RINN   作:春ちゃん

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憧れてた場所

 

 

凛はね、あの日のことは本当に運命だと思ってるんだ。凛の人生の中でも、あの日々は際立って輝いてた。ラブライブの優勝だって霞むくらい、凛はあなたとの生活が楽しくて仕方がなかったよ。

 

もう一度だけ、一度でいいからさ。

 

 

また、一緒に歌おうよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

✱✱✱✱✱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう!進路なんてわかんないよ!かよちんと真姫ちゃんはどうしたの?」

 

 

夏休みが明けて2週間。3年生の凛は進路調査票に向かって項垂れていた。この時期だと普通は決めていておかしくなく、むしろ決めてないとダメなレベルらしいんだけど、凛はまだ将来のことが漠然としていて進路が決まらない。

 

 

「私は農工大かなあ。やっぱり花陽といったらお米!将来もお米関係のお仕事に就けたらいいなって思うから」

 

 

「私は医大。凛も知ってるでしょ?」

 

 

「そっかあ…。やっぱり凛だけ決まってないんだよねえ…」

 

 

かよちんは未来に繋がる好きなことがあっていいなあ。ことりちゃんも高校を卒業したら留学したし、2人みたいに好きなことを目標に頑張れたらいいのに。

 

それに真姫ちゃんもお(うち)が何かやってるのも羨ましい。決められたレールなんて言ったら聞こえが悪いけど、はっきりとした目標が元々あるのは無い人からしたら羨ましいなあ。穂乃果ちゃんも和菓子屋を継ぐために専門学校に進学したし、こうやって宙ぶらりんなのは凛だけなんだもん。

 

 

「もういっそのこと凛も農工大にしよっかなあ」

 

 

「ええ!?凛ちゃんが一緒なら嬉しいけど、……今からだと難しいかもしれないよ?」

 

 

「そうよ。あなた全然勉強してないじゃない」

 

 

「失礼にゃ!!ちゃんとしてたもん!!」

 

 

「あ、今の口癖珍しいね。3年生の初めにやめるって言ってからだと多分4回目くらいかな?」

 

 

ああ、つい言ってしまったにゃ。ていうか今のもダメじゃん。『にゃ』はそろそろ恥ずかしいからね、気をつけなきゃ。

 

 

「話を逸らさないで!凛も勉強してたから農工大行けるもん!」

 

 

「でも、今からだと本当に間に合うかわからないわよ?」

 

 

「だよね…。心配だなあ」

 

 

2人とも本人を前にすっごい失礼だよ!確かに凛はあんまり頭は良くないけど、何もそこまで言うことないじゃん!

 

 

「あ、そういえば農工大ってどれくらい頭良いの?」

 

 

「凛の偏差値のプラス10くらい。これでも本当に行くつもりなの?」

 

 

「行くにゃ!!……じゃなかった、行く!!今から頑張ったら偏差値の10くらいぽんぽん上がるにゃ!」

 

 

凛のその言葉にかよちんは苦笑いを浮かべ、真姫ちゃんは呆れた顔をしていた。

 

 

……まあせいぜい今のうちだけ心配しとくんだね!合格発表の時の凛の名前を見てびっくりしないことにゃ!

 

 

あ、またにゃって言っちゃってるや。直さなきゃ。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

………けれど現実はそんなに甘くなくて。

 

 

「あれ!?!?なんで凛の番号がないの!?かよちん、これ書き忘れてるとかない?」

 

 

3月某日、私星空凛は、見事に第一志望を滑ってしまいました。

 

 

「凛ちゃん……」

 

 

対するかよちんは凛を見ておろおろしていた。

 

………書き忘れなわけ、ないよね。

 

 

「かよちんは………、あっ、受かったんだね。おめでとうにゃ!かよちん!」

 

 

「う、うん。ありがとう。でも、凛ちゃんは…」

 

 

「大丈夫だよ!私立の短大は受かってるから、浪人にはならないし!気にしないでね」

 

 

そう言って凛はかよちんに背を向け、家路を歩き出した。足音から、かよちんがついてきている様子はなかった。きっと気を使ったんだろうね。もう、いいって言ってるのに。

 

 

 

…早く帰らなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

✱✱✱✱✱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はあ、暇だなあ。なんか授業受けるのも前よりだるくなった気がする。

 

それも、辞めちゃったからかな。

 

 

 

────アイドル。

 

 

 

私、渋谷凛は高校2年の秋頃にアイドルを引退した。シンデレラプロジェクトの子達には言ってたから私の周りではそんなに驚きはなかったんだけど、世間では色んな憶測が囁かれていたらしい。

 

例えば枕営業が理由だとか、事務所と喧嘩したとか、ブラックだったからだとか、346プロの悪口ばっかりだった。今思えば安直なネガティブキャンペーンだよね。全部事実無根で、ちょっと考えたらわかることだし噂もすぐ消えたけど。

 

実際の理由は単に勉強に集中したいからで、世間の求めているような大層なものはない。勉強すること自体は嫌いじゃないし、親も大学に行くことを望んでるから極めて真っ当な理由である。

 

ただそれでも授業が退屈に感じるのは、やっぱりあの頃に比べて刺激が足りないからなのかな。

 

 

「渋谷、ここ答えてみろ」

 

 

「はい」

 

 

こうして読む英文だって興味をそそらない。嫌いじゃない、というのはイコールで好きというわけでもないのだ。あの日の卯月の笑顔ほど心を動かされることも、トライアドプリムスに感じた可能性も、勉強には全く感じない。

 

 

……まあ、今更戻るなんてのも虫のいい話だと思うけどね。

 

 

私がアイドルを辞めた理由はもう一つある。これはプロデューサーにしか言っていないことで、例えメンバーの仲間であっても恥ずかしくて言えないような理由なのだ。

 

 

簡単に言うと、渋谷凛はアイドル活動をする上で挫折をした。

 

 

ニュージェネとトライアドプリムスの二足のわらじでの活動は悪いものではなく、むしろ順調に進んでいた。歌や踊りだって目立った失敗はなかった。なら何が私を引退に追い込んだのかと言うと、それはライブの時の緊張感だ。お客さんの前に立ってふと思うことがある。果たして彼ら彼女らは本当に私のことを認めているのかを。アイドル活動が厳しいというのは重々理解しており、決して舐めてかかっていたわけでもなかった。それなのにそんなことを思ってしまうと不安に駆られて仕方がなくなる。

 

 

つまりは、お客さんの期待から逃げたってことだね。

 

 

 

…ほんと、格好悪い。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

なんて、自己嫌悪に浸っている間も時間は過ぎる。志望校には無事合格し、これで一息つけると思うと今までぴっちりと張っていた緊張の糸が途端にたるんだ気がした。

 

いやほんと第一志望に合格してよかったよ。後悔とか未練とか、そんな高尚なものじゃないけどアイドル辞めたのに受からなかったら何のためにやめたんだ、ってなるもんね。

 

 

親に報告した後はこうして自室でぐだぐだ考えていた。親はもちろん卯月と未央にも連絡はしたし、あとは誰に言わなきゃだっけ。

 

……別に変な意味はないし。あいつには世話になったからこれくらいは言わないと逆に恩知らずみたいになるし。

 

 

ひとしきり自分に言い訳をした後、私はケータイから『プロデューサー』と書かれた欄を探した。長らく使わなかったその連絡先はどこか寂しそうな気がして、しかしそんなことはないと割り切り電話をかけた。

 

 

昼下がりのこの時間だと多分一番忙しい時間だろうから出ないかな。不安と期待の()い交ぜになった気持ちで応答を待った。

 

ごめん、ミス。期待なんかしてない。ただ進学の報告をするだけだから。大事なことだから二回いうけど期待なんか本当にしてないし。

 

 

『もしもし』

 

 

「うわあ!!……急に出ないでよ」

 

 

『すみません』

 

 

久しぶりに聞いた彼の低い声はどこも変わっておらず、うまく言い表せないけどなんか安心した。

 

 

『お久しぶりです。こうして話すのは引退した後からだと初めてですよね』

 

 

「そうだね。みんなは元気?」

 

 

『ええ。本田さんはポジティブパッション、島村さんは現在ソロの活動が中心です。ほかの皆さんも順調にお仕事をこなされています』

 

 

「そっか。あと要件なんだけどね、私第一志望合格したよ」

 

 

『そうでしたか。おめでとうございます。それなら良いタイミングに掛けてきてもらいました』

 

 

「良いタイミング?」

 

 

『実は自分も電話をしようと思っていまして』

 

 

そこで、一つ間を置いた。大事な用なのかな。

 

 

『渋谷さん、もう一度アイドルを始めてみませんか』

 

 

「挫折で逃げ出した私に、それを言うんだ」

 

 

ファーストライブの時に挫折した未央も、舞踏会の時に挫折した卯月も、みんな誰しも一度は挫折を経験してるのに、その()()()は今もしっかりアイドルをしている。

 

逃げ出したのは、私だけ。

 

 

『挫折を経たアイドルは、それまでよりいっそう羽ばたけます』

 

 

「…言いたいことはわかるよ。たださ、プロデューサー風に言うと多分私は羽ばたき方を忘れてる。挫折の期間が長すぎたからね」

 

 

『ですが……』

 

 

「ごめん、誘ってくれたことは嬉しかったよ。ま、そういうことだからさ。報告がしたかっただけ。じゃあね」

 

 

ピッ、と音が鳴ったことを確認してから軽くため息をつく。

 

 

アイドルを始めてみませんか。今の私にはなんと僥倖だろう。落ち着いて考えてみれば断る理由なんて取るに足らないものばかりだ。退屈な日々をなんとなく過ごすかアイドル活動に励むかを天秤にかけると、それはあえて言うまでもない。

 

私だって、本当は戻りたい。だけど卯月達のことを思うと、ステージのお客さんのことを思うと。

 

 

やはり簡単には決められなく、こうして蔑ろにするのが精一杯だった。

 

 

一つ理由を付けるとすると、私は大学から一人暮らしをするようにと言われている。家から割と遠く通学費がかなりかかるため、それなら人生経験の一環として一人暮らしをするのもいいんじゃないかということだ。

 

大学に進学して一人暮らしをする。これだけの環境の変化にプラスしてアイドルを始めるのはいささか厳しいというのは立派な理由だろう。

 

 

家を見に行くのはいつがいいかな。そう何回も行く余裕はないし、早く行かなきゃいい物件が取られるかもだからね。まして東京なんて人の移り変わりが激しい場所だ。早いに越したことはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

✱✱✱✱✱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあかよちんは一人暮らしするんだ!」

 

 

1週間ほど経ち、今日は音ノ木坂の卒業式。大体の高校は合格発表待ちの間に卒業式を終わらせるところが多いけど、うちは粗方の受験が終わってからみんなで清々しい気持ちで(おこな)いたいという理事長の方針により今日に執り行われる。

 

そして凛たちはそれまでの間、今ではとても馴染み深い部室で真姫ちゃんを含めた3人で話していた。

 

 

「うん、もう部屋も決まったんだよ」

 

 

「そう。でも花陽、本当に1人で暮らせるんでしょうね?」

 

 

「で、できるよ~!花陽だってやるときはやるんです!」

 

 

「いいなーかよちん。凛も一人暮らししてみたい!」

 

 

「凛なんてもっと心配になるわよ。あなたはやめときなさい」

 

 

「でもでも、夜遅くまで起きてても何も言われないんだよ?」

 

 

「それと凛が一人で暮らせるのかは関係ないじゃない…」

 

 

まあ確かに凛も頼る人がいないとだらけちゃう気はするんだけどね!それでも身近な人が一人暮らしをするって聞いたら羨ましくなっちゃうよ。一人暮らしだったらあんなことができるのにな~、とか逆にいろんなことも自分でやらなきゃダメなんだろうな~、とか好奇心がそそられるのは間違いないよね。

 

 

「それでもやっぱり羨ましいなあ。凛もお願いしてみようかなあ?」

 

 

「なら花陽と暮らせばいいんじゃない?凛も滑り止めの短大に行くんなら聞いたところだと近いし、家賃も半分よ」

 

 

「真姫ちゃん天才にゃー!!!ねえかよち~ん、お部屋、ひとつ空いてたりしてない?」

 

 

上目遣いで瞬きを二回ずつして口角を釣り上げかよちんを見つめる。ことりちゃんから伝授されたこの『お願い、海未デレラ!』の破壊力は凄まじい。本物のアイドルソングにちなんで名付けられたこの技は、ことりちゃんが卒業する時に凛だけ教わった秘術!穂乃果ちゃんはともかくあの難攻不落の海未ちゃんまでお願いを聞いてもらえるポーズは色んな場面で重宝しており、こういった場面ではほとんど使っている気がするね。

 

 

「も、もう、凛ちゃん!そのおねだりはずるいよ!それに花陽も一緒に住んでみたいけど、六畳一間の部屋に2人はちょっと…」

 

 

「真姫ちゃん、六畳一間ってどれくらいの大きさ?」

 

 

「教室の4分の1くらいじゃないの?(たたみ)を6つ四角になるように並べてみたくらいよ」

 

 

「そっか、ごめんねかよちん」

 

 

それは流石に狭いや。1人なら快適にでも過ごせそうだけど、2人で教室の4分の1は恋人とかじゃないとダメだよね。

 

……ん?恋人ならいいのかな?

 

 

「かよちん、凛とさ…」

 

 

両手を胸に当て、顎を突き出し気味に上半身を前にやる。目は潤ませてかよちんの目を恥ずかしげに見つめる。

 

 

「恋人に、ならない?」

 

 

────今年度最後の「誰か助けてぇ~!」が響き渡りましたとさ。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

卒業式はつつがなく終わり、今日くらいはと学校であったことをお母さんに話していた。その流れで凛も一人暮らしをしてみたいということを伝えたところだった。

 

 

「一人暮らしか。いいんじゃない?パパにはママから言っとくからさ、短大の2年間くらいはしてきなよ。その後戻ってくるかそのまま住み続けるかは凛次第で、家賃も短大にいる間は払ったげるし」

 

 

「あれ?いいの?凛てっきり反対されるんだと思ってたんだけど」

 

 

なんか思ったよりも簡単に許してくれるお母さんにびっくりしながらも、凛は話の腰を折るまいと無駄なことは言わないように心がけながら訊ねた。

 

 

「ママも一人暮らししてたからねえ。ていうか一人暮らししてなかったらパパと結婚できてなかったかも」

 

 

「なんで?」

 

 

「え!?それはアイツが実家通いだったからで……、まあそれはともかく!確か花陽ちゃんの新しい家と大学近かったよね?花陽ちゃんは明日からもうそこでの生活を始めるらしいし、1週間後くらいに泊めてきてもらいなよ。その後1日ゆっくり見てから帰ってきな」

 

 

お母さんがパパとの話を強引に打ち切ると、今度は強引にかよちんの家に泊まることを勧めてきた。凛は嬉しいけど、なんで泊まる必要があるんだろ?

 

 

「凛、お前今なんで泊まる必要があるのかな?みたいなこと考えたろ?家見て回んのは割と時間がかかるからさ、できることなら1日回れたらいいなって思ったんだよ」

 

 

「じゃあなんで1週間後なの?」

 

 

「そりゃ凛、引っ越して3日もしない内に誰かが泊まりにきたらてんてこ舞いになるじゃんか。花陽ちゃんは花陽ちゃんで一人暮らしに慣れなきゃ」

 

 

なるほど、確かに理にかなってるや。あとまだ何個かは気になることがあるんだけど(なんでお母さんがかよちんの引越し場所を知ってるかとか)、まあその辺は考えたらわかることだし聞かなくていいかな。

 

 

あ、一つ言い忘れてた。

 

 

「お母さん、ありがと!」

 

 

既に背中を向けていたお母さんから鼻をすする音が音が聞こえ、それが何よりもわかりやすい返事だと理解して、凛は部屋に戻った。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

そして1週間後、午後6時。季節感を全く無視した大雪に凛は圧倒されていた。

 

駅に着くまでは普通に綺麗な雪だったのに、着いた途端凄い勢いで吹雪いてきた結果電車は軒並みストップした。

 

 

『凛ちゃん、今日はもうほとんど動かないらしいし帰った方がいいんじゃない?』

 

 

「いーや、凛は行くよ!知らないかもだけど、凛の座右の銘は思い立ったが吉日だからね!!」

 

 

『思い立ったのは1週間前じゃ……、なら凛ちゃん、○○駅に来てくれる?そこからじゃ遠いかもだけど、そこで待ち合わせして私の家に向かおう?それなら大丈夫?』

 

 

「余裕にゃ!!……じゃなかった、余裕だよ!じゃあ着きそうになったら連絡するね」

 

 

電話を切り、電車の運行状況を確認する。

 

 

・只今大雪の為~~~

 

・只今大雪の為~~~

 

・只今大雪の為~~~

 

 

と、どれも動いていない。

 

 

なら歩いていこう!と思って外を見るとさっきより荒れた吹雪の空。とてもじゃないけど歩けないね。地区大会並に吹雪いてるじゃん。

 

 

………仕方ないか、タクシー使おう。お金はいっぱい持ってきてるし足りるよね。

 

 

え、足りるよね?

 

 

一抹の不安を抱きながらタクシーを回っていくが、生憎なことにスタッドレス?だっけ?を履いたタクシーはもうほとんど無いと言う。まあ確かに3月中旬に吹雪くなんて例年じゃありえないもんね。

 

そしてやっと見つけた動けるタクシーに乗り込むことができた。

 

 

「どこまで?」

 

 

タクシーに乗り込むと運転手さんがそう訊ねてきた。あれ、どこだっけ?

 

 

「えっと、え~っと……。あ、かよちんの家!!」

 

 

やっと出てきた答えはとんちんかんなで、しかも目的地があってないという散々なものだった。

 

凛はタクシーなんてニューヨークでライブしたあの時にしか乗ってないもん!慌てても仕方ないもん!と自分勝手な考えが頭を巡る。

 

流石のタクシーの運転手も苦笑いを浮かべており、どうしようどうしようとオロオロしてると、さらに凛を慌てさせるシチュエーションが舞い込んできた。

 

 

 

 

 

「すいません、○○駅まで!」

 

 

 

 

 

初めに出てきた感想はすっごい綺麗な人だな、という実に小学生みたいなものだった。長い黒髪に高い身長、大きな目に小さな頭。まるでモデルかアイドルみたいとも思った。

 

 

「…あ、凛もそこ!!○○駅!」

 

 

凛が乗ってるタクシーに乗り込んできた人はその声にとても驚いていた。

 

 

「え!?あ、ごめんもしかして先に…というかもしかしなくても先に乗ってたね。降りるよ」

 

 

「あ、いや、こちらこそごめんなさい!」

 

 

つられて謝った凛に黒髪の女性はしばらく目を丸くして、そしてぷっと吹き出してしまった。

 

 

「あはは!あなた、面白い人だね」

 

 

「ええ~?別にそんなことないにゃ!!普通だよ!」

 

 

「……にゃ?」

 

 

あっ、と凛の口から出る前にタクシーの運転手が一言、

 

 

「仲良しだねえ。それなら目的地も一緒みたいだし2人で乗るのはどうだい?多分うち逃したら別の探すの大変だろうし、それに2人だと半額になるよ?」

 

 

と提案をしてきた。

 

 

「私はそうしてもらうと嬉しいけど、さすがにこの人に悪い……「それでお願いします!」……え?」

 

 

「お願いします、一緒に乗ってください!」

 

 

凛が頭を下げると、黒髪の女性はまた笑ってこちらこそ、と同じように頭を下げた。

 

 

…ふう。これでお金は足りるよね。

 

 

「じゃあ出発するよ。この雪だと時間かかるからお2人で話すなりなんなりしといてね」

 

 

扉を閉め、タクシーが動き出す。言われて見つめあった凛たちはまた笑いだした。

 

 

「ふふっ。もう、何回笑わせる気?」

 

 

「それはこっちのセリフだよ~!…あ、自己紹介がまだだったね。凛は星空凛っていいます!」

 

 

その自己紹介に黒髪の女性はそういうこと、と小さく呟いた。

 

 

「奇遇。私も“凛”って言うんだ」

 

 

少し躊躇ったのか、一瞬言葉を詰まらせてから

 

 

「渋谷凛。よろしくね」

 

 

と、微笑んだ顔で名乗った。

 

 

 

 

 

────これが始まり。お互いに2度目となる、運命の出会い。

 

 

…なんかそういうと恥ずかしい気もするんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






長くて話の流れがよくわからなかった人のために。

星空凛
滑り止めの短大に行くということで一人暮らしをする。

花陽の一人暮らしの家に泊まるために電車ので行こうとするが大雪で行けない。なのでタクシー使用。

渋谷凛
高校2年でアイドルを辞める。それから大学には合格して前から言っていた一人暮らしを始めようと準備をする。

大学合格をプロデューサーに伝え、もう一度アイドルをしないかと誘われるが断る。

何日後かに雪の日にタクシーに乗ろうとして星空凛と遭遇。

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