僕のヒーロー(オリキャラをそれなりにぶちこむ)アカデミア   作:チョコラータ・フォンドゥータ

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第02話

 春臣は恥じていた。

 直前までクラスメイトの個性を分析したつもりでいい気になっていたことを。面白いと思ったことを。相澤の言葉で打たれていた。

「ボクはただの格好つけ野郎だ……」

「いきなり温度差が激しくて困惑するんですけどどうしたんですか? 相澤先生の発言が何か刺さったんですか?」

「いやまあ……ね。これも乗り越えるものって感じだよ」

「自己完結されても困るんですけど。あ、五十音順だからそろそろ行きますね」

 

 

 第一種目50メートル走

 グラウンドには50メートルラインが白線で引かれ、スタート地点にはすでにスタートブロックが用意されている。いつの間に用意されたのかと思うが、あちらこちらにかしゃかしゃと忙しなくメカがうごめいていた。

 メカはそのままゴール地点に固定され、なにやらカメラを調節するように感覚器を細かく動かしていた。それがタイムを計測するのだろう。

「用意はできたから出席番号順で二人ずつ出てこい。ほかの連中は横で並んで待機していろ」

 相澤の言葉に赤熊が前へ出る。細長い印象を与える体格をした金髪碧眼の少年だ。特筆すべきは目だろう。白目が存在せず、まるで眼窩に淡い宝石がはめ込まれたような瞳がそこに存在していた。

 彼は同じく金髪碧眼の青山と並びスタートラインへ立つ。春臣たち他の生徒は指示通りに出席番号順、つまり50音順で2列に並び始める。

 ブロックに足をかけクラウチングスタートの体勢に入る赤熊。見れば下半身が滑らかに変型していき、しなやかな四足獣の後足のような獣脚になっていく。

 対して青山は「個性を使っていいというのはこういうことさ」などと言い放ち後ろを向く。訝しげな顔をする待機列の生徒たち。

 相澤の合図とともに二人は疾走する。いや青山は走らなかった。腹部から輝くビームを発射し、それを推進力としたのだ。走るというよりも飛んでいる。だが出力が足りないのか持続力が乏しいのか、50メートルを飛びきることはできず、一拍着地すると再度照射しゴールラインを割った。その記録5秒51。

 一方、赤熊は柔軟性を感じさせるストライドで安定した走りを見せた。こちらは青山よりは地に足をつけていたが、やはり走るというよりはむしろ跳ねると言ったほうが適した動きでゴールし、記録は4秒04。

 ただ走るだけの計測だがビームで地面と並行に飛び、肉体を変型させて飛び跳ねるように疾走した第一陣は、相澤の目論見があるのか無いのか他の生徒たちにどういうテストかを改めて再認識させた。

 そして第三陣。

 飯田と智満(ともみ)が走りだす。飯田は教科書に載ってるような綺麗なフォームで、足にあるエンジンを吹かして駆け抜けた。地面を震わせる重低音を彼のふくらはぎから突き出ているマフラーが響かせる。記録3秒04。

 智満は肩に乗せていた金の小カラスが合図と共に全長3メートル、翼長7メートルになんなんとする大鳥に変化し、それが彼女を運ぶ。こちらも走っていないが大鳥の力強い羽ばたきと滑空で記録3秒86。

「飯田くんはやっぱり早いですね」

「いや斎女くんこそ驚いた。その鳥にそんなことができるなんて初めて知ったよ」

「ヤタって呼んでいます。飯田くんもそう呼んであげてくださいね」

「ああ。よろしく頼むよヤタくん」

 すでにヤタはいつもの大きさと形状に戻っている。飯田に見つめられてることに気付くと可愛らしいくりくりとした目をやぶにらみにしてガンをつける。

「……いや本当に驚きだよ」

 第五陣。

 赤い角縁の大きな眼鏡を掛けた紙木城(かみきしろ)は足元に無数の紙を散らし展開すると、それを無限軌道……キャタピラ状に起動させ滑るように疾走した。肩口で切り揃えられた淡い桃色の髪が風に撫でられると、その追い風を利用するためか背中から帆のように紙を広がらせるとさらに速度をあげる。記録4秒77。

 前髪に黒のメッシュが入った金髪の上鳴は個性が走ることに適していないのか使用せず、記録6秒88。

 続いて第六陣。

 春臣の番が来た。隣には切島がいる。

 一度深呼吸すると春臣は個性を発動させる。

 不可視の超力場が音もなく発生し、彼の全身を包むように広がるとそれは四腕四足のヒト型を取る。

 頭高3メートルほどの巨人。

 超力場は無色透明だが光の僅かな屈折でその輪郭がうっすらとわかる。

 頭部には湾曲した角を思わせる部位を左右対称に一対備え、がっしりとした筋骨隆々な体躯に下半身は獣脚。見るものが見れば悪魔を連想するようなシルエットだった。

 それは春臣の体を地面から離し浮かび上がらせるが、中心部の春臣に浮遊感は全くと言っていいほどに無い。地面をしっかりと踏みしめているような感覚がきちんと足には残っていて安定も感じている。

「位置について、ヨーイ」

 相澤の声が聞こえる。

 START!

 瞬間。

 獣脚の超力場がスターティングブロックを軋ませた。

 ざくざくと刻むような足音で疾走し記録3秒37。

 それに少し遅れて切島の記録5秒69。

「くっそー、速いなー! 負けちまったぜ! 光鎧路の個性って増強系?」

「まあそんな感じ。あれ出してるとブーストされるから筋力測定みたいなのは良い結果を出せそうだよ」

「かーっ! 俺なんてこう…硬くなるだけだからなあ! 体力測定とかじゃあんま意味ねえや」

 とくに問題も起こらずテストは進み、握力測定、立ち幅跳び、反復横跳びが次々と消化されていく。

 赤熊と紙木城は3種目すべてで、春臣は握力測定と立ち幅跳びで、智満は立ち幅跳びでそれぞれ好成績を記録する。

 次の種目は最初に爆豪がデモンストレーションをやらされたソフトボール投げだ。

 赤熊は単純に腕力を増加させ、智満はヤタに咥えさせたボールを砲弾のように発射し、紙木城は紙でボールを固定して橋をかけるように延々と伸ばし、これまでの計測で各々が得た個性のコツで、次々と滞り無く記録を計測していく。

 そして春臣が円に入り、浅く呼吸すると個性発動。

 超力場は春臣の動きを正確に再現し、ボールを手のひらで支えていた。それをそのまま投げる。ボールは真上へとまっすぐ飛び、そのまま春臣のもとへと落ちていく。

 タイミングを合わせて跳躍し、春臣はボールを渾身の力を込めて平手で打った。バレーボールのジャンプサーブの要領だ。弾き出したそれはあっという間に飛んで行く。測定結果は809.15メートル。

「もう200上乗せは、まあ無理か」

 そうこぼすと円から退出し次の生徒へと譲る。

 待機列に戻ると爆豪が睨みつけてきたが、春臣にはそれが何に起因するものかわからないし、理由もなくチンピラ気質と積極的に関わりあうつもりもないのでさり気なく目線を外して無視した。

 なにやら突き刺す視線の力が強まった気がするが気にしない。

 春臣には知るよしもないが、この時春臣は爆豪のブッコロシリストに名が載ったのである。他にも教室で彼に説教していた飯田あたりも記載されていた。

 生徒たちは次々と計測を済ませていったが、それまで淡々と指示し開始の合図と計測結果を示す以外に、とくに何もしていなかった相澤が大きな動きを見せた。

 顔のほとんどを隠してしまうほど長く、手入れもされていない伸ばしっぱなしのべたついた髪は、今や水中にうねる海藻のごとくゆらぎ逆立ち全貌を露わにしている。それまで半眼気味だった相澤の両目は鋭く見開かれその瞳はいかな作用かちらついている。

「つくづく……つくづくあの入試は合理性に欠ける。俺が何度言っても変わりやしない。そのせいでお前みたいな生徒が(ふるい)をくぐり抜けてきてしまう」

 教室で注意を受けていたもさもさ髪の男子、緑谷がどうやら説教されているようだ。

 相澤の気迫が納まり髪も垂れ下がると、沈んだ様子の緑谷は2度目の計測のために位置につく。

 説教が利いたのかそれまでも十分悪かった顔色が今や完全に青ざめていた。さらにうわ言のようになにやらつぶやいているのか口元が小刻みに動いている。

 春臣が近くの飯田に話しかける。

「なんか深刻そうな顔になってるけど何言われたんだろ?」

「なにやら指導を受けていたようだが……?」

「ハッ、除籍宣告だろうよ!」

 飯田の発言に爆豪が吐き捨てるように言う。

「どちらにせよ何か注目してるのかな? これまでずっと淡々と指示して記録つけてたんだし」

「あのクソナードに注目するとこなんざネェーーーーよ!!!!」

「君はさっきも彼が無個性だと言っていたが知らないのか? 彼は入試でとんでもない動きをしていたんだぞ」

「ハァ? だからテメェこそさっきっから何言ってんだよぉ!?」

 飯田が入試で緑谷と一緒だったということは伝わったが、そこで彼が何を見たのかを聞く前に動きがあった。

 待機列での会話など聞こえているわけもない緑谷は決意を固めた表情で再び振りかぶる。

 それをどこか冷めた眼差しでみつめる相澤。

 だがしかし緑谷はソフトボールを先ほどとは違い、掛け声と共に大きく投げ飛ばし705.3メートルの記録を打ち出した。

 これに喜んだのが麗日だ。彼女は教室に入ったばかりのときも彼と会話を弾ませていたから心配していたのだろう。

「やった! やっとヒーローっぽい記録が出たよ! やったね緑谷くん!」

 若干酷い物言いに聞こえるが素直に喜びを全身で表現している。

「指があんなに腫れ上がっているぞ。入試のときといいおかしな個性だ」

「スマートじゃないよね」

「いやあ? おかしいとかスマートじゃないって問題超えてないかなアレ。ブーストすると壊れるって今までよく五体満足でいられたな。おっかない個性だ」

 飯田と青山の少しずれてる発言に反応する春臣。

 しかしそれよりも過剰な反応を示した爆豪。ただでさえ釣り上がってる目をあらん限りに釣り上げ目を剥き、口もこれ以上無いほど大きく開かれている。唖然という言葉を表現しろと言われたら、今彼以上に表現力を持つ者はいなかったろう。

「オイ!! コラ!!! デクどういうことだ!!!!! 説明しろボケナスがあ!!!!!!!」

 よほどたまりかねたのか怒声とともに個性を使って飛びかかる。

 が、しかしその瞬間右手のひらから発生していた爆発現象は霞のごとく消失し、見る間に(たすき)のような、だがそれよりもはるかに長さのある布に絡め取られ拘束されてしまった。

 爆豪は思わずカエルが潰されたようなうめき声を挙げて身を(よじ)るが、よほど強固に締め付けられているのかぎりぎりと悶えることしかできない。

 それを駆使しているのは相澤だった。首元に何重にも巻きつけていた布がそれだ。さらに先ほどのように髪を逆立たせて爆豪を睨みつけている。

「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ特製の対ヴィラン用鎮圧捕縛布だ。……ったく何度も俺の個性を使わせるんじゃないよ。ドライアイが辛いんだからな!?」

 個性を使うと髪が浮かび上がるのはどういうギミックなんだろう、とほぼすべての生徒が思ったであろうが、相澤の髪が重力に従い垂れ下がると爆豪への拘束も緩めて布を巻き取る。爆豪の興奮も治まったと判断したのだろう。

 爆豪はただただ憤りを思わせる表情で歯噛みし、緑谷を睨みつけることしか出来なかった。

「時間の浪費だ。まだ次が控えてるんだからふたりとも戻れ」

 緑谷が赤黒く変色し大きく腫れ上がった指を右手ごと支えて待機列へ戻ると麗日が心配そうに迎えて声をかけていた。それに少し遅れて爆豪がうつむきがちに戻り、ソフトボール投げは引き続き進行していく。

「あの布は凄いな。的確に巻きつけた相澤先生の技術もさすがプロって感じだし、いつ投げ飛ばしたのかわからなかった。たしかに自分の個性を活かすために必要な装備は考えどころかもしれない」

「ハルくんの個性だとそういう特殊な装備って不要ではありませんか?」

「そうだけどああいう捕縛器具とかの補助は必須だよなって感じた。そうだよなあ、ヴィランをぶちのめしても丁度良くそこに警察がいるとは限らないもんな」

「そうですね。私だったらこの子に任せればだいたいのことはひと通りなんとかしてくれると思いますけど。ね? ヤタ」

 智満の言葉に胸を張って頼りがいのありそうな声でひと鳴きする鳥。春臣は雄英初日からなかなか刺激的な体験をしてこの先への期待が否応にでも膨らむのだ。

 

 

 測定は上体起こし、長座体前屈を済ませ、今は持久走の時間だ。

 赤熊は50メートル走と同じく下半身を増強・筋肥大させ呼吸もペースも一切乱すことなく安定の走りを見せた。体を動かすということには抜群の結果を出している。

 春臣は個性による超力場の巨人を駆使し疾走。長距離でエンジンが暖まり快速で走る飯田とデッドヒートを繰り広げて惜しくも飯田の次にゴール。

 智満(ともみ)は50メートル走のときと違いさらに巨大化したヤタの背に乗り飛行してごく短時間でゴールし、クラスメイトのほぼ総数から走ってねえ! というツッコミを入れられたが、これを素知らぬ顔でスルー。

 紙木城は自分より大きなセイルのようなものを紙で作りあげ風を利用し滑走、50メートル走でのやり方を改善したような走り方でかっ飛ばすと、これまたお前走れよとツッコミが入るが冷徹な顔で無視。

 あいつらありなのかという幾人かの質問に教師相澤は

「個性をどう活かすかだからあれもアリだよ」

 との一声で鎮圧。

 右手の負傷を押して出場した緑谷が苦痛に喘ぎつつも、なんとかゴールラインを切って晴れて全種目が終了した。

「んじゃあ集計も終わったからぱぱっと結果発表するぞ。単純に各種目の順位ぼとの評価点を合計して比較した。口で言うのは浪費なので一括開示するからよく見とけ」

 携帯端末を操作し発光表示が空間展開する。と同時に

「なお除籍ってのはな、ありゃあ嘘だ。お前らを必死にさせるための合理的虚偽さ」

「はあああああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!??????」

 入学初日にA組生徒の9割が心をひとつにした。

「あんなのデタラメに決まっているでしょうに……。きちんと考えればすぐわかりますわ」

 とノリの悪い少女、長い髪を後頭部でまとめてもっさりとしたポニーテールもどきにしている八百万が痛烈なツッコミを入れた。その隣で同意するように頷く紙木城。

「そういうこった。まあヒネて通じなかったのもいくらかいたようだがほぼ全員ノってくれてよかったよ。今日の結果が今のお前らの最大限、マックスパワーだってことをちゃんと意識して今後に活かせ。

 各自結果を認識したらさっさと着替えて教室にもどるように。教卓にカリキュラムを記載した書類が積んであるはずだから、忘れず受け取ってよぉく目を通しておけ。

 あと緑谷。お前はその指をリカバリーガールんとこで治してもらえ。他の連中と違って、欠点がわかりやすく浮き彫りになってるんだ、早く改善しろ。明日からはもっと過酷な試練が目白押しなんだからな」

 懐から保健室利用書を取り出しさらさらと署名して緑谷に渡すともう何も言わず立ち去っていった。緑谷は除籍発言が嘘だったことに気が抜けたのが呆けた顔でそれを受け取り突っ立ったままだった。

 

 体力測定改め個性把握テスト総合点数順位

 

 01八百万百  02赤熊(あかくま)ルパント 03轟焦凍   04紙木城綴子(かみきしろつづりこ)  05光鎧路春臣(こうがいじはるおみ)  06爆豪勝己 

 07斎女智満(いつきめともみ)  08飯田天哉   09常闇踏陰  10障子目蔵   11尾白猿夫   12切島鋭児郎

 13芦戸三奈  14麗日お茶子  15口田甲司  16砂藤力道   17蛙吹梅雨   18青山優雅

 19瀬呂範太  20上鳴電気   21耳郎響香   22葉隠透    23峰田実    24緑谷出久

 

 

 激動の個性把握テストで雄英ヒーロー科の洗礼を浴びた春臣たちだったが、それ以降の時限はきわめてありきたりな授業内容で、例え雄英高校ヒーロー科といえども高校だということに気付かされた。

 あえて特筆すべき点があったとすれば、それはあの「平和の象徴」オールマイトが教職に就くと表明してきたことだろうか。

 圧縮ゴムをさらに高密度に圧縮して、無理矢理体に詰め込んだような発達した筋肉で構成された巨躯を、派手な色のスーツに包んで教壇から自己紹介する様はなにやらコミカルでもあったが、その溢れ出る圧倒的なザ・ヒーローというオーラは平和の象徴と呼ばれることが伊達ではないことを示していた。

 彼の正式な授業は翌日からということなのでそのときは挨拶だけで終わったが、生徒たちは完全に魅せられ口々に「雄英まじパネェ」「さすが日本一の学校だよね!」「画風が違った! 普通のスーツなのに!」「ナンバー1ヒーローから直々にご指導いただけるとはなんと恵まれているのか!」などと口々に興奮を形にしたのである。

 ナチュラル・ボーン・ヒーローと世間から称されるほどの人物が、その秩序維持活動にかけられる時間をわざわざ費やしてまで雄英ヒーロー科の教師をやることに内心疑問を持った春臣だったが、オールマイト自身で次代のヒーローを育成しようと考えたのだとしても不思議ではないかと思い、この年にヒーロー科に入学できたことを喜んだ。

 そして波乱含みの初日の授業をすべて終わらせ放課後。

「光鎧路くんと斎女くんも電車だろう? 駅まで一緒に行こうじゃないか」

 てきぱきと帰宅準備を済ませた飯田がきちっと椅子と机の位置を整えて言った。すでに教室からは何人か退出しており放課後特有の緩んだ空気が流れている。

 普通科の生徒であればここからさらに部活の見学などに行ったりもするのだろうが、彼らヒーロー科の生徒たちはそんなつもりは全く無いようで部活の話題など少しもあがることはなかった。

 自動化され学年ごとに区画単位で分けられた昇降口から3人が出ると、飯田が前方をとぼとぼと縮こまり歩いている緑谷を発見する。

 持ち前のきびきびした動きでもって早足で近づくと、肩に手をやると同時に発声し緑谷を驚かせていた。

「指はもう治ったのかい?」

「飯田くん!? びっくりした……指は、うん、リカバリーガールのおかげで」

 胸を撫で下ろしつつ返答する緑谷に春臣も話しかける。

「リカバリーガールの治療ってどんな感じだった?」

「え、あ、えーっと」

「ボクは光鎧路春臣(こうがいじはるおみ)、苗字でも名前でも好きなほうで呼んで。こっちの無駄に胸のでかいのが斎女智満(いつきめともみ)

「ムネッ!?」

 緑谷が裏返った変な声を出したが、3人はそれを無視した。というか春臣は智満に頭を叩かれてそれどころではなかった。

「えっと、光鎧路くん、リカバリーガールの治療はね……」

 緑谷の言うところによると、リカバリーガールの個性による治療は、怪我をした当人の自己治癒力を促進させることであり、つまり本人の体力依存。だからあまりに重傷だったり多数の怪我をしたり、連続して重傷を負ったりすると彼女の個性では治癒するどころか逆に衰弱して死ぬことすらありえるものだという。

「じゃあ緑谷くんは自壊しないように個性を使わないといけませんね」

「そうそう、飯田に聞いたぞ入試のこと。あれぶっ飛ばして手足骨折したんだって? なにかやるたびにそんななってたら、卒業する前に病院送りになるかもしれないぜ。ていうかよくそんな自壊個性持ってて五体満足で高校生にまでなれたな。いやまあ超パワーなんて日常生活で使いどころないか」

「う、うん……そうだよね。本当に早く調節できるようにしないと……」

「しかし相澤先生にはやられたな! 俺はもうこれが最高峰雄英か! と感銘まで受けたというのにまさか嘘とは!」

 飯田が右手でアゴをさすり左手を振りながら朝の出来事を話題に出す。

「いえいくら自由が売りとはいえ教師の独断で除籍は感銘を受けるべき場所ではないのでは……?」

「まあヒーローなんてヘタしたら死ぬから、育成段階で駄目なやつは切るっていうのはわかるけどね。成績が振るわない者は切られていくのは社会の常だし……。あと残った人員に割ける時間が割合で増えるわけだし」

「だが教師ともあろうものが嘘で生徒たちを鼓舞するとは決して褒められたことではないな!」

「飯田はちょくちょく早合点して自己完結するとこがあるからなぁ。ボクも騙されたが!」

 そういうのは方便という。それを当人たちに告げるのはどうかと思うが。

「みんなは付き合い長いの? 学校が同じだったとか?」

「ハルくんとは幼馴染なのでもう16年くらいになりますか。飯田くんとは中学からの付き合いですね」

「あ、じゃあ光鎧路くんと斎女さんも聡明中なんだ、凄いね」

「凄くないよ。というかそれを言われるのはむしろ今現在じゃないかな? ボクらも緑谷も雄英ヒーロー科に入れたんだし。こういうのを世間からは凄いと言う」

 幼馴染か……。緑谷が思わしげにこぼしたそれは幸い誰の耳にも届くことはなかった。

「ねえ4人とも~~、駅まで行くの? ちょっと待って~~」

 振り向くと可愛らしい歩幅でかけてくるクラスメイト女子が一人。ソフトボール投げで∞なんていかれた記録を出していた少女だ。

「君はたしか∞女子!」

 飯田が端的に印象に残った事柄を結びつけて、ある意味とても失礼な呼び方をする。

「いや彼女はたしかうら」

「麗日お茶子です!!!! えっと飯田天哉くんと斎女智満さんと光鎧路春臣くん、それに緑谷……デクくんだったよね!」

「デク!?」

 麗日の名前確認に緑谷が素っ頓狂な声で叫ぶ。困惑する4人。

「え? だって爆豪くんが」

「あ~、あれってそう読むのか」

「なんだか字面は良い感じなのに読ませ方がちょっとつらいですね」

「出る久しくと書いてデクと読ませる命名だったのかい緑谷くん!」

「ああああれはかっちゃんが僕を馬鹿にして呼んでるだけで、名前は"いずく"って読むんだ」

「え、そうだったんだ。ごめんね緑谷くん!」

「ふうむ、つまり蔑称か」

「しかしまあ酷い渾名をつけられたもんだ、木偶て」

「でも緑谷くんも今かっちゃんと呼んでましたし、付き合いは長そうですよね」

「うん、かっちゃんとは幼馴染で、ちっちゃいころから今まで学校も全部一緒なんだ」

 木偶の坊のデクという渾名といい、個性把握テストのとき怒鳴りつけながら飛びかかろうとしてたことといい、二人はいわゆるいじめっこといじめられっこの構図だろうかと周りは思ったが流石に口にするようなことでもなかった。

「んーーーでも"デク"ってなんか"頑張れ!" って感じの響きがして好きだな私」

「そうか?」

「いや無理があるだろう麗日くん!」

「ちょっとよくわからないセンスです」

「ンモー! そう思ったんだからいいの! 私の中で!」

「ハイ、デクデイイデス」

 なにがそんなにヒットしたのか顔中をトマトのように赤くしながら硬直した緑谷がそれを受け入れた

「緑谷くん!? 浅いぞ! 蔑称だったんだろう!? 一体どうしたんだ」

「いやそのコペルニクス的転回というか、胸を打たれたというかむにゃむにゃ」

「コペ…?」

 その緑谷のうぶな慣れてない様子に目ざとく反応する春臣。

「高校入学初日から青春か緑谷」

「いいいいいいいやそんなことはないよははははまさかそんな」

「熱いですね」

 5人はそのまま校門を出て駅へと向かう。

 だがそんな5人を、いや正確には一人を呼び止める声がした。

「おいデク、てめぇちょっとツラ貸せ……」

 髪が八方へ尖っている目つきの著しく悪い少年。爆豪だった。

「かっちゃん!?」

 瞬間的に焦りを見せ声もうわずる緑谷。麗日は爆豪からにじみ出ている苛立ちに当てられてしまったのか、若干青ざめて引いている。

「モブどもは関係ねェから消えろ」

 緑谷の目を射抜くようにまっすぐに見据えたまま告げる爆豪に思わず口を挟んだのが飯田だ。

「モブとは仮にもこれから一年間を共に学ぶクラスメイトに何という言い草だ! 君はっ」

「まあまあま飯田。わかるけど落ち着こう飯田。今ここで言い争いしてもしょうがないし飯田」

 飯田特有のきびきびした身振りを抑えつつ春臣が呼び止める。

「彼らもなにかワケがありそうだし、まだボクらの出る幕じゃないよ。とくに今日見知ったばかりなんだしさ」

「そうですよ、多少言葉遣いや素行が乱暴でも、緑谷くんが私達に何も言わないなら口を挟むようなことじゃありませんし。緑谷くんももしなにか酷いことをされたら隠そうとせず相澤先生にすぐ打ち明けるんですよ? こういうことはしっかりと口に出して公にしないと良くないことになりがちですので」

「え、いや。えーっと……」

 歯切れ悪く返答できない緑谷と、あたかもこれから私刑すると見なされていることに対して、何か不満か抗議でもあるのか聴こえるようにツバを路面に吐き捨てる爆豪。麗日はまだ引いている。

「それじゃあまた明日、御機嫌よう二人とも。ほら麗日さんもそんな引いてないで行きますよ」

「ウチあんなん見たの初めてや……」

「さようならだ二人とも。まったく。爆豪くん! 君はその言葉遣いを今のうちにどうにかしないと本当に立派なヒーローになれないぞ!」

「関係あるかボケ!! さっさと消えろ」

「まあまあ飯田。いいから飯田。な? じゃあまた明日な緑谷、爆豪も!」

 飯田は憤懣やるかたないといった様子だがしぶしぶと春臣に従い場を離れ始めた。

 それをなだめつつ春臣がちらりと緑谷の様子を伺う。彼らは敷地内へと戻っていくところだった。

 学内ならばまさか暴力沙汰ということは無いだろう。何をするかは知らないが、呼び名がたとえ蔑称であろうと渾名であるならば付き合いも長いのだろうし、滅多なことも起きないはずと楽観視し、それ以降気にするのをやめた。

 場の空気が若干悪くなったのは確かだがそれも駅に向かい進むにつれて和らいでいく。

 駅ビルが見えるころにはすっかり談笑しており、智満の個性による産物の鳥や、麗日の指先にある肉球など自分たちの個性や趣味、好きなテレビ番組や俳優などというとりとめのない会話に花を咲かせていた。

「明日のヒーロー基礎学は楽しみだねというところで、ボクらは4番線だけどみんなは?」

「あ、私は1番線だよ」

「俺は8番線だな」

「見事にばらばらですね、じゃあ改札でさよならですか」

 そういうことになった。

 そして4番線。周囲にはちらほら雄英生徒がいるがクラスメイトは見当たらない。

「さっき飯田くんが言ってましたけど、大食堂ではあの白米ヒーローのランチラッシュが調理を取り仕切ってるそうですよ」

「そういえばそんなことも言ってたな。しばらく弁当で良いと思ってたからあまり突っ込んで聞かなかったけど、お前は食堂行きたいの?」

「いえ、私もお弁当です。今日は教室で食べましたけど、明日からはいろいろ行ってみませんか?」

 なんだか嫌な予感がする。春臣はそんな思いを顔に露わにしながら智満へ向き直る。

「いろいろって? 屋上とかか」

「それもありますけど、中庭とか関係者にだけ公開されている植林公園があるそうですよ。最低限のお手入れがされてるだけの憩いの場だそうです」

「はーん、まあいいけど案内は任せるよ」

 なにやら楽しそうな智満に悟られないように軽くため息をつく。

 ホームに放送が響き、ほどなくして電車がその姿を見せた。

 

 

「ただいま」

 智満(ともみ)を送り届けてから春臣が帰宅すると、玄関先に朝にはなかった革靴があるのが目に入る。

 父のものだ。事件が佳境だからしばらく帰れないとか知らせてきたはずだが、入学式の朝には間に合わなかったからせめて下校時刻には間に合わせようと思ったのだろうか?

「おかえり春臣、パパだよ」

 そんなことを思っていたら居間から赤い髪を短く切りそろえ鼻筋の通った偉丈夫が出迎えた。よく通るバリトンが玄関に染みわたるようだ。

「靴見りゃわかるよ親父」

「うーん、手厳しい。智満ちゃんは一緒じゃないのかい」

「とくにうちに寄る予定ないからさっさと帰ったよ」

 靴を揃えながらややぶっきらぼうに父・夏輝(なつき)へ返答する春臣。

「おや残念。女子高生になった智満ちゃんはさぞ綺麗だろうと思ったのにね」

「おいエロ親父」

「はっはっはっ冗句。ジョークだよ春臣。で、パパたちの母校はどうだったね?」

「なんつーかでかいね。校門も監視センサー付きで、昇降口もものものしいバリケードかって感じのブロックで学年分けされてたし。やっぱり有名だからヴィランにテロられたりすんのかな」

 ネクタイを緩めつつ父の言葉に所感を述べる。

「パパが入学する前に一度だけそんなことが起こったそうだよ。当時からあそこは実力のあるプロが教師をしてたから事なきを得たそうだけど、被害がまったくなかったから届け出もしなかったらしくて半ば学校の怪談みたいな扱いになってたね」

 それじゃ事実かどうかわからないのでは? 春臣はそう思った。

「まあいいや。着替えてくるよ」

 告げて二階の自室へ。

 ザックを放り投げ、ネクタイを解き、制服から普段着にしているジャージへと着替えベッドへ腰掛けると人心地がついた。そのまま寝っ転がり学校であったことを思い返す。

「…………。ああそういえば」

 再び起き上がるとザックに手を突っ込み、教科書よりは薄めだがプリントというにはややぶ厚目の、つるりとした手触りの紙束を取り出した。年間の授業要項の記載された書類である。個性把握テスト終了後に配布されたもので、その名の通りどのような授業と行事があるかが解説されたものだ。

 飛び込むようにベッドにうつ伏せになるとぱらららと気軽にめくる。

「とりあえず大変そうなのは体育祭と夏休みにやる強化合宿くらいか。なにすんだ強化って。体育祭は……見に来そうだよなあ。全国ネットで生中継されてるしweb配信もあるってのに現場に来そうだよなあ」

 

「体育祭? もちろんパパたち揃って見に行くつもりだぞ! 仕事? ははっ馬鹿を言っちゃあいけない。息子の晴れ姿と仕事とどっちが大事だと言うんだね? んン?」

 夕食時にそれとなく聞いたら案の定だ。げんなりとした顔になる春臣。

硝子(しょうこ)も?」

「学校サボって見に行くよ。生で見られるのは兄さんがヒーロー科合格したおかげです」

 両親の前で公然とさぼり宣言しながら拝む真似をする良い性格をしている妹に呆れる兄。

「でもね、やっぱり体育祭は事務所のみんなで行こうかって提案はスタッフ一同満場一致で却下されてしまったよ! みんな手厳しいね! 少しは遊び心がないとあんな仕事長く続けてられないということを教えこまないといけないな!」

「いやボクら子供のためにも治安維持活動はしようよ」

「同感。ヒーロー飽和社会だって言っても暗い夜道で美少女がひとり歩きは怖いし」

 息子と娘の冷たい視線が父親に突き刺さる。

「まあ二人とも言うようになったわね。でも大丈夫よ、夏輝さんのとこのスタッフは粒ぞろいだから、オーナーがいなくても一日と言わず一週間くらいなら業務を回せるから安心よ」

「全くもってその通り。いやあ春臣の雄英合格が決まったときもね、も~~うパパ浮かれちゃって仕事が手につかなかったりしたんだけどあの子たち本当に優秀でパパ困っちゃったね! 実に得難いスタッフだよ」

 カレイの煮付けを切り分けながら現役ヒーローとしてはあまり褒められないことを平然と抜かす父親。

「独立されたら困るんじゃないのかそれ……」

「なあにその時は彼らの前途を祝福しつつ少し昔に戻るだけさ。事務所を開設したときから彼らがいたわけじゃないんだぞ? パパこう見えてもちょっと凄いんだ」

「知ってるわよ」

 硝子が聞き飽きたというように答える。

 春臣も少し辟易してきたので話をそらすことにしよう。「母さん、この煮付け美味しいね」

「カレイは春臣の好物だから、今日はいつもより頑張っちゃった」

「流石真緒だ。この味は料亭でもなかなか出せるものじゃない。いいかい春臣、お前も料理の上手な女性を捕まえて離さず食らいついてお嫁さんにするんだよ? 食事こそすべての要。頑強な肉体も健康な精神も研ぎ澄まされた個性も日々摂取している食べ物ですべてが決まるんだ。まあ智満ちゃんなら心配はないだろうけどね! 春臣が見限られないかが心配だなあ」

 熱い茶をがぶりと飲む夏輝。

「なんで親父があいつの料理の腕を知ってんだよ」

 やや憮然とする春臣。その顔で楽しそうにする両親と妹。

 最悪だこいつら!

「いやいや毎年新年のご挨拶に伺ってるじゃないか。その時の宴会の出し物は一昨年くらいから、全部喜魅佳(きみか)ちゃんと智満ちゃんが作ってるんだぞ」

「去年は私も手伝いました」

「知らなかった……。いやお前はたまにうちの夕食の手伝いしてるから言わんでもいい」

「はあ? なにそれ。酷くない?」

 幼馴染の知らざる一面をさらりと告白されて少しショックを受ける春臣。夏輝は息子のそんな様子に

「あれ? もしかしてこれ言っちゃダメなやつ? あの子達の料理の腕が上達してるとか春臣に教えちゃまずかったやつかな?」

 と若干慌てる。

「なにその気遣い」

 春臣が味噌汁をすすりながらぼやく。

「大丈夫ですよ、そのくらいのことは隠し立てするようなものじゃ無いですもの。貴夜美(きよみ)さんもあの子達と台所を一緒にできるのが本当に楽しそうで。やっぱり自分の技術を娘に教えるって母の夢の一つよね」

「いえその……はい鋭意努力しますですはい。そんなことより兄さんは智満ちゃんにお弁当作ってもらったりしないの? ちょうど今お料理できることを知ったんだしさ!」

 この野郎こっちにパスしてきやがった。春臣が顔を向け目で硝子に抗議するも妹は素知らぬ顔だ。こういうときは過剰反応しないでさらっと流すのが良い。または朝のように逃げる。そう思い口を開く。

「まあそのうちな。雄英は学食もあるし。知ってるか? うちの学食ってあのクックヒーローのランチラッシュが仕切ってんだぜ」

「へぇー。災害現場でお炊き出しとかやって支援してるのはニュースで見たことある。結構フットワーク軽いよねあの人」

 兄が露骨に話題を転換したことに妹は気づかないふりをして乗ってあげたのだった。

 これが光鎧路家の団欒。




つづく
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