TOWRM3 〜ThePlain's Walker〜 作:赤辻康太郎
第十六話
「はい。もう大丈夫ですよ」
「ん。サンキュー」
オルタータ火山での以来から約2週間が経過した。その間、樹はアニーの忠告やアンジュの指令もあり傷を癒すことに専念していた。とはいうものの、いつも隙を見ては医務室から脱走してはアニー達に叱られるというサイクルが続いたので最後の方は監視付きの軟禁状態になっていまっていた。
「けどまだ無理はいけませんよ」
「分かってるって。じゃな」
樹はアニーの忠告を軽く流し医務室を出ようと立ち上がった。
「また無茶したらカノンノ達に言い付けますから!」
「おお。怖い怖い」
ドアに手を伸ばす樹に、アニーは釘を刺したが、樹は首を竦めておどけるだけで直ぐに出て行った。
「もう。どうして男の人って何であんな無茶するんだろう?」
アニーの呟きが樹に届くことはなかった。
「おや、樹君。もう傷の具合はいいのかね?」
樹が医務室を出ると、青みを帯びた銀髪の青年がこちら(医務室)の方へとやって来るところだった。
「うす。ウッドロウ。まだ無理はダメだとさ」
樹は肩を竦めるようにして青年、『ウッドロウ・ケルビン』の問い掛けに答えた。
「それより、アンタこそどうした?入隊早々怪我でもしたか?」
ウッドロウはほんの数日前にアドリビドムにやって来た。そしてその日の内に入隊試験に合格し仲間となった。
「いや。アニー君にお使いを頼まれてね。今届けるところさ。それに、多少の怪我なら自分で何とかできるしね」
「物見遊山も伊達じゃないってか?」
「ま、そんなところさ」
実はウッドロウはとある国の王族、しかも王位継承者である。彼は王位に相応しい人格者となるべく身分を隠し各地を旅して見聞を広めていた。そして旅の途中、アドリビドムの噂を聞きやって来たのだ。
「にしても、王様にお使いを頼むとは。アニーもやるな」
「何、気にすることはないさ。それにこれは私から引き受けたことだしね」
「『人々の声を広く聞き、受け入れる』だっけか?」
「ああ。それが王のすべきことの一つだからね」
樹は『物見遊山している王族』とウッドロウ本人から聞かされていたので、最初は胡散臭い印象を受けていた。だがウッドロウと話し、彼の信念を聞き何をしていたかを知り、蟠りもなくなった。
「まあアンタならできるだろうよ」
「ほう。君からそんな言葉が聞けるとは。嬉しいね」
ウッドロウは本当に嬉しそうに笑った。樹が為政者対して懐疑的だと聞いていたので、認めてもらったのが純粋に嬉しかったようだ。
「アンタは自分の出来ること、出来ないこと。したいこと、しなきゃいけないことの区別が出来ているみたいだしな。アンタが王様になれば国の皆も喜ぶだろうよ」
「そうなれるよう努力するよ。少し立ち話し過ぎたね。じゃあ私はこれで」
「おう。また後でな」
樹はウッドロウと別れロビーに行った。
「アンジュー。何か仕事ない?」
「あら樹。もう怪我は大丈夫なの」
受付で書類整理をしていたアンジュが顔を上げて聞いた。
「無理しなけりゃ大丈夫だってさ」
「そう。なら……」
「ならば、一緒に来るか?」
アンジュが樹の依頼を見繕っていると、クラトスが樹を誘った。
「お!何かあんの?」
「ああ。ブラウニー坑道の奥地にある『ミブナの里』に行こうと思っている」
「ミブナの里?」
クラトスはミブナの里という所に行くらしい。
「ああ。ミブナの里は精霊と交流がある。精霊ならば、赤い煙について何か知っているやもしれん」
「この間クラトスにその話を聞いて、協力要請の使者を送ることにしたの」
「ふーん。精霊ねぇ」
樹が療養している間に、赤い煙に関する次の目的地が決まっていたようだ。
「けどクラトスさん。ミブナの里にはハロルドと二人で行くんじゃ?」
「先程ハロルドと打ち合わせをしたら予想以上に興味深々だったのでな」
「まさか、俺ってストッパー役?」
クラトスは「そうだ」と一言頷いた。ハロルドの事だろう。精霊を隅から隅まで研究しつくそういう魂胆に違いない。
「うーん……まあいいか。俺もその精霊に興味あるし」
樹はクラトスの頼みを了承した。
「じゃあ後一人だけど……」
「私が行く!」
アンジュが最後の一人を誰にしようかと考えていると、いきなり甲板のドアが開き、レインが怒鳴り込んできた。
「レイン!聞いてたのか?」
「ううん。さっきまでカノンノと模擬戦してたの。で、私が勝ったから一緒に行く」
レインは息を切らしながらも胸を張ってそう言った。
「まだ続いていたのか……」
「まだ?」
「カノンノとレインはね、樹が怪我してから毎日二人で模擬戦をしてたの」
「それで、勝ち数の多い方が樹と行く、ですって」
「んな賭けしてたのかよ……」
樹は呆れていたが、内心は嬉しかった。自分の事を気にかけてくれる人がいるというのはどこか安心できた。
「うー……あとちょっとだったのに……」
「まあそう落ち込むなよ。今度一緒にいってやるからさ」
かなり落ち込んでいるカノンノを、樹は頭を撫でて慰めた。
「うん……」
「……」
頭を撫でられて嬉しそうに顔を赤らめるカノンノ。そしてレインはそんな二人を羨ましそうに睨みつけた。
「……無自覚とは、恐ろしいな」
「本当に」
そんな三人を、クラトスとアンジュは暖かく見守っていた。
「……それで、今回は何処に行くの?」
レインは不機嫌さを隠そうともせずにそう聞いた。
「ん?ああ。ミブナの里だってさ」
「ミブナの里ってあの?」
カノンノはミブナの里について何か知っているようだ。
「知ってんのか?」
「あ、うん。昔話だけど、人がお化けになったり動物になったりするお話だよ。あと、悪事を働いた男の人がカエルにされたりするって……」
「うへぇ。何か嫌な話だな、それ」
樹は話を聞いて少し顔を歪めた。
「それは村の者が昔に広めた話だな」
クラトスがカノンノの話に補足をした。カノンノの昔話の出処は、何と件のミブナの里だった。
「へえ。何でまた」
「村に人を里に近づけさせないためだ。ミブナの里は隠れ里。『忍』と呼ばれる人々が俗世と隔してひっそりと暮す場所だ」
クラトスがミブナの里について簡単に説明した。
「忍!?ルミナシアにも忍者がいるのか?」
樹はミブナの里よりも忍の方に激しく反応した。
「忍を知っているのか?」
「ああ。俺のいた世界、もっと言えば元いた国だな。に大昔、まだ国中で紛争が起きていた時、諜報や工作、暗殺なんかの隠密行動に長けた集団がいたんだ」
「それが忍?」
「ああ。各国の城主は、それぞれ一集団は忍を囲っていたとも言われている」
樹は日本に伝わる忍について簡単に説明した。
「こちらも同じ様なものだ。違いは、そっちはどちらかと言えば軍の隠密部隊に近いが、こちらは傭兵集団と言ったところだな」
「そうなんだ。まあこっちも話に聞いただけで実際に見たことないんだけどな」
忍者は戦国時代に暗躍した隠密集団または一族であるが、その伝承は存在以外ほぼ正確には現代に伝わっておらず、殆どが時代小説のフィクションとして伝わっていた。
「それに、ミブナの里は戒律が厳しく、身分はおろか本名さえ他人に知られることを嫌っている」
「だからそんな話を広めたのか」
ミブナの里はその特異性のため存在自体が秘匿とされていた。そのため、里の情報が洩れる事を禁忌とし、厳しい掟が定められていた
「そういや、何でクラトスはそんなに詳しいんだ?」
ここに来て、樹はクラトスがミブナの里に詳しい事に疑問を抱いた。
「少々縁があってな。一時里に身を寄せていた事もある」
クラトスはミブナの里に住んでいたことがあったらしい。
「そうか。なら道案内よろしくな」
「承知した。では明日出発するぞ」
「了解」
「分かった」
納得したのか、樹はそれ以上何も聞かず、クラトスに案内を任せることにした。
--ブラウニー坑道--
翌日、樹、レイン、クラトス、ハロルドの四人はブラウニー坑道を進んでいた。目的は勿論、ミブナの里に赴き、精霊会うことだ。
「ねぇ?まだ着かないの?」
「まだだ」
先程から何度も繰り返してきた問答。ハロルドは一分歩く度に聞き、クラトスもその度に答えていた。
「ハロルド、しつこいぞ。クラトスもよく毎回律儀に応えれるな」
樹はクラトスの律義さに半ば呆れ、半ば感心していた。
「ハロルドの事だ。答えなければ間を置かずに何度でも聞いてくるだろう」
「よく分かってるじゃない。で、まだ着かないの?」
「……」
樹はハロルドのしつこさにいい加減ウンザリしてきた。
「……何、これ?」
ふと、レインは足元に落ちていた紙を拾った。
「何だ……『暁の従者』?」
樹が覗き込むと、紙面の上の方に、『暁の従者』と大きく目立つように書かれていた。
「それは最近できた新興宗教だ。どうやらディゼンダーを信仰しているらしい」
「ふーん。何々……『終焉の時近し。今こそディゼンダー様が降臨されるとき。ディゼンダー様を迎え、この腐敗に満ちた世界を浄化し、共に輝ける栄光の世界を創り上げよう!世界再誕の使者、暁の従者』。世界再誕ねぇ」
「こんな辺鄙な所まで勧誘とはご苦労様なことね」
暁の従者はディゼンダーを信仰し、世界を創り直す事を信条とした新興宗教のようだ。樹は紙面に書かれていた『世界の浄化』や『栄光の世界』の文字を見てかなり胡散臭いなと感じた。そしてハロルドは完全に呆れていた。
「こんな所に勧誘に来るくらいならお偉いさんに陳情書でも出せばいいのにな」
「樹の言う通りだ。だが、身分の低い者の意見は得てして受け入れられないことが多い」
「そうそう。酷い時は反国罪として逮捕されちゃう時もあるし」
「酷い……」
樹の言う通り、国の政策が酷くて困窮しているなら国に陳情するのが適当である。だが、昨今の大国は農村等の身分の低い人々の意見を聞き入れない場合が多い。最悪の場合、ハロルド指摘通り逮捕されるケースもある。レインはその現状を聞き、心を痛めた。
「ま、そんな訳だからこういった新興宗教に足を踏み入れる人が多いってわけ」
「それはそれでムカつくな。これ、結局はディゼンダー任せじゃないか」
勧誘の文面を見ると、『ディゼンダーが現れるから一緒に国を打ち倒そう』という意味にもとれた。樹はそれが腹立たしく思えた。
「そう?自分じゃ如何にもできないから誰かに頼むのは自然な流れだと思うけど?」
確かに。自分では現状を打破できない時、他人の力を借りることは往々にしてあることである。
「そうなんだけどな。ヴェイグやジョアンさんの事を考えるとな……」
ヴェイグはサレ率いるウリズン帝国と村を守る為に戦いを挑み、ジョアンは病魔に蝕まれる身体に鞭打って赤い煙に会うために危険な道を進んで行った。二人とも好ましい結果とはいかなかったが、それでも自分の力で何とかしようとしていた。特にジョアンは、樹達の手助けがあったとはいえ、最後の最後まで自分の運命に抗おうとしていた。樹はそれを思うと、最初からディゼンダーという存在に頼り切った印象を受ける暁の従者の態度は、あまり好ましくなかった。
「樹の言いたいことも分かる。だが、人それぞれ考え方が違うのだ。いくら我々が彼らの信条を否定したところで、それは我々のエゴでしかない」
「それは分かってんだけどなあ」
十人十色、千差万別という言葉があるように人が違えば考えも信じるものも違ってくる。例え他人と意見が食い違っても、それを間違いだと言うのは決して正しいことではない。樹も頭では理解できている。だが、だからと言って納得できるものでもなかった。
「まあその辺は今考える必要もないでしょ。そんな事より早くミブナの里に行くわよ!」
ハロルドはもう興味を無くしたのか、気持ちがミブナの里、いや精霊に向いていた。
「そうだな。では行くとしよう」
「ああ」
「うん」
樹達は再びクラトスに付いて歩き出した。
「行き止まり?」
暫く進むと、道の途中が壁に阻まれていた。
「少し待っていろ」
そう言うと、クラトスは徐に傍にある壁に剣を突き刺した。すると――
――ゴゴゴゴ……――
という音を立てて、道を塞いでいた壁が横にスライドし、新たな道が出現した。
「なるほどね。忍の隠れ道ってわけね」
ハロルドは剣が刺さっていた箇所、壁に巧妙に隠された穴をマジマジと観察しながら言った。
「かなり厳重だな」
「昨日も言ったが、ミブナの里はその存在自体がタブー視されている。この位のトラップは当然ある」
「何でもいいわ。早く進みましょ」
ハロルドは先を急かした。余程、精霊が気になるようだ。
「分かった。では進もう」
一行は現れた道を進んで行った。
「わー!!待て!こらー!」
「ん?」
また暫く進んでいると、前方から慌てた様子の女性の叫びが聞こえてきた。
「あの声は……」
「っ!何か来る!」
「「「!!」」」
クラトスは声の主に聞き覚えがあるようだが、レインがこちらにやって来る気配に気付き警戒態勢をとった。
「「……!!」」
すると、狛犬の様な顔をし、台座に乗った銅像のような魔物、ストーンシーサーが二体樹達に向かって突進してきた。ストーンシーサーは樹達に気付くと、2、3ートルの距離を取って止り、警戒したように樹達を睨みつけた。
「どうやら門番のつもりらしいな」
「なら、コイツ等を倒せばミブナの里に行けるってわけね♪ついでにデータ採取っと♪」
ミブナの里が近いと知って、ハロルドは嬉しそうに杖を構えた。
「そうみたいだな。いっちょ戦るか!」
樹も久々の実戦が嬉しいのか、楽しそうに刀を抜いた。
「樹、無理をしないでね」
レインは樹が無茶をしないように釘を刺した。
「来るぞ!」
クラトスの声を合図に、戦闘が開始した。
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