この素晴らしいキャンセルに祝福を!   作:三十面相

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戦闘員、派遣しますって面白いですよね。


ナイス爆裂

 魔術師殺しの消えたシルビアなど、雑魚に等しい。先ほどのようにスキルバインドを俺に対して、使おうとしてきたが、それを『フルキャンセル』で無効化させ、『風斬り』を使い、吹っ飛ばす。

 

 

「さっきまでは威勢はどうしたァ? もっと強いシルビアさんが見たいですよぉ?」

 

 

 威力が上がっており、さらに向こうが弱体化しているので、かなり効いてるようだ。さて、ここまでくれば、もうシルビアに勝ち目など無いだろう。あとはどう料理するか――だが。

 

 

「おいおい、シルビアさーん? 今のシルビアさんなら紅魔族の連中にボッコボコにされちまうぜ? ただでさえ、もう俺の攻撃にすら耐えることができねぇのに、どうする? いよいよおしまいだな。前回はまだお前を許せたが、今回ばかりはそういう訳にもいかねぇしよ」

 

 

「ぐっ……ね、ねぇ坊や? こっちに寝返る気はない? 今なら良い事も教えてあげるわよ」

 

 

 妖艶なポーズをするシルビアだが、そんなものは吐き気ものだ。悪いが今更、そんなのに乗る程、俺はバカじゃない。さて、あとどれぐらい時間稼ぎすればいいか。

 

 

「どう?」

「ねぇな……良い事なんて言われたところで罠にしか聞えねぇぞ」

 かなり焦っているシルビアの前に俺は特に考えもせずに『閃光斬り』でぶっ飛ばした。威力が高すぎたのか、それとも今のシルビアが弱体化していた所為なのか、思った以上に吹っ飛ぶシルビアの姿が見えなくなってしまった。

「あ……やりすぎちまった」

 

 

 頭をポリポリと掻きながら、面倒臭そうにシルビアの方へと駆け足で行く。なんとなく嫌な予感がしつつも――。俺はそちらに向かった。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

「フフフフッ!!! 形成逆転ね!!」

 

 

 カズマが捕らわれていた。次はお前かよ……。なんて思いながら、片手に持っているライフルに目を向けながら、アクアにこそっとそのライフルについて聞いてみると――。

 

 

「あれは魔法を圧縮する秘密兵器よ!」

 

 

 そう高らかに言い放ちやがった。当然――それぐらいの大きさで言えばシルビアの耳にも入る訳で――。

 

 

「へぇ」

 

 

 カズマから取り上げたそのライフルをシルビアは体内に入れやがった。つまり、アイツは今魔法を圧縮して放てる状態になってしまったという事だ。

 

 

「もう、アンタに用はないわっ! 坊や……次こそボロボロにして、その減らず口利けなくしてあげるわぁ!!」

 

 

 どうやら思いの他、シルビアに効いていたみたいだ。カズマを放りだし、俺を睨みつけてくる。

 

 

「さて……どうするか」

 

 

 そう呟くと、同時にシルビアからまるでレーザーのような攻撃が放たれる。俺はとっさに『フルキャンセル』と叫び、なんとかそのレーザーを消し去る事ができたが、そろそろフルキャンセルの制限がくる。何度も何度も使えるわけではないのがこのフルキャンセルの弱点とも言えるだろう。威力自体はかなりのものだが、実際、圧縮された魔法ですら難なく消し去ることができたのだから。

 

 

「あらあら、これはとんでもない力ね……軽くでここまでとはね……」

「マジかよ……」

 

 

 凝縮された魔法の威力は普通の魔法よりも何倍も威力が高い。それは当たり前だ。だがそろそろ逃げるのも大変になってきたな。

 

 

(何度も何度も連続で撃てるような代物ではないみたいだが……軽くであの威力か……本気でやったらフルキャンセルで打ち消せるか?)

 

 

「このガキがァッ!! 絶対に八つ裂きにしてぶっ殺してやるからよっ!!!」

「やってみろや、クソカマ野郎!! 先に八つ裂きにしてやっからよぉ!!」

 

 

 ほぼ同時に動く。ここまでの威力ならば下手に動き回る方が危険と判断した。溜めるのに時間が掛かるのならば――先に攻撃してぶっ飛ばしてやる、と俺は刀を一度鞘に納め――。

 

 

「『抜刀術』からの『瞬斬』ッ!」

 

 

 その速度と威力は今までに比べて遥かに上がっている。当たれば、抜刀術の効果も相まって凄まじい威力を発揮した――。

 だが思ったよりも威力と速度が上がっていたのか、うまく制御できずに見当違いのほうへと当ててしまった。

 

 

「あら、何の真似かしら?」

「くっ! こういうギャグはダクネスだけで十分だっつのっ!!!」

 

 

 刀をスキルを使わず、攻撃を喰らわせようとする。だがその直前に、シルビアはニヤリと口角を上げる。これまでにないぐらいに……。マズイと直感で察した俺は、とっさに横へと移動しようとした瞬間だ。後ろにカズマ達が居る事に気づく。どうやら俺がここで受けきらないと、後ろの連中が大変な事になる。俺は――。

 

 

「来い! シルビアァッ!!! 『フルキャンセル』ッッ!!!!」

 

 

 掌を前に突き出し、俺は叫び、スキルを発動させた――。凄まじい威力のレーザーが放たれる。その大きさは俺をすべて飲み込む程のものだ。フルキャンセルでその攻撃を打ち消そうとしたが、思ったよりも威力が高いのか、すべて消しきれなかった――だが後ろに被害を与える事なく、俺一人だけで済んだようだ。フルキャンセルを使ってなかったら間違いなく、俺は消滅して、後ろの里にまで被害があっただろう。なんとか里は守りきれたようだ。

 

 

「……ゼェ、ゼェ……」

「う、嘘でしょ」

 

 

 ボロボロの姿で、しかし立っている――そもそも俺は耐久力はそこそこある方だ。ダクネスに比べれば、さすがに無いが。痛ぇと思いながら、フラフラした足取りで俺はシルビアの下まで行こうとしたが、途中で意識が途切れ――俺はその場で倒れこんでしまった。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――今朝方。

 

「なんだ、こりゃ……」

 

 

 壊滅した里ではあったが、物凄い速度で修復されていっている。建材などは一時的にゴーレムへと姿を変え、建設現場まで歩いていっていたりと魔法の力って凄まじいなと思ったり、いやここが凄いってのもあるだろうけど。

 

 

「なあ、この里が元に戻るのってどれぐらい掛かるんだ?」

「三日ぐらいでしょうか、というかリュウトは大丈夫なんですか? もう動いて」

「アクアに魔法かけてもらったからな、本調子じゃないけど、平気」

 

 

 それにしても。

 

 

「三日……『里が……燃えていく……』なんて悲壮感漂わせてたやつが居たっつーのに……」

「え? それはおかしいですね。これぐらいならすぐに戻ることはわかっていたはずですが……一体誰が言っていたんですか?」

 

 

 見た目を伝えようとしたら、たまたまこちらに近づいてくる。しかも見た目を言ったところで全員が似たような格好をしているからわかるのかもわからなかったので、丁度いい。

 

 

「この子だよ」

「私に何か用かい? 外の人? めぐみん、探してたんだよ」

「あるえではないですか、どうかしたのですか?」

 

 

 どうやらめぐみんの知り合いのようだが。あるえってあの小説書いた子か? なんか嫌な予感が……。

 

 

「めぐみんこれ見てくれないか? ついさっき書き上がった『紅魔族英雄伝』の二章なんけどね。紅魔の里が燃えるシーンが秀逸な、傑作だと思うんだよ」

「……」

 

 

 何もいえなくなった。俺はそのままトボトボとここから立ち去った。まだ本調子じゃないし、なんだかもう疲れて何も言えなくなった。

 紅魔の里、最後の夜。明日になったらここからおさらばだ。最近、遠出すると必ず魔王軍幹部と戦ってる気がするのは俺の気のせいではないだろう。今回は確かに、魔王軍と戦うことになるのは承知の上で来ていたが、あんまりじゃないだろうか。まあ魔王を倒す為と思えば、これぐらいはどうって事は無いと考えればまだ大丈夫か。

 

 

 決着というのは思ったよりも簡単につくものだ。俺が倒れた後、どうやらめぐみんが『爆裂魔法』でシルビアを倒したようだ。俺が少なからずダメージを与え、さらには『魔術師殺し』も取り除いていたのだ。めぐみんの最高火力の爆裂魔法があれば、十分だろう。ただ――。

 

 

「大丈夫なのか……爆裂魔法覚えたって里に知られて……」

 そんな事を呟きながら、俺は別の部屋で寝ためぐみんとカズマの心配を少しだけしつつ、眠りに入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝――里では結構めぐみんの事が噂になっていた。まあ確かに、噂にならない方がおかしいというわけか。まあ仕方ない事だな。そんな事を考えていると、ゆんゆんが友達と思しき連中と話をしていた、どちらかと言うと、ゆんゆんが弄られているようにも見えるが。

 だがまあ、そんな噂よりも神妙な面持ちでカズマと一緒にどこかへ行っためぐみんの方が気になるが……。

 俺はその時――バニルの言っていた言葉を思い出す。

 

 

「迷い……まさか……?」

 

 

 俺はあり得ない可能性で頭の中を巡らせていた。外に出て行ったカズマ達を追いかけようかとも思ったが、ここはカズマに任せるべきか、カズマが……バニルはカズマにだけ言ったのはそういう意味だったのだろう。

 

 

「はあ……」

 

 

 ゆんゆんがしばらく里の友達達と一緒に話しており、俺には特に何も考えずに、そこら辺をプラプラしていた。里が直っていく速度は尋常じゃないのは昨日のうちにわかっていた事だ。

 

 

「ん? ゆんゆんどうした?」

「いえ、あのカズマさんとめ、めぐみんの関係について教えてもらいたくて!」

「……関係、ねぇ」

 

 

 正直俺にもそこらへんはよくわからないが……まあ。

 

 

「信頼はしてるんじゃないか? パーティメンバーの中だと一番……」

「じゃ、じゃあ本当に……?」

「ん? 何が?」

 

 

 うわぁーんと走り去ってしまった。何があったのだろうか……。まためぐみんがゆんゆんに変なことでも吹き込んだのだろうか。ズキッと身体中が軋む音がする。どうやらしばらくは俺はしっかりと動けないかもしれない。まああのレーザーを喰らえばな……。

 

 

 そんな事を考えていたら――凄まじい爆音が辺りに鳴り響く。その威力は今までにないぐらいの――――『爆裂魔法』だった。

 

 

「まあ、一番……信頼してるだろうな……」

 

 

 その音に驚いている連中を見ながら、俺は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 テレポートで俺達はやっとアクセルの街に戻ってきた。本調子に戻るのには時間が掛かるが、それでもそんなに時間は掛からないだろう。俺はソファーでゴロゴロしているアクアを見ると、その手にはゲーム機が握られていた。

 

 

「なんだ、それ」

「あら? リュウト。これはゲームガールよ! 何? 貸して欲しいの?

 もし貸して欲しいならお風呂当番を代わってくれたら貸してあげてもいいわよ?」

 

 

「…………『フルキャンセル』」

「ちょ、汚いわよ!!」

 

 

 動きを止めて、俺はゲームガールを見てみる。どうやら本物のようだ。

 

 

「ふーん、すげぇな」

「アクア、お前……勝手に持ってきたのかよ……」

 

 

 そんな取っ組み合いをしてる時にノックの音が響いてくる。

 

 

「どなたかいらっしゃいますか?」

 

 

 来客者だ。あんまり良い気はしないが、いきなり変な事もできないだろう。

 

 

「一体どうしました?」

 

 

 俺がそう尋ねると、カズマが飛び掛ろうとしていたので、俺はグイッと襟を掴み、引き寄せる。俺は半目でカズマを見ると、カズマは明らかに余計な事に巻き込まれたくないという意思が見えた。

 

 

「何してんだよ」

「離せ! 俺はもう面倒ごとは御免なんだぁ!!」

「ハーゲン。何しに来たんだ?」

 

 

 ダクネスの話を聞く限り、おそらくハーゲンという人はダクネスの関係者ということだろう。俺は、その成り行きを見ていると。

 

 

「このままではお嬢様の唯一の取り柄がなくなってしまいます!!」

 

 

「「なんだとっ!!?」」

 

 

 カズマと俺が同時に反応を示す。

 

 

「ま、まさか! ダクネスのその豊満な身体が萎むのか!?」

「おかしいと思ってたんだよ! その身体はエロすぎるからな! 大方魔道具か何かで大きくしたんだろ!?」

 

 

 確かに、考えられる……そんな事を思いながら、ダクネスが。

 

 

「お前らは何を言っている! それに私の取り柄といえば、この防御力で! そもそもハーゲンも酷いではないかっ!? 私にはもっと取り柄があるだろう! なあ! めぐみん、アクア!」

「それよりも、その胸を大きくする魔道具は本当にあるのですか? あるのでしたら詳しく」

「カズマもリュウトもおじさんも酷いわよ! ダクネスにはいいところが沢山あるの! 泣いて頼めば大体、聞いてくれるぐらいチョロいし、世間知らずだから、適当な事を鵜呑みにして、飽きないし――痛い痛い痛い! やめてダクネス! どうして!? 私はダクネスの良いところを言ってるのに」

 

 

 それは褒めてねぇと思いながら、執事の手にあった手紙を見つける。俺はその手紙に指を指しながら執事に聞くと。

 

 

「こ、これが当家の危機を伝える手紙であります……」

 

 

 当家の危機? つまりはダクティネス家がマズいって事か。

 その手紙を読んでみると――。

 

 

「『数多の魔王軍幹部を倒し、この国に多大なる貢献を行った偉大なる冒険者、サトウカズマ殿。貴殿の華々しいご活躍を耳にし、ぜひお話を伺いたく、つきましてはお食事をご一緒できればと思います』」

 

 

 差出人はアイリス。第一王女だ。

 

 

「ついに俺の時代が来たか……」

 

 

 カズマがそう呟いた。

 

 

「俺には無いのか、結構頑張ってるのに……最近、いまいちだけど……」

 

 

 少しだけ気にしてしまった。 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。



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