浅黒い肌で茶髪の男が俺達の姿を見て、ギョッとする。
まさに毒を流している最中で、俺はまさに、その現場に出くわした。俺はそのまま睨みをきかせながら――。
「おい、どうする? 今ここで俺に討伐されるか、許しを請うか?」
「……えっと、なんでしょうか? いきなり。というか、ここは立ち入り禁止ですよ? どうやって入ったんでしょうか?」
「しらばっくれんなよ? おい、今ここで、殺すのだって簡単なんだぞ」
そう言って、俺は片手を前に突き出す。見た目的に俺はどちらかと言うと、剣を使うソードマンとかソードマスターだろう。
だが俺が片手を前に突き出した事で、絶対に警戒はしたはずだ。
向こうも、ピクッと眉を動かす。
「何なんですか? 本当に、今すぐに騎士団を呼びますよ?」
ほう? もし、彼が魔王軍だとしたら……。なんて思っていたら、後ろから他の連中も来る。一番最初にアクアが。
「あー!! アンタが、犯人ね!!」
「あれ? ……どこかで見た気が……?」
ウィズが反応する。やっぱりな、アイツが魔王軍の可能性がほぼ100%になったな。浅黒く茶髪の男が少しだけ、挙動不審になり初めて。
「あ、ここには調査に来ただけなので……私はここで……」
「ああー!! ハンスさん! ハンスさんじゃないですか!! お久しぶりです。私ですよ、私! リッチーのウィズです!」
ハンスはジーッと見ているウィズをチラッと見て。
「えっと、リッチーってあのリッチーですか? あの超危険な、いやぁ、私の知り合いにそんな人は、それに毒も持ってませんしね」
「あ、毒と言えば! ハンスさんはデッドリーポイズンスライムの変異種でしたね! ひょっとして、ハンスさんが源泉に毒を?」
ハンスの言い訳を次々と潰してく、ウィズ。なんというか、怖いね。こうやって次々と、無自覚なんだし。
「ねえハンスさん! 先程からどうして無視をするんですか? そういえば、ハンスさんは擬態ができましたよね? もしかして、管理人のおじいさんに擬態して、ここまで来たんですか?」
そうやって揺さぶるウィズにハンスは意地でも知らないふりをする。そして逃げ出そうとしたら。
「どこへ行こうと言うのだハンス」
「ここは通さないわよハンス」
「そんな言い訳を通じると思ってるんですかハンス」
表情を引きつらせて、下がるハンス。
「悪あがきはやめろハンス」
「お前はもう既に、逃げ場はなくなってるんだよハンス」
「ハンス、ハンスと! 気安く呼ぶんじゃねぇ! クソ共! それよりウィズ! お前、店を構えるんじゃなかったのか!? 温泉街うろついてないで、さっさと働けェ!!!」
「ひ、酷い! 私だって、頑張ってるのに……働けば働くほど貧乏になりますけど……」
「ったく、お前は俺達、魔王軍に干渉しないんじゃないのか? どうして邪魔をする?」
「え!? 私、邪魔してました!?」
素で驚いているウィズ。やっぱりわざとじゃなかったんだ。面白ぇ。
「で、どうするんだ? ウィズ。俺達とやり遭うか?」
「え、こ、この方は私のお友達なので、えっと話し合いでなんとなりません?」
「ハッ、昔のお前だったら、話し合いなんてあり得なかったがな」
その言葉に少しだけ恥ずかしそうにしながら。
「え、えっと、あの頃は私も周りが見えて無かったと言いますか……」
へぇ、ウィズって昔は好戦的だったんだぁ? ちょっとだけ、印象が変わるな。
でもまあ、一応はアークウィザードで凄く強かったんだろうしなぁ、だからこそリッチーになれた訳だし。
「おい、そろそろいいか? 俺は佐藤和真。俺はベルディアやデストロイヤー! バニルという連中の討伐に参加した者だ」
おー。超強そう、嘘は言ってないけど、微妙に語弊がある気がする。
「な、何!? そんな貧弱そうな貴様が!? ベルディアやバニル討伐に関与しただと!?」
「貧弱とは、失礼な。俺は数々の死線を潜り抜けてきたんだぜ?」
おぉ、超カッコいい、今日のカズマさん。俺はコイツに頼って、そのまま帰ろうかなぁ。
「この俺を前にして、どうやらハッタリじゃないみたいだな……」
スライムかぁ、確か、前に戦った事があるはずだ、というか、アイツってどこに脳とかあるんだよってツッコミたい。
やめておこう、そういうのを考え出したらキリが無いし。
さて、どうするか。俺がそう考えていたら、カズマが刀を取り出し、刀身をキラリと光らせる。
「大人しく降伏するんだな! ウィズ! 元同僚で、多分戦い辛いと思うから下がっていてくれ!」
「カ、カズマさん!? た、確かに私としては戦いは遠慮したいところなんですが、大丈夫なんですか!? そのハンスさんは……!」
カズマの隣にダクネスも来て、いよいよ戦闘開始って感じだ、俺も前に出る。
「どうやら本気らしいな。いいだろう! 一介の冒険者が俺に掛かってくるとは、本当に久しぶりだ。この俺を前にして、挑んできた者は全員、泣き、ひれ伏し、逃げ惑うからな。お前は骨がありそうだ!」
おぉ、ウィズの反応、ハンスのこの言葉、ここまでくると、多分強いんだろうなぁ、本気出さないと。
ハンスは両手を広げ、まるで大ボスの如く、叫ぶ。
「俺の名はハンス! 魔王軍幹部、デッドリーポイズンスライムの変異種、ハンス!!」
「今なんて……?」
……よりによって、魔王軍幹部かよ……。カズマもそれを聞いた瞬間、目に見えてわかるぐらいに狼狽えている。
やっぱりこいつ、嘗めてたか……。しかも、追い討ちかけるように、ウィズが。
「カズマさん! 気をつけてください! ハンスさんは、高い賞金を掛けられている方です! とても強いので、十分注意してください!」
今更だな。
俺は本格的に臨戦態勢に入る。
「な、なぁ、スライムってのはさ、雑魚だろ? 雑魚なんじゃないのか!?」
「スライムが雑魚? 何言ってるんだ? 小さなスライムはともかくとして、ある程度の大きさになったスライムはかなり強敵だぞ? 物理攻撃はまず効かない。張り付かれたら、消化液で溶かされたり、口を塞がれて、窒息させられるぞ」
「それに、この温泉街の温泉をすべて、汚染できるほどの猛毒です、触れれば、即死だと思ってください!」
「そ、即死?」
強いね。思った以上に。さすが、魔王軍幹部って訳か、触れれば、瞬殺とか、死ぬじゃねえか。
もう人間じゃないし、液状生物って言う事をキャンセルしてやろうかな。
「大丈夫よ! カズマ! 死んでも私がついてるわ! でも捕食はされないでね! 捕まって溶かされちゃったら、いくら私でも蘇生できないからね!」
あー。トドメだ。カズマの次の行動が目に浮かぶ。うーん。向こうさん、ちょっと強すぎるな。俺一人だと厳しいけど、さてどうするか。
「さぁ、掛かってくるが良い! 冒険者共!! 俺を楽しませてみ…………ろ?」
カズマ達は背を向けて、全速力で逃げていた。
―――――
草木を掻き分け、斜面を降りている。小枝が頬を打ち、小さな掠り傷ができている。
フルキャンセルで消したいが、これは自分にはできないので、仕方ない。
「カズマさん! リュウトさん! 待って! 待ってー!!」
「馬鹿野郎! 早くしろ!! 置いてくぞ!!」
「そーだぞー。アレは、普通じゃねぇ」
全員が逃げ出した以上、一人で戦うのはちょっと辛い。というか、多分一人じゃ無理だ。多分、アイツにはまだ底がある。あれ、全然強さが違うと思うぞ。
「ダクネス! ちゃんと逃げてください! アレは危険です!」
「あぁ、スライムがぁ……」
「カ、カズマさん、登るときは息を切らして、やっと登っていたのに、降りるのは早いですね……!」
ウィズが最後尾だ。俺はカズマの後ろって感じ、俺は後ろを見ながら、ハンスが叫びながら、追いかけてくる。
「嘗めてるのか! 人間!! あれだけ啖呵を切って、恥ずかしくないのか!? 仮にも冒険者だろうが!!?」
顔を真っ赤にしながら、言ってる。そりゃ仮にも冒険者の冒険者かもしれないけどさ。所詮冒険者だぜ?
「そうだよ! 冒険者なんだよ! 仮にも最弱の冒険者なんだから、魔王軍の幹部なんて相手にしてられないんだよ!!」
「何が、最弱職だ!! ……何?」
突然ピタリと止まる。それに釣られて、俺達も足を止める。
「お前、冒険者なのか? 最弱職と呼ばれる? 通称的な意味じゃなくて、アークウィザードやアークプリーストとかのクラスとしての意味の冒険者?」
「そうですが……?」
一瞬、カッと目を血走らせたが、やがて目を閉じて、はぁ、と息を吐く。
うん。わかるよその感じ、凄くイラッとしただろ? でも相手が相手だけに、それが長続きもしないんだろ?
「見逃してやる。失せろ!!」
ハンスは来た道を戻っていく。再び、温泉の方へと戻っていった。
「これにて、一件落着!」
「落着じゃないわよ!? どうするの!? 戻って言っちゃったわよ!?」
アクアがカズマにすがっているが、相手が悪くないか? 触れたら、死亡なんだろ?
俺、正直、何度も死ぬ気がするんだけど、ただでさえ、近距離戦しかできない、俺は死にまくるぞ。
「でも、どうするんだよ? ウィズは戦えない、ダクネスは盾になれない、めぐみんの爆裂魔法で遠くから不意打ちで仕留めるか?」
「あの、爆裂魔法をハンスさんに使うと、爆発して、いろんな場所に飛び散った、ハンスさんの体でこの辺り一帯が汚染されると思います。スライムには、魔法耐性が強いので、完全に焼き尽くすのは厳しいと思います」
あーこりゃ、詰みだなぁ。だったら。
「俺の出番じゃないですか!」
「そうだよ! お前だよ、お前がいた! やってくれ!」
「スライムの特性はとりあえず、毒があって、魔法耐性があって、飛び散っても死なない。ようは液状なんだ。だったらやる事なんて一つだろうが」
そうして、俺を先頭に突き進む。後ろでアクアがギャーギャーと騒いでいた、アクシズ教がどうのこうのとかだ。というか、よく考えたら、今の俺ってアクシズ教徒の為に何かしようとしてるんだよな……?
参ったな。嫌になってきた。
「ねえもっと慌ててよ! もうあと一つのパイプが汚染されたら、当分温泉に入れなくなるのよ!? 終わっちゃうじゃない! この街が崩壊しちゃうじゃない!」
「「「良い事じゃないか(ですか)」」」
ま、そこは俺も共感だな。泣きながら、俺の方に縋り付いてくる。嫌だなぁ。止めて欲しいなぁ。
「わ、わかったから、コイツらだって、なんだかんだでお前の為にやってくれるから」
「本当!? 何よ、みんな素直じゃないわね!」
はぁ、なんだよ。その余計な事をするなって言う目は、やめろ。俺だってしたくねぇよ。
「だから、離れてくれ」
俺がそう言うと、離すアクア。見てくれだけが良いと前は思っていた、だけど、蓋を開けてみると、やはり見てくれだけというのはダメなんだなと認識してみる。
「なんだ。また来たのか? 何にせよ、あとこれを汚染すれば、この忌々しい街からおさらばできるんだ。さっさとさせてもらうぞ」
「はぁ……ん? そういえば、確か、ここには金髪のじいさんが来てたはずなんだけど、その人はどうした?」
「食った、俺は食うことが本能だ。食わないと擬態できないしな」
……は? くった? 食った……って事か? つまり、まったく関係無い一般人を殺したって事なのか? おいおい、久方ぶりに敵らしい敵の登場じゃねぇか? 人を殺しちまったのか……こりゃ、手加減はいらないみてぇだな。
そう思って、『フルキャンセル』をやろうとした……瞬間だった。
「『カースド・クリスタルプリズン』!!」
冷たい印象の声が響き渡る。その声は底冷えのするような声だった。そのハンスが腕を突っ込んでいた源泉ごと、ビシッと一瞬で凍結させたのだ。その声の主を俺は見る。
ウィズ。温厚な雰囲気など一切見せない、まさにリッチーとしての貫禄を見せるウィズ。俺はゴクリと唾を飲み込む。
「ッッッッッ!!? うああああああああああッッ!!!?」
叫んでいるハンスを無表情で見ながら、ウィズは。
「確か、私が中立の立場でいる条件は、戦闘に携わらない者以外の人間を殺さない方に限る、でしたね」
「や、やめろウィズ!! お、俺と本気でやる気か!? そうしたら、ここら一帯は……!」
ウィズの変化に少しばかり、怯えていたアクアとめぐみん。カズマの裾を掴んで、ピッタリと張り付いている。カズマも少しだけビビってるな。いや、人の事は言えないけどね?
「ウラァァァァ!」
俺は刀を取り出し、力一杯振る。
「『風斬り』ッ!!」
「くっそ!!」
俺の風斬りが届く前に、ハンスが凍った右手を砕き、半透明な腕を出しながら、逃げ出す。そして、精一杯走り出した。
全員でハンスを追いかけながら、走っている。
「カズマさーん! ねえ! あのスライム、超早いんですけど! スライムってもっとこう、プニプニしてて、可愛いやつか、ドロドロして鈍いやつじゃないのー!?」
アクアの言ってるスライム像が完全に日本のゲームのやつなんだけどさ、何なの?
「ハンスさん! それ以上は行かせませんよ!! 『カースド・クリスタルプリズン』!」
「ッ!? クソ! やっぱりお前とは相性が悪い!」
ま、確かに、凍らされたら、終わりだと思うしな。下半身が凍ったハンス目掛けて。
「『風斬り』!!」
バッサリッ! と上半身を斬る瞬間だった。その上半身が源泉の方へと飛んでいた。
「何してるの、リュウトおおおおお!!」
揺さぶられながら、俺は押し退けようとしたが、力一杯やられているので、ちょっとだけ、押さえ込まれそうになる。
「や、やめろ!! ちょ、おい!!」
「狙撃!!」
カズマの運の良さが、光った。そう、狙撃だ。カズマは矢を取り出し、何度も、何度も、何度も、狙撃で打ち落とす。
「アクア! ジャンケンで使った時の運上げる魔法を使ってくれ!」
「わ、わかったわ! 『ブレッシング』!!」
「よし! 狙撃、狙撃、狙撃!!」
「あッ!? なんだ、そのふざけた命中率はぁぁぁ!?」
「はっ! 嘗めんなよ! カズマは今まで運の良さで勝ち続けてきたんだぜ!?」
「そうですよ! 運だけで、魔王軍幹部と渡り合ってきた男ですから!」
「お前ら! 褒めるならもっとちゃんと褒めろよ!!?」
ふぅ、なんとなくみんなも落ち着いてきてるな。よし、この調子だったら、大丈夫だ。
ハンスは自分の体を千切って、源泉へ投げようとするが、カズマに掛かれば、余裕だ――これを慢心だったのを、後になって気付く。
「さ、カズマ! 見せてやれ!!」
「おう、そげ…………」
孤を描いて、ポチャンと源泉にハンスの体の一部が入った――。
「カ、カズマ……?」
「矢が無い……」
―――――
「――わ、わああああああああああッッ!!」
アクアは叫びながら、源泉の方へと突っ走っていく。浄化するためには、触れなければならない。
黒く変色してるお湯を見ていると、あんなのに触れて大丈夫なのか? と思う。
「ア、アクア様いけません! そこにはハンスさんの一部が入ってます! 先程までとは全然違います!」
ウィズが制止するが、そんな言葉を聞くはずもなく、躊躇などするはずもなく、手を突っ込み、浄化する。
「熱い、痛い、熱いぃぃぃいいいい!! 『ヒール』。『ヒール』!! ウィズ!! なんとかしてー!!」
「ア、アクア様……っ! 『ライト・オブ・セイバー』!!」
光の刃がパイプをカットした。これで源泉からお湯が流れ出ない。汚染したお湯が浸入した部分のみを切り取ったので、修理に時間はそう掛からないだろう。
俺はそろそろハンスにトドメを刺そうと近づいていったら、ハンスの体が変貌していく。スライムらしいスライムになっていくのだ、その大きさは俺達が住んでいる屋敷とほぼ同じだった。
「大きいなぁ……ちょっと、これは全部キャンセルするのは……厳しいぞ」
どうしたらいい?
キャンセルは一気にできない。だったら一部ずつか。
「『フルキャンセル』! 『フルキャンセル』!! 『フルキャンセル』!!」
よし、とりあえず、動けなくしてやったぜ。あと『フルキャンセル』はあと、どれぐらい使える?
あの大きさでキャンセルしたから、大体、十回分ぐらいか? だったら、三十回分か……。あと、十回分ぐらい使えるな。
「おい、みんな! アイツは動けない! さっさと決めるぞ!!」
「お、おい、それより毒をキャンセルした方が良かったんじゃないか?」
カズマの一言に。
「……まあ、アイツはきっと体で毒を生成してるから、意味ねぇんじゃね?」
「そ、そうなのか?」
毒を消しとけばよかった。これはカズマの言う通りだな。ま、やっちまったもんは仕方ない。さてと、あと十回か……。
「よし、動けなくなった以上、策はいろいろある。めぐみん! 爆裂魔法だ! ウィズは飛び散った一部を凍らせてくれ」
「す、すみません。それだけの魔力が、今は足りません!」
「よし、だったら、俺が吸われよう。というか、毎回だし」
俺が自分から率先して言う。
「あとは、凍らせたら、アクア! お前が浄化してくれ!!」
「わ、わかったわ!」
アクアは源泉に片手、突っ込んだまま、言っていた。
「私は、飛び散るハンスから皆を守ればいいんだな?」
そうカッコよく言う。俺は多分、気絶するから、飛び散らない場所に逃げたいけど、無いね?
「そういう事だ! さ、やれ、めぐみん!!」
そう言って、めぐみんが詠唱を始める。
ちなみにその最中に俺に『ドレイン・タッチ』をするウィズ。
ほぼ、すべてを取られ、俺は意識が薄れゆく中、めぐみんの爆裂魔法の轟音を聞いていた。やっぱり、こういう時には、役立つ……よ、な……。
―――――
すべてが終わり、俺達はかなり批判を受けていた。まず俺が気絶していたので、知らないのだが、どうやらアクアが本気を出して、浄化した所為で、温泉が完全にただのお湯になったらしい。
俺は正直、アクアが本気で浄化したんなら、もっと別の効能があるかも、なんて思ったが、どうやらそうはならなかったようだ。
「今回は本当に頑張ったのにぃ……ぐすっ、ひっく……」
馬車の中で泣いていた。ちなみに今回の報酬は全部、賠償金に回ってしまった。まあ本当だったら、もっと高額だけど、良かれと思ってやったことなので、許して貰った。
「ま、まぁ、でも二人とも、今回は私の力が凄かったって事なのよ! どう? 私は水の女神って言うのを信じてくれた?」
「……次はもっと効能がある温泉に行きましょう」
「あぁ、頭に効くやつをな」
「信じてよー!」
憐れなり、と思ったが、やっぱり普段の行いが大事だと心の中で思った俺。馬車の中に響き渡ったのは、アクアの泣き声だった。
そうして、湯治旅行も終えて、俺達はやっと屋敷に帰ってきた。いやぁ、やっぱり我が家が一番ってこの事かなぁ、正直、もう二度と、あそこに行きたくないね。
「ただまー」
「ただいまぐらいちゃんと言えんのか」
アクアの言葉に綺麗にツッコミを入れるカズマ、そのまま、俺はソファーへ、バフッと飛び込み、体重を預ける。いやぁ、楽だわぁ。
カズマが何か、考え込んだような顔をしていると、アクアがその顔に対して。
「どうしたの、愉快な顔がより愉快になってるわよ? 新しい遊びかしら?」
「お前の真似をしてるんだよ。似てるだろ」
「帰ってきたばかりだと言うのに、少しは静かにできないのか。どれ、紅茶でも入れてやるから、ちょっと落ち着いてろ」
コイツの入れる紅茶は何気に美味しい。普段は不器用なのに、どうして美味しいの、入れれるの? 不思議。そんな風に日常に心地よさを感じていたら、その日常とは一変する程、急いだノックが聞こえてきた。
「めぐみん! めぐみんはいるー!? カズマさんもー!!」
この声はたゆんたゆんのゆんゆんかな? 切羽詰った感じで、ドアを開ける。そして、ゆんゆんが息を荒くしながら。
「あ、あの、こんな事をいきなり言うのは、何なんですけど……」
「どうしたー? 魔王軍幹部でも、賞金首でもなんでも掛かってこいって感じだ」
その言葉に目を白黒させるめぐみん。俺はそれを見ながら、紅茶をズズーと飲みながら見ていた。
ゆんゆんが意を決するように。
「どうしたのですか? 私にまた何か用ですか?」
ゆんゆんは首を横に振る。そしてカズマの方を見てくる。どうやら用事はカズマにあるらしい。俺は聞こうと思い、紅茶を口に含むと。
「わ、私、私! カズマさんの…………子供が欲しい!!!」
俺は口に含んでいた紅茶を噴出しそうになるのを、我慢した。ちなみにカズマは噴出していた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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