ハズされ者の幸せ   作:鶉野千歳

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横須賀鎮守府副提督となった秦。
どうしても駆逐艦娘たちにイジられる事になる。
それはそれで、いいのかもしれない・・。


”お母さん”呼び

昼食時。

秦は鳳翔を伴って食堂にきた。

もちろん、昼食を摂るためである。

二人は滅多に食堂に来ない。

なんせ、寮で鳳翔が作ってくれるから。

また、睦もいるため、朝、夕は特に食堂には来ないのだ。

賑やかな話し声が外まで聞こえる。

ガラリと入口の引き戸を開けて中に入った。。

既に食堂はいっぱいのようだった。

戦艦娘、空母娘、駆逐艦娘などなど。

当然、駆逐艦娘が一番多かった。

 

「お邪魔するよ。」

 

と秦が声を掛けて入ってきた。

 

「あ! 新しい司令官なのです!」

 

「遊んでぇ~、しれえ!」

 

「ん~、どれどれ? どいつが提督だって?」

 

「クズが何しに来たのよ?」

 

「ハッ、新人提督ね?」

 

などなど、いろんな声が聞こえてきた。

(中将は、クズ呼ばわりされてたのか・・・)

 

主だった駆逐艦の面々はいいとしても、相変わらず口が悪い。

”クズ”と言ったのは・・・霞か?

 

「霞か? 誰がクズだよ?」

 

「あ? アンタ以外に誰がいるのよ。」

 

”新人”と言ったは、満潮か?

 

「満潮? なんで俺が新人なんだよ?」

 

「ここは初めてでしょ? それ以外に何があるのよ。」

 

「もうちょっと、良い言い方があるだろうにさぁ。」

 

「は? あると思ってんの?」

 

秦がグッと、押し黙る。

言い返せない・・・

まったく、この二人にはかなわん、と思った。

隣で鳳翔が、笑いを堪えている・・・。

手で口を押えて。

無視を決め込む秦だったが・・・

 

「あら? アタシを無視するのかしら。 このクズ!」

 

身も蓋もない事をいう。

 

「はぁ、無視してる訳じゃないよ。 ちゃんと聞こえてるよ?」

 

「だったら、返事くらいしなさいよ。 このクズ!」

 

秦は、霞らしい言い草だな、と思いつつ、

 

「分かったよ。」

 

そう言って、改めてみんなに向いて・・

 

「こんにちは。 本日付けを以て、ここ横須賀の副提督に着任した楠木です。 前任地は舞鶴だよ。 だから、新人ではないから。 よろしくね。 で、今はお昼をよばれに来たよ。」

 

と秦が言う。

そして、霞の頭を撫でながら、

 

「よろしくね。」

 

と声を掛けた。

 

「!! こ、子ども扱いしないでよね、このクズ!!」

 

そういつつ秦の手を払おうとする。

それを見ていた満潮がうらやましそうに、

 

「あ、あたしは?」

 

と頬を赤めながら言う。

霞の次に満潮の頭を撫でた。

 

「こちらも、よろしくね。」と言って。

 

満潮は満更でもなさそうな顔をしている。撫でていると・・・

 

「い、いつまで撫でてんのよ! いい加減にしなさいよね!!」とプイと顔を叛けてしまった。

 

その騒ぎを聞きつけてか・・・

 

「あら、若提督。 いらっしゃい。 鳳翔さんも。」

 

とカウンターの向こうから間宮が声を掛けてくれた。

 

「こんにちは、間宮さん。」

 

間宮は秦の事を”若提督”と呼ぶ。

確かに、秋吉より若いが・・・ 

なぜかこっぱずかしい。

今日のお昼のメニューはなんだろな?

 

「今日は、黒酢酢豚ですよ。」

 

そう言われて、お盆を取って、ご飯、漬物、お味噌汁、主菜と載せていく。

最後にお茶を煎れて、空いていた席についた。

鳳翔も同様にお盆をもって秦の向かいに座った。

お互い手を合わせて

 

「「いただきます。」」と。

 

お味噌汁を一口飲んでからご飯へと箸を進める。

ご飯は柔らかすぎず、それでいて芯があって、美味しい。

黒酢酢豚の具材は一口大に切られている。

どれも餡が絡んで美味しそうだった。

豚肉。

柔らかく箸で十分切れるほどだ。

ピーマンの緑が鮮やかだった。

人参もしっかりとした歯ごたえで、かつ堅くなく出来ている。

他に筍、玉ねぎが入っていた。

餡は、ちょっと濃いめの味付けであった。

うん、ご飯が進むのだった。

 

「「ごちそうさま。」」

 

と二人はほぼ同時に食事を終えた。

終えた途端、秦は捕まった。

 

「しれえかん! あそぶぴょん!」

 

と飛びつかれた。

わあ! と驚いて声を上げた。

 

「こら! 卯月! びっくりするだろう!」

 

「しれえかん! うーちゃんと遊んでぴょん!」

 

「あら? 私はお話ししたいわ。どうかしら?」

 

と声を掛けてきたのは村雨だった。

なんか、もみくちゃにされかけている秦だったが、そこへ凛とした声が掛かった。

 

「あなたたち、提督が困っているわよ。 いい加減になさい。」と。

 

見ると、青の肌襦袢に白の弓道着、青の袴風スカートを纏った加賀だった。

取り巻きの連中から「ええ~~っ」と嘆きの声が上がった。

 

「あら。 加賀ちゃん?」

 

「お久しぶりです。 鳳翔さん。 いえ、お母様。」

 

「加賀ちゃんもご飯?」

 

「はい。 そちらが副提督なのですね?」

 

「ああ。 楠木です。 よろしく。」

 

「そうですか。 こちらこそよろしく。」

 

軽くお辞儀をして、カウンターへ向かったが、何か頬が赤かったような気がしていた。

 

「いらっしゃい、加賀さん。 いつもの、ね?」

 

「はい。 いつもの、でお願いします。」

 

(ん? いつもの?)秦は小声で鳳翔に聞く。

(はい。 いつものサイズですね。 見ていれば分かりますよ?) とニコリとして返答する。

 

「はい。 加賀さん、ご飯とおかずね。」

 

加賀が持っているお盆を見ると、確かにご飯とおかず、小鉢が並んでいたが、

ご飯、主菜、味噌汁もどんぶりサイズ以上。

小鉢も皆より大きな味噌汁椀サイズだった。

秦も、過去、大喰らいの戦艦娘を見てきたことはあるが、現役一航戦は初めてであったため、正直、面を喰らっている。

(ゲ!! なんじゃ、あのサイズは!!!)

(驚きました? 彼女はあれで普通ですよ?)

(マジか!)

(はい。 赤城ちゃんも相当ですから。)

(うそッ!!  はぁ・・・ あれが一航戦・・・ さすがというか、なんというか・・・)

 

言葉を失った秦であった。

お盆を持って秦たちのいるテーブルにやってきた。

 

「卯月、どきなさい。」

 

「え~~」

 

「おどきなさい!」

 

と秦の隣に座っている卯月をどかせて、座った。

 

「う~、加賀さんのイジワルぴょん!!」

 

加賀は・・・ 聞いちゃいない・・・。

手を合わせて「いただきます。」といって食事を始めた。

ご飯、味噌汁、主菜と箸をつけていく。

休む間もなく食べ続けている。でも、頬は緩んでいるように秦には見えた。

その姿を秦は見ていた。

 

「何か、用ですか? 女性の食事姿をまじまじと見るのは、感心しません。」

 

「いや、ごめん。 案外、美味しそうに食べるんだなあっと思ってさ。」

 

加賀の頬がピンク色に変っていくのが分かった。

 

「ごめんね。 悪気があるわけじゃないんだ。 」

 

「そうですか。」

 

そう言って、食べ続けた。

秦が改めて目の前に座る鳳翔を見た。

 

「そう言えば・・・ 鳳翔を”お母さん”と呼ぶのは、一航戦の赤城さんと加賀さんの他は?」

 

「そうですねぇ、 飛龍ちゃん、蒼龍ちゃん、翔鶴ちゃん、瑞鶴ちゃん、祥鳳ちゃん、瑞鳳ちゃんの6人は、ずっと私が弓を教えていましたし、空母寮でも食事の用意はしていましたから、”お母さん”と言いますねぇ。」

 

「他の娘は?」

 

「他の空母娘たちは、弓を教えていませんが、それでも”お母さん”扱いしますねぇ。 10人ほどでしょうか。」

 

「ははっ。 それだけ”こども達”が居たら”お母さん”も大変だな。」

 

「はい、ホンットに大変です。 大喰い、大酒飲み、中には聞かん坊もいますから。」と溜息をつきながら答えた。

 

秦の隣で一人、喉に詰まらせそうになって、ゴホゴホと咽ている”こども”が一人いた。

 

「大丈夫か、加賀さん?」

 

そう言って加賀の背中をさすっていた。

 

「だ、大丈夫です。 問題ありません。」

 

と気丈に返してきたが、その眼には苦し涙が残っていた。

それを見た秦が笑いながら「無理しなくてもいいんだよ、加賀さん。 苦しいときは苦しいって言いな?」と。

 

「な、なんでもありません。」とさっきよりも強めに答えた。

 

秦がフフフっと笑った。

 

「女性を見て、不敵に笑うのは、感心しません。 何か用ですか?」

 

「いや、なに。 鳳翔が”母”で加賀さんが”こども”と思うと、可笑しくってさ。」

 

加賀が首を傾げていた。

 

「俺からすると、加賀さんの頭をなでなでしなきゃならんのかって思ったのさ。」

 

「なっ」そう言って加賀の顔が赤くなっていく。

 

「もう、提督ったら。 ”こども”と言っても、私が産んだわけではありませんからね?」

 

「ああ。 分かってるよ。 分かってるけど、イメージが、な。」

 

そう言ってはははっと笑った。

そんな秦を加賀は刺すような視線で見ていた。

 

「気分が悪いです。 お母様が居なければ、爆撃しています。 ご注意を。」

 

その言葉に両手を小さく上げて、

 

「ごめん、ごめん。 気を付けるよ。」と。

 

食べ続けている加賀を残し、秦と鳳翔は執務室に戻ろうと席を立った。

 

「じゃ、俺たちは行くよ。 ごゆっくり、加賀さん。 鳳翔? 行こうか。」

 

「ええ。」

 

とにこやかに応えた。

 

「またね、加賀ちゃん。」

 

食器を返して食堂を後にした。

 

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