TOWRM3 〜ThePlain's Walker〜 作:赤辻康太郎
第五話
レインがアドリビドムに正式に入隊してから数週間が経った。試験終了後からは移住を護衛したペカン村から報酬の替わりに『ナナリー・フレッチ』と『ハロルド・ベリセリウス』が新たにアドリビドムに入り、ハロルドが早速異世界人である樹を解剖しようとしてカノンノやレインと一悶着あった以外は比較的穏やかな日々が続いた。そんなある日。
「行くよ、樹!」
「いいぜ。来な!」
樹とカノンノはバンエルティア号の甲板で模擬戦をしていた。レインはシング、ヴェイグ、ミントと共にヴェイグの故郷であるヘーゼル村へ物資を届けに行き、他のメンバーも依頼や買い出し等で殆どが船を降りていた。そのため、今日たまたま非番だった樹は同じく非番だったカノンノを誘って模擬戦を始めたという訳だ。因み武器は樹が木刀で、カノンノは木製の大剣だ。
「虎牙破斬!」
「うぉっと」
樹はカノンノが繰り出した虎牙破斬を、斬り上げが当たる直前で、軽くサイドステップすることでかわした。だが樹はそのまま反撃に出る事はせずカノンノの様子を窺っていた。
「ほらどうした?このままだと『賭け』は俺の勝ちだぞ?」
「まだ始まったばっかりでしょ!」
樹の挑発に、カノンノは大剣を横薙ぎに振りながら答えた。二人の会話から分かるように、樹とカノンノはある『賭け』をしていた。その内容は−−
「ほらもう1分経ったぞ」
「まだ9分残ってるもん!」
内容は、『樹が10分間カノンノの攻撃を避け続けたら樹の勝ち、攻撃が当たるか樹が防御もしくは反撃したらカノンノ勝ち』と言うものだ。カノンノは始めこの賭けを断ったが、樹が「当てる自信がないのか?」と挑発すると、カノンノは先輩としてのプライドからかつい「そんなことない!」と言ってしまい、あれよあれよと言う間に賭けが成立してしまっていた。因みにカノンノが勝った景品の『一週間樹手製のデザート食べ放題』。以前食べた樹手製のクレープシュゼットを気に入ってしまったが故に釣られてしまった。樹が勝った時は『一週間掃除を代わりにする』であった。
「ほらほら。時間が惜しいぞ。どんどん来いよ!」
「う〜。絶対勝つんだから!」
カノンノは絶え間無く攻撃するが、その悉くを樹はかわしていった。
(どうしよう……もう時間がない)
カノンノは内心焦り始めていた。壁に立て掛けている時計の針はもうすぐ9分に差し掛かろうとしていた。このままだとカノンノの敗北は濃厚である。
(樹には普通に攻撃してもかわされるだけ。……なら!)
カノンノは何か閃いたのかキッと顔を上げると大剣を構え直した。
(何か思いついたか?まあ時間的にも次がラスト。最後の賭けってやつか)
樹はカノンノの表情を見ても顔色を変える事なく次の攻撃を見極めるためにカノンノの動きに注目していた。
「っ!たあああっ!」
カノンノは短く息を吸うと樹に向かって駆けだし、剣の間合い手前で上段に振りかぶった。
(上段からの唐竹?いや……)
「空蓮華っ!」
(空蓮華!)
カノンノは振りかぶった剣を勢いに乗せ床に刺し、剣を軸に回転蹴りを繰り出した。がそれは樹に見切られていた。樹は蹴りをバックステップで難無く回避した。
「(後は次の唐竹割りをかわせば)俺の勝ちだ!」
樹は自分の勝ちを確信していた。だが、
「やあああっ!」
カノンノは蹴りの後の唐竹割りの更に後、今度は片手側転の要領で回転し、樹の右肩目掛けて蹴りを放った。回転によりカノンノのスカートが樹の眼前で舞った。
「んな!」
樹は一瞬止まってしまい回避行動が遅れた。
−−ガッ−−
「がっ!」
−−カラン−−
樹は咄嗟にバックステップで回避を試みたが、間に合わずカノンノの蹴りが右手に命中。木刀が手から離れ床に落ちて乾いた音を立てた。
−−ピピピ、ピピピ、ピピピ−−
同時に時計のアラームがなり、模擬戦の終了を告げた。
「か、勝った〜っ!!」
カノンノは樹に一太刀浴びせたのが余程嬉しかったのか両手を上げて喜んだ。
「あ〜あ。負けちまったか」
樹は頭を掻きながらカノンノに近付いた。その顔は確かに悔しそうだった。
「へっへ〜ん。どう?私も結構やるでしょ?」
「ああ。正直恐れ入ったよ。けど最後のはあんまり使わない方がいいかもな」
「どうして?」
樹は素直にカノンノが自分の考えの上を行った事を認めたが、最後のは攻撃は余りやらない方が良いと言い、カノンノが理由を尋ねた。
「いや、だって、な……」
「?」
樹の説明はいつもの様子と違いかなり歯切れの悪いものだった。
「はっきり言ってよ」
「……スカート」
「スカート?……っ!」
答えを促すカノンノに樹はスカートと一言だけ答えた。カノンノは言われた瞬間は何の事か分からなかったが、直ぐに理解し自分のスカートを上から押さえ付けた。
「……見た?」
「見てない」
「見たでしょ」
「見てない」
「見たのね」
「見てない」
まるで少年漫画の様に「見た」、「見てない」の押収が続いていく。
「見たんでしょ」
「見てない」
「……何色だった?」
「水い、はっ!」
だが遂に樹はカノンノの誘導尋問に引っ掛かり見た事を認めた。どうやら見てしまった事で動揺していたのだろう、普段の樹らしくないミスだった。
「〜〜っ!!!」
カノンノは顔を耳まで真っ赤にしながら本来の自分の武器、オータムリリィを構えた。
「カ、カノンノさんっ!少し落ち着きまし−−」
「獅子戦吼っ!!!」
「ぐはああああっ!」
樹はカノンノの獅子の頭を象った闘気を纏った膝蹴り、獅子戦吼をモロに受け、壁まで吹っ飛びそのまま崩れ落ちた。
「……樹のバカ」
カノンノの呟きは当然、樹には届かなかった。
−−数分後−−
回復した樹は甲板に寝そべって空を見て、カノンノは傍でスケッチブックに絵を描いていた。
「そういやさ」
「何?」
いい加減空を見るのにも飽きたのか、樹がカノンノに話し掛けた。
「レイン達ってヘーゼル村に行ったんだよな?」
「うん。物資を届けにね」
「遅くないか?」
「そうかな?届ける物も大分あったし、それにコンフェイト大森林を越えないと行けなからまだかかるんじゃないかな」
「そりゃそうだけどな」
ヘーゼル村はコンフェイト大森林を抜けた先にある。普段なら抜けるのに苦もないが、今回は物資もあるのでそれを魔物から守りながら進んで行くので通常よりもかなり時間がかかる。樹もそれは承知のはずだが、どこか腑に落ちない様だった。
「……行ってみるか」
「ええ!今から!?」
「思い立ったが吉日ってな。アンジュにコンフェイト大森林の方で何か依頼ないか聞いてくる」
「あ、ちょと……もう!折角の非番なのに」
カノンノは頬を含まらせながら樹の後に続いて船内に入っていった。
−−コンフェイト大森林−−
あの後樹とカノンノはアンジュから『プチプリ20体撃破』という依頼を受けコンフェイト大森林に来ていた。だが二人は先行するレイン達に追いつくためプチプリに限らず、魔物を無視して森の中を走っていった。
「急にどうしたの?」
「何か嫌な予感がする」
樹はカノンノの問い掛けに少し暗い表情で答えた。
「嫌な予感?」
「ああ。何かこう、首の後ろに何かがへばり付いてる感じがする」
「レイン達に何かあったのかな?」
「分からない。けど、何かあるとしたら一番可能性が高いのはレイン達だ」
「大丈夫かな?」
「それを確かめるんだよ。ほら、急ぐぞ」
樹はレイン達に何かが起きる可能性が高いと言い走るスピードを速めた。カノンノそれに合わせスピードを上げた。
「ストップ!隠れろ!」
「え?わっ、ちょっと!」
暫く走った後、樹は急に止まるとカノンノの手を引いて近くの木の陰に隠れた。
(ち、近い近い近い!)
樹はカノンノの頭押さえを自分の胸に抱える様に隠れたので、カノンノは樹の胸に顔を埋める形になり、かなり密着していた。
「(あ、樹の胸あったかい、じゃなくて)……樹、前が見えないよ?」
「ん?ああ悪ぃ悪ぃ」
樹は今カノンノを抱いていた事に気付きカノンノを離した。
(あ……)
カノンノは少し名残惜しい気もしたが自分から言い出した事なので何も言えなかった。
「それで、どうしたの?」
「レイン達を見つけた。誰かと戦ってるみたいだ」
「え!?」
「今は何とか持ちこたえてるみたいだけど、このままだとまずいな」
カノンノが木の陰から樹が指し示す方を窺うと、樹の言う通りレイン達が一人の男と戦っていた。男は紫色の髪と瞳で紫色のスーツの様な軍服を着ていた。武器はレイピアの様な細身の両刃の剣だった。また、レイン達から少し離れた所に、白と桃色を基調としたドレスの様な服を着た、カノンノと同じ桜色の髪の女性がいた。
戦況は数こそ4対1でレイン達が有利だが、実際はレイン達が若干押され気味だった。物資を守りながら、さらには女性を気にしているせいで思う様に戦えないようである。
「あれは、『サレ』!」
「サレ?」
カノンノはレイン達が戦っている人物が直ぐに分かった様だが、ルミナシアの情勢に疎い樹は当然知らなかった。
「うん。確かウリズン帝国の騎士で、嵐の力を使うって噂だよ。でも、あの女の人は誰だろう?」
「さあな。まあ大方、そのサレって奴があの女の人を追いかけてて、たまたまレイン達と遭遇、そのまま戦闘に突入ってとこか」
樹は自分なりに今の状況を推測してみた。
「レイン達が戦っているのはそうかも。けどサレがあの人を追う理由ってなんだろう?」
「それは本人から聞けばいいだろ」
カノンノはサレが女性を追う理由を考えていると樹は本人に聞くのが早いと言い刀の鯉口に手を当てた。
「え、まさか……」
「そのまさかさ。俺がサレに奇襲を仕掛けるからその間に女の人を頼む」
「……無茶しないでよ」
樹はカノンノに「善処する」とだけ答え木を登り、枝伝いに移動していった。
「どうしたんだい、ヴェイグ?前より動きが鈍い様だけど?」
「くっ!」
「まあ『そんなもの』抱えていたら無理もないか。尤も、僕には何の関係もないけどね」
サレはヴェイグがまともに戦えない理由を知っているにも関わらずヴェイグの動きを指摘して挑発した。それに対して、ヴェイグは怒りを押さえて唸る事しか出来なかった。
「このおっ!」
「おっと」
シングがサレの隙をついて攻撃したが、サレは既に予測済みだったのかいとも簡単にかわした。
「邪魔をしないで!アクアエッジ!」
「甘いよ。ウィンドエッジ!」
レインは水で出来た丸鋸を放つ魔術、アクアエッジをサレに唱えたが、サレの唱えた風の刃を放つ魔術、ウィンドエッジにより相殺されてしまった。しかもレインは魔術を完成させるのに数秒の詠唱時間を要したのに対し、サレはほぼ無詠唱で魔術を完成させていた。ここからもサレの実力が窺えた。
「此処を通して下さい。私達はヘーゼル村の方々に少しでも早く物資を届けなければならないんです。」
「それで?」
「それで、て……」
ミントの必死の訴えにも、サレは全く興味なさそうに答えるだけだった。
「さっきも言ったよね。僕には関係ないって」
「だったら……」
「関係ないけど……僕はね、君達みたいな奴が、絶望する顔が見たいんだ」
「だから俺達の邪魔をするって言うのか!」
「そうさ」
サレはレイン達が絶望するのが見たいが為にレイン達と戦っていると言い、シングの憤慨にも淡々と答えた。
「サレ、貴様っ!」
「そう、その顔だよヴェイグ!その顔が見たかったんだ!」
ヴェイグがサレを突破出来ない悔しさに歯を噛みしめると、サレは待ってましたと言わんばかりに狂喜した。
「何なら援軍でも呼んでみるかい?まあこんな森の奥だと声も届かないかな?ハハ。フヒャハハハッ!」
「そいつはどうかな?」
「−−ヒャハハハハ、ハ?」
「この声、まさか……」
サレが愉悦に浸り高笑いをしていると、頭上からレイン達には聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「崩襲脚っ!」
「くっ!」
樹は登っていた木の枝から飛び降りるとサレに全体重を乗せた踏み付けを繰り出した。だがサレはかろうじて樹の攻撃をかわした、かにみえた−−
「オマケだ!」
「ぐあっ!」
樹は続けざまに刀を横薙に振り回した。サレはギリギリ剣でガードしたが、勢いを殺し切れずに吹っ飛んだ。
「俺、参上!」
「「「「樹(さん)!」」」」
樹はポーズを決め登場をアピールした。レイン達は声で予想出来ていたとはいえ、本当に樹が登場した事に驚いた。
「よう、何か楽しい事やってんじゃん。俺も混ぜろよ」
驚くレイン達を目にしても樹はどこまでも軽い口調だった。
「どうして此処に?」
「依頼でな。で何か争ってる声が聞こえてきたから来てみたらってわけ」
「もう。嘘ばっかり」
「カノンノまで!?」
嘘ぶく樹にカノンノが呆れながら、ミントの傍に例の女性を連れて近付いていた。樹の他にカノンノも出て来た事にシングは二度目の驚愕の声を上げ、他の三人も声こそ出さなかったが目を見開いて驚いた。
「言いだろ。半分本当何だから」
「半分でしょ」
こんな状況だと言うのに樹とカノンノはまるで世間話をするかの様に笑いながら言い合った。
「あのう、貴女達は?」
「私達はギルド、アドリビドムです」
「貴女がサレに追われている様でしたのでお助けに参上仕りました」
状況を掴めていなかった女性がカノンノに身元を尋ねた。カノンノはそれに自分達はアドリビドムというギルドの者だと答え、樹がそれに続けて女性を助けに来たと言った。ただし樹の口調はかなり芝居がかっていた。
「……私達は?」
「勿論、助太刀するさ」
「そういう事じゃないと思うよ」
「何が?」
「……もういい」
レインが樹に自分達はどうなのかと尋ねると、樹は助けると至極当然の様に答えた。カノンノは「それは違う」と指摘したが、樹はその意味が理解できていない様だった。結果、レインがソッポを向く形になった。
「……奇襲とは、中々味な真似をしてくれたね」
「お褒め頂いて興栄だな」
立ち上がり歯を食いしばって言うサレに、樹はおどけるように返した。
「まったくだよ。僕に傷を負わせたあげく、僕を無視して楽しそうに話し込むとはね……調子に乗るなよ!」
サレは髪を掻き上げると声を荒げて叫んだ。その顔にはレイン達と戦っていた時の様な相手を小馬鹿にした表情はなく、ただ樹に対する怒りしかなかった。
「その言葉、キッチリ利子揃えた上で熨斗を付けて水引で縛って返してやるよ!」
言うと同時に樹はサレに向かって走り出した。
「嘗めるなあっ!」
サレも怒号と共に駆け出した。
−−ガキィン−−
刀と細剣がぶつかり金属音が鳴り響き、火花が散った。
「僕に刃向かった事、後悔させてあげるよ!」
「てめえこそ、俺の仲間に手え出した事、後で泣いて謝ったって赦しやしねえぞ!」
樹とサレの斬り合いは苛烈を極めた。特にサレは、ヴェイグ達と対峙していた時の様に相手を嬲る様な事はしなかった。ただ攻めた。攻めに攻めた。サレが細剣を斬り、突き、薙ぎ、払う度に風が唸った。疾風怒涛、まさに『嵐』の様な剣閃が樹の顔を、首を、腹を、足を、人体の急所を悉く襲った。
だがどれだけ烈しく攻めても、樹が倒れる事はなかった。サレの攻撃を『嵐』と例えるなら樹は『柳』。疾風の調べに揺れ、舞う『柳の枝葉』そのものだった。
樹はまるでサレの繰り出す剣閃に合わせるかの様に、時に屈み、時に逸らし、飛び、跳ね、体を反らし、転がり、サレの猛攻をかわした。無論かわすだけでなく刀、グローブ、ブーツの底に鞘まで使って、攻撃を防いだりもした。その結果、サレはサレで攻めているにも関わらず、樹に一度も有効打を与える事が出来なかった。
だがここに来てある疑問がこの戦場を支配した。
(何で樹は−−)
(あれだけ攻撃を避けてるのに−−)
(防御もしている−−)
(なのになんで−−)
(どうして−−)
(彼は−−)
(−−反撃してこない!?)
樹は殆ど反撃に出なかった。いや反撃はしていた。たが続けようとしなかった。 例えばサレの突きを刀で逸らしてかわした後、樹は刀を袈裟懸けに斬り裂こうとしたがサレはこれを回避。樹はこれを契機に一気に攻撃に転ずる、事はなく直ぐさま防御体勢に入る。これが今までも、そして今も、幾度となく繰り返されていた。そんな樹の行動から、ある一つの結論が導きだされた。
(攻めきれない?いや、攻められないんだ!)
『攻められない』それがその場にいた全員が出した答え。では何故か?
(警戒してるんだ。そして待ってるんだ。僕の……無詠唱のウィンドエッジを!)
魔術の無詠唱発動。それは確かに脅威。例え初級魔術、だとしても当たり所が悪ければ致命傷と成りうる。ましてやサレの使うウィンドエッジは風の刃で対象を斬り裂く術。その確率はかなり高い。
だがそれにも弱点はある。幾ら詠唱時間がないとは言え、発動の瞬間に魔術特有の魔法陳は発生するし発動するまでのタイムラグが一瞬とは言えある。最大の弱点は、術者は術の発動中と発動後しばらくは動けない事だ。
つまり発動の瞬間を狙って術を回避。そして発動後の硬直を利用し一撃で倒す。これが樹の行動から見えてきた樹の作戦である。
(だったら簡単。術を使わなければいいだけ。そう、最後まで!)
幾ら樹が巧みに回避しているとはいえ、攻撃全てを捌ききれるわけではない。致命傷や決定打にならないだけで傷は負っていた。それは、傷の痛みや出血は、確実に樹の体力を奪っていった。後は体力が切れるのを待つだけ。サレはそう考えた。そして勝利を確信し、思わず口の端が吊り上がった。通常は一瞬の気の緩みが命取りとなる鍔迫り合い。だがサレは、己が勝利を確信してしまったが故に笑みを浮かべずにはいられなかった。
「……ククク」
だがこの状況で、この場面で最も油断してはならない者が、樹が笑った。それもサレの様にただ口を緩めたものではなく、口に出した、はっきりとした笑いだった。
「何が可笑しいんだい?」
「ん?笑ってるのはアンタも一緒だろ」
苛立たしげに問うサレに樹はおどける様に答えた。
「なら質問を変えようか。何を企んでいる?」
「企む、ね?」
烈しさを増す斬り合い、鍔迫り合いの最中、また樹は低く笑った。
「ならヒントをやるよ。アンタ、何時から俺が『一人』で戦ってると錯覚していた?」
「なっ?」
サレが樹の言葉の真意を理解するよりも早く、
「「ライトニングッ!!」」
二人の少女の声が響き、二つの雷が落ちた。
ご意見・ご指摘・ご感想お待ちしております。