この素晴らしいキャンセルに祝福を!   作:三十面相

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今回も駄文ですが、温かい目で見ていただければ幸いです。


第一王女アイリス様との会食

 あの日以降、ウィズの店が大変繁盛しているようだ。大変珍しい事だと言える。

 そうして今日は待ちに待った王女様との会食だ。

 

 

「おい、お前ら分かってるな?」

 

 

 カズマがダクネスのいない広間に俺とアクアとめぐみんを前に言う。

 

 

「もちろん分かってるわ。こんな機会滅多にないもの、とっておきの宴会芸で盛り上げてみせるわ。そう、ダクネスが恥をかかないようにね! ところで、帽子から虎が出る芸をしようと思ったんだけど、そもそも虎がいないのよ。この際、虎っぽい初心者殺しで我慢するから、捕まえるの手伝ってくれない? リュウト」

 

 

「私も紅魔族流の派手な登場で、お姫様を驚かせて見せましょう。カズマ、派手に煙を焚く物と花火が必要なのですが、そういったものはどこで買えば良いのでしょうか?」

 

 

 ダクネスの心配はやっぱり間違いでなかったか。

 

 

「おい、お前ら。そんな事した日には、わかってるだろうな?」

 

 

 俺が手をワキワキさせながら、そう言った。

 ダスティネス邸。アクセルの街において、最も大きな邸宅であり、厳戒態勢が取られていた。見栄えの為、普段よりも多い使用人の数。相手が相手だ、当然の対応だろう。

 なぜならば既に先日から王女様がこの邸宅に泊まっているのだから。

 そのダスティネス邸の玄関にて――。

 俺達の前で、ダクネスが純白のドレスを身に纏い、三つ編みにして、肩から前に垂らした格好をしている。

 

 

「サトウカズマ様、ならびに皆様方。当屋敷にご足労頂感謝いたします。本日はわたくし、ダスティネス・フォード・ララティーナがホステスを務めさせていただきます。どうかご自分の家だと思い、ごゆるりとおくつろぎください」

 

 

「ご丁寧にどうも、本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」

 

 

 俺がそう対応する。ある程度の常識は弁えておりますよ、という感じで、柔らか笑みを浮かべていたダクネスは顔を俯き、肩を震わせていた。この野郎。

 

 

「おい、ダクネス。笑ってないで、案内しろよ。これ窮屈なんだよ」

 

 

 借りた黒スーツに苦い顔をしてしまう。慣れない格好は面倒だ。

 アクアとめぐみんはドレスの仕立てが間に合わず、ダクネスのドレスを借りていた。

 

 

「それでは皆様方、どうぞこちらへ」

 

 

「いつまで笑ってんだよ」

 

 

 俺達はダクネスの案内により、屋敷の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 ここは応接室。使用人はお茶を出し、ごゆるりと言い残し、部屋を後にした。隣の控え室にダクネスに呼ばれ、アクアとめぐみんが隣の部屋に入っていった。

 

 

「暇だな」

 

 

「そうだな……」

 

 

 カズマがお茶を手に取り、ズズーと一飲み。

 

 

「なあ」

 

 

 ソファーに座り、隣同士だったため、俺は顔だけをカズマの方へ向けて言う。

 

 

「ん?」

 

 

 再び、お茶を含むカズマ。

 

 

「お前、めぐみんとなんかあった?」

 

 

 お茶を含んでいたカズマはブブーッ! と噴出す。

 

 

「汚ねぇな。一応、屋敷やぞ、屋敷……」

 

 

「お、お前がいきなり変な事を言うからだろ!? な、なんだよ。なんかって!」

 

 

「そんなに驚くなよ。つかめぐみんも似たような反応してたな。まあいいや。一応異世界だしな。犯罪じゃないから、気にしなくていいんじゃねぇ?」

 

 

「な、なにが? よくわかんないなー」

 

 

 わかりやすいとぼけ方をされたが、それ以上は続けず、俺はズズーとお茶を飲む。出されたお茶は良いお茶だったのか、おいしかった。

 

 

「つか、お前だってウィズとか好きだろっ!?」

 

 

「おう、だから?」

 

 

「ぐっ、少しはうろたえろよ……」

 

 

「必要がねぇ!」

 

 

 そんな男同士の会話をしていると、隣からも音が聞こえてくる。どうやらダクネスが子供の頃のヤツですらサイズが合わないめぐみんだったり腰まわりが大きいドレスを試着しているアクアだったり。

 やがて着替え終わった三人がこちらの部屋に戻ってきた。疲れた顔をしたダクネスの後ろに二人が居る。

 肩口をむき出しにしたドレスを着用しているめぐみんと白いドレスを着たアクア。

 

 

「随分と似合ってるじゃねぇか」

 

 

「そうでしょ! 馬子にも衣装ってやつよ」

 

 

「おう、まさにその通りだな」

 

 

 随分とテンションの高いアクアだ。こいつは言葉を知ってるけど、意味まで理解してない事が多い気がする。褒めてないから、それ。

 

 

「ねえ、カズマ、リュウト。これだけ美女ぞろいなんだからちょっとぐらい褒め称えて、崇めたって罰は当らないわよ?」

 

 

「はいはい、綺麗綺麗。そんな事よりもお姫様だ。昨日からここに泊まってるんだろ?」

 

 

「らしいな。姫様だぞ。本物の、俺初めて会うな、そういうの」

 

 

 三人の衣装よりもそちらの方が気になってしまう。それはカズマも同じのようだ。ダクネスが俺達のそんな態度に心底不安げな表情を浮かべて言う。

 

 

「本当に無礼を働くなよ? お前はたまに、素でとんでもない暴言を吐くことがあるからな。荒事商売である冒険者という事で、多少は大目に見られるかもしれないが、言葉一つで首が飛びかねんからな」

 

 

「一度、本当に飛んでるがな」

 

 

 ネクタイを緩めながら、そう言う。ダクネスは多少申し訳ない気持ちになったのか、俯き加減で、うっ、という言葉を漏らす。

 だが俺のそんな言葉ももう既に届いてないようだ。カズマはお姫様という言葉に夢中になっているようだった。

 

 

「おい、お前らに言っておく。屋敷は惜しい。長く住んで愛着も湧いてきたあの屋敷は惜しいが……もしお姫様が俺を親衛隊か何かにぜひという話が出たら、俺は引越しも考えてしまうかもしれない。その辺は覚悟しておいてくれ」

 

 

「お前の頭の中で、どこまで話が進んでいるんだ。ただの会食だといってるだろ」

 

 

「親衛隊か……姫様守るんだから、すげぇ強いんだろうな……」

 

 

 そんな見当違いの方に意識を向けていた。ダクネスに案内されながら、晩餐用の大きな部屋へ。ダクネスはあらためて俺達の方へ振り返る。

 

 

「よし、いいなお前達。相手は一国の姫君だ。……カズマ、お前はなんだかんだ常識は一応あるし、良い。メイド服姿で奉仕までしたのだ。これで何かやらかしたら、タダでは済まさんぞ。アクア、お前は過度な芸は止めてほしい。特に危険が及ぶものは禁止だ。めぐみんは……身体検査をさせてくれ。リュウトはまあ、大丈夫だろう。なんだかんだいってお前が一番安心できる」

 

 

「待ってください! ダクネス! どうして私だけ身体検査を!? あぁっ!! 待ってください! カズマが見てます! ここぞとばかりにガン見してます!!」

 

 

 もみ合いを始めた二人を無視し、さっさと室内に入りたくなっている。こんなのは無視しても良いような気がしてくる。アクアの方を見て、カズマが。

 

 

「お前は一体どんな芸をやらかすつもりだ」

 

 

「やらかすって失礼ね? せっかく王族と会えるんだから、お姫様にだけ見せるのもつまらないわ。即興で似顔絵を、それも砂絵で仕上げてみようと思うの。それをお土産にね」

 

 

「お前は芸という事に関してだけは、すげえよな」

 

 

「芸だけはって何よだけはって!」

 

 

 そんな事をしていると、めぐみんがどうやらモンスター除けの煙球と爆発ポーションを隠し持っていたらしい。何をするつもりだ、何を。

 ここまでついてきていた使用人まで。

 

 

「とっばちりで私達にまで被害が及ばないかしら……」

 

 

 それはおそらくここにいる全員が思っている。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

「では行くぞ。いいか、アイリス様の相手は主に私がするから、お前達は飯でも食いながら頷いてくれていれば良い私がその都度説明する」

 

 

 ダクネスが先頭に扉を開いた。そこは広く、そして派手すぎない高級感が醸し出されている晩餐会用の広場。燭台には火が灯されており、明るさを保っていた。

 

 

 数人の使用人が取り囲み、無言で待機している。テレビとかで見たまんまだ。大きなテーブルに豪勢なご馳走が並べられており、テーブルの奥にはダクネスやアクアと同じ純白のドレスを着た少女が座っていた。

 

 

 その少女の両隣に二人の若い女性が立つ。一人は黒いドレスを身に纏った武器を持たない地味目な女性。だがその手にはゴテゴテした指輪がいくつもあり、おそらく魔法使いなのだろう。

 

 

 もう一方の方は白いスーツを着用し、腰には剣を帯びた短髪の美人だ。

 

 

「お待たせしましたアイリス様、こちらがわが友人であり、冒険仲間でもあります。サトウカズマとそのご一行です、さあ四人とも、こちらが第一王女アイリス様です。失礼のないように」

 

 

 金髪セミロングの澄んだ碧眼の少女がそこには居た。ダクネスと系統が一緒だな、なんて思いながら、このファンタジー世界において期待を裏切られなかったまさにお姫様といった少女だった。

 

 

 俺は、多少の感動に打ち震えていると、カズマの隣に居たアクアがドレスの端を軽く摘み、完璧な作法と仕草で一礼をした。

 

 

 その姿についギョッとしてしまった。というかさっきから王女様を敬っているのは大変良い事だが、アクアは女神という一応姫様よりも立場は上なんだよな、なんて考えたりして。

 

 

「アークプリーストを務めております。アクアと申します。どうかお見知りおきを。……では挨拶代わりに一芸披露を」

 

 

 言いながら、アクアが何かを始めようとした瞬間、ダクネスが手を掴む、アクアはダクネスの三つ編みを引っ張って抵抗していた。

 

 

「ちょ、ちょっと失礼アイリス様、仲間に話がありますので!」

 

 

 アクアに気を取られていたダクネスの隙をつき、めぐみんがスカートの中からマントを取り出し、バッと広げようとした瞬間。俺はそれを奪い取った。

 

 

「何しようとした、やめろ」

 

 

「やめてくださいっ! 紅魔族には紅魔族なりの挨拶が」

 

 

 俺が奪った黒マントを奪い返そうと、掴みかかってくるが、さすがに体格の差と筋力の差で、めぐみんはどうする事もできない。

 

 

「力だけだったらダクネスを超えてんだぞ。俺は」

 

 

 そんな俺達の目の前で、王女様が白スーツの女性に耳打ちをする。

 

 

「下賎の者、王族をあまりそのような目で不躾に見るものではありません。本来ならば身分の違いから同じテーブルで食事することも、直接姿を見ることも敵わないのです。頭を低く下げ、目線をあわさず、それよりも早く挨拶と冒険譚を……との仰せだ」

 

 

 ああ、王族ってこんな感じなんだ。ダクネスとかその親父さんとかは結構親しみを持ってたんだけどな。まあしゃあねぇか。相手王族だし。

 

 

 だがまぁ……。

 

 

「チェンジ」

「はぁ?」

 

 

 カズマがそういった。俺も反抗的な態度を取ってしまった。

 

 

「ちょっと待ってください! 仲間はあまりの興奮にちょっと話してまいります!」

 

 

 広間の隅で、五人が集まっている。

 

 

「貴様! チェンジとはなんだチェンジとは!! 何のために恥ずかしい思いまでして、奉仕したと思っている!?」

 

 

「お前、楽しんでいた部分もあるだろ」

 

 

 俺の一言を無視し、カズマの首を絞めているダクネス、カズマは三つ編みを引っ張って抵抗する。俺は動き出したアクアに目を追っていた。

 

 

「ええい! さっきからなんでみんな私の髪を引っ張るんだ!? というか、ここではやめろ、こういうのは二人きりのときで……」

 

 

 何を言ってるんだ。そんな事を思いながら、俺は砂絵で似顔絵を描いていたアクアの方を見ていた。

 

 

「あれは無視していいのか?」

 

 

 俺がそう言うと、ダクネスが焦ったようにバッとアクアの方を振り向く。

 

 

「これは口の端にだらしなく付いているソースまできっちり再現された一品で……」

 

 

 それを聞いた王女様が慌てて口元を拭う。

 

 

「アイリス様! 今、この無礼者どもをたたき出しますので、少々お待ちを!!」

 

 

 大慌てのダクネスがドレスの裾を両手で鷲づかみにして駆け出した。

 それを見ていた王女様が白スーツに耳打ちをする。

 

 

「寡黙で冷静なララティーナが、そのように慌てる珍しい姿を見られたので良しとします。冒険者は多少なりとも無礼なもの、それよりも早く冒険譚を、と仰せだ」

 

 

 アクアと砂絵の取り合いをしているダクネスを見て、王女様が少しだけ微笑む。

 

 

「も、申し訳ありませんアイリス様、なんというかこの三人は冒険者の中でもとくに問題ばかり起こす連中で!」

 

 

 三人がこうして暴れまわっている中、俺は一人でご馳走を食していた。途中で飽きてしまった。黒いスーツを汚さないようにナイフとフォークを器用に使って食べている。

 

 

「そういえば、さっきから冒険譚をって言ってるけど、そんなにそういった話に飢えてるのか?」

 

 

 白スーツに耳打ちをする王女様。

 

 

「そうだ、あのミツルギ殿が一目置くとされる、あなたの話を」

 

 

 どうやらミツルギは国の上の方じゃ結構な有名人のようだった。それよりもアイツカズマの事なんて話したんだ? 鬼畜のカズマとか? 期待に満ちた視線を向けられていたカズマが話をしていた。

 

 

 とはいうものの、カズマの話はどうにも壮大な事を言っていた。しかもどこか勘違いさせるような感じでだ、嘘は吐いてないが……うーん、しかし話自体は面白かった。

 アクアがそれを見て、何か言いたそうにしていたが、めぐみんとアクアはダクネスの三つ編みを弄って、特にぶっこんだ事はしない。ダクネスもこうしていれば二人が静かになると、半ば諦めている。

 

 

 そうこうして話が進み、冒険者の前の仕事を聞かれたカズマは、こう答えていた。

 

 

「この国に来る前は、家族の帰る場所を守りる仕事をしていました。日々黙々と腕を磨きながら、襲い来る災厄から大切な場所を守り、それでいて誰にも理解も評価もされない、そんな悲しい仕事をしていました」

 

 

「そりゃ、引きこもりはな、評価されないわな……」

 

 

 飲み物をグビグビと飲みながら、小声でそういう。

 調子に乗りまくっていたカズマはふと、白スーツの女の一言にピンチに陥る。

 

 

「カズマ殿の冒険者カードを拝見させてはもらえないだろうか? カズマ殿のスキル振りを後学の為に参考に……」

 

 

「それはやめておいてくださいよ。コイツ、強いには違いないっすけど、クラスは冒険者なんで」

 

 

「冒険者? ……あなたは先ほど言っていたような活躍を本当にされていたのですか? なんでもミツルギ殿にも勝ったらしいですが」

 

 

「それは俺のスキルを使ってな」

 

 

「それはどういった?」

 

 

「まあ、見せたほうが早いか、カズマかけるぞー。『フルキャンセル』」

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 一切動けなくなったカズマに怪訝そうな顔をする白スーツ。

 

 

「こうして、相手の動きを止めました。これは一応これの使い方の一つですが、まあ他にもいろいろできますよ」

 

 

「これは凄まじいスキルですね……」

 

 

「まあ、いろいろと理由がありますからね『フルキャンセル』」

 

 

 カズマが再び、動きを取り戻す。

 

 

「そうですか、それではいくら魔剣を持ったミツルギ殿とて、勝てないのは無理ないですね……というか、これだとカズマ殿がというよりもリュウト殿がと言った方が良いのでは?」

 

 

「ま、たぶん。俺が手を出さなくても、コイツ勝ってましたよ。アイツコイツの事、嘗めてましたからね。言ったでしょ? コイツは結構強いんで」

 

 

「そうですかね……? イケメンのミツルギ殿が……いや、あの最弱職の者に負けるとはとても、イケメンですし……と仰せだ、私も、イケメンのミツルギ殿が……」

 

 

「お前ら、さすがの俺でもひっぱたくぞ」

 

 

 そうツッコミを入れたカズマだったが、それに激昂した白スーツが。

 

 

「貴様! 王族に向かってなんて無礼な口の利き方をっ!!」

 

 

 ヤベッとカズマが口をつい押さえていた。とっさに剣に手をかけた白スーツに俺も『フルキャンセル』を使おうかと迷ったが、ダクネスがとっさに謝罪を行う。

 

 

「も、申し訳ない、私の仲間が無礼な事を! なにぶん礼儀作法も知らない男なので、私に免じ、どうかご容赦を! この男も華々しい戦果をあげているのは、事実ですし、会食を求めたアイリス様が、それを罰してしま

うと外聞というものも!」

 

 

 王女様が白スーツに耳打ちをする。

 

 

「……アイリス様はこう仰せだ。この国に対して多大な功績のある、ダスティネスの名に免じて不問とする。ですが気分を害しました冒険譚のご褒美はちゃんと取らせます。そこの最弱職の嘘つき男は、それを持って立ち去るがいいと」

 

 

 カズマはそれを聞き、とっととこの場から立ち去ろうとしていたが。というか嘘は誰も吐いてないが。

 

 

「いたたっ! こらっ、めぐみん何を!?」

 

 

 めぐみんが今まで揉んでいた三つ編みを怒りに任せて引っ張ったようだ。俺はサァと血の気が引くのを感じ取った。おそらく今顔は真っ青になっているだろう。だがそれは俺だけではないようだった。

 

 

 魔王軍幹部を相手にしようが、喧嘩を売るようなめぐみんだ。そんなめぐみんがこんな行動に出たのだから。

 

 

「ちょっ……」

 

 

 俺がとっさに止めようとした瞬間だった。めぐみんは何度か三つ編みをニギニギと握ったあとに、また料理を食べる作業に戻った。

 ふぅ、と俺は全身から脱力する。

 

 

「……めぐみん。今日はやけにおとなしいな。てっきり爆裂だのなんだのと騒ぎ出すのかと……」

 

 

 めぐみんは黙々と料理を口に運びながら、それを飲み込んだ後に。小さな声で言う。

 

 

「私一人だったらもちろん我慢なんてしませんが、ここで私が暴れたら、ダクネスが困るじゃないですか」

 

 

 それを聞いたダクネスがめぐみんをしばし見つめていた。ちょっと黙まり込んだダクネスはその場にスッと立ち上がる。

 

 

「申し訳ありませんアイリス様。先ほどの嘘つき男という言葉を取り消していただけませんか? この男は大げさには言っていましたが、嘘は申しておりません。それに最弱職ではありますが、いざという時は誰よりも頼りになる男です。お願いします。アイリス様、どうか先ほどの言葉を訂正し、彼に謝罪をしてはいただけませんか?」

 

 

 ダクネスの言葉に白スーツがいきり立つ。

 

 

「何を言われるダスティネス卿! アイリス様に、一庶民に謝罪せよなどと」

 

 

 その時だった。王女様がスッと立ち上がって、自分の口でハッキリと。

 

 

「……謝りません! 嘘ではないというのならば、そこの男はどうミツルギ殿に勝つというのですか!? それを説明できないのであれば、そこの男は弱くて口だけの嘘を!?」

 

 

 その言葉は最後まで言えなかった、ダクネスに無言でその頬を引っ叩かれていたからだ。

 

 

「何をするか、ダスティネス卿っ!!!」

 

 

 激昂した白スーツが、頬を張られて呆然とする王女様の前に立ち、怒りに任せてダクネスに斬りかかる。

 

 

「あっ、ダ、ダメッ!!」

 

 

 切羽詰った王女様の声。

 その静止の声も聞かず、白スーツは剣を引き抜こうとした瞬間。動きが硬直する。

 

 

「なっ!?」

 

 

「こんなとこで、流血沙汰は勘弁だぜ。そもそもアンタの一撃じゃ、ダクネスは斬れねぇよ。そいつの頑丈さは普通じゃねぇからな」

 

 

 ダクネスは俺を一瞥すると、すぐに王女様の方を見る。

 

 

「アイリス様、失礼しました。ですが精一杯戦い、あれだけの功績を残した者に対しての物言いではありません。彼にはどうやって魔剣使いに勝つのか、それを説明する責任もありません。そして、それができなかったとしても、彼が罵倒されるいわれもありません」

 

 

 ダクネスが張った王女様の頬を申し訳なさそうに撫でて、まるで子供を優しく諭すよう静かな声で言う。

 そういう事もできるのね。

 

 

「よし分かった。ここまで仲間が庇ってくれて、教えないわけにもいかないだろ。見せてやるよ。どうミツルギに勝つのか、あんまり格好良くは勝てないが……」

 

 

「『フルキャンセル』」

 

 

 再び、動きを取り戻した白スーツは目を白黒させ、こちらを見る。俺は首だけでカズマの方を指す。白スーツは慌てながら、剣を引き抜き、カズマの方に構えを取る。

 

 

「もういい、もういいから! クレア! 私はもういいから!」

 

 

 それは悲痛な王女様の声。今まで王女様は結構高圧的だったが、一体どうしたんだ? この豹変振りは……? もともとそこまで悪い子ではないのか。

 

 

「お前が良いのなら、私は何も言うまい……やってやれカズマ。まさか遅れを取ったりしないだろう?」

 

 

 ダクネスが挑発的に笑いかける。随分と格好良いな。カズマは白スーツに片手を突き出して、カズマも言う。

 

 

「当たり前だろ! 俺が渡り合ってきた相手を考えてみろ。魔剣使いに魔王の幹部、果ては大物賞金首まで! 日ごろからそんな連中と渡り合ってんだ。これでも喰らえ!! 『スティール』!!」

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 結果は簡単に予想できるだろう。カズマはあんなに格好良い事を言ったはいいものの、取ったものはパンツ一つという。女にはどうしてパンツなのだろう……男相手だと、割と好きなものを取ってると思うのだが。

 

 

「その、こんな事になってしまい、申し訳ありません」

 

 

 白スーツがカズマに謝罪をしている。その隣では王女様が隠れるように白スーツの腕に顔を埋めていた。

 そんな白スーツにダクネスが。

 

 

「お気になさらず、こちらにも非礼があった。痛み分けというわけで、今回は水に流すのが一番だと思います」

 

 

「そうですね」

 

 

 そうは言ったものの、白スーツはカズマをちらりと一瞥。

 

 

「ま、基本的にそれを喰らったヤツは全員同じような反応をするよな」

 

 

 俺がそう言うと、白スーツは俺の方に睨みつけてくる。おそらくフルキャンセルの事でだろう。

 そんな事をしてると、王女様がもじもじとしながら、今まで一言も言葉を発してなかった魔法使いに耳打ちをしていた。

 

 

「それはご自身の言葉でおっしゃったほうが良いですよ? 大丈夫です。先ほどから見ていたら、カズマ殿はアイリス様のような方には甘いようなので」

 

 

 さっそくロリコン認定を受けてないか? 俺はそんな事を思いながら、王女様が近づき。

 

 

「嘘つきなんて言って、ごめんなさい……また、冒険話を聞かせてもらえますか?」

 

 

 恥ずかしそうにしながら、上目遣いで言っていた。

 

 

「喜んで!」

 

 

 そんなこんなで、テレポートであの三人は帰ることにするようだった。ダクネスもアイリスとの仲が良いのか、先ほどからまるで姉と妹のような会話をしていた。

 テレポートの詠唱も終わり、三人が帰ろうとした瞬間だった。俺達は手を振り、帰るまで、見届けるつもりだったが――。

 

 

「何を言っているの?」

 

 

 王女様はそう言った。王女様は不思議そうな表情で、カズマを手を取っていた。

 

 

「『テレポート』!」

 

 

 その声と共に、カズマを含めた王女様ご一行は光に包まれ、消えていった。

 

 

「……マジか」

 

 

 俺は一言だけそう呟いた。

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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