醜悪   作:燈籠

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ーー只今より、✕✕駅、✕✕駅に到着いたします。お降りの際は足元にご注意くださいーー


妖怪と人間、時々天狗

 

003.

 

結論としては、僕はここ、幻想郷に住むこととなった。ちょうど霊夢さん(無理やりそう呼べと脅迫された)が、住む場所をどうするかというところまで話が進んだ時だった。

「だーかーら! 昴は、この私と住むの! アンタみたいな胡散臭いクサレババアと一緒に住んでたら何されるかわかったもんじゃないわよ」

「あらあら好き勝手言わせてたらこんのクソアマは幻想郷の賢者に向かってそんな舐めた口聞くとはいい度胸ね死に場所は選ばさせてあげるからとっとと死ぬ準備をなさいな」

……相変わらずこの二人の喧嘩は留まることを知らない。なぜこうも美人美少女がお互いを貶し合う図を延々と見続けなければならないんだ。しかもどちらかの家に暮らすことが確定してるのも解せない、ひとつ屋根の下で男女が一緒にいると危ないのではないかと進言はしたのだが、

「「私は平気よ」」

と、口を揃えて言い放ったのだ。真顔がとても怖くて断りたくても出来なかった。

とりあえず、そろそろ本当にマズイ雰囲気になってきたので止めに入る。

「二人ともとりあえず落ち着いてください。確かにお二人に甘える事は悪い話ではないかもしれませんが、僕はまだこの世界の事をよく知らないんです。ので、この世界の事をよく知ることができ、尚且つ安全な場所に拠点を置く、というのはどうでしょうか?」

二人のどちらかに甘えて安全に引き篭るという選択肢もあるが、せっかくだから一目でもこの世界の全容を見ておきたい、という建前もあるが本音としてはこんな美人と一緒にいては心苦しいというのもある。今までこんな風に好意的に接された事なんてなかったから余計に気になってくる。今の目的は、情報収集だ。

「ですので、お二人の好意を無駄にしてしまう形で大変申し訳ないのですが、どうかお願いできますか?」

そう言って頭を下げると、二人は唸ってしまう。やっぱりダメだろうか?

「…認めたくないけど、昴さんの頼みなら。けど、危ないことに巻き込まれたりしたらすぐに頼っていいんだからね? まずそれを約束してちょうだい」

「わかりました、霊夢さん。約束します」

それを聞き、ほっとしたような困ったような表情の霊夢さんは、手を振りながら神社の中へと入ってしまった。

一方紫さんは、何やら自らが入っているうにゃうにゃの中に手を入れて探し物をしているようだった。

「紫さんは今、何をなされているんですか?」

「あら、そうですわね。なかなか私の方を向いてくださらない殿方に少し寂しく思っていましたのよ? …まあ、それは良いとして。今から貴方に贈り物を授けますわ、それは貴方の身を守る物でもあるので、決して無くなさいように」

そういって手渡されたのは、綺麗な音色の黄金色の鈴だった。しゃらしゃらと心地よい音を出す鈴を大切に胸のポケットにしまう。

「ありがとうございます、大切にしますね」

「ええ、ああそうそう。貴方の目的地は人里…この神社をまっすぐ降りれば着きますわ。そこで上白沢慧音という女性に会いなさい、彼女ならきっと力になってくれると思うわ」

「重ね重ねありがとうございます、このご恩はいつか」

今返してもいいのよ、という返しを苦笑いで誤魔化すと、一先ず人里へと向かうことにした。上白沢さんに合わねば。

そうして、長く続く階段を降りていった。

 

004.

 

階段を下りきると舗装されてないでこぼこした道が伸びていた。とりあえず、この道沿いに行けばたどり着けると言ってたので、そのまま歩く。左右は木々で囲まれ、視界も悪く何かが飛び出してきそうな雰囲気が漂っていた。お化けとかでなければいいのだけれど。

「ん…? だ、誰ですか…?」

ふと視線を感じとり、目を向けると何かがいた。人かと思いきや、木陰から姿を現したモノを見て息を呑んだ。『異形』、そうとしか形容できない生き物が八つの目をぎらつかせていた。狼と蜘蛛が混じったような、うじゅうじゅと水音をたててゆっくりと近づいてきた。

「もしかして、これが、」

妖怪、そう口に出す前にソレは飛びかかってきた。間一髪、横に飛び初撃は躱せたが、もう一度はないと思った。そのままがむしゃらに走って走って走った。

「逃げなきゃ死ぬ逃げなきゃ死ぬ逃げなきゃ死ぬぅう!! こんなところで死ぬのは嫌だァ!!」

絶叫しながら暗い森を駆け回った。途中、木の根やツタに足を取られ、こけたりもしたが、振り返るとヤツはもう来なかった。助かったという安堵感と疲労感でその場でへたりこんでしまった。額にかいた汗を拭い辺りを見渡すが、深い霧に覆われていた。

「…どこだここ」

道から外れたのでココがどこだかわからなくなってしまった。誰かに話を聞きたいのだが、人の気配なんて全くといって無いのでどうしようもない。

「誰かー、誰かいないですかー」

「はいはーい、ここですよー」

突然聞こえた声に、半狂乱になりながら振り向くと、ワイシャツに黒いワンピースを着た可愛らしい女の子が、ふよふよ浮いていた、そう、浮いていた。

「貴方は食べられる人類?」

「た、食べられると困る人類、かなぁ?」

「そーなのかー、じゃあ食べなーい」

にこにこと愛らしい笑顔を浮かべ、末恐ろしい事を口に出すこの子は、ルーミアと言うらしい。先ほど浮くさまを見たように、妖怪らしく、こうやって遭遇した人間に食べられるのかといちいち問うらしい。

「その、ルーミア。人里ってどっちの方向にあるの?」

「んーと、それならこっちじゃなくて反対側だよ。巫女の匂いがするからてっきり会ったのかと思ったけど違ったみたいね」

「え、ああいや、その、情けない話気味の悪い妖怪に襲われちゃって、分け目もふらず逃げてきたらここにいたんだ」

「へー、へんなの」

「変なのって…」

普通あんなの見たら誰だってビビると思う。そうだと信じたい。しかし、ほんとうに見た目は人と同じなんだなぁ、人型の妖怪って。

『おい! そこのニンゲン!』

また新たに別の声が上から降ってきた。声と同時に質量を持った何かが頬を掠めた。それは、拳大の氷の塊だった。見上げると、そこには自信満々な顔の水色の髪色の少女がいた。普通と違うといえば、背中に先ほどの氷のようなものがあり、宙を浮いていることだろうか。しかし、今本当に危なかった。あと少しズレていたら直撃を受け、ただでは済まない事になっていたかもしれない。やはり幻想郷はどこか自分のいた所と感覚がズレているのを再認識した。

『このあたいのナワバリに入ったからにはかくごはできてんでしょーね!』

「ちょっとチルノー、コイツ巫女に会ってるからまた退治されちゃうよー。あとコイツ弾幕ごっこできないと思うよー多分」

「げっ、ミコんとこに行ってたヤツなのか…ちぇっ、つまんないの」

チルノと呼ばれた少女は苦い顔をしながらそう吐き捨てるとどこかへふよふよ飛んでいった。なんだか無邪気な子どもだったなぁ、と思っているとルーミアがため息をついてこっちを見た。

「はぁ、アンタって運がいいのね。いくら弾幕と言えど生身の何も施してない人間に当たったら最悪死んじゃうからねー、そこんとこ気をつけといた方がいいと私は思うよー」

「……色々と聞きたいことがあるけど、まあそれは水に流しておくよ。それでルーミア、僕に里への道を一応教えてくれるとありがたいんだけど」

「悪いけど、私は善行を積むために生きてるわけじゃないの。あくまでも私は妖怪、人に畏れられなければ存在を維持出来ないの。そうねぇ、ヒントをひとつ、あげるとするならばこの湖の反対側にある趣味の悪い真っ赤な館かあるんだけど、そこなら案内してくれるかもねー」

「そっか、ありがとう」

「お礼なんていらないよー、また会ったら今度は遊ぼうねー」

そう言って別れを告げようとし、ルーミアはどこかへ行こうとしていたが、急にこちらを向き、気になる一言を残していった。

「あーそーだ、かめらってのを持った烏天狗には気をつけなよ。アイツ、パパラッチだからあることない事でっち上げられるからねー」

それだけ言うと、今度は本当に行ってしまった。それにしても、

「パパラッチって…そもそも、烏天狗…?」

残された言葉には、謎が残っているばかりだった。

 

005.

 

見たところ、この湖はとても広いらしい。さらに、霧がかかっているため視界が悪く終わりが見えないのがなんとも言えない恐怖を煽る。先程から同じ場所をなんども通っているような気がしてならない。

「くっそぉ…一体どこにあるんだよ、その真っ赤な館は」

先程、ルーミアという妖怪の少女から聞いた『趣味の悪い真っ赤な館』を探しているのだが、目立ちそうな気もするのだが全くそれらしいものを見ることは無かった。ただ見えないだけなのだろうが。

「湖の先って言ってたけど、もう何周かしてるよなぁこれ。さっきいたところどこだっけ、はぁ…災難だ」

「あやややや? これはこれは、人間が何故こんなところに?」

またもや上から声をかけられた、今度はさっきの子どもの声とは違い凛とした女性の声だった。声の正体はふわりと地に降り立つと、黒々とした艶めきを持つ翼を折りたたみながら詰め寄ってきた。

「もしかしてもしかして、貴方外来人ですかそうですよね! 是非とも文々。新聞の著者兼取材者のこの射命丸文に取材させていただけますか!?」

「は、はぁ…」

目の前の彼女、射命丸文さんは鼻息を荒くして目を輝かせている。正直、あまり顔の近くによられたくないし見られたくないので後ずさりするが、それに合わせ…それ以上に近寄ってくるのでキリがなかった。顔を逸らすことでなんとかなったが、どうにか取材に応じるのだけは避けたかった。

「も、申し訳ないのですが、生憎急いでおりますので…また今度お会いした時でもよろしいですか?」

「むむむ…そこまで丁寧に言われると、仕方ないですね。またいつかどこかでお会いした時に、この清く正しい射命丸文を思い出してくださいね! それでは!」

「あ、あの!」

赤い館の場所を、と聞こうとするが既に遅く射命丸さんは瞬く間に飛んでいってしまった。

「…仕方ない、また探すとするか」

こうして折角の道を聞くチャンスをみすみす見逃してしまい、少し辺りが暗くなるまでさ迷ってしまったのだった。

 




〜設定資料〜

昴…フツーの人間、弱い
霊夢…ちょー強い、ツンデレ
ゆかりん…胡散臭い、デカイ


予告ーー
ようこそ、紅魔館へ
だって寂しいんだもん!!!
しばらく帰らせはしないよ、あの子のためにも
僕には、僕には、できっこないですよ…
次回
金色の蝙蝠の泣く館、独りぼっちの蒼い羽根
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