今回の話はハカメモやサイスルのあるシーンを拡大解釈することで生まれた、出オチネタ作品です。
一応、コメディのつもりです。
設定を拡大解釈しているので、おそらく原作でこれはありえませんので、そこをご了承ください。
ギャグやコメディ時空として、あるいは設定改変作品として、緩くご覧下さい。
――これは、歪んだ物語の断片。ありえたかもしれない、ありえない物語。
EDEN――それは、新時代のWEBコンテンツ。バーチャルリアリティとしてネットの情報を感覚的に体感することができる電脳空間である。
そこで利用できるサービスは、ショッピングや企業間の商取引、果ては行政手続きまでさまざま。まさに、新しい世界にしてもう一つの日常。
その電脳に、人々は熱狂していた。
とはいえ、だ。どのような物事にも光と闇はある。
このEDENにおける闇。それは発展した電脳世界であることを利用して、好き勝手するハッカーがいるということだ。
もちろん、全てのハッカーが悪いとは言わない。だが、悪いハッカーが少ないということも決してない。
例えば、企業のサーバに入り込んで情報を盗むハッカーもいれば、EDENで活動するためのアカウントを不正に奪うハッカーもいる。
特に、後者はアカウント狩りとすら呼ばれ、一般の人々から恐れられていた。
まぁ、当然だ。今や現実世界の身分証にすらなるEDENアカウントを奪われるということは、自分の社会での権利を握られるに等しい。
なにせ、アカウントには個人情報が詰まっている。それこそ、その人の見た目すらも。だから、他人のアカウントで不正にログインすれば、その人になりすまして行動することだってできる。
クレジットカードを盗まれたのであれば、他人に自分の金を使われたり、自分名義で金を借りられたりしてしまうだろう。アカウントを奪われるということはそれと同じように、いや、それ以上のことになる。金以上のありとあらゆることが自分として他人にされてしまうからだ。
奪われてしまった人の中には、そうやって人生が破滅した人もいる。中には自らハッカーとなって犯人を追うような猛者もいるが、そんなのは例外中の例外だ。
大抵は泣き寝入りするか、裁判で無実を訴えるか、のどちらかだ。
そして、今日も今日とて、アカウント狩りは発生していた。
「ひっひっひ。ったく、ちょろいよナァ。新作ゲームをいち早く体験できるって銘打ちゃ、少なくとも十人がのこのことウィルス入りのプログラムを受け取ってサァ」
「ああ、アカウントの入れ食いだよナァ」
EDENの下層、廃棄データが集まるクーロンと呼ばれるエリア、その片隅に二人組のハッカーが笑い合っている。
彼らは
しかも、アカウントを狩るという最もめんどくさい段階を終えた直後なのだから、そりゃあ浮かれるというものだ。
あと数十分で、彼らは大金を得られる。その時を妄想して、彼らは興奮していた。
まぁ、
「おい」
「あ? お前誰だヨ」
所詮は捕らぬ狸の皮算用なのだが。
先ほどアカウント狩りの被害者は泣き寝入りするか、裁判で無実を訴えるかのどちらかだと述べた。
だが、彼らの中にはもう一つの選択肢をとる者もいる。もちろん、その選択肢を知る者は少ないのだが、それでもいる。
そのもう一つとは事態を解決できる相手に相談し、依頼すること。
例えばその相手は、便利屋と呼ばれるハッカー集団であったり、中野ブロードウェイに居を構える探偵事務所であったり、あとは……――あとは。
「お前らが盗ったアカウント、返してもらうぜ」
「アァ? 返すわけねーダロ!」
「いきなり現れて、何なんだヨ!」
「あぁ、オレか? オレは……」
あとは。
「名乗るまでもねぇ。ただの電脳探偵さ」
あとは、この自称電脳探偵こと真田アラタくらいか。
一方で、そんなアラタにハッカーたちは苛立ったようだった。まぁ、ちょっとばかりの自己陶酔が入った名乗りを聞かされたのだから、気持ちはわかるだろう。
「ハッ。正義の味方を気取りやがッテ! いけぇっ、シェルモンッ」
「金は俺たちのもんダ! ボコボコにしちまえッ、ミノタルモン!」
彼らは手元の端末を操作し、すぐそばにピンク色の軟体の本体を持つ巻貝のようなモンスターと、二足歩行で機械の左腕を持つ牛のようなモンスターを呼び出した。
ああ、それこそがこのEDENに蔓延するハッカーたちの特徴。彼らが扱うモンスターのようなプログラムはただのプログラムではない。
それは千差万別の特徴と学習と経験による進化、そして優れたAIを持つデジタル生命体とでも言うべき存在。デジタル存在に対して圧倒的な力を誇るため、こういった世界では武器や兵器とさえなりうるほどのもの。――通称、デジモン。
デジモンを持つ者と持たない者でハッカーとそうでないものを線引きすることにもなるほど、ハッカーにとってのデジモンとは力の象徴なのだ。
だから、こういった荒事になった場合、ハッカーたちはデジモンを戦わせ、自分たちは補助に回る。
彼らはそれが一番効率が良く、また自己の力を示すことになると知っているのだ。より強いデジモンを従わせられるのは、より凄腕のハッカーだからこそ。
「はっ。ビビっちまってんナァ!」
「やっちまぇエ!」
二対一。そして、アラタはデジモンを呼ぶ気配がない。その事実に、ハッカー二人は空元気気味に調子づいたセリフを放つ。
それが空元気気味なのは、彼らも何となくわかっているからだ。アラタの醸し出している余裕が、とても怖いと。
そんな彼らの指示に従って、巻貝が、牛が、アラタめがけて駆けてくる。そんなモンスターをアラタは華麗に躱した。
「は。ビビってんのはおたくらだろ」
アラタは不敵に笑った。内心で早鐘を打っている心臓を押し殺して。
そして、再び突進を始めるモンスターたちが自分に到達するよりもずっと早く、彼は端末を操作。端末の中から、自分の相棒を出す。
「頼むぜ、
現れたのは、白と黒の軟体生物のようなバケモノだった。
********
ここで時間は少し遡る。
全ての事の始まりは、二週間ほど前のことだ。
二週間ほど前、アラタはいつもの通りチャットルームで(ネット上での)友人たちと会話していた。
そんな際、何者か――おそらくはハッカーなのだろう、何者か。その正体不明の誰かが強固なセキュリティを突破し、チャットルームに乱入してきたのだ。
そして、その誰かは言う。明日、クーロンに訪れれば良いものをあげる、と。
ハッカーが屯するクーロンに来いという、正体不明のハッカーらしき存在。誰だって、危険と思うはずだ。事実、チャットルームにいた誰もがそこに行こうとはしなかった。
だが、例外が二人。お馬鹿な女子二人が行くと言い出して、アラタは放っておけなかった。
ああ、それがすべての始まりだった。
どこか懐かしい気がするリアル初対面な女子二人との紆余曲折、結局会えなかった正体不明の誰かとのすったもんだの末、アラタたちは襲われた。
何に?
わからない。
それはそれなりに情報に詳しいアラタをして知らない、バケモノ。白と黒のオウムガイのような、バケモノ。
アラタも、素人丸出しの女子二人も、そのバケモノが恐ろしいものだと気づいて、だから、逃げ出した。
気がつけば、アラタはびっしょりと濡れたベッドの上で目を覚ました。一応言っておくと、寝汗だ。それ以外の何者でもない。たぶん。
何はともあれ、アラタは助かった。それにホッと安堵の息を吐いて、であれば次に気になったのは女子二人の安否だ。幸いにして、片方の馬鹿の無事はすぐにわかった。チャットルームに出没していたからだ。
だが、どう探しても、もう一人が見つからない。不明なエラー状態があって、ネット上での痕跡をたどることもできない。
心配になって、気になって、居ても立ってもいられなくて、だからアラタはもう一度行くことにしたのだ。あの襲われた場所へ。
「……気味わりぃな」
その時、クーロンは静まり返っていた。
いつもならば、ハッカーの一人や二人は居そうなものなのに。
「……」
ごくり、と唾を飲む。
もうすぐあの場所にたどり着こうという地点。あの場所に近づく度、アラタは身体が震えるのを感じていた。
見捨ててはない。見捨てたはずはない。アラタの脳は、何かを恐るように震えていた。何を恐れているのか、それは彼自身もわからなかったが。
それでも、そんな弱気を振り払って彼は進む。
あの場所にたどり着く。
そして、そこにはいた。あのバケモノが。ブルッブルッと、バケモノはまるでしゃっくりをする子供のように震えていた。
「やべっ」
一方のアラタはそれを視界に収めた瞬間に隠れる場所を探した。だが、彼が隠れるよりも、バケモノがアラタを見つける方がずっと早い。
「――!」
高速でバケモノが迫り来る。
アラタに躱す術は、ない。
「がっ」
バケモノに巻き付かれた。バケモノは離すものかとばかりにアラタに巻き掴んでいる。
これは、やばい。そんな直感に従って、アラタはバケモノを蹴り飛ばす。その勢いのまま、急いで逃げようとして――不意に、足を止めた。
バケモノは、再び震えていた。
何故だろうか、その姿は女の子が泣いているようにも見えて。
「頭がおかしくなっちまったのか?」
アラタは自分の脳みそを疑った。
どうやらもうバケモノに襲う気はないらしく、震えたままその場を動く気配がない。
警戒しつつも、アラタはバケモノを観察した。
すると、バケモノは表情をパッと明るくさせて――あくまでアラタの主観だが――触手をうねうねと動かした。
「何なんだ? 危険じゃねーのか?」
必死にうねうねと触手を動かすバケモノ。
それをジッと見つめるアラタ。
しばらくすると、バケモノは触手を動かすのを止めて期待を込めた視線で――これもアラタの主観だが――アラタを見る。
だが、アラタは首を傾げるばかりだ。
「――」(がくっ)
その時、アラタにはバケモノが肩を落としたように感じた。いや、力なく触手を垂らしただけで、そうなのかはわからなかったが。
「――!」(ぬいっ)
だが、しばらくするとまた触手を動かし始める。まるで、何かを伝えたいとばかりに。
「……まさか、文字か?」
そこでやっとアラタはバケモノが文字を書こうとしていることに気づいた。
「――!」(ビシッ!)
正解とばかりに触手をうねらせ、バケモノは喜びを顕にしているようだった。
そして、もう一度触手を動かす。ゆっくりと、慎重に、アラタが読み取れるように。
「えっと……」
「――」(そーっ)
「……わ、た、し……は」
「――」(すーっ)
「……あ、み……で、す? 私はあみです? って、はぁっ!」
それは、衝撃の事実だった。
アミとは、このバケモノに襲われて以来音信不通のもう一人の女の子の名前だ。それがなぜこのバケモノから出てくるのか。
アラタは混乱するしかなかった。
「いやいやいやいや。ありえねぇ!」
「――」(うねうね)
「し、ん、じ、て? うるせぇっ、なんでそんなことになってるんだっ」
混乱のあまりにアラタが叫べば、アミは触手を上げた。お手上げ、とでも言いたいのだろう。
それでも自分に対する苛立ちを抑えてバケモノに聞けば、バケモノは触手を動かして教えてくれた。
あの時、このバケモノに捕まったらどこか落ちていく感覚に陥り、それに抗ったらこうなったとのこと。
「オレが……あの時、見捨てちまった、からか?」
アラタは呆然と呟き、しかし、信じたくないとばかりに首を振る。
すると、バケモノと目が合った。
「――」(うねうね)
「いや、信じられない、つーか……信じたくないっつーか」
「――」(うねうね)
「えっと……」
「――」(きらきら)
「今わかった。オレ、おたくのその無言で見つめてくるの嫌いだわ……」
もはや、アラタの中ではこのバケモノがアミとイコールで結ばれていた。それはどこか面影を感じられたからか、それとも信じたかったのか。
一方で、バケモノは一応としても自分の証言を認められたことが嬉しかったのだろう。その場で躍り上がった。
まぁ、急にバケモノになってしまい、現実世界にも戻れず、この場所で一人でいたのだ。それは怖かったことだろうし、そんな中で出会い信じてくれたアラタという存在はありがたかったはずだ。
だから、嬉しいとばかりに躍り上がるのも無理はない、ない、のだが。
「おい、待て待て、触手をうねらせるな。近づいてくんな。おい、待てぇっ――!」
「――!」(うねうね――!)
嬉しさのあまり触手でアラタを襲ったのは、まぁ、仕方ないで済ませられることではなかった。
********
結局、アミ改めバケモノはアラタの端末の中に居座ることになった。
それはアラタの見捨ててしまった罪滅しなのだろう。彼はそのまま彼女を元に戻す方法を探すことにした。
そして、調べていると彼女の本体はどうやらEDEN症候群という奇病の意識不明者とセントラル病院に入院しているらしかった。
あの手この手で調べていると、このバケモノを調べているという怪しげな科学者とも出会えた。まさに幸いである。
アラタたちはいろいろと教えてもらうことができたのだ。
このバケモノがイーターという存在であること、一匹ではないこと、デジタル情報を喰らい、喰らった対象をバグ化させる性質があること。――そして、アミはいかなる奇跡か、それとも強靭な精神力故か、この個体の内側に留まり、内側から操っている状態にあるとのこと。
「まさかこのような奇跡があるとは。しかし、あまりに非効率! まさに奇跡の存在でしょう。面白いサンプルとして是非調べさせていただきたいものです。クフフッ」
まぁ、その時は重要な情報と引き換えにバケモノがデジタル的な意味で解剖されそうになったのだが。
「ああ。わかっているとは思いますがそのイーターはあくまで特別。他のイーターに接触すればただでは済まないので気をつけてくださいね、アラタさん」
忠告もされた。
そうして、いろいろと情報を集めつつの彼らだったが――……一週間ほどで手詰まりを感じることになる。情報が集まらなくなったのだ。
どうすればいいかわからず、あの科学者は見つからず、八方塞がりになり始めた頃。
ターニングポイントが訪れる。
「――」(うねうね♪)
その時、アミ・イーターはクーロンエリアの片隅にて、焼肉の味データが搭載されている牛の外見のデータの塊を触手を使って美味そうに食べていた。
一方で、アラタはそんな彼女の姿を冷めた目で見ていたのだが。まぁ、そう思っても仕方ないだろう。元人間が、いかに今は軟体生物だとはいえ、牛に巻きついて捕食しているのだ。こいつこの調子で人間に戻れんのかな、とは誰だって思うだろう。
「ん?」
ふと見上げたアラタは、そこに白猫を見た。
ありえない。このEDENにおいて猫は、デジモンを除いて、存在しない。だから、驚きに目を見開き、次いで思う。ははぁ、ハッカーの誰かのいたずらだな、と。
「はっ。オレに挑戦しようってか?」
そのいたずら暴いてやる! とばかりにアラタは端末を操作しようとした。
その瞬間、アラタの視界は白に染まっていて。
「っ、どこだっ」
気がつけば、アラタは一人で見慣れない部屋にいた。
部屋は白を基調としたシンプルな部屋だった。中心には、コンピューターらしき柱と椅子があって――そこで、アラタは気づいた。
目の前に、誰か立っている。紫の髪色の女性。
「ようこそ、不思議な運命に囚われてしまったヒト」
ずっと立っていたはずなのに今の今まで気付けなかった。
その事実に驚きつつ、アラタは女性を警戒する。しかし、女性は警戒状態にあるアラタを気にすることはなく話を進めた。
「私は御神楽ミレイ。相談屋をやっているわ」
なんというか、マイペースだ。内心で呆れながらも、アラタには先の自己紹介に引っかかるところがあった。
御神楽ミレイ。その名前は確か。
「もしかして中野の相談屋か?」
「あら、知っているの。なら、ちょうどいいわ」
そう、知る人ぞ知る、有名人。中野ブロードウェイの一角で不定期開店している占い屋兼相談屋。なかなかに当たるらしく、リピーターも多いらしい。
まぁ、そもそもが不定期開店なので何度も通うにはよほど運が良くなければならないのだが。
「私が貴方をここに呼んだの」
「呼んだ? オレお手製のセキュリティを破って? っち。なるほどな。噂の相談屋は凄腕のハッカーってわけだ」
「それは少し違う。運命が貴方を選んだのだから、私が呼んだのだけど……まぁいいわ」
「ごたくはいいぜ。ミレイさん、アンタはどうしてオレを呼んだんだ?」
アラタがそう問えば、ミレイは「必要でしょう?」と笑う。まるで自分たちの現状を見透かされているようで、アラタは舌打ちをする。
「占いなんてあんまり信じてねーんだが」
「ふふっ。信じるも信じないも貴方次第。既に本来の運命から遠く離れて、事態は進み始めていることを考えれば、確かに無意味かもしれない。でも」
「でも?」
「すべきことは変わらない。そうね、例えばの話だけど。情報を集められないというのならば、情報が集められるものをすればいい。そう、例えば――便利屋とか」
「……っち」
本当に何もかもを見透かしたようなことを言う。ここまで来ると逆に気持ち悪いほどで、アラタは頬を引き攣らせた。
まぁ、ミレイの言うことは一理ある。あるのだが、便利屋はアラタの個人的な理由でやりたくない。
「なら、電脳探偵……とか、どうかしら。これはあくまであの子の本来の運命……いえ、今はいいわ」
「デンノウ、探偵?」
「そう。デジタルの事態を解決する探偵。まぁ、さっきの便利屋とは言い方だけの違いだけれど」
「……」
アラタは思ってしまった。何というか、響きがカッコいいと。
「ふふっ」
ミレイは笑う。そんなアラタの子供っぽい感傷に気づいたように。
思わず、アラタは恥ずかしくなって舌打ちした。
そんなアラタにミレイはもう一度小さく笑って、指を差した。そこには、EDENの移動用スポットと同じようなものがあって、おそらくはそれが出口なのだろう。
もはや話は終わったとばかりの対応だった。
「道がわからなくなったらまた来なさい」
「はっ。運命だ占いだと胡散臭いからもうこねーよ。……一応礼は言っとくけどな」
恥ずかしさを押し殺すように、アラタは急ぎ気味に部屋を出ていったのだった。
「本来の運命を超えるのか、本来の運命に準じるのか、それとも運命に翻弄されるのか……貴方たちはどうするのかしらね? ……ふふっ。本当に面白い運命」
後に残ったのは、面白そうに笑うミレイだけだ。
一方のアラタは気づけば、元の場所へと戻ってきていた。
見れば、すぐそばにはイーター(アミ)がいる。どうやら、アラタがいなくなっていることにも気づかず、食事を楽しんでいたらしい。
「おたくは……!」
「――」(うねうね?)
「はぁ」
アラタは諦めたように溜息を吐いた。
元々の気質か、それともイーターの影響を受けているのか、どうにもこのアミ・イーターは食事が好きらしい。気を抜けば四六時中何かを食べている。
おかげで食事系データの収集もしなければならず、アラタとしては実に頭が痛い問題だった。
「ん? なんだ?」
「――」(うねうね♪)
「さ、い、き、ん……で、たの……あ、じ、が……最近データの味の良さが分かるようになってきた?」
「――」(うにゅうにゅ♪)
「あ、の、……なん、と……ごり……ご、り……し、た、しよ……くかん……あの何とも言えないゴリゴリした食感がたまらない? おたく、それ人間としてやばいぞ」
「――」(うねっ!)
「おかわり、だぁ? おたくさぁ、女子のくせに結構食うのな。体重とか気にしねーのかよ」
「――」(うがーっ!)
瞬間、アミ・イーターがアラタに飛びかかる。どうやら触れるものがあったらしい。
「うわっ」と叫びながら何とか躱したアラタ。だが、その一瞬ですべては決していた。触手を上手く使って、アラタの端末が奪われたのだ。
「おい、何しやがる――」
「――」(うねうねもぐもぐ)
「おい、本当に何してやがる! ちょっと待て、端末のデータ食うな。って、それオレの秘蔵の電子漫画――!」
「――」(うねうね)
「ああ? 怒らせるのが悪い、それに良い漫画は美味しいから食べたい? へぇ、おたくもあの漫画の良さが……って、誤魔化されねぇよっ!」
アラタはアミ・イーターへと挑む。
触手がうねり、拳が舞う。結局、アラタが端末を取り返すことができたのはこの数十分後で、すべての漫画データを食い尽くされた後のことだった。
「あぁ……オレのコレクションが……」
「――」(うねっ)
「満足っ、じゃねぇよっ。こんちきしょーがぁっ」
この時、アラタは思った。一刻も早くこいつを元に戻さなければ、オレの持つすべてが食い尽くされる、と。
そんなわけで、情報が集まると思わしき電脳探偵をやることにしたのである。
決して名前の響きがかっこいいとか、そんな理由ではないのだ。
********
そうして、現在に時は戻る。
電脳探偵として活動するアラタが端末から出したアミ・イーターが触手をうねらせる。
「う……」
「……あ」
その姿に、ハッカーたちは腰が引けていた。
まるでオウムガイのような姿のアミ・イーターは、デジモンをよく知るハッカーたちをしてデジモンとは別物だと思えてしまうほどだったのだ。
ああ、そうだ。目の前の恐ろしいバケモノが自分たちの使う
「ブモゥ……」
「シェルシェル……」
一方で腰が引けてはいないが、警戒するあまりに動けなくなっているのはデジモンたちだ。彼らはどう動くべきかを探りながら、立ち止まっている。
普通ならば、そのどう動くかを指示するのがサポート役であるハッカーの役割なのだが――。
「おい、あれって最近噂のバケモンじゃ……」
「やベーヨ、やべーッテ!」
そのハッカーたちは、アミ・イーターの姿を前に動揺していて役に立ちそうになかった。
「はっ。アミの姿でこれとか。相当腰抜けなんだな。ま、気持ちはわかるけどよ。だけど、こっちも依頼なんだ。行けっ!」
「――!」(うばーっ!)
アラタの指示に従って、アミと呼ばれたバケモノがその触手を振り回す。回転と共に加速され、勢いを増し、力の限りに放たれたその一撃は、寸分違わずに目標をぶん殴った。
「いてぇっ」
そう、アラタの頭を。
「おたく、何しやがるっ」
「――」(ぷんぷんっ)
「何言いたいかわかんねー!」
アミ・イーターはどうやら怒っているらしい。
最近のアラタはペットの感情を飼い主がわかるようになるのと同じように、少しずつわかるようになってきたのだ。まだまだ精度は低いのだが。
アラタが睨みつけると、アミ・イーターは触手を動かして空中に文字を書き始める。
「なになに……? だ、れ、か……が、か。誰が、ば、け、も、の、だ……誰がバケモノだ、か。鏡見て言えっ」
「――」(うがーっ!)
アラタが怒鳴れば、アミ・イーターは触手を振り上げて怒りを露にする。
ともすれば、これから人間対軟体生物の一大決戦が始まりそうな雰囲気さえあった。
否応なしに高まる雰囲気。
だが、しかし、彼らは忘れている。彼らが相手にするべきは、目の前にいる相手じゃないということを。
「あ。逃げられちまったー! 依頼がー!」
「――」(ぷぷぷー!)
そのことに彼らが気づいたのは、一通り殴り合った後のことだった。
「っち。追うぞ」
「――」(うねっ! うねっ!)
「いや、美味しそうだからね、って。は? 今晩は牛と巻貝を所望する? また入手が面倒そうなデータばっかり……」
「――」(うねうねー!)
「あいつらがあんなデジモンを使ってるのが悪い? ……まぁ、確かに。って、そんなことはいいんだよっ」
「――」(うねっうねっ!)
「うるせぇ、今はそんなことだろうがっ。あいつら捕まえねーと今晩の飯だって怪しいんだぞ! おたくのせいでいろいろと金欠なんだっ」
「――!」(ガクガク)
慌ててアラタとアミ・イーターは走り出す。アラタは依頼解決のために。アミ・イーターは今晩の食事のために。
まぁ、遠くには行ってないはずである。
アラタは必死に足を動かす。アミ・イーターは必死に触手をうねらせる。そうしていると、ふとしてアミ・イーターが触手をアラタの顔の前でうねらせた。
「……は? 最近、この触手の良さがわかるようになってきた? この身体も満更でもない? おたく、いよいよ本格的にやばいぞ」
「――」(うね♪)
「いや、照れる意味がわからん」
何はともあれ、必死に走っているといた。先ほどのハッカーたちが。
「待ちやがれっ。この電脳探偵の――」
「――」(わくわく)
「ああもう仕方ねぇなぁっ。この電脳探偵と捕食探偵(バケモノ)のお縄につきやがれっ!」
「――」(うねうね――!)
そして、アラタとアミ・イーターはハッカーたちの前に立ち塞がった――。
ちなみに、こうしてその日暮らしを必死に生きているアラタは知らない。
もはやアミ・イーターの飼育に必死になっていて、事態解決の術を探る暇がない彼は知らない。
この後日、ゲテモノデータ好きの、十八禁的な見た目の束縛女子系イーターがパーティーに追加されることを。そして、アミ・イーターと捕食嗜好大戦争を起こすことを。
この時の彼には、知る由もない。
知る由もなく、彼らの日々は続いていく。
マッドサイエンティストに(実験動物的な意味で)狙われ、触手愛好家に(性的な意味で)狙われ、それでも気にしないアミ・イーターの電脳食べ歩きの旅は続く。続くったら続くのだ――!
果たして、元の身体に戻れるのか。戻った時に不満を覚えるようになってしまうのか。
アミ・イーターの明日はどっちだ。
まぁ、何があってもアミ・イーターは楽しそうにやるのだろう。
可哀想なのはアラタだけである。
知り合いからは(触手もどきとラブコメを繰り広げてるように見えるから)どん引かれ、まだ見ぬ黒幕からは(首を傾げられながらも)これ幸いと冤罪を仕掛けられ、正義と倫理に燃える警察との鬼ごっこを繰り広げる日々――!
果たしてアラタは捕まってしまうのか。彼の誇り高きメンツは保たれるのか。
まぁ、おそらく無理だろうが。
アラタの明日はどこだ。
主要キャラの反応と後日の彼ら。
某科学者「大変なことになってますねぇ。ま、彼のおかげでいろいろと研究が捗るのですが……クフフッ」
某色気緑髪「なぜか勝手に偽の黒幕がでっち上げられてるのよねぇ。楽でいいわぁ」
某定年間際の刑事「いくら電脳空間って言ったってなぁ。倫理に反することしていいわけねーだろ!」
某ヤンキー刑事「その公然猥褻なペット共をしまえや、オラーッ! 逮捕だ、逮捕ー!」
某私立探偵「むぅ、流石に一人だと調査に限界が……おっ、そこのモブ顔くん、私の依頼を手伝ってもらおう。ああ、報酬とは別途で特別に美味しいコーヒーもご馳走しようか」
某主人公?「――!?」
某便利屋リーダー「俺たちを裏切ったやつが触手フェチになってた……」
某便利屋技術者「あいつ……いや、いいんだけどよ。あの趣味を公然としているのは……」
某反旗を翻す系女子「……最近、みんな付き合い悪いんだよねー」
某中二病のパートナー系触手デジモン「ケラケラ(特別意訳:出番が……)」
某電脳探偵のパートナー系三匹のデジモン「「「……(特別意訳:出番が……)」」」
後日の某薄幸?の少女「なるほど。確かにアミさんの言う通りイーターの身体もいいですね。特にこの多足が人類にはない感じでいいです」
後日の某食事馬鹿「――!」(特別意訳:多足など無粋! 真の時代は触手にこそある!)
後日の電脳探偵(厨二)「……増えた。胃が……――!」
というわけで、あとがき。
まずは今作をお読みいただき、誠にありがとうございました。
今回のネタ作品は、副題として『イーターといっしょ♪』
また、別名『アラタくんの不運な日々』という感じで書きました。
出オチネタなので続きは書きません。書いてもインパクトないでしょうし。
さて、なんでこんなトチ狂った話を書こうと思ったかといいますと、
ハカメモをプレイするにあたって、サイスルをプレイし直した際、あるシーンでふと思いついたんですよね。で、ハカメモをプレイしたらそれを裏付けるシーンもあって、これ原作の設定と描写を拡大解釈すればいけるんじゃないか? と。
というわけで、書きました。
原作主人公ことアミが超絶的な精神力を持っていたために、初めの段階でイーターに取り込まれても乗っ取り返せた、というわけですね。
後日、イーターパーティーとロイヤルナイツで戦争があったり、ラスボスに挑むロイヤルナイツ&イーターパーティー連合軍の姿があったりなかったり。
まぁ、コメディ路線で描きましたが、やはりなかなか難しく。
ギャグやコメディを安定的に描けるようになりたいですね。
それでは今回はこの辺りで。
次回、またよろしかったらよろしくお願いします。