僕のヒーロー(オリキャラをそれなりにぶちこむ)アカデミア 作:チョコラータ・フォンドゥータ
舞台はビルM。地上7階建て、地下3階建ての大型ビルだ。
ヴィランチーム、
ばらまかれた紙々は風に巻かれるように吹き上がり、建物内部の床、壁、天井を所狭しと貼り付いていく。
「いきなり個性を使ってるけど、君はそれで何をするつもりなんだい?」
洗練されたしなやかな身振りで青山が紙を噴き出しながら前進する紙木城へと問う。
「設置罠よ。私は自分から出した紙ならなんでも出来るから、いつ? どこで? 何が? どのように? 紙に触れたかを把握できるの」
「ン~~~……凄くない?」
「そうね。そうなるように訓練を積んだもの」
青山の賞賛に紙木城は当然だと言わんばかりに返す。情報量が多すぎると捌き切れないことは黙っておく。情報は取捨選択が大事。
「それと勝手に決めるけど"核兵器"はこのフロアに置くわ。入り口から廊下を一直線で結ばれている大広間。貴方の個性を考えてもおそらくそれがベストでしょう?」
「スーツに仕掛けがあるけどネビルレーザーは直進しかしないからね☆ で。その部屋に置く理由は教えてもらえるのかな?」
前髪を手で流すように払いながら青山が得意げに言う。
「純粋に時間を掛けたくないからよ。上階にもばらまいて、彼らが設置部屋に入った瞬間紙束で挟み撃ちにして、その隙を貴方の光線で打撃してもいいけど、それはどの階層でもやれること。ならここでもいいでしょう?」
「なるほど、轟くんと似たような感じってことだね。じゃあ僕は砲台に専念すればいいのかな? 正直殴り合いは美しくないから苦手だし」
「異論が無いようだから安心したわ」
諒解が得られたので紙木城は"核兵器"を設置する。
そのまま窓に手のひらを向けると、そこから紙が何枚も射出されてべたべたと貼り付き、外からでは中を覗けないようになっていく。さらに頬や首筋、手の甲、指、とにかく露出されている皮膚表面から先ほどと同じようにほつれ、紙が凄まじい勢いでばらまかれ部屋中を埋め尽くしていく。
「さっきの轟くんと似たような感じだね」
「そうね。彼が相手じゃなくてよかったわ。氷漬けにされたら面倒だもの。……貴方のビームも厄介だと思ったからチームで良かったわ」
「お褒めの言葉を頂き光栄だね☆ それじゃあ窓は破られる可能性もあるってことかい?」
自分のビームが厄介なら、その紙の壁も相手次第で貫通できると言っているようなもの。ゆえに青山は入り口に正面から注視するか、窓側にも気をつけるべきか確認のためにそう質問する。
「昨日のテストからすると、あの二人にそれほどの出力は無いと感じたわ。それに中から塞がれた窓を侵入口にしようなんて、よほどの実力がなければ実行しないでしょう。だから正面を向いていればいいと思うわ。でも万全を期すのなら臨機応変に対応できるようにはしてちょうだい。例え壁や天井を突き破って突入してきても無数にばら撒いた紙々があるから超パワーがあろうと数秒なら拘束してみせるから」
「フフッ、肩からも発射口はあるから任せておき給えよ☆」
かくしてヴィランチームの準備は整った。
一方ヒーローチーム。
「なんか……すげえいっぱい紙が貼り付いてる。これ絶対ヤベーやつじゃん?」
「見渡す限り紙、紙、紙か。上鳴の電撃で燃やしたりできねえの?」
入り口からべったべたに紙だらけな内装に若干引き気味な二人。
砂藤が上鳴に過激な提案をしているが、それは上鳴から燃やせる紙かわからないし、まず放火はヒーローとしてダメだろということで却下された。そのままビルの外壁に沿って何か手はないかと探りながら一周して再び入り口へ。
「もうなんつーか完璧主義! って感じだったな。なにあれパラノイアか!」
「窓にも隙間なく紙を貼り付けるとは……さっきの轟のやつに触発でもされたかねぇ」
考えこむように沈黙が二人を包む。刻々と時間は過ぎていく。
「けど多分あの部屋だろ。どうする? お前なんかこー壁ぶち抜いたりしねえ?」
「やろうと思えばブチ抜けそうだけどよー。ヒーローが自発的に公共のって設定の建物ぶっ壊すのはダメだろ」
「いやでも相手は一応"核兵器"持ってるテロリスト設定よ? 多少の損害は必要経費のうちじゃねえかな? どうよ」
「そう言われるとなあ~。やっぱ中の様子がわからねえとなあ。でも入り口からだと、このどう見てもやばい紙地獄突き進むハメになるか」
「…………」
「…………。やるか」
「やろう」
二人は足音を忍ばせて紙が貼り付けられている窓のそばまでやってきた。
砂藤はタブレットを取り出しそれを含む。それは砂糖を固めたもので一粒10グラム。彼はそれをスーツの付属物のケースに複数粒保管できるよう要望を出していたのだった。
砂藤の筋肉が見てとれるほどにパンプアップし引き締まっていく。
彼の個性は糖分10グラムでパワーを5倍に増幅し、それを180秒維持することだ。だがその反動は大きく、使えば使うほど脳機能が低下していき、徐々に活動が困難になっていってしまうという恐るべきものである。
「!」
力を込める声も奇襲のために抑え無言で壁へ体当たりする。
コンクリートが粉砕される音とともに大穴があき、砂藤は勢いそのままに部屋へと侵入を果たす。突撃した砂藤に遅れることなく上鳴が続く。
正面入り口を注視していたヴィランチームは完全に不意を突かれた形になったが青山は即座に行動した。
姿勢をそのままにビームを展開。スーツに仕込まれたギミックによりその光の奔流は肩口の特殊部品から照射され砂藤へと直進する。
砂藤はそれを跳躍して回避! だがそこで彼は無数の紙束に阻まれ、それらに絡みつかれながら床へと落下する。なんとか身をひねり足裏で着地し勢いを殺すもその数秒の硬直が命取りだった。
紙木城の手捌きで部屋中の紙々が躍りかかり次々に砂藤を襲ったのだ。その紙吹雪は八方から吹きすさんでおり、さながら紙の竜巻だった。
それらは見る間に彼の体中に何枚重ねにも貼り付き肉体を締め上げていく。竜巻が止むとそこには顔だけ出した紙の雪だるまが出来上がっていた。おそらく紙の厚みは数十㎝にも及んでいるだろう。
「ふっぐぐぐぐ! ぐぎぎぎぎぎ!!!!」
砂藤は根限りの力を込めて脱出を試みるが紙の拘束力は硬く微動だにできない。
「まさかヒーローが建物に大穴開けて突入してくるとは思ってもみませんでした。これは私の反省点です。ですが2、3枚程度を貼り付けただけの壁面は突破できても、その紙だるまを破壊できるとは思わないでください。厚みが違いますので」
紙木城は告げるともう一人、上鳴へと目を向ける。
青山は核兵器へ近づけさせないようにと位置取りしビームを発射してるが、上鳴も発射口丸見えな直線的な攻撃を食らう理由もなくカウンター気味に電撃を放っているのだ。
ビームを回避し電撃を放つが回避される。およそ千日手と呼んでもよさそうな戦況がそこにあった。
紙木城や競り合ってるお互いに知るよしもないが、青山はそのビームを長時間照射するとお腹が下ってしまい行動不能になるという致命的な欠点があり、かたや上鳴も帯電許容量をオーバーすると脳みそがスパークして一定時間アホになるというどうしようもない反動があった。
そういう意味でも恐ろしい勝負と言えよう。
「…………。」
紙木城は無言でその良い勝負な対決を一瞥すると再び紙吹雪を起こす。
乱舞するそれに視界を奪われる上鳴。
「ンだ!?」
囲まれるとやばい。紙だるまになってしまった砂藤のようにならないために、彼は周囲に展開する紙々へと電撃を放つ。
上鳴の全身が発光し放電する。
しかし紙木城はそれを見ても紙さばきを止めない。
「くっそーーー!!!」
帯電していても意に介さず紙が次々と上鳴の体を覆っていく。すでにその足元を床と固定され動くことすらできなくなっている。
そんな上鳴の様子を紙木城が、すでに王手がかかっているも同然なこの状況で、全く気を緩める気配もなく冷たさすら感じる視線で見つめている。
青山も油断せず上鳴から視線を外していなかったが、それとはまったく種類の違う強さの込められた視線だった。
「どうやら紙の引火点まで熱量のある電撃じゃないみたいね。少し、ほんのちょっぴりだけど焦ってしまったわ。これも反省点。耐火紙を作れるようになるのが今の私の課題」
そして紙だるまがふたつ出来上がった。奇しくも先ほどの試合と似たような光景だ。
『WINNER! ヴィランチーム!!』
○
「さて、皆はどう考えたかな?」
その問いかけに静かに挙手する生徒たち。
「では常闇少年の意見を聞いてみよう!」
オールマイトの指名が飛ぶと、それまで林立していた腕が下がる。常闇はそれを確認するとそのくちばし状の口を開いた。
「恐悦。紙木城が初手から紙を室内に散乱させ、準備を怠りなく入念に済ませていたのが印象的でした。モニターから見る彼女の個性からすると、あれをされたら手数で上回らない限り挽回する術は皆無かと。
二人とも"核兵器"配置部屋の入り口を注視していたことから、そこから誘うことを想定していたと想像します。だがヒーローチームはそことはまるで違う壁面から奇襲気味に突撃してきた。にも関わらず冷静に対処できていた青山と、その攻撃で姿勢を崩した砂藤を見事捕獲せしめた紙木城の急造とは思えぬ連携も驚嘆しました。おそらく青山の個性がシンプルでやれることが限られていたから生まれた連携だったと考えます。以上です」
「サンキュー常闇少年! 要点がわかりやすかったぜ! 青山少年はうまく"核兵器"を守る位置取りで上鳴少年を牽制していたってのも見どころだったな!
そしてヒーローチームも決して不手際があったわけじゃあない! 入り口から罠の気配を察して回避したことや、建物の壁を壊して突入する思い切りの良さとかな! 砂藤少年の突入にきちっと遅れず対処できた上鳴少年も光るところを見せた! 文字通りな! HAーHAーHAー!」
惨敗といえる内容だと感じていた砂藤と上鳴は、そんなオールマイトの講評を受けて若干ながらも心が沈み込むのがおさまったことを感じる。訓練での失敗や敗北はそれすなわち糧なのだ。
「さあどんどん進もう!」
第5戦
ヒーローチーム「口田+赤熊」 vs ヴィランチーム「蛙吹+爆豪」
舞台:ビルG
○
「どこに"核兵器"を設置しようかしら? 爆豪ちゃんはなにか考えはある?」
正確な立方体をした三階建てのビルGの正面入り口廊下で蛙吹は爆豪へと問いかける。
「あ? そんなもん天辺以外のどこにあんだよ」
ぶっきらぼうに応え、そのまま蛙吹の意見など聞く必要は無いとばかりに上階への階段を進む。蛙吹はケロと一つ鳴いて後をついていく。
爆豪から放射されているぴりぴりとした気配が空気まで張り詰めさせてるように感じるが蛙吹は気にせず歩を進める。意見交換など全くなされないまま最上階に辿り着き、爆豪はやはり何も言わず一人ずんずんと大部屋へと進み、後ろにいる蛙吹に顎をしゃくり無言で指示する。
「…………。爆豪ちゃん、指示は言葉にしないときちんと伝わらないわよ」
「るっせえ。いいからさっさと置けよカエル女」
"核兵器"の設置完了すると蛙吹は爆豪へ向き合い口を開く。
「なにか作戦はあるかしら? 私としてはこの部屋で防衛するのが良策だと思うのだけど」
「ハッ! ひとつかみいくらのモブがヤリそうなことはやらねえよ。打って出て実力でボコればそれで終いだ」
爆豪が獰猛な声色でそう言うと他にもう何も伝えるべきことは無いと思っているのだろう、身を翻し肩を怒らせて部屋を出て行く。
組み分けで出来た急造チームとはいえ仲間を仲間とも思っていない態度だ。自分の実力に絶対の自信を持っているのだろう。例え誰が相手だろうと負けはしない、絶対に勝つと。
残された蛙吹はただケロ……。と一鳴きするだけだった。
ヴィランチームの意思疎通が上手くいってないということを知るよしもないヒーローチームは建物前でなにやら相談していた。
「さ、さてどうせ、攻めるか……。こ口田は、な、何か考えはあ、あるか?」
赤熊がビルを見上げながら自分のパートナーの口田にそう言った。
"僕の声が届く範囲に鳥がいるかもしれないから、まず呼びかけてみるね"
口田が手話めいた手振りでそう告げると、口を大きく開き個性を使い動物へと声を投げかける。
「翼にて昼の空を翔けるものたちよ、聞こえますか? もし聞こえているならばすぐに私の元へとやってくるのです」
口田の個性は呼びかけることで動物たちを自分の思うように操ることが出来るというものだ。しかしそれは彼の声の届く範囲の動物にしか作用しないため、付近にいなければまずなんの反応も現れない。同じ口上を2,3度繰り返すとようやく3羽ほどの鳩が羽ばたいてやってきた。耳慣れた羽音と共にそのまま口田の足元に着地するとそれらは彼を見上げ首をかしげつつ鳴く。くるっぽー。
"あたりにはこの鳩くらいしかいないみたい。この鳩たちにビルの中を覗いてもらおうと思うよ"
「たの、頼む」
頷くとその通りに鳩へと命じて飛ばす。鳩たちはそれぞれ飛び立ちビルを何周かすると口田の肩に止まり耳元で鳴いて伝える。口田は聞き終えると礼を言い鳩を解放した。
"蛙吹さんと"核兵器"が最上階にいるって言ってた。あと爆豪くんは階段を降りてきてるらしいよ"
それを聞いた赤熊は困惑する。
「せ、戦力をぶ分断したのか。ど、どうしてそんな真似をし、したのだろう? 打ってで、出るつもつもり、か……。まあいい。ならばお、俺は壁面をのぼ登って目的地へとちょ、直接行く。か"核兵器"のタッチね、狙いだ。口田はばく爆豪に警戒しながら、ひき引きつけておけるか?」
"自信ないけど頑張るよ"
弱気な目だが、しかしやれるだけやってみるという決意を込めた手振りを残し、口田は入り口からビルへ慎重に入っていった。
赤熊はそれを見届けると、口田の気合いに自分も負けぬようにと深呼吸し肉体を変形させる。
腕の筋肉が張り詰めていき、そして伸長していく。手指と手のひらに無数の吸盤と細かい鉤爪が表れる。赤熊はそれを壁面にぴたりと押し付けると吸い付くように貼り付いた。さらに脚の筋肉が盛り上がり獣脚状になっていく。右足の先を同じく吸盤と鉤爪で揃えると壁に吸い付かせる。そして左足も同じようにしてから数度体を揺すって固定具合を確かめると、一歩一歩しっかりと吸着させ90度の登攀を開始した。
口田が薄暗い廊下を足音を立てないように進むと階段が見えてきた。辻になっており死角ができている。口田は爆豪が階下へ降りてきていることを注意しながらそっと階段へ近づいていく。
「よう」
ゆっくり顔を覗かせるとちょうどそこには爆豪がいた。
口田は即座に顔を引っ込め後退する。肉食獣のように爆豪が姿を現し、そして一度あたりを見回すと睨みつけるような鋭い目線で口田を射抜く。
「あ? 一人か……。まあいい手始めにてめぇを血祭りにあげてやる!!」
爆豪が巨大な手榴弾じみた籠手で固められたグローブの手のひらを連続で炸裂させ威嚇する。起爆物質が焼けた臭いが漂ってくるが、口田は両腕で顔面をかばうように軽く交差させて一歩後退る。目はそらさない。
「死ね!」
左手を後ろへ向け起爆。その爆破で生じた衝撃を推進力に口田へ突撃する。口田はそれに満足に反応しきれずただ横っ飛びに回避するしかできなかった。
爆豪の振りかぶった右腕による爆破が壁面を穿つ。飛び散る破片とこびりつく煤。それを見た口田から言葉を失わせるには十分な火力だった。
「生意気にも避けやがんのかテメェ!」
口田が立ち上がるとすでに爆豪は腕が届く距離にまで接近していた。面前に見えるのは振りかぶる爆豪の姿。回避できないと判断した口田は両腕を重ねあわせ顔面を防御する。同時に炸裂音。
「ぎっ!?」
重量級の体が衝撃で揺れる。だが爆豪の攻撃はそこで終わらない。そのまま左手を振りかぶり叩きつける。響く炸裂音。その爆破の勢いで押されぬようにしっかりと両足に踏ん張りを利かせる爆豪。
「オラオラオラオラ!!!!」
「~~~~~っ!!」
絶え間ない左右の連打。それを受ける両腕の皮膚の焼ける痛みとその焦げ臭さが鼻を刺激し、さらに鼓膜を打撃するような炸裂音が連続する。だが口田は引かない。硬く閉じた目尻からはうっすらと涙が滲んでいるが、まったく怯むこと無くその場でじっと我慢している。
口田が反撃しようにも爆豪の連打が途切れずにその隙を見つけられないのだ。ただ嬲られるだけの一方的な展開。
「うざってぇな! このクソデカブツが!! いい加減沈めやっっ!」
爆豪が吠えるとさらに回転が上がり爆破間隔も短くなる。心なしか火力も上がっている気さえする。
いやそれは口田の錯覚ではない。実際に上昇しているのだ。
爆豪の個性とは、その手のひらから分泌する液状の起爆物質を発火させるというもの。彼の体温が高まればそれに比例して分泌量も増加するのだ。威力は尻上がりに上昇していくだろう。
すでに口田のうめき声すら聞こえない。この蹂躙劇は口田が倒れるまで続くのかと思われたそのとき、爆豪の耳へ切羽詰まったような声音の通信が飛び込んできた。
『爆豪ちゃん! 敵襲よ!』
「あ゛あ゛!?」
『私ひとりじゃ抑えきれないわ! 早く戻ってき』
肌を鞭打つような音を最後に通信が途切れる。
「どっかでこそこそ隠れて狙ってやがるのかと思ったら……こいつら、舐めやがって!!!」
爆豪の体がわなないている。自分を無視されたことに苛立っているのだ。その鬱憤をぶつけるように、ダメ押しの一撃で口田を爆撃すると、その爆破反動に乗り階段へと加速する。
口田はそうはさせじと腕を伸ばすが、火傷の痛みと衝撃で体が痺れていてうまく力が入らない。それどころか涙で滲んだ視界と炸裂音でやられた耳では満足に動くことすら難しい。
彼が廊下に膝をつき倒れるのと同時に、爆豪は爆破で一気に一階と二階をつなぐ踊り場へと飛んだ。この跳躍力なら1分とかからずに最上階へと辿り着くだろう。
口田は心身に悔しさを充満させながら震える指で通信機をつなげる。
「ごめん赤熊くん、爆豪くんを抑えられなかった。そっちに向かっちゃったよ……」
赤熊は一人壁面を登り最上階窓枠の上部に位置取りすると、脚部を槌状に変型させて伸長させた腕による振り子の動きでガラス窓を蹴り割って突入した。手足を元通りに戻しつつ、乾いた破砕音と共に部屋へと侵入を果たすと蛙吹の大きな目と目が合う。
即座に腕を1メートルほどの鞭状にしならせ叩きつけた。
跳ねるようにそれを回避し蛙吹は赤熊へ素早く舌ベロを射出するが、その攻撃は姿勢を低くした赤熊には当たらなかった。舌ベロが口内へと戻るが早いか赤熊が個性把握テストで見せたような獣脚へと変型させ突っ込んでくる。
「ケロ」
飛び跳ねてその直進を回避すると振り向きざまに赤熊の背中めがけて舌ベロを再度射出。惜しくもそれは赤熊の腕にはたき落とされ拘束することはかなわなかったが、その射出速度を警戒した赤熊はすこし離れ距離を取る。そしてまたもや肉体を変型し始める。
「爆豪ちゃん! 敵襲よ! 私ひとりじゃ抑えきれないわ! 早く戻ってき」
決して油断していたわけではないが蛙吹は赤熊の蹴りを回避できなかった。
さきほど赤熊が見せた腕を鞭状にする攻撃、それと同じことをただ足でやっただけだ。それだけだが腕の一撃より速度も威力も段違いだったのだ。
正面から注視指していたにも関わらず脇腹に赤熊の脛蹴りが痛打する。低い呻きをあげて吹っ飛び、壁にたたきつけられそうになったが、なんとか痛みに耐えながら体勢をぎりぎり立て直すと、蛙吹はそのまま四つん這いの姿勢で壁面へとへばりつく。肘と膝の関節を柔らかく動かすことでその衝撃を和らげた。吹き飛ばされた衝撃のダメージはうまくやり過ごすことに成功していた。
その隙に"核兵器"を確保しようと向き直る赤熊。階下から怒声と炸裂音が聞こえてくる。蛙吹が通信機へ叫んだ数秒後に口田から震える声で知らせがあったのだ。爆豪が怒りとともに向かってきている。
しかし早期決着のため"核兵器"を確保しようと蛙吹へ背中を向けたのが赤熊の油断だったろう。その腰にぐるりと蛙吹の舌が絡みつくと引っこ抜くように持ち上げられ天井へとたたきつけられた。
「むっ……!」
衝撃で視界が揺れる。
しかし追撃が入る前に彼は天井に両手を穿ちぬき固定する。とはいえそのまま蛙吹と引っ張り合い、力比べをするつもりなどない。
彼は深く呼吸すると瞬間的に胴体を風船のように膨張させ、かと思えばその直後に今度は逆にまるでナナフシのように細くなる。その幅の落差で出来た隙間からぬるりと滑るように、しなやかに体を操作し舌から脱出を成功させた。
「痛いわね赤熊ちゃん」
「こ、こちらもわ割りと必死なのでな。こ、口田のためにもまけ、負けられん……」
蛙吹が攻めるように言う。拘束するために舌ベロを締め付けていたのだが赤熊が膨張したときに想定以上に引っ張られたことにより口内の根本がひりひりと痛むのだ。
赤熊が天井から落下しふわりと足音無く着地させると
「よくもナメくさってくれたなクソひょろ長ァ!!!!」
扉を爆破させながら爆豪が部屋へと帰ってきた。
自分を無視されたことに腹を立てているのか、その目つきの悪さが普段よりも増してまるで犯罪者かと思わされるような表情になっていた。
「死にさらせ!!」
爆発を推進力に赤熊へと突進する爆豪。
口田へやったのと同じ攻撃を放つが、赤熊は跳ぶ爆豪より高く跳ねてそれを回避。同時にスタンプするように蹴りを放つ。しかし爆豪はすでに前転しており赤熊の蹴り足は爆豪の髪の毛を数本散らすことしか出来なかった。
「めん、面倒だな、き、貴様」
「黙って死んでろ!!!!!!」
蛙吹は軽く言葉を交わし合い正面から打ち合う二人を見ながら、赤熊の隙を探るように周囲をぐるりと回りこんでいる。赤熊は腕を槌のように膨張変型させ、爆豪の爆撃に怯むことなくその打撃を前腕部を外で押し出すようにしていなし、カウンター気味に胴体へ横蹴りを放つ。
爆豪はそれに痛痒を感じないかのように振る舞い連打をやめない。だが宝石がはめ込まれているような赤熊の青い目は、その猛攻を見切っているのかいないのか判然としないが爆豪の打撃をかわし、いなし、その都度爆豪の胴体へど拳打や蹴りを当てていく。
眼前で何度も炸裂している爆豪の爆破を恐れている様子は微塵もなく赤熊の表情は小揺るぎもしていない。
だが爆豪もやられっぱなしですませるほど大人しい男ではなかった。
赤熊の手捌きを何度も目の前で見てるうちに目が慣れたのだろうか、ついには自身の右腕の攻撃をいなした瞬間の赤熊の左腕をとらえたのだ。
「おっらぁ!!!!!!」
爆破。
肉の焦げる臭いが赤熊と爆豪の鼻をつく。
赤熊の表情がほんの少し歪むと爆豪の顎を勢い良く蹴りあげる。
呻きを挙げて掴んだ腕を離してしまう爆豪。唇を切ったのか口元から一筋の流血が認められる。
赤熊は大きく飛び退き距離を取ると左腕の被弾箇所、手首からやや肘側へ近い部位に目を向ける。焼け焦げと火傷特有の皮膚の引きつりが生じておりさらに肉が抉れて血が滲んでいた。
「すさ、凄まじい威力だな。か加減しているようだが、や、焼き切られるとはおも、思っていなかった」
痛みを感じていないのか平然とした口調で言うと、赤熊のその傷口は瞬時に盛り上がり再生する。真新しい肉の色はすぐに馴染んで継ぎ目も見当たらず、それが一度爆破された腕だと思うものはおそらくいないだろう。
「あ、足をとめ止めての殴り合いはぶ分が悪いか。か数の不利もあ、ある……」
赤熊の言葉など聞く気のない爆豪はすでに駆け出していた。それに合わせて蛙吹も接近し、舌ベロを射出していたが赤熊の姿をとらえることはできなかった。
赤熊は直上へと飛び立ち爆豪の攻撃も回避する。足場となった床はひび割れめり込みができていた。跳躍時の踏み込みの威力がうかがえる。
爆豪はそれを読んでいたのか、ただの反射か、それとも天性の勘の成せる技なのか、空振りした爆撃をそのまま推進力へ転用し赤熊を追跡する。
だが赤熊はそこで止まっておらずさらに天井を蹴り飛ばすと斜めへ加速しそれを回避する。天井もめり込み砕け、その細かい破片が爆豪へと落ちかかる。赤熊から二人へ反撃する気配が無い。
赤熊はそのまま床、そして天井、さらに壁へと飛び跳ね徐々に加速していき爆豪と蛙吹の目を撹乱する。
筋肉を増加凝縮した手足を駆使し、縦の動き、横の動き、斜めの動き、軌道は不規則を心がけて一定の動きは見せない。予測をさせないための動きだ。
爆豪や蛙吹がそれをなんとか撃ち落とそうと動くも、回避と高速軌道に専念した赤熊に触れることはおろか、着地点に近づくことすら至難の業であった。
コンクリートが割り砕かれる音が連続し、それが徐々に速度を上げて遂には連なる打音となる頃には二人の目にはただ線が流れていくように見えていた。
「す、すまんな、あす蛙吹。い、痛いぞ」
その声が聞こえたときにはすでに、蛙吹の腹部……みぞおちに赤熊の掌底がめり込んでおり、蛙吹は返答どころか反応も呼吸もできず吹き飛ばされた。その先には爆豪がいる。
「当たるかこんなもん!」
言うように慣性が乗った蛙吹を軽々と回避する。だがしかし、それとほぼ同時に赤熊が突っ込んできたのは見切れなかったのか、腹部に蹴りを受けてしまう。
「げほっ」
空気を吐き出しつつも、爆豪は反射的に右腕を振るい赤熊の顔面を爆撃する。
しかし蹴りの威力までは左腕で相殺できなかったようで、そのままに吹き飛ぶとその先には蛙吹が転がっており、彼女に追突するとそのまま壁面までもんどりうって二転三転し、止まる。
蛙吹は失神したのかぴくりとも動かないが、爆豪は痛みに歯を食いしばって堪えながら起き上がろうとしている。膝はがくがくと震えていた。
だが赤熊は大きな火傷を残す顔面でそれを見届けると、床を一蹴りして跳び"核兵器"直上の天井へ着地し、触れた。
『WINNER! ヒーローチーム!!』
○
失神したままの蛙吹は、雄英高校が誇る技術の粋のひとつである小型搬送用機械「ハンソーロボ」が丁重に保健室へと運んでいく。お互い言語で行動確認しているのは、おそらく人間へ伝えることも目的とした開発者の配慮であろうか?
それを心配そうに見つめる口田の腕の火傷も相当なものだが、自分の試合の講評とあと残り1試合とその講評の10~20分くらいなら我慢できるとオールマイトに告げ、そのまま4人がモニタールームへと戻ってきた。
モニター前にオールマイトとともに並ぶ3人の生徒を見ると、すでに赤熊の顔面の火傷は腕と同じく完治していた。爆豪は俯き黙りこんでいる。
「さあ皆の意見を求めるぞ!」
「うぉっす!」
オールマイトが言うが早いか挙手する切島。
「では切島少年に聞いてみよう!」
「俺がベストだと思ったのは赤熊っす! 壁よじ登ったり爆豪と殴りあったりすげえ動きしてたり、とにかく派手で最後も"核兵器"を確保してたんで!」
殴り合いを見て興奮したのか切島がやや大きな声でそう言う。それにオールマイトは頷くと
「うんうん、たしかに赤熊少年はチームを勝利に導いたと言えるだろう! ありがとう切島少年! さてほかになにかある者はいるかな!?」
再び意見を求めた。ほかに何人かの挙手があり、オールマイトはその中から八百万を選ぶ。
「はい、オールマイト先生。私は口田さんを推しますわ。
赤熊さんが登攀して窓から侵入できたのも、口田さんが上手く鳩を使って内部の情報を獲得したからでしょう。独断専行で階下へ降りていた爆豪さんの存在も知れていたのならば、戦力が減少した"核兵器"側へ手早く攻め込み短期決戦を挑むのは挑戦的でしたが良策だったと思います」
一呼吸し彼女はまだ続ける。
「もし口田さんの情報収集がなければ、ヒーローチームは一階で爆豪さんに釘付けにされて時間切れがあったかもしれません。赤熊さんも最後は俊敏かつ立体的な動きで圧倒してはいましたが、ヴィランチームを完全撃破までは出来ずに"核兵器"を優先的に確保しての勝利ですから、口田さんの得た情報はとても大きな利点をもたらしたと思います。
爆豪さんの独断と口田さんの個性が噛み合った結果がチームの勝敗を分けたと私は考えます。以上ですわ」
「ありがとう八百万少女! 彼女の言うように口田少年は小さいながらもとても大きなことを成した! 残念ながら会敵してからの戦闘では防戦一方だったが、それも赤熊少年が侵入するのに十分な時間を稼げていたからね! 戦闘で負けたとはいえ無闇に沈み込む必要はないぞ! 要はなにが目的なのか? を考えて行動し、チームにどのように貢献するのか? だからね!」
オールマイトがまとめ、3人を待機列へと戻す。爆豪は終了から今までの間ずっと張り詰めた表情のままだった。
第6戦
ヒーローチーム「緑谷+葉隠」 vs ヴィランチーム「麗日+瀬呂」
舞台:ビルI