続きを再開します。
◇
ここからは、”艦(ふね)”が登場します。
”艦”と”艦娘”は別物として存在します。
◇
さて、ようやく正式に辞令が発令されます。
どうなりますやら・・・・。
秦との会談のあと、赤城は秋吉の部屋まで来ていた。
秋吉は朝からベットにて伏せっていた。
「どうした? 赤城?」
そう声を掛ける。
なぜなら、目が赤く腫れ上がっていたからだ。
「いえ、何でもありません。」
「嘘つけ。 そんな顔をしておいて、何にも無いわけがなかろう?」
「はぁ。 提督にはかないませんね。」
と肩を落として見せた。
「ワシに内緒で楠木に会いに行ったんだろう? 違うか? で、どうだった?」
「はい・・・。 明日の辞令は問題無く受けるそうです。ただ・・・」
「それ以降の話は拒否された、違うか?」
「いえ、聞かなかったことに、と。」
「そうか・・・・。 あいつらしいと言えばあいつらしい事だ。」
「申し訳ありません。 ご意向に添えず・・・。」
「いや、いい。 もっとも、赤城らしくないがな。」
秋吉はそう言って、はははと笑った。
「あいつのことだ。人の思いを無駄にはせんよ。 優柔不断と思ったのかもしれんが、あやつは、結局のところ、優しすぎるのだ。 自分の事を二の次にしてしまってな。 舞鶴の時もそうだったな。 本人は事実無根と声を上げていたが、上はそうは見なかった・・・。あいつだけを処分にせず、あやつと共に逆らった艦娘まで処分しようとした。 それを聞いたあやつが、自分が一切の責任を取ると言ってな・・・・・。 その結果はお前も知っての通りだ。
ふふふ。 今回も鳳翔をMPに突き出せばそれで済んだモノをそうしなかったからな。 優しすぎるのだよ。 自分を守ろうという考えが第一では無いのだからな。」
そう言って目を瞑った。
(楠木よ・・・。 貴様には悪いが、ワシの思い通りにさせてもらうぞ。)
そう思うのだった。
◇
翌日。
今日は朝から緊張している。
そう。新たな辞令を受けるためだ。
時刻は9時。
秋吉の執務室のドアを叩いた。
「どうぞ。」
と中から女性の声がした。
「失礼致します。」
と秦が返事をして部屋に入った。 鳳翔を伴って。
秦は白の軍装、鳳翔は桜色の着物に袴姿だ。左の襟元に錨と桜の模様の染めがされている。
「おはようございます。 中将。 楠木予備役大佐、鳳翔、参りました。」
そう秦が挨拶した。
机の前まで進んだ秦と鳳翔に対し、秋吉が紙を出して読み上げる。
「良く来たな。 では、辞令を読み上げる。」
秦が姿勢を正す。
「楠木予備役大佐、本日ただいまを以て予備役から復帰するものとする。復帰後の任地は横須賀鎮守府とし、鎮守府付き准将とする。また、艦娘、鳳翔を准将の監督下に置くものとする。」
「はっ。 謹んでお受けいたします。」
と秦が答えると、
「はい。お受けいたします。」
と鳳翔も答えた。
さらに秋吉が話す。
「これで、鳳翔の一件は、片が付いた。 これでいいんだろ、鳳翔?」
「はい。 ありがとうございます。」
「楠木よ。 鳳翔をどうするのだ? 秘書艦にするか?」
「はい。 秘書艦として私の傍に居てもらいます。 というか、すでに楠木家の一員ですね。 睦も私も、そう思っていますから。」
そう言って鳳翔を見た。鳳翔も秦を見ていた。二人の視線が重なる。
「そうか。 ならいい。 それと、もう一つ辞令がある。」
「もう一つですか?」
「そうだ。 もう一つだ。」
そう言って秋吉がもう一枚の紙を読み上げる。
「楠木准将。 ただいまを以て横須賀鎮守府副提督を命ず。 同時に現提督・秋吉の補佐を命じる。 速やかに在地の艦娘との関係性を構築すべし。」と。
秦はため息をつく。
「やはり、そう来ましたか。 薄々そう来るのではと思っていました。」
「貴様のことだ。 分かっていたんだろ?」
「ええ。ある程度は予想していました。でも・・・・」
「ワシの余命は、長くない。 ウダウダ言ってる暇は無いぞ。」
「・・・・分かりました。 どうなるかは神のみぞ知る、ですが・・・・ 楠木准将、微力を尽くします。」
と改めて敬礼をする。
「頼むぞ。 赤城、楠木を補佐してやってくれ。」
「はい、分かりました。 ですが・・・・」
「ん? 何か問題でも?」
「楠木提督には、お母様、鳳翔さんがいらっしゃるので、私の出番は無いかと。」
と赤城が謙遜しながら言った。
「あら、そんなことありませんよ。 鎮守府の運営は赤城ちゃん、あなたが補佐してくださいな。」
にっこり微笑みながら鳳翔が答えていた。
さらに、
「私は、いずれ楠木提督の元に参るつもりですから。」
と付け加えて答えた。
赤城が驚いた顔をしていた。
「ええ、私もそのつもりでいますので。」
と秦も追い打ちを掛けた。
「なんだ? お前達、もうそんなことまで決めているのか?」
と秋吉は呆れたように話した。
秦と鳳翔は互いを見詰め、ふふふっと笑っていた。
「まあ、艦娘といえども、元は人である訳だし、お前達の恋路には口は挟まんよ。」
そう。 艦娘といえど、元は普通の人である。ただ、艦と精神同調が出来て艦を自分の意のままに操れる、という特殊能力を持ってはいるが。
”建造”によって自らに相応しい関係ができ、”解体”によって関係が切られることが分かっているに過ぎないのが、”艦娘”と”艦”との繋がりであった。
軍は、その特殊能力を対深海棲艦に利用しているに過ぎなかった。
「ああ、そうだ。」
と秋吉が声を上げた。
「鳳翔の”艦”だが、呉ですでにスクラップにされていたよ。で、新たな”艦”が必要になるんだったら、ワシの方で手配するが、どうだ?」
「はあ。 ”艦”が無くとも、今のうちは何とかなりますが・・・そのうち、そうもいかないのでしょうね。」
「もし、”艦”が要るのなら、1隻、改造中のがあるから、使ってもいいぞ。」
「改造中ですか?」
「ああ。 詳しくは、後で聞いてくれ。 赤城に説明させる。」
「はっ、ありがとうございます。」
と、敬礼をした。そして鳳翔に向かって聞いた。
「鳳翔さんは、どんなふうに改造したいっていうのはあるの?」
「いえ、提督の思うように改造してください。私は提督に付いていくだけですから。」
「そう? わかったよ。」
「それと、名前を呼ぶときは、「さん」付けは要りませんからね。鳳翔とお呼びください。正式に提督の秘書艦になりましたから。」
「ああ。分かった。」
一通りの辞令式は終わった。
「以上だ。 退室していいぞ。 あ、副提督室は赤城に案内させる。また、後でな。」
「では、失礼いたします。」
と鳳翔と共に敬礼をして、提督室を後にした。
◇
赤城に案内され、副提督の執務室にやってきた。
秋吉の執務室にくらべ、ひと回りほど小さかったが、必要な什器、提督用机、秘書艦用机、応接セット、給湯室、本棚などは揃っていた。
秦が提督席につき、鳳翔が秘書艦席についた。
この配置で座るのは初めてだったが、二人の視線が合って、思わず笑ってしまった。
「妙な感じだな。」
「いかがですか? 提督の席のご感想は?」と赤城が聞いた。
「ん? 悪くはない、というか、あんまり変わらんなっと、思うよ。 で、早速だけど・・・」
「お母様の、鳳翔さんの”艦”ですね?」
「ああ。 改造中ってことだったけど、どういう事かな?」
「では、お話しいたしますね。
改造中の”艦”は、元は外航用の客船だったものを航空母艦に改造をしています。所謂、改造空母ですね。
横須賀の1番ドックで改造を行っていますが、基本的な艤装はほぼ完了している状態です。
”艦”の諸元は、全長220m、飛行甲板長210m、搭載機数は常用補用あわせて50機程搭載可能、船体にバルジを取り付けてあって、最大速力34ノット、巡行速度18ノットで12000カイリ、基準排水量3万トンです。
兵装は、60口径12.7cm両用砲を艦橋アイランドの前後に2基4門、25mm連装機銃改を6基、同3連装機銃改を4基、対水雷用爆雷投射機6基、30連対空噴進砲4基を搭載しています。
これ以外に、新式の蒸気カタパルト2基を設置しています。エレベーター2基、着艦装置、着艦誘導装置一式は新型のモノを搭載しています。
対空、対水上電探、水中聴音は新型を装備しています。なお、25番まで耐えうる対爆甲板を施してあります。」
「そうなんだ。 ほぼ完了っていう、認識でいいのかな?」
「そうですね。 あとは、精神同調、ですね。」
「分かった。 ありがとう。」
これだけの装備があれば、ほぼ言う事はなかったが、
「鳳翔さ・・・んん。 鳳翔、装備はどう?」
「そうですね、十分だと思います。」
「あとは、搭載機だね。」
「艦戦は烈風改を16機、艦攻は流星改を12機、艦爆は彗星21型を12機、偵察機は夜間偵察も可能な機体を6機を予定しています。」
「バランスを取ったね。」
「航空隊は、富津の航空基地に待機しています。予備機も配備してあります。」
「もう配備済みなんだね。」
「はい。 それから、秋吉中将との直通回線をココに完備してありますので、ご利用ください。」
と机上の黒電話を指して説明した。
「楠木提督の艦娘は、今、鳳翔さんだけですが、秘書艦を複数配置することが出来ます。 秋吉中将は私以外にも当番制で秘書艦を受け持つ艦娘がいますので、おいおい、ご紹介できると思います。」
「当番制? って、後は誰がいるの?」
「あとは、加賀さん、霧島さん、阿武隈さん、ですかね。」
「ん、了解したよ。」
「それでは、なにかありましたらお呼びください。 失礼致します。」
と赤城が部屋を出て行った。
残った二人だったが、
「では、提督。 お茶を入れますね。」
と鳳翔がお茶を煎れてくれた。
二人でソファーに座って、仲良くお茶をすすっていた。
「はぁ・・・ やっと落ち着いたか、な。」
「ええ。」
と、この一瞬でも落ち着けることに感謝しながら。