サイボーグ009~Another Story~ 作:ピッシング
ギルモア博士のいる研究室へ向かっている間、無線機からは怒号や悲鳴交じりの声が聞こえていた。
『こちら第4区画!実験体のサイボーグが脱走した!至急応援頼む!』
『こちら第7区画!奴の姿が消えた!』
『こ、こちら第5区画・・・!あの野郎、重機を持ち上げて・・・うわぁー!』
「・・・ずいぶんと派手にやってるね。」
無線を聞きながらフラッシュがつぶやいた。
「サイボーグ8体が一気に反乱を起こしたからな。対応が追いつかないのだろう。」
私がそう言うと、パルスが首をかしげながら言った。
「う~ん、でも緊急対応部隊も、そこまでヤワじゃないでしょう?僕たちが持っているようなEMP弾とかありますし、そう簡単に脱出できますかね?」
「パルス、無線をよく聞いてみろ。」
私がそう言うと、パルスは無線に耳を傾けた。
『EMP弾が爆発しない!フラッシュ弾も駄目だ!一体どうなっている!?』
『何故弾が当たらない!?弾が曲がる!?何が起こっている!』
無線を聞き、ハッとしているパルスに、私は笑みを浮かべながら言った。
「今日はイワンが起きている日だ。」
サイボーグ001 本名:イワン・ウィスキー 容姿は、かわいい赤ん坊だが、超能力を扱うことができる。彼が本気を出そうものなら、どんなに訓練された緊急対応部隊や、優れたサイボーグであろうとも歯が立たないだろう。
研究室に入ると、ギルモア博士と研究員たちが待っていた。
「お待たせしました、ギルモア博士。我々が護衛致します。」
「おお!来たか。頼むぞ!」
「避難シェルターに移動しましょう。僕たちが先導します。」
「いや、そこより格納庫へ向かってくれんかの?」
私とパルスは顔を見合わせながら、
「格納庫ですか?何故です?」
「ここは海に囲まれた孤島じゃ、奴らがここから逃げ出すとしたら、空からじゃ。」
「しかし、格納庫へ向かったとしても、あいつらを止められるかどうか分かりませんよ?」
「問題ない。すでに手は打っておる。皆も良いな?」
研究員たちに向かってギルモア博士が言うと、
「ええ、もちろんです博士。」
と、研究員たちは薄笑いを浮かべて言った。
「分かりました。では、格納庫まで護衛します。パルス、先導しろ。フラッシュは後方を警戒しつつ、ついて来い。」
「了解。」
「了解。」
そうして私たちは格納庫へ足を進めた。
格納庫へ進んでいる最中、8人のサイボーグたちが集結したと連絡が入った。
予定通りの時間だ。そう思いつつ、私たちは格納庫まで博士たちを連れて行った。
格納庫に入ると、博士は格納庫に備え付けられたスイッチを押した。
その途端、私たちがいる部屋が上昇し始め、5mほど上昇したら動作を止めた。真下を見ると、床がガラス張りになっている。
「格納庫に入るための道は、わしらが通ってきた通路1つだけじゃ。やつらは必ずこの通路を通り、わしらのいる部屋の真下の部屋を通過する。その時にこのボタンを押せば・・・。」
ギルモア博士がボタンを押すと、真下の小部屋の通路が全て、鋼鉄の壁で塞がれた。
「なるほど、ここで奴らを閉じ込めるということですね。」
パルスが言うと、ギルモア博士はニヤリと微笑んだ。
その時、無線に新たな情報が入った。どうやら、最新鋭のサイボーグ、サイボーグ009が勝手に起動し、反乱を起こしている8人のサイボーグと合流したというのだ。
サイボーグ009、はっきりとした能力は分からないが、今まで行われた実験の成果を応用して造られたため、他の8人のサイボーグよりも優れた戦闘能力を持つらしい。
その情報に研究員たちはざわめいたが、ギルモア博士の問題ないという発言に、安堵の笑みを浮かべた。
「あとは、奴らが来るまで、身を潜めておればいいじゃろう。」
そう言うと、ギルモア博士は部屋のライトを消した。
よし、ここまでは予定通り。あとは時間通りに9人がここまで来れば良い。
私は所持している武器、グレネードランチャーGL-06の安全装置を掛けながら、予定通り事が進むことを願った。
息を潜め続けて、およそ20分後、ついに8人のサイボーグが格納庫へ姿を現した。約5分の遅刻だ。
8人が格納庫へ入り、私たちが居る部屋の真下へ来た時、ギルモア博士が例のスイッチを押した。
通路に鋼鉄の壁が下りてくる。罠と気づいた8人が、その壁に打撃、レイガン、火炎を浴びせるも、壁が壊れることはない。
「ハハハ、無駄なことはやめたまえ。」
研究員の一人が、部屋の明かりを入れながら、8人に、人を見下したような言い方で言った。
一斉に顔を上げる8人。
「おとなしく研究施設へ戻るのじゃ。もう少しデータがほしいんでな。」
おお、ギルモア博士、悪の研究者っぽいセリフを言うもんだ。
「なんだと!僕たちはモルモットじゃない!」
こう叫んだのはピュンマだ。
サイボーグ008 本名:ピュンマ 戦闘のプロフェッショナルでもあるが、彼の真の実力が発揮できるのは水の中だ。彼は他のサイボーグよりも深く、長く、そして速く泳ぐことができる。その速さは、小型潜水艇ほどの速さだ。水中戦において、彼の右に出る者はいない。
「反乱などと、馬鹿な真似はよせ。こんなことをする為に、力を与えたんじゃない。」
ひげ面の研究員が言った。
「与えた?感謝してほしいような口ぶりだな!」
アルベルトが言う。
サイボーグ004 本名:アルベルト・ハインリヒ 右手はマシンガン、左手はレーザーナイフ、両足にはマイクロミサイルが発射できるようになっている。それぞれの武器の威力は凄まじく、彼の前に立つ敵は一瞬にして破壊されるだろう。
「こんな体になることを、私たちが望んでいたと言うの!?好き好んで改造されたって言うの!?」
これはもはや演技では無かった。一人の女性の、心の中の叫びのように感じた。
彼女はサイボーグ003 本名:フランソワーズ・アルヌール 彼女は索敵に特化しており、4km四方の索敵ができる聴覚と50km範囲を遠視する能力がある。彼女を敵に回したら、彼女のいる場所に近づくことは不可能になると言ってもいい。
このような会話が研究員と8人との間で繰り広げられている最中、私たちの目の前に、一匹のねずみが現れた。そのねずみは私たちにウィンクをしてみせた。
なるほど、グレートだ。
サイボーグ007 本名:グレート・ブリテン 彼の能力は変装、いや変身と言った方がいいだろうか。どんな物体にも化けることができる。彼ならば、敵地への潜入はもちろん、破壊工作まで、いとも簡単に出来てしまう。
よしよし、計画通りだ。
ねずみがグレートだと気づいた私たちは、ねずみが研究員たちの死角に入るよう整列した。グレートはへそのスイッチを押すと、白衣をまとった研究員の姿へ変身した。グレートは研究員の一人にレイガンを突き付けると、仲間を解放し、壁を開くよう促した。そこへ、予定通りグレートへ飛びかかろうとするギルモア博士。逆にレイガンを突き付けられ、人質となってしまった。
「おい、そこの傭兵集団、博士の命が惜しかったら、言う通りにするんだな。」
グレートが、にやつきながら私たちに言う。
「分かった。どうすれば良い?」
私は両手を挙げながら訪ねた。
「おたくらは、対サイボーグ戦闘のプロなんだろ?俺たちを倒す事を得意とする奴らを、野放しには出来ないね。一緒に来るんだ。」
私たちはグレート、博士と一緒に格納庫内部にある大型輸送機まで移動した。
移動している最中、ギルモア博士は
「撃つなー!撃たないでくれー!こいつらは基地の爆破コードを知っとる!わしがやられたら、基地を爆破するつもりじゃ!」
と言っていた。
私たちは予定に無い博士のアドリブに戸惑いつつ(笑いを堪えつつ)、大型輸送機に乗り込んだ。
「乗って!」
フランソワーズが009であろう青年に言う。
「何しているの?早く!」
009は輸送機に乗り込むことを躊躇していた。無理もない。彼が8人と初めて出会ってから、まだ一日も経っていないのだ。一緒に行くべきか迷っているのだろう。
「僕の案内はここまでだ。この先どうするかを決めるのは、君自身だよ。」
幼いながらも、力がこもった声でイワンが言う。そして続けてこう言った。
「僕たちはBGに鎖で繋がれている。だけど、その鎖を自分たちの力で、強い絆に変えることだって出来るかもしれない。」
009の表情が変わる。何かを決意し、覚悟を固めたような顔だった。
力強く009は前へ一歩踏み出し、輸送機に乗り込む。9人全員が乗り込むと大型輸送機は動き出した。
輸送機の離陸後、コックピットで、イワンは009に右手を差し出す。戸惑いながらも009はそれに応える。日は暮れかかっており、夕日の日差しがコックピット内に差し込む。夕日を背に009に笑顔を向ける8人、それを見据える009。9人の戦士が揃った瞬間だった。