サイボーグ009~Another Story~   作:ピッシング

2 / 2
第1話 誕生

 ギルモア博士のいる研究室へ向かっている間、無線機からは怒号や悲鳴交じりの声が聞こえていた。

 

『こちら第4区画!実験体のサイボーグが脱走した!至急応援頼む!』

『こちら第7区画!奴の姿が消えた!』

『こ、こちら第5区画・・・!あの野郎、重機を持ち上げて・・・うわぁー!』

「・・・ずいぶんと派手にやってるね。」

 

無線を聞きながらフラッシュがつぶやいた。

 

「サイボーグ8体が一気に反乱を起こしたからな。対応が追いつかないのだろう。」

 

私がそう言うと、パルスが首をかしげながら言った。

「う~ん、でも緊急対応部隊も、そこまでヤワじゃないでしょう?僕たちが持っているようなEMP弾とかありますし、そう簡単に脱出できますかね?」

「パルス、無線をよく聞いてみろ。」

 

私がそう言うと、パルスは無線に耳を傾けた。

 

『EMP弾が爆発しない!フラッシュ弾も駄目だ!一体どうなっている!?』

『何故弾が当たらない!?弾が曲がる!?何が起こっている!』

 

無線を聞き、ハッとしているパルスに、私は笑みを浮かべながら言った。

 

「今日はイワンが起きている日だ。」

 

サイボーグ001 本名:イワン・ウィスキー 容姿は、かわいい赤ん坊だが、超能力を扱うことができる。彼が本気を出そうものなら、どんなに訓練された緊急対応部隊や、優れたサイボーグであろうとも歯が立たないだろう。

 

 研究室に入ると、ギルモア博士と研究員たちが待っていた。

 

「お待たせしました、ギルモア博士。我々が護衛致します。」

「おお!来たか。頼むぞ!」

「避難シェルターに移動しましょう。僕たちが先導します。」

「いや、そこより格納庫へ向かってくれんかの?」

 

私とパルスは顔を見合わせながら、

 

「格納庫ですか?何故です?」

「ここは海に囲まれた孤島じゃ、奴らがここから逃げ出すとしたら、空からじゃ。」

「しかし、格納庫へ向かったとしても、あいつらを止められるかどうか分かりませんよ?」

「問題ない。すでに手は打っておる。皆も良いな?」

 

研究員たちに向かってギルモア博士が言うと、

 

「ええ、もちろんです博士。」

 

と、研究員たちは薄笑いを浮かべて言った。

 

「分かりました。では、格納庫まで護衛します。パルス、先導しろ。フラッシュは後方を警戒しつつ、ついて来い。」

「了解。」

「了解。」

 

そうして私たちは格納庫へ足を進めた。

 

 格納庫へ進んでいる最中、8人のサイボーグたちが集結したと連絡が入った。

予定通りの時間だ。そう思いつつ、私たちは格納庫まで博士たちを連れて行った。

格納庫に入ると、博士は格納庫に備え付けられたスイッチを押した。

その途端、私たちがいる部屋が上昇し始め、5mほど上昇したら動作を止めた。真下を見ると、床がガラス張りになっている。

 

「格納庫に入るための道は、わしらが通ってきた通路1つだけじゃ。やつらは必ずこの通路を通り、わしらのいる部屋の真下の部屋を通過する。その時にこのボタンを押せば・・・。」

 

ギルモア博士がボタンを押すと、真下の小部屋の通路が全て、鋼鉄の壁で塞がれた。

 

「なるほど、ここで奴らを閉じ込めるということですね。」

 

パルスが言うと、ギルモア博士はニヤリと微笑んだ。

その時、無線に新たな情報が入った。どうやら、最新鋭のサイボーグ、サイボーグ009が勝手に起動し、反乱を起こしている8人のサイボーグと合流したというのだ。

サイボーグ009、はっきりとした能力は分からないが、今まで行われた実験の成果を応用して造られたため、他の8人のサイボーグよりも優れた戦闘能力を持つらしい。

その情報に研究員たちはざわめいたが、ギルモア博士の問題ないという発言に、安堵の笑みを浮かべた。

 

「あとは、奴らが来るまで、身を潜めておればいいじゃろう。」

 

そう言うと、ギルモア博士は部屋のライトを消した。

 

よし、ここまでは予定通り。あとは時間通りに9人がここまで来れば良い。

 

私は所持している武器、グレネードランチャーGL-06の安全装置を掛けながら、予定通り事が進むことを願った。

 

息を潜め続けて、およそ20分後、ついに8人のサイボーグが格納庫へ姿を現した。約5分の遅刻だ。

8人が格納庫へ入り、私たちが居る部屋の真下へ来た時、ギルモア博士が例のスイッチを押した。

通路に鋼鉄の壁が下りてくる。罠と気づいた8人が、その壁に打撃、レイガン、火炎を浴びせるも、壁が壊れることはない。

 

「ハハハ、無駄なことはやめたまえ。」

 

研究員の一人が、部屋の明かりを入れながら、8人に、人を見下したような言い方で言った。

一斉に顔を上げる8人。

 

「おとなしく研究施設へ戻るのじゃ。もう少しデータがほしいんでな。」

 

おお、ギルモア博士、悪の研究者っぽいセリフを言うもんだ。

 

「なんだと!僕たちはモルモットじゃない!」

 

こう叫んだのはピュンマだ。

サイボーグ008 本名:ピュンマ 戦闘のプロフェッショナルでもあるが、彼の真の実力が発揮できるのは水の中だ。彼は他のサイボーグよりも深く、長く、そして速く泳ぐことができる。その速さは、小型潜水艇ほどの速さだ。水中戦において、彼の右に出る者はいない。

 

「反乱などと、馬鹿な真似はよせ。こんなことをする為に、力を与えたんじゃない。」

 

ひげ面の研究員が言った。

 

「与えた?感謝してほしいような口ぶりだな!」

 

アルベルトが言う。

サイボーグ004 本名:アルベルト・ハインリヒ 右手はマシンガン、左手はレーザーナイフ、両足にはマイクロミサイルが発射できるようになっている。それぞれの武器の威力は凄まじく、彼の前に立つ敵は一瞬にして破壊されるだろう。

 

「こんな体になることを、私たちが望んでいたと言うの!?好き好んで改造されたって言うの!?」

 

これはもはや演技では無かった。一人の女性の、心の中の叫びのように感じた。

彼女はサイボーグ003 本名:フランソワーズ・アルヌール 彼女は索敵に特化しており、4km四方の索敵ができる聴覚と50km範囲を遠視する能力がある。彼女を敵に回したら、彼女のいる場所に近づくことは不可能になると言ってもいい。

 

 このような会話が研究員と8人との間で繰り広げられている最中、私たちの目の前に、一匹のねずみが現れた。そのねずみは私たちにウィンクをしてみせた。

なるほど、グレートだ。

サイボーグ007 本名:グレート・ブリテン 彼の能力は変装、いや変身と言った方がいいだろうか。どんな物体にも化けることができる。彼ならば、敵地への潜入はもちろん、破壊工作まで、いとも簡単に出来てしまう。

 

よしよし、計画通りだ。

 

ねずみがグレートだと気づいた私たちは、ねずみが研究員たちの死角に入るよう整列した。グレートはへそのスイッチを押すと、白衣をまとった研究員の姿へ変身した。グレートは研究員の一人にレイガンを突き付けると、仲間を解放し、壁を開くよう促した。そこへ、予定通りグレートへ飛びかかろうとするギルモア博士。逆にレイガンを突き付けられ、人質となってしまった。

 

「おい、そこの傭兵集団、博士の命が惜しかったら、言う通りにするんだな。」

 

グレートが、にやつきながら私たちに言う。

 

「分かった。どうすれば良い?」

 

私は両手を挙げながら訪ねた。

 

「おたくらは、対サイボーグ戦闘のプロなんだろ?俺たちを倒す事を得意とする奴らを、野放しには出来ないね。一緒に来るんだ。」

 

私たちはグレート、博士と一緒に格納庫内部にある大型輸送機まで移動した。

移動している最中、ギルモア博士は

 

「撃つなー!撃たないでくれー!こいつらは基地の爆破コードを知っとる!わしがやられたら、基地を爆破するつもりじゃ!」

 

と言っていた。

私たちは予定に無い博士のアドリブに戸惑いつつ(笑いを堪えつつ)、大型輸送機に乗り込んだ。

 

「乗って!」

 

フランソワーズが009であろう青年に言う。

 

「何しているの?早く!」

 

009は輸送機に乗り込むことを躊躇していた。無理もない。彼が8人と初めて出会ってから、まだ一日も経っていないのだ。一緒に行くべきか迷っているのだろう。

 

「僕の案内はここまでだ。この先どうするかを決めるのは、君自身だよ。」

 

幼いながらも、力がこもった声でイワンが言う。そして続けてこう言った。

 

「僕たちはBGに鎖で繋がれている。だけど、その鎖を自分たちの力で、強い絆に変えることだって出来るかもしれない。」

 

009の表情が変わる。何かを決意し、覚悟を固めたような顔だった。

力強く009は前へ一歩踏み出し、輸送機に乗り込む。9人全員が乗り込むと大型輸送機は動き出した。

 

輸送機の離陸後、コックピットで、イワンは009に右手を差し出す。戸惑いながらも009はそれに応える。日は暮れかかっており、夕日の日差しがコックピット内に差し込む。夕日を背に009に笑顔を向ける8人、それを見据える009。9人の戦士が揃った瞬間だった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。