小気味良く口笛を短く吹き鳴らす。
例によって飯田がやってきて自己紹介を始めるが、そろそろ登校門限が近づいているから続々と生徒が入ってきており、自席に戻る暇がなくなってきている。
「すげー律儀だなアイツ。いいね、ぴしっとしてて男らしいぜ」
とは切島の言。
そんな中で凄いチンピラオーラをまき散らして教室に入ってきた少年がいた。
入るやいなやその鋭い目つきでぎろりと生徒たちを睨みつけるように見渡す。なにを思ったのか挑発するかのように鼻で荒く息を吐き出す。「はンっ」とそんな音が聞こえた。
そのまま指定の座席へ座ると乱暴に荷物を机にかけ、さらには右足を机上に放り出して椅子を後ろへ傾け体重を預ける。まさにクラシカルなチンピラスタイル。
これに黙っていられないのが学級委員長気質とまで言われた飯田である。
堅い音が聞こえそうな身振りで説教を開始した。そのまま殺し甲斐とか本当にヒーロー志望かい!? などと言い争いが始まってしまったが、教室の入り口にまた一人ぼさぼさ癖っ毛の少年が現れると、飯田のスイッチが切り替わるように自己紹介モードになり近づいていった。
そのまましかめっ面で会話が続いたところを見ると知り合いだろうか? さらに一人ふわふわしてそうな女子がぼさ髪の少年に話しかけなにやら和気藹々とし始める。
「なんだか良い雰囲気じゃないですかあの二人」
「そうか? ぼさい方はなんかやたらに赤面しててそういう発展性とか気にしてる余裕なさそうだぞ」
「もう! ハルくんはそんなだから面白みが無いんですよ」
そんな罵られるようなもんだろうかと春臣が思っていると予鈴が鳴った。
入り口から芋虫のようなものが直立しのそのそと侵入してくる。
「静かになるまで8秒かかりました。まったく合理性を欠くねぇ新入生」
口ぶりからすると教師らしい。自己紹介によるとA組の担任教師で名を相澤消太というそうだ。
最後に教室に入ってきた二人の男女はそそくさと割り当てられた席につくと、先ほど直接教師に叱られたせいか必要以上に恐縮し、姿勢まで正して相澤教師の発言を聞いている。
相澤は寝袋から雄英の体操着を引っ張りだし、
「早速だが諸君には体操着に着替えてグラウンドへ集合してもらう。更衣室経由の移動時間も踏まえて制限時間は15分ってとこか。ここにいるからにはすべてがヒーローになるための必要時間だ。1秒たりとも無駄にしないように。時間は有限だ」
「先生! 質問があります! 入学式は出席しなくてもよろしいのでしょうか!?」
「ウチは自由主義でね。教師がどうカリキュラムを作るかも自由なんだ。わかったか? なら急げ。時間は限りがあるんだぜ。二度言わせるな」
「は、はい! 失礼しました!」
飯田のびしっとした質問に相澤もまた小汚いだらけた外見とは裏腹にびしっと返答し、そのまま教室を出てしまう。一足先にグラウンドへ向かったのだろう。
「まったくなんという校風だ。驚きだ。だがすべてがヒーローになるための時間か……まさしくその通りだ!」
感動しているのか興奮気味にひとりごとを漏らしながらてきぱきと体操着を引っ張り出す飯田。生徒たちは各人すでに配布された簡易見取り図を頼りに更衣室へ向かった。
○
雄英を文字って記号化したUAという文字をさらにデザイン化した体操着に着替え、グラウンドに皆が揃ったのは相澤が教室を出てからおよそ10分後。ストップウォッチで時間を計っていた相澤はそれを止め、気だるそうな動きで皆を整列させる。
「ハイじゃあお前らにはこれから個性把握テストをしてもらう。似たようなのは中学の体力測定でやったと思うが、あれと違うのは個性の使用を許可するって点だけだ」
文科省の怠慢だのなにやら国に不満を持っているような発言が見え隠れしたが、やることは変哲もない体力測定に個性を使うことで、自分がそれでどのようなことを出来るか把握するという主旨である。
相澤はソフトボールを投げ渡しながら言う。
「爆豪、お前、中学のソフトボール投げの記録は?」
チンピラボーイ爆豪が指名された。
彼はヒーロー科入試に設けられた、情報力・機動力・判断力を大前提とした上での2つの審査基準。
敵を打ち倒す力と、他人を助ける心。
その前者で他の受験者たちより優れた結果を出していたことか原因だろう。
じゅうぶんな敵を打ち倒す力をデモンストレーションに使い、生徒たちへとわかりやすくこのテストの主旨を目に見えるものにする狙いだ。
「死ね!!!!!!!!」
物騒な掛け声と共に炸裂音がすると爆風がボールを加速させ飛ばす。大きく弧を描いていくそれはゆるやかに落下すると相澤が測定値を爆豪へと伝えた。その数値705.2メートル。
「この測定で自分の個性の最大値を認識すること。それが個性を活用するヒーローの素地を形成する合理的手段の一歩目だ」
なるほど。春臣は爆豪の実演と相澤の発言からまさに個性把握テストということを認識する。
ただ、あらゆる個性があり得る生徒に、それこそ八種目、ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走、持久走、握力測定、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈だけでは合理的とはいえないんじゃないかと思うが、それも先ほどの相澤のどんなカリキュラムにするかも教師の自由というのが利いているのだろう。それとも自分が受け持つ生徒の個性をまとめた結果、それらだけで十分と踏んだのかもしれない、そう思った。
「さすが雄英ヒーロー科だぜ! 個性を使い放題って超面白そう!」
クラスメイトがこぞって沸いている中で春臣はさらに考える。
爆豪の個性は爆発を発生させるもののようだ。
ヒーローという職業は犯罪者であるヴィランとの戦闘がほぼ不可避である。
災害救助を主に行っているヒーローといえど愉快的ヴィランや二次災害を引き起こして損害拡大を目論むヴィランとの戦闘が起こることもある。
そんな職種で殺傷力に直結する彼の個性は非常に適しているといえる。さらには災害救助でも場合によってはお役立ちだろう。
面白い。ヒーロー科ではさまざまな授業や試験で個性使用が関わるのなら、クラスメイトの個性の使い方などから学ぶことも多いだろう。実に面白い。
我知らずほくそ笑んでいる春臣をごく自然に隣に並んでいた
「面白いって? 今面白いと言ったか? これからヒーローになるために費やす3年間を面白いと?」
相澤が静かな怒気を含ませながら宣言する。曰く、この個性把握テストで総合成績最下位はヒーローの見込み無しと判断し除籍する、と。
楽しさに沸き立っていた生徒たちは瞬間的に沈静化し、また再燃した。
「入学初日にそれは理不尽だ」「冗談ですよね!?」「せっかく実技試験で頑張ったのにそんなのってありかよ!」
相澤はそんな生徒たちに聞こえるようにため息をつく。落胆のため息だ。
「理不尽? あらゆる自然災害や突発的な人災、さらには自分の欲望を満たすために市民を脅かす身勝手なヴィランたち……。日本は、いや日本のみならず世界は多彩な理不尽にあふれているよ」
相澤の発言と身にまとう雰囲気に気圧されたかぐっと押し黙る生徒たち。
「だがそんな理不尽にこそ毅然と立ち向かいハネ退けるのが君らが目指すところのヒーローというやつだ。ここはどこだ? 雄英高校ヒーロー科だ。放課後マックで談笑なんていう中学までの甘えた学校生活からはさっさと卒業しろ。
これから3年間俺たち教師は君たち生徒に危難を与え続ける。クク……言ったろう? 生徒をどう扱うかも教師の自由だってな。……ようこそ雄英高校ヒーロー科へ……。"
全力で乗り越えて来い」
つづく