僕のヒーロー(オリキャラをそれなりにぶちこむ)アカデミア   作:チョコラータ・フォンドゥータ

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第04話 第2戦&第3戦

 2戦目はビルDが舞台だ。

 と言っても違うのは建物の階層と間取りくらいであり、訓練の段取りは当然先ほどと全く同じ。

 ヴィランチームがまずビル内部へと入り、そこから5分後にヒーローチームがビルへと向かう。

 そしてオールマイトのスタート合図を待つ。

「第2戦……開始だ!」

 

 

 6階建てビルの4階層。その階段から最も遠い部屋に"核兵器"を配置し、春臣(はるおみ)は飯田とどのように対応するかの相談を始める。

「さてボクらはどうしようか。尾白・常闇チームみたいに専守防衛してもいいし、あえて博打に出るってのもありだと思うよ」

 フルフェイスフルアーマーな飯田はその意見にしばし考えこむ。ガション。

「芦戸くんと切島くん。昨日のテストで見るかぎり彼らは先ほどの耳郎くんのような探知探査できる個性は持ってないように見受けられたな。つまり探り探りビル内部を進もうとするはずだ。打って出るならそれが付け入る隙になるのではないだろうか?」

「そうだね。ボクらの有利点は彼らの目当てのブツがここにあると知っていること。で、提案なんだけどさ」

「拝聴しよう」

「ちょっとした賭けに出てみようと思うんだ」

 春臣が子供っぽい笑みをその顔に浮かべた。

 

 切島たちは入り口から入り、1階層の部屋をひとつひとつ覗き見しながら進んでいた。それはまさに飯田の想定していた通りの進行であったが、おそらく十人に聞けば十人がそのように想定しただろう。

 切島は昨日のテストで見た飯田と春臣の個性を思い出し思わず喉を鳴らす。どちらも素早い。

 彼の個性「硬化」は力を込めるようにして発動するものだから、彼の反応を上回る速度で攻撃されたらひとたまりもない。ゆえに彼はほんの少しの変化すら見落とさないようにと思いながら気を張って進んでいる。

 切島が前衛となり周囲確認をしながら進行している。その配置は彼の個性が理由ではない。

 彼の考える男らしさというものが、たとえ芦戸がヒーローを目指す同志だとしても、同い年の女子を前に置いて自分は後ろで進むなどということを許さなかったのだ。もし彼の個性が硬化でなかったとしてもこの二人の配置は今のようになっていたに違いない。

 緊張を維持したまま進む切島の後ろで、きょろきょろと忙しげにあたりを見回しながら芦戸が声をかける。

「ねーねー切島ぁ」

「なんだ?」

「あのさぁ、あたしが天井溶かして上に行くとかってアリかな?」

「はぁ!?」

 あまりに突拍子もない発言に切島は思わず大きな声で問い返してしまった。慌てて口をふさぐ。

「おっとと。どういうことだ?」

「階段とかって待ちぶせされそうじゃない? 床と違って姿勢も不安定になるしさ。だからとりあえず1階層に"核兵器"が無いってわかったらどうかなって思ったんだけど……」

 芦戸の個性は体の表面から粘液を出すことである。

 その分泌液は芦戸の意志で組成を自在に変化させることが可能であり、粘着性のある粘液からコンクリートすらたやすく侵食する溶解液まで変化の幅は広い。

 つまり彼女は壁面を溶かして足場を作り、天井に侵入口を開けたらどうかと提案しているのだ。

 一聞するとそれは相手の裏をかく作戦だったかもしれない。だが

「いや……たしかに意表はつけるだろうけど、俺らじゃヴィランチームがどこにいるかわかんねえ。うかつに穴開けてそこは相手の真下でしたってのは痛いと思うぜ」

「そっか。穴開けてもよじ登るのに時間かかるしね。うーん、じゃあこのまま慎重に進むしか無いっか」

 溶かすにしても時間はかかる。その異常を気取られて待ち構えられたら、姿勢が不安定なところを攻撃される恐れもある。芦戸はそれに気づいて提案を取り下げた。

 そして1階層の探索を終え、2階層へ上がる。

 二人の耳がなにか重低音の振動をとらえた。だんだん近づいてくるその胃に来る響きはなにか? 訝しむ間も無く答えはすぐに分かった。

 飯田だ。

 彼の個性によるエンジン音。それが響いていたのだ。

「見つけたぞ! ヒーローども!」

 ふくらはぎから排気しながら階段を駆け下り、加速の勢いそのままに2階層の床、壁、天井と走り進み跳躍、十分に速度と体重の乗った飛び蹴りを切島へと放つ。

 あっけに取られたとはいえ切島も只者ではなかった。瞬時に両腕を交差させて硬化し受け止める。

 防御面から堅音が響く!

 と、飯田が切島の腕を足がかりにトンボを切り、芦戸が噴出させた粘液を回避する。それは階段横の壁面にべったりと貼り付くと、そのままでろりとした質感を残してゆっくりと固まっていった。

 危うげなく2階層床に着地した飯田はぼそぼそと何やらつぶやくとエンジン音を響かせ再始動し突進する。

「飯田ァ! お前ひとりか!?」

「もちろん一人だとも!」

 再び蹴りと堅音。

 飯田は止まらない。

 三度(みたび)切島に蹴りかかると見せたがそれはフェイントで、切島は体を硬直化したまま足場とされた。跳ねた飯田は体を軽業師のように反転させ、天地逆になると天井を強く蹴り出し、芦戸へと襲いかかる。彼女が反応するより早く飯田の蹴りが打撃する。

「ンぎゃっ」

「済まんな芦戸くん! だがこれもヴィランの所業だ!」

「やっろ!!」

 切島が振り向きざまに腕を硬直させ裏拳を放つもあっさりと回避される。

 飯田は跳ねるように一旦離れるとすぐさま踵を返し、より速く接近し切島へと蹴りを飛ばす。

 金属質な感触と堅音、それと疼くような痛みが飯田に伝わる。

「硬いな!」

「おおさ!!」

 その隙に芦戸は蹴られた部位をさすりながらも立ち上がり体勢を立て直していた。そのまま少し離れ自身の個性で攻撃できる隙を探る。飯田から目を離していない。

 加速の乗った飯田は床のみならず、現れたときのように壁や天井すら走破する。それはすなわち飯田の体力が尽きない限り、多角的な攻撃が切島たちを襲うということにほかならない。

 飯田は加速し続け切島へあらゆる角度から蹴りを放つ。切島は2階層の階段際で釘付けにされてしまい、反撃の機をつかめず防戦一方だ。たまに拳を振るうも飯田の速度と噛み合わずに空振りしてしまい、体勢を崩し逆に飯田が付け入る隙を作ってしまう。

 芦戸も襲撃直後に放ったものと同じく、体液を粘着性の高い成分に調整して投げつけているが、飯田が切島に対してヒットアンドアウェイで、距離を掴ませない戦法を取っているのでイマイチ有効打にはなりえていない。ただいたずらに乾いた粘液が増えていくだけだった。

 芦戸は切島と飯田を放っておいて先に進むのもひとつの手であるが、飯田の脚から逃れられる個性は持っていない上に、背後から蹴り飛ばされたらそれで甚大なダメージを負う可能性もあった。先ほどは正面からの蹴撃だから意識を保てたが、背後からではそれもあやしいだろう。

 では床を溶かすのはどうか? それも却下だ。飯田は床だけを走っているわけではない。溶解液をやたらめったら投げつけたら面倒を被るのは自分たち自身。

 速度の利は飯田にある。だがしかし数の利は切島たちにある。彼らの脳裏にはこの2対1という状況をどう活かすかが渦巻いていた。

 

 

「さっきの対戦と違ってヴィランチームが一人オフェンスに出してきたな」

 上鳴がモニターに映る状況を楽しそうな目で見ていた。

「飯田の機動力を活かす策。ヒーローチームを探るため、順繰りに階層を走り回ることで、彼奴の体も暖気できてキレのある蹴撃を成さしめる。一石二鳥……モニターからは声は伝わらずとも、相談の様子から察するにこれは光鎧路の発案と見た。光鎧路侮りがたし」

「そうですね。飯田くんだったらおそらく防衛に専念しようと提案すると思います。これはハルくん発案で間違い無いかと」

 すでにしゃんと立っている常闇の分析に、智満(ともみ)が同意し補強する。

 生徒たちは皆モニターから目を離していない。誰もが真剣に見ている。

 対戦形式の授業がある以上、勝ち負けや対戦内容が成績に直結しているはず。さらにチームアップも求められるのならば、クラスメイトの個性やその運用、どのようなことが得意で何が不得意かを出来る限り知っておいたほうが良い。

 そんな考えを誰もが自然に備えていた。

「あのお二人は出身中学が同じだったということなので、個性の把握も十全にできているわけですわね。おそらく連携に関してはどのチームよりも上かもしれませんわ。それにヒーローチームと相対したときの一瞬の間隙で、飯田さんは光鎧路さんへヒーローチームの居場所を伝えることができたはずです」

 八百万がほぼ正確に戦況分析をすると紙木城が簡潔に言う。

「今のところヒーローチームがピンチということね」

「まあそういうことですわね」

 簡潔すぎた。

 追い込まれつつあるヒーローチームはこの先の展開をどうするべきか?

 自然とそんな目線でモニターを見る生徒たち。

「い、飯田がこのままく釘付けにして時間切れを狙うも、良し。こ、光鎧路が合流しても良し。今のところ、ひ、ヒーローチームはヴィランチームの行動にた、対応することしか出来ていない。い、飯田をどうにかしないと、完封まであ、ありうる」

「光鎧路ちゃんも移動してるし、飯田ちゃんの助太刀に行くつもりかしら?」

「合流するにしても、飯田がもし捕縛されたらせっかくの先手が無意味になっちまう。速度の乗った飯田が1対2でもなんとかやりあえてるが、下手したらその均衡も崩れる。万一そうなったら逆に光鎧路が数の利で押されて、一気にヴィランチームが不利になるかもしれねえ。勝ちたいなら光鎧路は急ぐべきだな。逆にヒーローチームは芦戸の粘液が当たれば一気に逆転できる、切島の踏ん張りどころってとこか」

 吃音症の少年・赤熊はヴィランチームの取りうる行動を2パターンに絞り、ヒーローチームへ辛口な予想をする。

 そして春臣の行動から合流を予想する、くりっとした目と横幅のある口元でやや前傾姿勢の少女・蛙吹。

 轟はそれらを補足し両チームの勝ち筋をざっくりとまとめてみせた。

 さらに見学者が口々に意見を言うなか現場の戦闘は変化を迎えていた。

 

 

「オッラァ!!!!!」

「!」

 激震。

 飯田の蹴り足に合わせて切島がその拳を叩き込んだのだ。

 切島の硬度と飯田の速度が噛み合い、衝撃は飯田の脛のプロテクターに返り、ひび割れひしゃげた。

 目を見張る飯田。

「ハッハァー!!」

「カウンターとはやるな切島くん! だが!」

 瞬時に体をひねり、切島の突き出された拳を逆足で蹴り下げると、返す刀で胸元を蹴り飛ばし離れる。

 踏ん張りがきかず吹っ飛んだ切島は、位置取りをしくじったのかちょうど直線上にいた芦戸とぶつかり、からみ合って転倒する。

 当たりどころが悪かったのか、二人はすぐさま立ち上がることができずに何やらもたついているが、その隙を見逃す飯田ではない。

 プロテクターが損傷したせいで冷却装置が故障したのか、濁った排気音が下腿から発生していた。しかし飯田は構わず廊下を疾走する。長時間の戦闘に耐えられないと判断した飯田は、これで決めると言わんばかりの気合いの入った一蹴りを、立ち上がり振り向きつつある切島へと放つ。

 堅音。

 とはいかなかった。

 飯田の耳に届いたのは湿りを帯びたくぐもった重い音。

 脚から伝わるのは重く絡みつく泥沼のような感触。

「な!?」

 蹴り足が受け止められている切島の腕。

 飯田の脚を抱え抑えこむように掴んでいる切島の両腕は粘液に覆われていた。

 それは芦戸の個性による粘液だ。

 粘度が高く、かつ切島ががっちりを抑えこんでいるので脚を抜くことはできそうにない。速乾性まで備えているのかみるみるうちに乾いていき、もはや飯田の速度は殺されたも同然だ。

「うおおおお! っらああぁぁぁぁぁ!」

 切島の気合一閃、飯田の体が持ち上がる。

「な!?」

 雄叫びをあげたまま床に叩きつける!

 プロテクターの背面部が軋み腹部から背中へと伸びるパイプが歪む。さらに床面がひび割れる音が飯田の耳を叩く。

 このままでは良いように打撃され、いやそれどころか確保テープで巻き取られてしまうだろう。

 飯田の揺れる視界の中で芦戸が確保テープを取り出したのがわかる。

「ぐうっ……光鎧路くん、頼む!」

 瞬間。

 激音と共に天井が崩れた。

「ええぇっ!?」

「ぬあっ!」

 まったくの不意打ちにとっさに動けずその場に釘付けになってしまう切島と芦戸。

 もっとも切島に関しては、飯田を止めるためにすでに俊敏性を完全に捨てている状態ではあったが。

 反面あらかじめ打ち合わせしてあった飯田は両腕を交差させて頭部をかばう。

 崩音にまみれながら建材の破片に押しつぶされる3人。

 溢れかえる土埃が晴れてくると、その瓦礫の山の上には淡い超力場で包まれた春臣が立っている。視界を遮る土埃を巨腕の形をした超力場で振り払うと、足元の瓦礫をひとつひとつ拾ってはあらぬ方向へ放り投げていく。

 春臣の左前方で音を立てながら瓦礫が盛り上がると

「ぶっはぁ! 畜生なんだよ!」

 と全身硬化した切島が上半身を抜けだしたのだ。手元は完全に固まった粘着液と、飯田の脚を抑えこんでるせいで防御態勢を取れなかったのだが、彼にはとくに問題ではなかった。

「おつかれ」

「あ゛!」

 首元に確保テープを巻かれる切島。

「なにその手どうしたの。ってそれどころじゃないや、もうひとりがそこらへんに……」

 すでに敗北判定の切島を捨て置き瓦礫をより分けていく。この男、パートナーである飯田のことを全く気にしていない。

 すると物音がした。まるで泥流が発生しているかのようなずるずるという音だ。

 その音とともに瓦礫が滑り落ちていく。

「ぷはぁー!」

 接触している建材をどろどろにしながら芦戸が顔を出し一息つく。

 あのわずかな瞬間にとっさの判断で頭をかばい、さらに上半身から溶解度と粘度最大の体液を滲み出して防御したのだ。

 落下した瓦礫の衝撃は粘液が粘り強く受け止めそのまま溶かしてしまうから、それを貫通してくるわずかな衝撃を耐えれば良いだけだった。

 現に彼女の体には擦り傷ひとつついていない。ただ周囲に溶けた断面をさらした天井の建材があるだけだ。

「はいおつかれさん」

 芦戸が周囲確認し次の行動に移る前に手早く春臣は確保テープを切島と同じように巻きつけた。

「え? ああああーーーーー!!」

『WINNER……ヴィランチーム!!!』

 

 

「さあ講評の時間だ! 今回のベストは飯田少年だな!」

 切島と飯田に付着していた粘着物質は、すでに芦戸が中和させ問題なく過ごしている。

 消沈しているヒーローチームとは反対にヴィランチーム、とくに飯田はそのオールマイトの発言も相まってフルフェイスマスクをしていても感極まり、落涙していることが伝わった。

「一番目立ってたからっすか?」

 上鳴が軽く挙手しながら質問する。

「フムん? 飯田少年は目立ってたかね?」

「え、まあ……オフェンスに出て一番頑張ってたようにも見えたし」

 逆に問い返されて頬を指でかるくこすりながら自信無さそうにもごもごと応える上鳴。

「時間もまだあるし、みんなも思ったことを自由に発言してみてほしい! 間違いを恐れるな! 間違いという困難を乗り越えるのさ!」

 その言葉に触発されたのか波打つようにそれぞれが思ったことを口に出していく。

「飯田の猛攻も凄かったけどよ、あれにカウンター決めた切島もなにげに凄くね? 結局ダメージらしいダメージ入ってないっぽいし」

「芦戸ちゃんのアシストも光ってたわ……。最後の切島ちゃんとの連携でつけた粘液は飯田ちゃんの動きを封じ込めたもの」

「けどあれで切島は腕が使えなくなっちまった。芦戸が確保テープを巻こうとして結果的に一箇所に固まったから天井落としでやられたってことだろうし」

 峰田と蛙吹がヒーローチームを褒めるも、瀬呂が反論する。

 どことなくヒーローチーム側の視点に寄っているのは気のせいだろうか?

「そうですわね……。ですが私としては前線で動かれていた飯田さんよりは、最後の天井崩落までの絵図面を引いた光鎧路さんが影の功労者、いえMVPだと思います。」

「い、一理ある。だ、だがやは、やはりその策をじゅ、十全に活かすように動けた飯田がベストだった、と、ということじゃないか?」

「戦力の分散なんてある種の愚策で勝利できたのは、飯田の立ち回りがうまかったからだな。少しでもヘタを打ってたら芦戸に逃げられて各個に一対一の戦闘や、逆に2対1で飯田が負けるなんて展開もありえた。現に最後は捕まっていたくらいだ。芦戸は粘着液を設置罠にするか、最後のやつをもっと早くやれてたら、逆に2対1で光鎧路を相手にできて勝ってたかもしれねえ」

 オールマイトにこだわらず自分の考えを述べる八百万。それに同意しつつも要点を述べる赤熊。簡潔に戦闘の流れと反省点をまとめる轟。

 八百万、赤熊、轟に前試合での講評を論じた紙木城を合わせた4人がA組の推薦入学者だった。推薦枠に値するだけの目を持っていると言えよう。

 それらの議論にオールマイトは満足気に数度頷くと手を打ち鳴らし注目させる。

「皆も2回目で慣れてきたかな? 私が飯田少年を選んだ理由は概ね轟少年が言ったとおりさ! まあ出会って日も浅い急造チームに迅速で密な連携を求めるのは酷だが、現場ではそれが求められる場合も多々ある!! 今日それをやれるようになる必要は絶対ではないが、意識してみてくれよ! プロのお仕事ってやつをさ!

 それと次の試合から私は誰がベストだとかわざわざ言わないから、それぞれがよく考えてみてくれ! もちろん当事者たちもな!」

 飯田たち四人を待機列に戻るように指示するとオールマイトは手元の端末を操作しモニターの文字表示を変える。

 

 第3戦

 ヒーローチーム「障子+峰田」 vs ヴィランチーム「斎女+轟」

 舞台;ビルC

 

 

 3階建ての1階層、その大広間に立てこもるヴィランチーム。"核兵器"を設置しこれまでの2チームと同じく簡単な打ち合わせを開始する。

「轟くんの言うとおりに1階層に立てこもることにしましたけど、どうしますか? 索敵ならヤタを飛ばせば出来ますけど、その間は私はたまに直感が働くだけのただの少女です」

 轟が窓を氷結させ侵入口を部屋の扉に限定する。がちがちに凍りついた窓枠はよほどの高熱か貫通力でもなければ突破できないだろう。

「その鳥は飛ばさなくていい。やることは変わらねえ。ここで待ち受けて撃破するだけだ」

「ヤタです」

「ん?」

「ですから、その鳥、ではなくてヤタです。名前で呼んであげてくださいね」

 振り向きざまに指針を伝える轟に対して智満(ともみ)はそう言った。どう見ても柔らかな微笑みのにこやかな表情だが反論を許さない圧力が轟を苛む。

 ヤタもそんな主と同調しているのか轟へ鋭い眼光を飛ばしている。

「……ヤタは飛ばさなくていい。昨日そいつに乗ってたのは見た。終わるまで乗ってろ、危ねえから」

 轟の突き放すような声色。まるで、お前は手を出すなとでも言われているような印象を受けて、智満は訝しげな表情だ。

「もしかして轟くん一人でヒーローチームを相手するつもりですか? この子も戦えますが……」

「必要無い」

 ぴしゃりと断言する。その個性に相応しい冷たい声だった。

「まああなたがそう言うならお任せしますけど……」

 智満はヤタを巨大化させその背に乗る。ヤタは軽く羽ばたきホバリング。

 轟は緊張も弛緩もせず、ただただ自然体で入り口に正対し、鋭い眼光を飛ばしてヒーローチームをじっと待ち構えていた。

 

 

 モニタールームでは軽いどよめきが生まれていた。

 これまでのヴィランチームの行動がヒーローチームに対して、多少なりとも時間を消費させようとして上階に位置取りしていたこともあって、この行動は意外なものだったのだ。

「1階層に構えて時間稼ぎもしねえたあ男らしいな!」

 切島が拳を打ち鳴らし興奮したように言う。

「階段を登らせて体力の消費も狙わないなんて、よほど実力に自信があるのかな?」

「轟が部屋の入り口に真正面から向かって仁王立ちしてるし、自信はあるというのはそうかもしれない」

 春臣の発言に尾白が同意する。しかし尾白の表情は訝しげだ。自分が一方的に敗退したこともあるのだろうが、この対戦訓練がそこまで簡単なものではないと思っている。

斎女(いつきめ)ちゃんはヤタちゃんに乗っているし、どうするつもりなのかしら?」

 首を傾げる蛙吹。轟だけでなく智満の行動も彼らに謎だと思わせているが、音声が聞こえていればここまで不思議がられなかっただろう。

「轟くんの個性ってなんだっけ? 氷を出すんだったっけ? 床を凍らせればつるつるに滑らせられるね!」

 葉隠の発言に得心が行く一同。

 

 

 障子が触腕の皮膜を広げさらにその先端を耳状に構成し音声情報を拾っている。

 彼の個性は肩口から生えている皮膜ある2対の触腕に自身の肉体部位を複製すること。

 握力測定でその触腕を駆使し500キロをゆうに超過する記録を出したように、単純な力も兼ね備えており耳目複製による情報収集能力と合わせて堅実に強い個性と言えるだろう。

「1階層に一人。位置は南向きの大広間……それとかすかに羽撃く音もあるが足音はなし。おそらく昨日の持久走のように鳥に乗っかっていると思われる。どちらも動く気配はないな」

「余裕ぶっこいて1階層かよ。"核兵器"を守りながら戦うつもりか」

 峰田がそれを聞きどこか苛立つように返す。

「決めたぞ障子! オイラはあの巫女っぱいを……揉む!」

「無視するがどう攻める? 窓際に細工する音もしていたから、正攻法で正面から行くしかなさそうだが」

「悲しいぞ障子ぃ! 男ならあれを見て滾るものはないのか!! 大きく胸元を盛り上げてる巫女装束だぞ!」

 峰田が重ねてそう言うと障子はため息ひとつつき冷ややかな視線を送った。触腕先すべてに目を複製してまで送る徹底っぷりだった。

「あ、はいすいません、真面目に考えます。オイラの個性に攻撃力は無いからな。窓も塞がれてるなら横からもダメだろ。壁ぶっ壊して突撃もちょっとな。通信機はあるから塞がれてなければ入り口と窓から挟み撃ちなんてのも出来たかもしれねえけど」

 真面目に考え込む峰田に障子はやや見なおしたような顔をした。といっても先ほどの峰田の発言がヒーロー候補生としてあるまじきものであり、おまけに障子はその顔の下半分ほどを大きなマスクで覆っているので、他人からは顔色などはっきりわかるわけではないが。

「あの二人にトラップを仕掛けるような個性は昨日の時点ではなかったから、正面から出会い頭で出たとこ勝負ということになるな」

「おう、オイラのこいつで身動き取れなくすれば"核兵器"にも楽にタッチできるぜ」

 自信ありげに自分の頭部に生えている玉をぶにぶにと軽く叩く峰田。

 彼の個性はその玉をもぎ取り相手に投げつけることにある。それは本人以外に凄まじく粘着力を発揮し、健康状態にもよるが、絶好調ならば丸一日剥がれないという優れものなのだ。

 ヴィランを穏便に取り押さえられる可能性があるという点でとてもヒーローとして役立てる個性だろう。

 それを掴みとる峰田のグローブがなぜ無事かというと、その掌部位は玉の成分を分析し粘着しないようにできているからだ。サポート企業の脅威の技術力が光っていた。

 方針を決めた二人はビル内部へと侵入し、障子の触腕でつねに周囲の注意を怠ること無く確認しながら廊下を進み、正面の部屋へと臆さず向かう。推測通り罠が設置されているということもなく、二人は何事も無く扉前へ到着した。

 二人は目配せし頷き合う。

 峰田は頭の玉をもぎ取り両手で構える。玉はもぎ取った瞬間から生え変わり、見る見るうちにもぎ取られた部分と同じくらいの大きさへと成長し止まる。

 それを確認すると障子は勢いをつけてドアを蹴破り突入した。

 次の瞬間障子が見たものは、凍りつき煌めく部屋内部と、自分の胸元まで覆っている厚い氷。

 それは正面に佇む轟から発生しており、その横で大鳥に乗って浮遊している智満は驚きの表情だった。

 障子の隣の峰田などは、投擲体勢のまま頭のてっぺんまで氷漬けにされていて、まるでなにかの氷像のようだ。

「~~~~~~っ!!?」

「ヒーローチームはもう身動きできねえけど、確保テープを巻く必要はあるかい? 先生」

『……ムウ。WINNER……ヴィランチーム!!』

「うわあ」

 思わず智満がそんな、若干引いたような声を漏らすが、部屋中が、いや廊下すら厚い氷に覆われており、目の前には完全氷漬けとほぼ氷漬けのクラスメイトが二人。しかも4月に吐く息が白くなるほど室温が下がっているのだ。無理もない反応だろう。

 そんな智満の反応を知ってか知らずか、轟は峰田氷像に左手を触れると加熱し解凍していく。激しい蒸気が発生する。

「熱まで操るか……」

「解凍手段が無えのにクラスメイト相手にこんなことはしねえさ。まあ悪かったな。レベルが違いすぎた」

 無事解凍作業が終わり、オールマイトの迎えでモニタールームに戻ってきた4人。

「講評……することあるかな? 無いよな!? 私にはちょっと思いつかないぞ!」

 新米教師オールマイトはぶん投げた。だがそれに生徒から異論が出るようなこともなく授業は進んでいく。

 

 

 第4戦

 ヒーローチーム「上鳴+砂藤」 vs ヴィランチーム「青山+紙木城」

 舞台:ビルM




つづく
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