翌朝。
俺達は昨日の件で、城にやってきた。ここは謁見の間と言われる、城の最奥。そこで昨日出会った怪盗の話を王様の代理であるアイリスにしていた。
凄腕の怪盗だったと語っている。だが周りの貴族の印象はあまり宜しくない。だが実際、本気のカズマ相手にロープでグルグル巻きにした挙句、あっという間に逃げたのだ、凄腕と言われても問題ないと思う。
「ふむ、まあいいでしょう。魔王軍の幹部と渡り合ってきたカズマ殿の言葉です。嘘発見の魔道具を使うまでもない。ええ、その義賊とやらはきっとよほどの相手だったのでしょうね」
「なんか、感じ悪ーい」
そう空気を読まず、俺がそう言い、続けて何かを言おうとした瞬間、ダクネスに口を塞がれる。
「モガモガー!!!」
「ええい! お前は少し黙ってろ!!」
「その……。何にしてもご苦労様でした! あなたは義賊逮捕に失敗したのではなく、義賊の盗みを防ぐことに成功したのです。何者にも責められるいわれはありません!」
顔を赤くし、拳を握り、そんな事を言っている。そんなアイリスを見て、クレアも苦々しい表情だ。
「寛大なアイリス様がこう仰せだ。本来ならば、あれだけの大言を吐き失敗したのだから、本来罰があるものだが、アイリス様のお慈悲に感謝するのだな! さあ、あなたをこれ以上城に置いておく理由がない! とっとと立ち去れ!」
謁見の間から出ると、カズマに対し、随分とよそよそしい態度となっている執事とメイド。どうやらカズマはこの城でもう大したことないと知れ渡ってしまったようだ。実際のところ、対人は最強だと思うがな。
「まあ何だ、今回のことは気にするな。お前はよくやった。アイリス様のおっしゃる通り、賊の犯行を防いだのも事実だからな。だが、もう帰ろう? 街に帰ったら、しばらくは働けとも言わん。バニルから大金を得るのだろう? 少しゆっくりするが良いさ」
ダクネスがそんな事言うとは……。
「カズマ、もう気が済んだでしょう? アクセルの街に帰りましょう。別にこの城じゃなくても、アクセルの屋敷でゴロゴロすればいいじゃないですか」
二人がカズマを慰めている。
ため息を吐き、カズマが一旦帰ると了承する。その言葉にダクネスとめぐみんもホッとした表情をしていた。
(ま、何もカズマもここでの生活のためだけに、ここまで固執していたわけでもない気もするが……)
王女様の事を考えながら、そんな事を心の中で呟く。確かに快適であっただろうが、それにしたって固執しすぎと感じていた。なんだかんだアクセルの街での生活が悪いわけではない、なのにわざわざ義賊を捕まえるなどと言い出すほどに固執したのには違和感があった。
おそらく王女様関連の何かだろう、なんだかんだ、あの王女様もカズマを気に入っていた、カズマも妹のように接していたし、きっとカズマはあの王女様のためにあそこまで頑張っていたのだろう。クズだなんだと言われるが、根っこの部分はどうしようもなく善人なんだ、コイツは。
「ねえカズマ、リュウト。帰るなら明日にしない? どうせならお土産を買いたいの。王都には良いお酒が沢山あるのよ、ねえ、どうせ暇なんでしょ? 一緒に買い物付き合ってよ」
アクアがそんな事を言ってきた。完全に荷物持ち目当てだろう、お前……まぁいいけど。
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「王都のお酒もぜんぜん大した事ないわね。これならアクセルの街のマイケルさんのお店の方がよっぽど良いものがあるわ」
「お前、着実に知り合い増やしていってるよな……。こないだ屋敷に肉屋のおっさんが来て、治療の礼にって高級な肉を置いてったぞ」
カズマがそう言ってたが、俺、それ知らないな。
「ねぇ、それ私知らないんですけど、それ貰った記憶ないんですけど」
アクアがジロリと見ながら言う。カズマはさも当然とばかりに。
「あぁ、お前とめぐみんとリュウトがいなかったからな、ダクネスに調理してもらって二人で食べた」
ガシッと取っ組み合いが始まる。俺は傍から見ていた。
「あれ? こんなところで奇遇ですねアクア様!」
背後から突然声を掛けられた。そこには魔剣使いのソードマスターの男が立っていたのだ。久々に会ったな。えっと、ミカガミだっけ? 確かそんな名前で俺達と同じ出身のはずだ。取り巻きに女性が確か二名居たはずだが、今日はどうやら一人のようだ。
アクアの方は戸惑いながら。
「だ、誰?」
何回か会ってるはずなんだがな。ミカガミはそれを聞いて可笑しそうに吹き出す。それも少し様になっているのだから、イケメンは得だな、と思う。
「まったく、冗談がお好きですねアクア様」
というか、アクアに様をつけてるのって何気にコイツだけだな。アクアがカズマと俺の後ろに隠れながら。
「ねえ、カズマ、リュウト。この人誰? 随分と馴れ馴れしいんですけど……?」
「お前なぁ……自分で送り出しておいてそれはないだろ。コイツはミカガミだよ」
「え? カツラギじゃなかったっけ?」
「あれ? そうだっけ? 悪いカツラギ」
「ミツルギだ! 誰だ、それはっ!?」
青筋を立てながら、そう言うミツルギ。一応、何度も顔を合わせているはずなのだが、どうやらまだ思い出せてないようだ。
「まだ、わかんないか? 魔剣の人だよ、魔剣の」
「その前に残念な、がつきそうだがな」
「おい、誰が残念な魔剣の人だ! 言っておくが、僕はな……ッ!」
そう言い終える前に、アクアがポンッと手を叩き、思い出す。その仕草にさすがに本気で忘れられていたことに気付くミツルギ。
「お、おい、佐藤和真、峰沢龍斗。二人はさすがに本気で僕の名前を間違えたわけじゃないよな? た、試しに僕の下の名前を言ってみてくれないか?」
唇を震わせながら、そう言うミツルギに、俺とカズマはお互いに顔を向け。
「「どうぞ、お先に」」
「キョウヤだっ! ミツルギキョウヤ! 覚えてないなら、素直にそう言ってくれ! 何譲り合ってるんだ!!」
声を荒げるミツルギは、頭を振り、大きく息を吐いて落ち着く。
「やはり、君達とは決着を付けておかないといけないようだ。あれから僕も腕を上げた。今度はあんな簡単にはいかない! さあ、もう一度僕と」
「お前何言ってんの? 決着ならもう付いただろ? 俺達が勝ったじゃないか、そしてもう再戦はしない。駆け出しの頃にお前に勝ったという事実だけ抱いて、俺は勝ち逃げさせてもらう」
「……」
悲しそうな顔をするミツルギ。実際、負けは負けなので仕方ないが、俺がミツルギの肩に手を置き。
「俺なら、別に構わないぜ? さあ、やろうぜ」
顔を伏せていたミツルギが少し嬉しそうな表情になり、広場で俺とミツルギが向かい合っている。
「さあ、今日は前のようにはいかないよ」
そう言い、魔剣を構え、ミツルギが迫ってくる。当然、それを真正面から受けるような真似はしない、俺も同じく近づきはするが、ミツルギが剣を振り下ろす、と同時に半身を逸らしながら、それを避けると同時に、剣を横薙ぎに払う。
鎧を全身に身に纏っていても、同じソードマスターの一撃は効果的だ、それで軽く飛ばされるミツルギにさらに追撃を加え、猛攻を仕掛ける。だが当然それを何度も喰らうミツルギでもない、すぐさま魔剣で弾く、そして次は自分の番だと言わんばかりに、鋭い一撃を放つ。それを紙一重で避ける。
「つか、お前。んな重いそうなもん着てよくもまあ、そんなに動けるなっ!?」
「当たり前だ! 僕はソードマスターだぞ。筋力だってそれなりにある!」
「うちのドMと良い勝負しそうだぜ」
「それにしても、思ったよりもやるね。君自身も大分強くなっているようだ、だが……」
次の瞬間。思った以上の速度で、魔剣を横薙ぎに払うミツルギ。避けるために後退しようにも、さすがに間に合わず、咄嗟に剣でガードするが、それを弾かれ、飛ばされる。
「うおっ!?」
「フッ、僕の勝ちのようだね」
そう言って、持っていた剣を振り下ろそうとした瞬間だ。掌を構え、放つ。
「『フルキャンセル』!」
「ッ!!」
とっさにミツルギが大きく後退する。ミツルギは格好をつけた笑みを浮かべながら、サラサラの髪を靡かせる。
「フフッ、甘いよ。僕がそれを一番警戒していたに決まってるだろう? 僕と同じなんだから」
そう言い、再び剣を構える。
「チッ、面倒臭ぇな」
すぐさま剣を持ち、構え、目の前のミツルギを見据える。まさか避けられるとは思わなかったが、とりあえず剣を握る力を強め、一気に距離を詰める、持っていた剣を振り上げ、袈裟斬りを行う。だがそれよりも早く魔剣で鍔迫り合いに持っていく。
「くっ、この野郎……」
「ぐっ、随分と君自身も実力を磨いたようだね……!」
(このままじゃ埒が明かないな……)
ほんの一瞬だった、俺が力を急に緩めたことで、ミツルギが体勢を崩し、剣を片手に持ち替え――。
「『フルキャンセル』」
「くっ――!」
体勢を崩していたことにより、満足に動くことが出来なかったため、フルキャンセルをまともに喰らい、動けなくなった。
「はーい、俺の勝ち!」
正直、あと少しで負けそうだったが、なんとか勝つ事ができた。いや、正攻法でいったら普通に強いわ、ミツルギ。
「いや、負けたよ。峰沢龍斗。君も随分と強くなったようだね。僕もこれから精進して、君を超えるよう努力するよ!」
「お、おう」
熱血っぽい感じで来られると、少々たじろいでしまう。とりあえずミツルギに勝てた事で、満足だ。
「じゃ、俺らはこの辺で、そろそろ」
そう俺が言い、二人と共にここから離れようとした時に、ミツルギが慌てたように呼び止める。
「あ、ちょっと待ってくれないか! そういえば、君達に話さなければならない事があったんだった!」
そう言って、近くにあった喫茶店にミツルギと向かい合っていた。ちなみにテーブルにアクアとカズマが隣同士で、俺とミツルギが隣同士だ。一通り注文をした後にミツルギがテーブルに両手を組んで前屈みになる。
「話す前に……ちょっとアクア様に渡したいものがあるんですよ」
そう言って取り出したモノはかわいいラッピングをされた小箱。ナプキンでせっせと何かを作っているアクアの前にそれを差し出す。
「アクア様は、アクセサリーの類を身につけておりませんでしたよね? そんなものがなくても、あなたは十分お美しいのですが、もしよろしければ、どうぞ……」
と、なかなかに気障ったらしい台詞を並べながら、差し出すそれは、妙に様になっており、顔が歪んでしまう、それはカズマも同じようで。
「……? 何? くれるの?」
「ええ、どうぞ。安物ですので、アクア様がお気に召すかわかりませんが……」
爽やかな笑顔を浮かべながら、それを差し出す。
「そういや、お前といつも一緒にいる二人はどうしたんだよ? こんなところでナンパなんてしてていいのか?」
「いや、彼女達は大事な仲間でそういった関係ではない。それと彼女達は隣国でレベル上げをしている。僕がいるとどうしても、僕が一番倒してしまうからね」
向こうは絶対にそう思ってないだろうが、気がないのかご愁傷様。
「随分と立派なご身分で……」
カズマがそう言いながら、プイッと顔を背ける。
「さっきから、随分と機嫌悪いな。お前」
「あぁ? そうか? いや……まあ良くはない」
そんな会話をしている俺達だが、アクアは何の関係も無く小箱を開ける。そこにあったのは指輪であり、とてもじゃないが安物とは思えない、というかおそらく結構な高級品だ。しかしアクアの指のサイズをミツルギは果たして知っていただろうか? そんな事を思ってると、アクアが指輪をはめようとしたが、どうやらサイズがあってなかったようだ。
「あぁ、それは魔法でサイズを調整――」
「ねえカズマ、リュウト見て見てー」
ミツルギの話に被せ、そう言ったあとにナプキンでその指輪を隠し、そしてもう一度ナプキンをそこから取ると――。
「ででーん」
そこにあったはずの指輪がどこかに無くなってしまった。
「凄いな……というか、どこにいったんだ?」
「消えたんだから、どこにいったかなんて分かるわけないじゃない」
「え?」
ミツルギが間の抜けた声を漏らす。
「サイズの合わない、安物の指輪だったけど、一芸の役に立ったわ、ありがとうね」
そう言って、屈託の無い笑みを浮かべるアクアに何も言えなくなった、ミツルギは。
「い、いえ……アクア様の芸のお役に立てたのなら、僕も嬉しい限りです……」
乾いた笑いを浮かべるミツルギ。さすがに気の毒だ。
「それじゃ、話をしようか……これは君達にとっても、人事じゃないんだ」
そうしてミツルギの話を纏めると、どうやらアクセルの街に巨大な光が舞い降りた、と魔王城の預言者が伝えたらしく、それの確認のためにベルディアが派遣され、そのベルディアが討たれ、続いてバニルも行方不明。さらにシルビアまでもが最近、討たれたとの事で、それらに関して、全てにある冒険者パーティが関わっているという噂が立っているらしい。
そしてそのアクセルの街を拠点にしている冒険者パーティに興味を持っている魔王が、再びアクセルの街に魔王軍幹部を送るかもしれないという事だった。
「はじめは、その巨大な光というのは僕のことかと思ったのだが……そ、そんな目で見ないくれ」
まず間違えなくアクアの事だろう。
カズマがこの勘違い野郎って顔でずっと見ている。それを嫌そうに顔をしかめるミツルギに。
「できたわ。はい、これ。指輪のお礼に、作品タイトルは変形合体エリス神。胸部装甲は着脱式で、三段階の変形が可能なの」
そんな訳のわからない事を言いながら、差し出したそれを苦笑しながら受け取るミツルギ。その作品を俺とカズマもなんとなく視線を移した瞬間。
「「「凄っ!?」」」
三人同時にハモる程度には凄い作品が出来ていた。どことなくエリス様の面影がある、その折り紙は既に折り紙などの領域を軽く凌駕して、アートと化していた。
「おいおい、俺にも作ってくれよ」
「俺もほしいな」
「嫌よ、同じものは作らないの。高速機動冬将軍なら作ってもいいわよ、リュウトは機動式デストロイヤーね」
「なんでもいいけどさ」
そういって、ナプキンを折り始めるアクア。
(ナプキン足りるか?)
そんな疑問を浮かべていると、ミツルギがフッと笑みを浮かべて立ち上がる。
「佐藤和真、僕がもう少し強くなるまで、アクア様のお守りを頼む。それでは女神様、失礼します。この折り紙は大切にしますね」
そう言うミツルギにうん? と声をあげて顔をあげるアクア。
「……? ああ、うん。またね? ……ねぇ、カズマ。やっぱり変形機能は必要よね?」
「いるだろ。常識的に考えて」
そんな二人のやり取りを見て、ミツルギは少し寂しそうな顔をしながら。
「君はアクア様と本当に気が合うんだね」
そう言って、それじゃあと言ってミツルギは立ち去っていった。
(なんというか、不憫属性でも持ってるのだろうか、アイツは)
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宿屋の帰り道。
「そういえば、久々に女神様って呼ばれた気がするわ。あのカツラギさんって人、そんなに悪い人じゃないかも」
そう思うなら、名前ぐらい覚えてやれよ。
そうウキウキな感じで言っているアクア。これを魔王が気にしている、気にしているのか、これを。
「それより、今晩の飯、どうする? 王都って激戦地だからか、強力で新鮮なモンスターがたくさん獲れて、宿屋はそれを持ち込みが基本らしいぜ。持ち込んだ材料で経験値たっぷりな美味しいモノが食べられるから、俺はこってりとした高級な肉で焼肉が食べたいな」
「ええ? 私は今日あっさり気分なんですけど? 生野菜と何かのタタキとかで、強めのお酒できゅっとやりたいんですけど」
「俺はどっちでもいいけどな、二人で決めろよ」
「じゃあ、ジャンケンで勝負しようぜ。お前を女神だと思い出したから、三回勝負で一回でも勝てたら、言うこと聞いてやるよ」
「えぇ? 随分と殊勝な心掛けじゃない。それならいっそ、いつも素直に言い分を聞いてくれたらいいのに」
そう言ってジャンケンをやる二人。
無論、カズマが勝ち。その日は高級肉で焼肉になった。
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