僕のヒーロー(オリキャラをそれなりにぶちこむ)アカデミア 作:チョコラータ・フォンドゥータ
雄英入学二日目。
初日とほぼ同じ時間に家を出て、遅刻などとは無縁の登校をした
この日の午前中の授業はいたって普通の高校教育課程であり、プロヒーローであるプレゼントマイクの英語の授業が、そのパンクファッションやDJスタイルな芸風とは裏腹にきわめて堅実に、言ってしまえばとても普通に消化されたこと以外特筆すべき点はなかった。
そして退屈な午前の授業が過ぎ去り、弁当や食堂で彩った気だるげな昼休みの次に来る午後の授業は、おそらくA組生徒のほぼ全員が心待ちにしてたであろう「ヒーロー基礎学」であった。
○
「わーたーしーがー!!!! 普通にドアから来た」
アメリカナイズされた陽気な笑い声とともにヒーロー衣装でオールマイトが教室へ入る。
大振りなリアクションで入室するかと思えば、自分で言っているようにいたって普通に扉を開けている。教師としての意識の成せる技だろうか。
「シルバーエイジのコスじゃん!」「うっわやっぱり画風が違いすぎて肌が」「普通のスーツと違ってヒーローコスだと威圧感パネェ!」
教壇の前まで進むと発達した筋肉をむきむきと誇示するようなポージングでそのまま続ける。
「ヒーロー基礎学とは! ヒーローの素地を作るために様々な訓練を行う科目だ! もちろんこのクラスはヒーロー科だから単位数も最も多い!! 頑張ろうな!」
空気を弾き飛ばすような音をともない、身振り手振りを加えるアメリカンスタイル。さらに
「早速だが本日の授業内容はコレだ! 戦! 闘!! 訓!!! 練!!!!」
突き出す右手に握られたプラカードには「BATTLE」の英字。直球だ。しかも一言ずつにポージングを変える芸の細かさ。
生徒たちもいきなりの戦闘訓練におののき沸き立つ。中には武者震いする者や獰猛な笑みを顔に広げる者もいた。
「さあああああ! 活目せよ! 少年少女たち!!」
オールマイトが教壇にあるパネルを操作すると黒板横の壁が音を立てて稼働する。
重低音を伴いながらせり出すそれは特殊プラスチックで覆われた棚だ。
中には見やすいように大きく番号が割り振られた超小型コンテナケースが並べられている。その番号は出席番号で、ケースにはそれぞれ生徒たちのヒーローコスチュームが納められている。
ヒーロー科を擁する学校はそれぞれが独自のサポート会社と提携していて、そこが関係者各位のコスチュームを作ってくれるというシステムが確立している。
ヒーロー免許を持つ教職員とヒーロー科の学生は、役所で発行される「個性届」と、写真などの自分が必要だと思う「身体情報」、それとスーツに盛り込んで欲しい機能や付属物という「要望」、これら3つを書類にまとめて事務に提出する。するとその書類は学校から提携サポート会社へ送られ、そこに勤めるプロのデザイナーやエンジニアたちが各々に適したスーツを作ってくれるのだ。
このシステムを被服控除と言う。
ただこのシステムで油断できないのは、所属しているデザイナーたちもその道を邁進するプロという自負があるのか、要望を逸脱しない程度に、稀に逸脱していることもあるが、自分らのセンスでアレンジや改良を加えてくることだろうか?
教室の隠されたギミックを目の当たりにし、そこに自分だけのスーツがあると知った生徒たちは、授業内容が明かされた瞬間以上に興奮して思わず音を立てて席を立ってしまう。
オールマイトは彼らの興奮に水を指すようなことはせずにただ集合場所だけを伝えた。
そして集合場所であるグラウンド・βへ続々と集まる生徒たち。
その名の通りに初日の個性把握テストで使用したグラウンドとは別の訓練施設である。雄英高校ヒーロー科には個性を使用した授業が多々あるため、個性運動に適した施設が複数用意してあるのだ。
すでに何人かが着替え終わって出てきており、思い思いの場所で待機し、全員集合を待っている。
「ハルくんちょっと手間取りましたね」
「なんか要望と違うとこがちょこちょこあってね」
春臣はドライスーツのような全身をぴったりと覆うスーツをアンダーとして着込み、フード付きのボレロジャケットを羽織っている。腰元にはカラビナやホルダーが無数についたベルトを2本交差するように巻きつけ、足首をしっかりと保護する構造になるように要望を通した特殊合金の鉄骨入りブーツ履いている。
彼の個性を考えれば、そこまでスーツの肉体防備性能を高める必要は無いであろうが、そこはサポート会社のこだわりなのか浪漫なのか、防弾・防刃・耐熱・耐寒・防塵・保湿・保温・各種性能は最新の技術と理論により保証されている。
春臣のスーツも要望からは若干のアレンジがされており、首元の布を強引に引っ張ると柔らかく伸び、目出し帽のような形状にまで変型させることができるのだ。せっかく防塵素材を使っているのだからという計らいだろうか? さらにはなんと暗視機能と対閃光防御機能や望遠機能まで備えたゴーグルと、酸素ボンベ付きのガスマスクやナックルダスター付きのグローブまで付属していた。まさに至れり尽くせりといったところであろうか。
春臣からしたらそれらは全く不要だと思いはしたのだが、個性を発動していないときには有用なので、ことさらに不満を言うほどの変更ではなかった。というかこれ費用はいくらかかってんだ。
「ハルくんはそのフードかぶるとなんだか変質者みたいですね」
「凄い失敬なこと言うねお前! なんだよお前なんか……その。なんだそれ完全に巫女装束じゃん。むしろお前の普段の仕事着の領域だろそれ」
春臣の言うように智満のスーツは
周囲の生徒からも、巫女や。巫女がおる。と囁きが聞こえてきていた。
「正式なものとはもちろん色々と違うんですけどね。ほら、履物も草履じゃありませんし」
智満が袴を持ち上げて見せた足元は、たしかに足袋に草履ではなくブーツをそれっぽくデザインしただけのものだった。装束の下は春臣のスーツと同じような素材で出来たインナーを着込んでおり、異なる点といえば全身スーツではなく上下で分かれていることだろうか。
そんな風に談笑していると続々と着替え終わった生徒たちが集まってくる。
西洋甲冑じみたスーツにスパンコール付きのマントを羽織り、赤い派手なサングラスを着用した青山優雅。
快適な素材で出来たシンプルなノースリーブにスパッツで素手素足、腰元に各種多機能小物を収納するためのベルトをつけた赤熊ルパント。
胸元をむき出しにした、けばけばしい色合いで迷彩柄のノースリーブスーツとファーボレロ、顔にはドミノマスクをはめた芦戸三奈。
ウェットスーツに小物を吊るすホルスターやベルトを設置し、頭には大きなゴーグルバイザーをかぶった蛙吹梅雨。
フルフェイスかつフルアーマーで腰元からパイプを背面まで伸ばし、身動きのたびに金属音を立てる飯田天哉。
バイオスーツに手足を保護するアーマーを付け、透明なマスク付きのヘルメットをかぶる麗日お茶子。
空手着を基調としたスーツを着込み、尻から伸びた胴体ほどの太さの長いしっぽを肩に掛けている尾白猿夫。
肘と膝から先がむき出しな特注ドライスーツにショルダーハーネスとベルトにホルダーを複数つけ、足元は頑丈そうなブーツで固め、眼鏡を外している紙木城綴子。
耳元に小型の変電機を装着し、それ以外はほぼジャージに思える軽装のチャラけた上鳴電気。
歯車のような肩アーマー以外上半身裸の、フェイスガードを付けた切島鋭児郎。
ジョギングに出るかのような簡素なスーツに胸元にある開いた口のシンボルが目立つ、岩のような質感を備えた大柄な少年・口田甲司。
口と鼻と目と後頭部以外を包む全身スーツにポーチを複数つけたベルトを巻いた筋肉質で体格の良い砂藤力道。
ノースリーブのシンプルすぎるボタン付きスーツで口元はマスクをし、前髪を前方に流す巨漢、障子目蔵。
細長く垂れ下がり先端にプラグの生えた耳たぶと脚部のスピーカー仕込みのブーツが目立つ、レザーの上下でまとめたラフなスタイルをした三白眼の耳郎響香。
セロハンテープをモチーフにしたフルフェイスマスクと肩アーマーな若干悪者側な印象を受ける瀬呂範太。
黒い道中合羽のようなマントで首下から足元まで覆うように羽織っている鴉頭人身の常闇踏陰。
白いスーツにベストを取り付け、その左半身を氷の意匠をした物々しいパーツで覆った、どこか澱んだ目をした轟焦凍。
一対のグローブと一対のスニーカーが動いてるようにしか見えない透明少女・葉隠透。
手榴弾モチーフのごついアーマーで固めた両手前腕が目立つ威嚇的なドミノマスクで刺々しい爆豪勝己。
緑色のジャンプスーツに肩と肘にパッドを備え、オールマイトのような触角がマスクにおっ立てられている緑谷出久。
頭部の玉がもこもことした背の低い三頭身を、オーソドックスなヒーロースタイルの全身スーツとマント、そして巨大なベルトパンツが目立つ峰田実。
体の前面を大きく開けた赤いレオタード風のスーツと、申し訳程度のベルトスカートで最低限の部位を覆い隠し、ベルト背面には厚い辞典を備えている八百万百。
「ン~~~~! 実に良いじゃないか皆! 格好良いぜ!!!!!!!」
A組生徒が全員集まったのを確認すると、オールマイトが開口一番そう告げた。思わず照れくさそうにしたり、堂々と胸を張ったり、その賞賛への反応も人それぞれ。
「見た目から入るってのも大事なんだぜ少年少女。さあああああ! 自覚するのだ!! そう! たった今! この瞬間から自分はヒーローなのだと!!!」
ヒーローとして着飾った生徒たちを鼓舞するようにナンバー1ヒーローが雄叫びを上げる。
それに触発され、ぞくりと背筋を走る身震いとともに自信がみなぎったかのような表情になる生徒たち。そんな彼らを満足そうに見渡したあとに、まったく同じ調子で授業開始の宣言をする。
「さあ始めようか有精卵ども!! お待ちかねの戦闘訓練のお時間だ!!」
雷声が残響する。それが収まるまえに生徒から挙手があった。
「先生! ここは入試の演習場ですが、市街地演習を行うのですか!?」
飯田ががしゃがしゃとアーマーの音をたてて真っ先に疑問を投げかける。
「いいや、演習からはもう二歩ほど踏み込んでみるのさ! これからやるのは屋内での対人戦闘訓練だ!!! ヴィラン退治は主に屋外で見られる。実際現場を目撃したものも中にはいるだろう?
だが! 統計で言えば屋内のほうが凶悪ヴィランの出現率は高いんだよ。このヒーロー飽和社会において、真に賢しいヴィランは屋内にこそ潜んでいる!!」
監禁、軟禁、誘拐、ブラックマーケット、ヴィラン組織の密会、禁制品の裏取引、賭博、等々およそ考えうる様々な悪事、どす黒い欲望の発露は密室で秘密裏に行われている。
それらに入念な捜査を重ねて追い込んでいくのはもちろん警察の仕事であるが、個性の使用を禁じられている当局ではうかつに手を出せない場合も多数存在する。そんな場合は当然のようにヒーローが協力を申し出ることになる。
「君らはこれから二人一組に別れ、その上で2対2の屋内戦を行ってもらう!!」
まだ完全には打ち解けていないクラスメイトとのコンビプレイだ。生徒たちに波紋が広がる。
「おっと忘れちゃいけないのが、それぞれがヒーロー役とヴィラン役をこなしてもらうってこと! ヒーロー役はもちろんヒーローとしての思考を、ヴィラン役はヴィランとしての思考を考えて行動してみてくれ!!」
「基礎訓練もなしにですか?」
「その基礎を知るためにまず実践さ!」
言ってることは無茶苦茶なようだが、歩くよりもまず走ることが適した場合もあるということだろう。
「勝敗はどうつけるのですか?」「思う存分ぶっ飛ばしていいんスね?」「あの、また相澤先生みたいな除籍するなんていうことはありませんよね……?」「組み分けとヒーロー役とヴィラン役はどのように分かれればよろしいですか?」「ねぇこのマントやばくない?」「お互いよく知らないし相談タイムはどれくらい設けられてますか?」
「ンンンンおおおおおおおおお~~~~~!!!! 聖徳太子ィ!!?」
はっきりと天を衝くように挙手して質問を投げかけている飯田はともかく、ほかは口々に好きなように疑問点をぶつけていた。
オールマイトはたじろぐも内ポケットからメモ用紙を取り出し指導内容を読み上げる。
「ゴホン。いいかい少年少女! 状況設定は"ヴィラン"が"核兵器"をアジト内部に隠し持っていて、それを察知した"ヒーロー"が処理しようとしてるというものだ」
核て。なんかアメリカンな設定来たぞ……。いきなり核かよ。本場だけあってやっぱおっかねえわアメリカ。と生徒たちからこぼれてくるがオールマイトはこれをヒーロースマイルでスルー!
「制限時間内に"ヒーロー"は"ヴィラン"を捕まえるか、または"核兵器"を確保回収することが勝利条件だ! 確保はタッチすればそれでOKだ!
対して"ヴィラン"は制限時間まで"核兵器"を守り通すか、"ヒーロー"を無力化……つまり確保することが勝利条件だ!
わかったかな?」
いそいそと紙をしまい込み、ごそごそとどこからともなくテーブルを取り出す。そしてポケットをまさぐるとオールマイトが取り出すのは、あまり見る機会のなさそうな形状をしたサイコロ。
独特な形状をしているそれらは12面ダイスと24面ダイスだ。
「そーしーてー!! 組み合わせ及び対戦カードはこのダイスを使って決めるぞ!」
「サイコロ……って適当なのですか!?」
「ランダム性重視はリアリティ追求ってことじゃないか?」
「プロは事務所が違っても場合によっては急造で連携チームアップすることもあるしそういうことも考えた組み合わせ方法じゃないかな」
衝撃を受ける飯田に、春臣と緑谷が持論を述べる。
「そういうことか……! なんと先を見据えた計らい! まことに失礼いたしました!!!」
直角に腰を曲げ頭を下げる飯田。ヒーローコスと相まってなにかのロボットのようだ。
「いいよ!! じゃあ早速振るぞ!! 賽は投げられた!!」
結果。
・チーム分け
01蛙吹+爆豪 02緑谷+葉隠 03切島+芦戸 04青山+
05常闇+尾白 06八百万+耳郎 07
09障子+峰田 10口田+赤熊 11上鳴+砂藤 12
・ヒーローvsヴィラン(左H・右V)
06八百万+耳郎 vs 05常闇+尾白
03切島+芦戸 vs 12光鎧路+飯田
09障子+峰田 vs 07斎女+轟
11上鳴+砂藤 vs 04青山+紙木城
10口田+赤熊 vs 01蛙吹+爆豪
02緑谷+葉隠 vs 08麗日+瀬呂
ということになった。
「チッ。これじゃデクを潰せねえじゃねーか……」
「ヒィッ」
「うーん、飯田とか。気心がそれなりに知れてるのはいいけど、できれば初対面の人が良かったかな」
「まあいいじゃないか。賽の女神が引きあわせたのだ。ヴィラン役というのが不満だが鋭意努力しよう!」
「さて。少年少女諸君! 見たところ知り合い同士も初対面同士もあるようだが、まずはモニタールームに移動しようか! 次の説明はそこで行うよ!」
○
地下に設けられた薄暗いモニタールーム。壁面いっぱいの超巨大モニターはいろいろなビルの外壁を映している。
皆が入室したことを確認するとオールマイトが口を開く。
「今はこのモニターに外観しか映ってないが、試合が始まったら内部の監視カメラから映像が来るようになっている。試合をしてない少年少女はそれをよおく観察して考えるようにね。講評なども挙手を求めるからそのつもりで!
さてこれから3分間! コンビでお互いの個性や得意なことについての相談タイムを取る。
昨日相澤くんがやった個性把握テストの段階で、目ざといものは皆の個性を見たりはしたろうけど、今回はチームアップだからより詳しく情報の共有をしてくれよ! 中にはスーツに拡張機能を求めた少年少女もいるだろうしね!
そしてその間に私がみんなにアイテムを配布する! チーム同士の会話に不可欠な小型無線! と、さらに確保テープだ! この確保テープを相手のどの部位でもいいから巻きつけた時点で"無力化し捕獲した"という証明になる! いいね?
そしてヴィランチームにはその他にこの"核兵器"も配布する。これをビル内のどこかの部屋に置いてくれ。地面に固定してからてっぺんにあるボタンを3秒間押しこむと膨らむから気をつけるように!
では相談タイム、カウントスタートだ!」
正面巨大モニターに秒読み表示がされる。
クラスメイトでも今はヒーローとヴィラン。そんな無意識が働いたのか、対戦相手から距離を取るように離れ、自然と相談の声も細いものとなっていく。
ううん! 皆真剣に取り組んでいるな! オールマイトは画風の違う笑顔を途切れさせることなく、ヒーロー有精卵たちを感慨深げに見渡す。
ただその視線がじつは緑谷に行きがちなことには、生徒は当然だが当の本人ですら気付くことはなかった。
「今更言うことでもないが俺は下腿部のエンジンで加速できる。それと跳躍も得意だな。もちろんギアチェンジすれば巡航速度もそれなりに高い」
「ボクはこう……なんかよくわからない力場を発生して叩きつけたり……なんだろ? 超パワーブーストって言い方でいいかな。まあそんな感じ。あとなんかたまに勝手に動く」
「俺は氷を出せる。冷やすだけじゃなくて加熱もできるから、出した氷を溶かすこともできる」
「私はごくたまに妙なひらめきがあります。感覚系ですね。あとはこのヤタが昨日テストでやったように、大きくなったりで攻撃や防御もかなりやれますよ」
「私は紙を自由に操れるわ。体のどこからでも紙を出せるし、昨日みたいにつなげて立体物にすることだって出来るの」
「ボクはシンプル・イズ・ベストでお腹のここからビームを出せるよ。あんまり長く出すとお腹壊しちゃうけど、このイカしたスーツの補正もあって多少は我慢できるとも」
"……動物とかにお願いして動いてもらえるよ……"
「ど、動物、か。こ、ここ、では少しつ、辛いな。お、俺は、か、体を自由に、へ、変型きょ強化させることが、でき、出来る」
それらの声が混ざり合ってなんだかよくわからない音の塊になって反響する。
「はい終了! 無線マイクと確保テープ、それと"核兵器"はきちんと受け取ったかな? よし、ではまずは尾白少年と常闇少年のヴィランチーム! ビルAに向かって準備したまえ!」
オールマイトが端末を操作するとモニターにビルAの外観が映し出される。5階建てほどの特徴のない建物で、しかし外壁に大きくAと書かれている。おそらく他のビルも文字こそ違えど似たようなものだろう。
「君たちがこのビルAに入ったらその5分後に耳郎少女と八百万少女のヒーローチームが向かう。私の合図でヒーローチームは潜入開始してくれ。制限時間は開始の合図からきっかり10分間だ! タイムアップの合図ももちろん私が送るから、ストップがかかったら止まるんだぞ」
尾白と常闇が言われたとおりにビルAへ向かう。しばらくするとモニターにビルに入る二人の姿が映しだされた。
そして再びモニターに秒読み表示。
「さあヒーローチームも向かってくれ!」
耳郎と八百万も向かい、同じようにモニターにビルに着いたことが映しだされ
「では屋内対人戦闘訓練第一試合……開始だ!!!」
オールマイトの合図がマイクから伝わった。
○
最上階にて、尾白はモニタールームで言われたとおりに核兵器を膨張させ配置する。
「おお、本当にでかくなった」
「ムウ、さすが雄英脅威の技術力……仰天だな」
驚く尾白とそれを目の当たりにし若干引いている常闇。
「俺たちはこの"核兵器"でテロを目論む悪逆なヴィラン。ヒーローにその悪しき陰謀を暴かれこれから撃退しなければならないが、この"核兵器"も防衛しなければならない。さてどうする?」
「ヒーローは俺らのいる場所を探してるけど、逆に俺たちからもヒーローの居場所がわからないんだよね」
尾白が手をアゴに当てて考えこむ。
「一番良いのはここで待ち構えることだと思う」
「フム。探索能力の無い以上、攻撃と防衛に戦力を分断するのも愚策。かと言って二人で打って出るにはヒーローの居場所がわからず、探してる間に"核兵器"を確保される危惧がある」
「そう。だからこの部屋の入り口と、あとは窓を見張っていればいいと思う」
「よし。では俺たちが窓を見張るから尾白は入り口を頼む。
「アイヨッ」
常闇の呼びかけにマントの中から応える声がすると同時にわだかまった薄暗いモヤのような何かが現れた。
それはみるみるウチに常闇本人とほぼ同じくらいの大きさになると、常闇本人の鴉頭に似たようなシルエットの形にまとまっていった。見れば翼らしき部位もある。
「聞いていたとおり窓の監視だ。ある種の持久戦に近いが油断が勝敗を分かつぞ」
「マカセナ!」
ヴィランチームはこうしてヒーローチームを待ち構える構えを取った。
果たしてビルに侵入してきたヒーローチームは――。
「耳郎さん、突然ですけどこれを渡しておきますわ」
ビルに侵入してやや進むと八百万がパートナーの少女へと銃を渡す。
「いや拳銃って……じゃないな。テーザーガン?」
耳郎はそれを受け取ると海外ドラマの刑事のように構えたり格好をつけたりしながら問い返す。
「そうですわ。それならば不必要にヴィランチームを傷つけることなく無力化できますから。昨日の個性把握テストの様子を見る限り、皆さん健康そのもののようなので心配はないと思いますけどアンペアなど低めの設定です。……使い方は、今耳郎さんがおやりになっているように、狙いをつけて引き金を引けばいいだけです。安全装置などはついてませんので引き金は若干重いでしょうからしっかり引き絞ることを忘れないでください。電極が相手へ刺さると一定時間電流を流しますわ」
八百万は自分も渡したものと全く同じものを取り出し握りしめる。
「はいよ」
耳郎はテーザーガンをレザージャケットに差し込んで仕舞いこむと、廊下の壁際に寄り添いその特異な形状をした耳たぶを無造作に伸ばして挿入した。堅いコンクリート壁の小さなひび割れが出来たがしっかりとめり込んだそれは、建造物に巻き起こる音、すなわち振動を読み取り耳郎にビルの情報を与える。
「このビルって訓練施設だからなのかな。部屋にはあまり物が置かれてないみたいだね。でもヴィランチームがどこにいるかはわかったよ。最上階だね。二人ともそこでかたまってる」
「では一応慎重に進みましょう」
モニタールームではビル内部に多数仕込まれたカメラからの映像があらゆる角度で巨大モニターに投影されている。
モニターから流れるのは映像のみで音声はしない。それはオールマイトが耳につけている小型受信機にしか流れない設定だ。生徒たちは無音の映像だけで彼らがどのような考えで行動するかを学ばなければならない。
「さあ皆も考えながら見るんだぞ!」
オールマイトは成績をつけるための書類を構えながらモニターを見ている。
画面では尾白・常闇が"核兵器"のある部屋で身構えており、八百万が耳郎に何かを渡す様子が映されている。
ヒーローチームの行動を見た春臣が智満に疑問を口にする。
「八百万はアレどっから取り出したんだ? ボクには体からにょっきり生えてきたように見えたけど」
「私にもそう見えました。なんでしょうね? 体からものを自由に出し入れできる収納個性でしょうか?」
「もしそうなら、準備が必要とはいえかなり便利だな」
「何持ってるかわからねえってのは、戦うことを考えると怖えな。そういや昨日のテストでもなんかいろいろ出してたっけ」
切島が言うと、さらに上鳴が続けるように
「ありゃテーザーだなあ。ヒーローチームはかなり万端に倒す準備を整えてるぜ」
と自身が電撃個性だからか、八百万の取り出した武装を指摘して見せた。
「ヴィランチームは待ちの構えだね。迎撃には出ないみたいだ」
「どこにヒーローチームがいるかわからないからかな?」
「多分そうだろうね。ジリ貧になるかもしれないけど、それが一番安全な作戦なのかもしれない」
緑谷と麗日が真剣な顔でモニターを見ていた。そこに切島の大声が響く。
「しっかし地味な試合運びだな! 尾白たちもただ待ち構えてるだけなんて男らしくねえぜ!」
「そうかしら? 彼らが待ちを選んだのはおそらく索敵出来る個性を持っていないからでしょう? 持っていたのならそれらしい行動に出てるはず。であるならば戦力の分散や入れ違いになることを考えると、緑谷くんが言ったようにああやって侵入経路を見張るというのは最適解に思えるわね」
「華はないけど堅実だよね☆」
紙木城と青山に突っ込まれる切島。しかし彼はなおも言う。
「けどやっぱこうガシガシぶつかりあいてえぜ!」
「脳筋か」「脳筋だな」「脳筋!」「泥臭いね?」
「おいおいおい!」
それぞれ思うことを口にしそれらが軽い意見交換になってる中、モニターではヒーローチームが最上階に足を踏み入れるところだった。
耳郎の集音ですでに最上階にヴィランチームがいることは把握している。
だから出来る限り足音を立てないように二人は慎重に歩を進めていた。ここまで登ってくる間にすでに八百万と作戦は考えてある。というかほとんど八百万発案である。
耳郎はうまくいくか軽い緊張で少し動きが堅い。喉元が引きつるような感触がしたのでつばを飲み込むと、ぐびりという緊張しているとき特有の嚥下音を聞いた気がした。
そして中央フロア入り口まであと少し。念のため耳たぶの先端を壁に挿しこみ内部状況を再確認する。変化なし。テーザーガンを取り出しながら、それを伝える意味で八百万へと向かい頷いてみせる。
八百万は入り口の真横で屈んで膝立ちになる。耳郎がドアを開けるとすぐさま八百万が手に持っていた缶からピンを抜き、ゆるやかに室内へと放り投げた。2人は耳をふさぐ。
瞬間。閃光と破裂音。そして煙が巻き上がる。
同時に二人は突入した。
室内には光と音ですくんだヴィランチームがいた。ヒーローチームはすかさず狙いをつけテーザーガンを発射。
命中!
「がっ!!!」
「ぐぅぅぅ!!!」
二人は悶絶し、体を流れる微弱な電流で筋肉がつっぱり、床に倒れながらもつま先立ちのような姿勢で痙攣し始める。耳郎が駆け出し"核兵器"に触れた。
『WINNER! ヒーローチーム!!』
○
「さあ! 楽しい楽しい講評の時間だ!」
まだふらつく尾白と常闇を支えながら、終了の合図と共に瞬間的にビルAまで迎えに行っていたオールマイトがモニタールームに戻ってきた。
待機していた生徒たちからしたら、消えたと思ったらいつの間にかモニターにオールマイトがいた。
そんな風に感じたことだろう。それほどの早業で、熟練のプロでも彼の動きを正確に捉えられるものはいないかもしれない。格どころか次元が違う。そんな風に思わされる出来事だった。
「勝っても負けてもそれは振り返ってこそ経験になるのさ! 今回どちらも目立って不手際があったわけじゃないな! その上であえてベストを選ぶなら……それは八百万少女だね!」
力強く八百万へ向けて親指をおったてるオールマイト。
「さあその理由はわかるかな? 分かる人!」
のりのりで挙手を求め、自分で呼び水のようにピンと腕を挙げるオールマイト。すると生徒たちからまばらに挙手が見える。その中でもひときわ目立つように右腕をまっすぐに伸ばす小柄な少女がいた。
「では紙木城少女。君の分析を聞こうか」
指名された紙木城へと注目が集まる。
「分析というほど大したものではありませんが失礼して」
咳払いをひとつ。
「まず先ほどオールマイト先生が言ったように、ヒーローチームもヴィランチームも私が見た上では選択ミスと思える行動はありませんでした。
ヒーローチームは耳郎さんの個性で正確に相手の位置を把握しながら進んでいましたし。片やヴィランチームはそのような探索・探知のできる個性を持ちあわせていないようでしたので、"核兵器"のある最深部で待ち構え侵入口を見張る。あの状態でできる最善を取れていたと思います」
よどみなく言葉を紡ぐ紙木城に生徒たちは感心のため息をつく。中には憮然としている生徒もいたが。
「その上で八百万さんは相手を手早く無力化させるために、フラッシュバンとテーザーガンという警察や現役プロでも使用されている鎮圧用非殺傷武器を持ち込んだこと、パートナーの耳郎さんにも持たせ、きちんと作戦を共有して万全を期したこと。これらが評価に値したのだと考えます。
あえて難点を言うのならば、相手の個性次第ではそれらが通用しない懸念もあったということでしょうか?
ですが情報は情報。昨日の個性把握テストで彼らに防御できる個性が無いと踏んだのでしょう。確固たる情報でないとはいえ、事件発生時に常に精度の高い確定情報を得られるとは限らないわけですし、それを踏まえた上で突破する勇敢さも加点対象かなと思います。
私からはこれくらいです。先生、続きをどうぞ」
一礼する紙木城。
「うん、概ねそのとおりだね! 今回大まかな"流れ"を八百万少女が作っていたというのがMVPの理由だ! ヴィランチームもあの時点でやれる限りのことをしていたさ。どうしてもあの時こうしていれば、というもしもを考えることもあるだろうが、それもまた経験だ!
さあ四人とも待機列に戻って皆と同じようにこれからの試合から学ぼうじゃないか!」
第2戦
ヒーローチーム「切島+芦戸」vs ヴィランチーム「光鎧路+飯田」
舞台:ビルD
つづく