そのうらで秦を追い詰める動きが・・・
少し時間を遡る。
秦たちが房総沖で慣熟訓練をしていた最中、秋吉は大本営に呼ばれていた。
重厚な雰囲気の大本営会議室。
鎮守府とは全く違う雰囲気である。
秋吉はこの雰囲気は好きではなかった。
傍に秘書艦の赤城は居ない。
別室で待機中であった。
何しろ、鎮守府ではトップの地位にある秋吉も、ここに来ると、あっという間に下っ端になる。
上座に海軍元帥、大将らを始め、軍令部のお歴々が居並ぶ。
参加者の中に、軍人とは思えない風貌の男が2人いた。
会議開始時刻になって元帥がおもむろに口を開く。
「今日、集まってもらったのは他でもない。 深海棲艦の奴らに動きがある。 これに対処するための戦略会議だ。 では、参謀、説明を。」
後ろに控えていた者が各員に1冊の冊子を配った。【作戦計画書(骨子)】と書かれていた。
その上で、参謀本部の大将が説明を始めた。
「過日、アメリカ軍より情報がもたらされた。 近々奴ら、深海棲艦どもの攻勢があるらしいと。 予想される奴らの戦力は資料を見てくれたまえ。
かなりの戦力である。 奴らの目的が関東らしいことまでは予想が付いている。 奴らの出現ポイントはハワイ方面までは判明している。
ハワイ方面からまっすぐ来るか、小笠原を廻り込むのか、は分かっていない。
対する我が方の戦力は、横須賀鎮守府所属の艦艇を中心に、呉、大湊から増援を組み入れ、戦艦8、正規空母4、軽空母4、重巡6、軽巡6、駆逐艦14だ。
これらの総指揮は元帥が、各艦隊の指揮は横須賀、呉、大湊の提督にやってもらう。
横須賀隊は浦賀水道南方で、呉隊は西から、大湊隊は北東からの三方から攻撃を加える。 それで撃退する。
なお、奴らの襲来予想日時まで、あと五日と推測されている。」
そこまで言って一拍の間を開けた。
「それで、だ。奴らと戦闘になる前に進路上にある島々の住民3千人を避難してほしいと、知事からの要請が来ている。 だが、奴らの戦力を考えると、我が方の戦力を避難の為に裂くことは難しい。」
元帥が続けて言う。
「これ以上の艦艇の参加は、各鎮守府防衛に支障が出かねないのでな。 そこでだ。秋吉。 貴様のところに配属したばかりの空母が居たろ?」
「は、居りますが。 それがなにか?」
元帥が不敵にもニヤリとした。
「その空母に島民の避難をやらせる。いいな?」
「お待ちください。 補助艦艇や輸送船は付くのですね?」
「何を言っている。 補助艦艇など付けられる訳ないだろう。 単独だよ。」
「お、お待ちください。 避難をやらせるにしても空母1隻では危険が大きすぎるのでは、ありませんか。 それでは、あまりに危険です。せめて・・・」
「その空母を率いているのは、あの舞鶴に居た楠木というではないか。 ちょうど良い。奴にやらせるのだ。」
「それは・・・失敗しても痛手はない、と・・・」
「ふん、分かっておるではないか。 現状において戦力外の奴らを、使ってやろうという、我らの暖かい配慮だよ。」
ガハハハハハっという下品な笑い声が部屋に響いていた。
「ああ、忘れておったな。 現在、小笠原の父島に近海防衛艦隊が居たな。奴らに手伝わさせろ。」
父島の近海防衛艦隊・・・当地には軽巡1、駆逐艦4が哨戒と防衛のために駐留していた。これにも手伝わさせるという。
秋吉は反論すら出来なかった。
会議はしばらく続いたが、大きな進展は見られなかった。
そして、会議が終わった。
元帥や大将たちは部屋を出ていくが、秋吉は席を立てなかった。
(楠木・・・すまん。)
俯いたまま、テーブルの上に置いた拳を力いっぱい握っていた。
大本営の連中は、舞鶴での楠木の事を忘れたわけでは無かった。
いつか、貶めてやる、と思っていたに違いないと秋吉は思っていた。
そのうち、赤城が扉を開けて入ってきた。
「提督? いらっしゃ・・・・るのですね。 他の方々が出て行かれたのに、遅いので心配していましたよ。」
ニコリとして言ってくれた。
だが、秋吉の落ち込んだ態度、俯いたままでの姿をみて、ただ事ではない、と悟った。
「良くない事がありましたか?」
「ああ。 すまない。 よくない事、か。 確かにな。」
そこまで言って秋吉は黙ってしまった。
「帰ろう。 横須賀へ。」とそれだけ言ってまた黙ってしまった。
道中、腕を組んだまま、目を瞑って一言も発しようとはしなかった。
赤城も務めて話そうとはしなかった。
そして・・・
「赤城。 楠木を、准将を呼んでくれないか。 大至急だ。」
「はい。 了解しました。」
執務室に着くや否や秦の呼び出しを依頼した。
「提督、楠木提督はまだ訓練航海から戻っていない、とのことです。戻り次第、執務室まで来るよう、依頼はしておきましたが。」
「そうか・・・・ すまないな。」
秋吉は、まだ納得はしていなかったが、今回の作戦について、赤城に話すことにした。
「これが今作戦の概要書だ。 読んで感想を聞かせてくれ。」
秋吉は概要書を差し出した。
赤城が手に取り、読み始める。
作戦自体には可もなく・・・というところだった。
元帥が、呉の武蔵に座乗し、呉隊で出撃。
この他、大湊と横須賀から艦隊出撃し、敵を迎撃する。横須賀隊は秋吉が率いる事となっていた。
時間的にみて、呉隊と大湊隊はすでに母港を出港し、呉隊は東へ、大湊隊は南へと向かっている時間であった。
ここまでは良かったが・・・問題は次だ。
小笠原諸島の島民救助に空母1を派遣し、在地の艦隊と共同にて島民救助を行うこと、とあった。
「! 提督! 最後の、この命令は・・・ まさか?」
「ああ。 君の思った通り。 楠木の事だ。」
「そんな! 空母1隻だけで、なんて! 無謀です! 敵が接近している中に。 しかも時間的余裕はありませんし、下手をしたら1隻で敵艦隊の真ん前に行くことになりますよ? それでも?」
「大本営は、それを狙っているんだ。 楠木の首を、な。」
「それは、島民も、という事ですね。」
赤城の声が低い。
低い声で秋吉に確認する。
「そういう事になるな。 奴らは、どうやっても失敗することを狙ってる。 敵の攻撃を受けて死ねば、無能呼ばわりし、奴を悪者にして終り。 よしんば生きて戻ったとしても島民に犠牲が出れば責任追及して退役だ。」
秋吉は椅子にもたれて窓の外を見ている。
「ワシはこれ以上の反論も抵抗も出来んかった。 ・・・情けない限りだ・・・」
鎮守府の長であっても、お偉方が集まると、一瞬で下っ端になる。
これは、いつの時代の組織でも同じことなのだが。
「楠木の気持ちが・・・少しでもわかったような気がする。 今回、ワシが感じたのは・・・人の悪意だ。 目の当たりにすると、そう感じてしまう。」
外を見ながら細々と話す秋吉だった。
「楠木も、感じたんだろうな。」
「提督・・・」
赤城の顔が曇る。その表情でも言うべきことはあった。
「それでも、鎮守府の長たる者、沈んではいられませんよ。 提督には20人を超える艦娘がいるんですから。」
「赤城・・・ ああ、そうだ。 そうだったな。 ワシには娘っこが大勢いたな。 娘っこらを路頭に迷わすことはできんからな。」
秋吉の目が光を取り戻す。
「では、赤城。 今作戦の相談だが・・・・・・・・・・」
それからしばらく、二人で内々の話がすすんだ。
結局・・・・
「ワシのほうはなんとかなるな。 とすると、楠木のほうか・・・」
「はい。 さすがに空母1隻というのは危険すぎます。 今は朝霜ちゃんがついていますが・・・。」
秋吉は少し、唸りながら考えた。 そして・・・
「う~む・・・ よし。 朝霜をそのまま随伴させることとして、もう1隻、廻すことは可能だな?」
「そうですね。 駆逐艦ならば問題ありません。」
「では、誰にするか・・・」
「そうですねぇ・・・ 卯月ちゃんはどうでしょう? 睦月型ですが、主砲を降ろして対空装備に換装してありますし。」と赤城が提案した。
「卯月か・・・ いいだろう。 それでいこう。」秋吉が赤城の答えに納得する。
ここで連絡が入った。秦が戻ったと。