辺りはもう暗く。俺は、寝やすいよう、大きめの石などを取り除き、レジャーシートぐらいの大きさの布を敷く。
この辺りのモンスターは強い為、焚き火をしないようにしていた。
そして、バニルから買ったアンデット除けが役立つ時が来た。というかこの為に持ってきたからな。これで粗方モンスターが近づいてこないだろう。
だがそれでも、全員が全員、眠るのはまずいという事で、カズマはどうやら徹夜をするらしく、他は交代で起きるらしい。ちなみに俺も徹夜するつもりだ。
「……ふぅ」
曇っていたのか、星が一切見えず、本格的に真っ暗だ。
「それにしても、二人とも大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。俺達の国じゃ、徹夜ってのは珍しくないんだよ」
「い、一体どんな暮らしをしていたら、そんな事に……?」
めぐみんが怪訝そうに聞いてくる。カズマは少し考え込んだ後。
「そうだなぁ……俺は国じゃランカーだったんだ」
ランカーって……。専らゲームしてたって訳か? 俺は軽く呆れていると。二人は。
「「ランカー?」」
まあ、わかるはずねぇよな。
「まあ言ってみれば、ランキング上位者って意味だな。『インしたらいるカズマさん』やら『レア運だけのカズマ』なんて呼ばれて、みんなから頼りにされてな、砦を攻略したり、大ボスを力をあわせて倒したり」
「そうなのか、凄いな、それは凄いッ!」
「今のカズマから想像もできませんが、嘘を言ってるように見えませんね。だからあれだけの機転を……?」
「ねぇカズマ、それってネトゲの話よね? ねえ、猛烈にツッコミしたいんだけど、良い?」
「止めてくれると、助かるな」
ゲームの話をここではこんな風に語れるのか……。まあ運の良さは、どこに行っても健在って事だな。
ゲームかぁ……久々にやりてぇな……。なんか懐かしくなってきたわ。
そんなこんなで、ダクネスは多少乱暴でも即起こしてくれとか、なんとか言って、カズマが一発で起きる凄い起こし方をしてやるとか、言ったりして、今はめぐみんとカズマが番をしている。
ちなみにカズマとめぐみんは隣に座り、俺は反対側の方で横になりながら、辺りを警戒する。
後ろで軽い会話を聞きながら、辺りを見る。
「そういえば、遠くの国から来たって言ってましたけど……帰る気はないんですか? 二人とも」
恐る恐るという感じで、聞いてくるめぐみん。
帰りたくても帰る術が存在しない訳で、俺達は帰る事は絶対に不可能と言ってもいいし、そもそも別に帰る気はそんなに無い。
「いや、帰りたくても、そもそも帰れないし、まあ帰る予定は今のところないな……」
とカズマが俺もそれに続き。
「そうだな。今の生活もなんだかんだ、気に入ってるし」
「そうですか」
ホッとした感じで言うめぐみん。
「私も、今の生活が気に入ってるので、このままがいいです。しょっちゅうピンチになるけど皆と一緒に乗り越えていく、そんな今の楽しい生活に……」
カズマが何かを言い掛けた時だった――。
「――ずっと、このまま皆で一緒にいられるといいですね」
俺はその言葉につい顔を綻ばせる。
カズマは何か、緊張した面持ちでいる。
よく見てみると、カズマの手とめぐみんの手が重なっている。俺は空気を読み、そのまま黙っている事にした。
こういうのは、やっぱり異世界ならではなのかもしれない。今じゃ、携帯電話やら何やらで、こんな甘酸っぱい感じになる方が少ない。
俺はラブコメ空間に居る、いわばモブだ。
そんな事を考えていたら、寝息を聞こえてきた。
「……すかー」
なんというか……台無しである。
―――――
その後、一悶着あった、翌日。俺は眠そうに目を擦りながら、欠伸をする。
さすがに久々の徹夜は厳しい。まだまだ成長期なのに、背が伸びなくなる……目指せ、180センチ……。
俺はそんな事を渇望しながら、頭を掻きながら、目覚めの朝として、コーヒーを一杯飲む。
これで少しは、頭も冴えるだろう。ちなみに夜の事で、騒いでいた事に対して、アクアが文句を言っていたのだが、そのアクアは結局、最後まで起きずに、代わりにダクネスがやってあげたりと、文句を言える立場ではない気がする、が彼女にはそういうのは関係無いのだろう。
そんな訳で、無事朝を迎えた俺達は、先に進む事にしたのだが――。
「だだっ広いなぁ……」
広がっているのは、平原。見通しが良い為、敵感知スキルと潜伏スキルが上手く使えないのだ。
だからと言って、めぐみんが爆裂魔法を放ったところで、その音で他のモンスターが出てくる危険性だってあるので。
「よし、俺を先頭に進む。敵と遭ったら、全員撃退させっから、他の連中はある程度、離れた所から付いてきてくれ」
「お、おぉ! やっぱりこういう時はお前に任せるのが一番だな!」
「で、ですが、ここのモンスターは危険なのばかりで、私よりもレベルの低いリュウトが敵うのですか!?」
「よーし、喧嘩を売ってるなら買うぞー? ったく、大丈夫だよ、知ってるだろ? 俺のスキルを、ヤバくなったら、止めまくる」
「た、頼り甲斐があるのか、無いのか、微妙だな……」
「黙れ、ドMクルセイダー! 頼り甲斐があると言え! さてと、行くか」
そうこうしている間に、俺は先に進んで行く、敵と出会っては切り裂き、出会っては切り裂きを繰り返してる。
ちなみに相手が相手だったら、少しだけ時間が掛かったりする。モンスター情報で、情報を得ながら、できる限り、倒し易い状況を作り出しながら、倒してる。
順調といった感じで先に進んでいくと、人影があった。
おそらく人型モンスター。情報の中にあった『オーク』の可能性がある。今までボスっぽいヤツばかり相手にしてきたのだ、今回の敵は楽だ。その人影もこちらに気付き、近づいてくる。
俺は取り出していた刀を振るいながら、相手を待ち構えるのだが。
「こんにちは、良い男なお兄さん。私と良い事しない?」
ま、まさか流暢に喋るとは、というかオークだから完全にオスを想像してたけど、見た目がアレだ。リボンをつけた立ってるブタみたいな感じだ。女子からお誘いってのは、珍しいが。
「残念だけど、丁重にお断りさせてもらう」
悪いが、まったくタイプじゃない。安楽少女ぐらいになってから、出直してこい。……あの性格は真似し無くても良い。
「あら、残念ね。合意の上が良かったんだけど」
「というか、話が通じるなら、そこを通してくれないか? だったら、代わりに食料を分けるけど? 相談が必要だが……」
「あら、そんな物いらないわ。私が欲しいのは……あなたっ!! あなたからは強い力を感じるわ! 本能が、私の本能が囁いてる!! さ、私と良い事しましょう?」
俺は少しだけ、困惑しながら、後ろの方をチラリと一瞥すると、アクアとめぐみんが必死に何か、ジェスチャーをしていた。
どうやら『逃げろ』というジェスチャーをしてるみたいだ、俺はそれに困惑しながらも、とりあえず、目の前のオークを見る。
「あら、あっちにいるのは、三人はメスで一人はオスだね……フフ、二人もいるのね……! しかもあっちも悪く無いわ! そうね、三日、三日だけ私達の集落に来て? そうしたら、天国を見せてあげるわ。まあ、その男達は本当に天国を見る事になるんだけど」
な、何言ってやがる……。それにしても集落って事は他にもいるのか。殺すとあとあと面倒になりそうだな? だったら。
「『瞬斬』」
刀を逆刃にして、オークを気絶させた。
「余裕、余裕っと……」
俺はそのまま先に進もうとしたら、後ろから気配がした。驚きながら、振り返ると、四人が走ってきていた。
「……何してやがる。お前らがこっちに来たら、意味が無いだろうが」
「リュウトこそ何をしてるのですか!? リュウトはオークを倒してしまったのですよ!? ここはオークの縄張りです! つまり平原を抜けるまで、リュウトはオークに狙われるという事ですよ!?」
「はぁ? その為にわざわざ先に行ってたんだろうが? というかお前らが酷い目に遭わされるところの方が見たくないんだけど……?」
「あぁ、そういえば、リュウトとカズマはこの世界の事を知らないあんぽんたんだったわね」
「知力が低いお前に言われたくねぇよ」
前にアクアのカードを見た時に、知力が俺以下だった事に驚いていた。というか知らないってのは何の事だ? アクアは俺を泣きながら殴ってきて、話にならないのでめぐみんに促すと。
「良いですか、まずオークにオスは存在しません。仮に生まれたとしても、成人もしない内にメスに弄ばれ、干涸びます。
おかげで、オークは各種族の優秀な遺伝子を兼ね備えたもはや、オークとは呼べない代物のモンスターです。現在オークとは縄張りに入り込んだ男を集落へと連れ去って、干涸びさせる男達の天敵です」
俺はそれを聞くと、全身から血の気がサーッと引いていく。
背筋が凍りそうな事実を聞かされ、しかも俺は先程倒してしまった。優秀な遺伝子を求めるヤツらにとってそれは……。と考え込んでいたら。
「な、なんだと!? オークにオスはもう存在しないのか!? せ、性欲絶倫な女騎士の天敵の!?」
「はい、もういません。それで、先程リュウトがその、倒してしまったので…………」
後ろで、身の毛もよだつような、気配を感じ取る。俺はゆっくりと後ろを振り向く。
汗を一滴、垂らしながら、俺が後ろを振り向くと、そこには凄まじい数のオークの群れがあった。猫耳やら犬耳やらのオークだ。俺はそれを見た瞬間、凄まじい速度で逃げていた。
「うわああああああああああああッッッッ!!!」
「待ちなさいー!!」
なぜだ。なぜ俺がこんな目に遭う!? そこまで悪い行いはしてないのに! もっと言えば、カズマの方が絶対に悪い行いしてるのに! 滅多にセクハラとかしてないのに、神様とか、ぞんざいに扱って――――るけど!!
それでも、こんな目に遭うほど、悪い事はしてないはずだッ!! ガッと俺はついに捕らえられる。涙目になりながら、俺は叫び続けた。
「『フルキャンセル』! 『フルキャンセル』! 『フルキャンセル』! 『フルキャンセル』! 『フルキャンセル』!! 『フルキャンセル』!!!」
今まで、ここまでの叫びをあげた事は無い。俺はそれぐらい、今の状況を怖がっていた。
いくら叫んでも、どうやら意味が無いようだ。カズマァァァ! とカズマの方を見ていたら、なんとカズマもちゃっかりと襲われ掛けていた。
「うわあああああ!!?」
カズマは俺よりもヤバいかもしれない……。後ろから、ガッと捕まれる。うわっ!? ま、まずい!! だ、誰か……誰か……。
「助けてくれぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!」
「『ボトムレス・スワンプ』!」
聞き覚えのある声が響いた。そして、聞き覚えのある魔法。沼魔法で足元が動けなくなっているオークを見ながら、俺は走り出す。そして、その声の主に。
「ゆゆゆ、ゆんゆんーっ! 助かったぁぁあああーっ!! ありがとうー!!!」
泣きながら、つい抱きついてしまう。
「わわっ! あ、あの……よ、良かったですけど……あの」
ちょっと困った感じだったので、俺は即座に離れて、そのまま膝をつきながら。
「な、な、なさけねぇ!!」
自らの情けなさを痛感しながら、トラウマが出来上がった。
―――――
オークの縄張りを抜けて、森の中へと入り、俺達はそこで小休憩を取る事にした。
カズマはアクアの傍で羽衣の裾を掴んで、離れていないようだ、おそらくなんだかんだで、長い付き合いのアクアと一緒にいると、落ち着くのだろう。
だって、あの集団に服破られたりしたんだからね、怖いよね……。
ちなみに、俺はと言うと。
「……」
身体が小刻みに震えながら、マグカップを持ちながら、コーヒーをちびちび飲んでいる。隅っこで。
もう二度と、あそこに行きたくない。異世界コワイ。
一人で隅っこで居ると、徐々に落ち着く、それと同時にどうしようもなく恥ずかしい気持ちになってしまう。あそこまで情けない姿を見せてしまうとは、だがそれだけじゃない。
「本当、ゆんゆんが居なかったら、俺、死んでたわ……いろんな意味で、改めて、本当にありがとう」
俺は徐々に震えが止まり、とりあえずゆんゆんにお礼を言えたのに満足する。
「本当だ。俺も改めて、ありがとう。本当に感謝してるよ。どれぐらい感謝してるかって言うと、尊敬する人は? って言ったら『ゆんゆん』って真っ先に答えれるぐらいに」
「や、やめてください! それはなんだか嫌がらせみたいですから!」
そんな事を言いながら、自然と話の流れは変わる。
「えっと、それよりどうしてめぐみんはここに? やっぱり、里のみんなが心配になったの?」
「え、ええ! 私の妹が心配になりましてね……! あの子、結構無茶やらかすので!」
「あぁ、確かに、あの子、魔法も使えないのに、結構好戦的だからね……」
そうなんだー。妹ちゃん結構怖いんだねー。ニヤニヤ。皆が揃って、ニヤニヤしてる。
「な、なんですか!!」
めぐみんが恥ずかしそうにそう言う。ハハー、素直じゃねぇなー。
「……それにしても、お前ら、全員揃いもそろって、綺麗な顔してるよなぁー」
カズマが突然、そんな事を言う。俺はと言うと――。
「まったくもってその通りだ。お前ら、本当に美人揃いだよな……」
「な、何? こ、この二人、いつもより変だわ!!」
「おおお、落ち着いてください! あげて落とすのが好きな二人ですから、きっと何か罠があります!!」
「そ、そうだぞ、何を企んでいるのだ!」
し、失礼だな……。
いや、今までの事を考えると、そこまで……言えないかもしれない。ま、いいか。ゆんゆんは可愛らしい反応してるし。
俺はそんな事を思いながら、コーヒーを全部飲みきっていた。
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