次の日。
この日も天候は回復せず、大雨のままである。
天気予報でも、梅雨前線が停滞していて、2,3日続くらしい。
ま、今日明日は休日なので、秦はずっと家に居てもいいのだが・・・・。
時刻は朝8時になった。秦も睦も惰眠を貪っていた。
普段は朝6時に起き出すのだが、今日は、絶賛寝坊中だ。
9時前になって秦が起き出してきた。
朝の身支度をして、朝食の準備に取り掛かる。
朝食のメニューは、買い置きのホッケを焼いた、焼きホッケ、残り物のポテトサラダ、同じく残り物の豚汁とご飯。
ホッケの焼けるいい匂いで、睦が起き出してきた。
「父さん、おはよ・・・・。」
「起きたか? 顔を洗ってきな。もうご飯出来るから。」
私は雨の音と、お魚の焼けるいい匂いで目が覚めた。
ハッとする。
(ここは??)
布団から身体を起こし、辺りを見廻す。
(知らない部屋・・・ !?そうだ! 昨日雨の中を歩いていて、気がついたら布団の中にいて、お腹が空いて、ご飯をよばれて・・・・ また寝て・・・????)
だんだん、昨日の出来事が蘇ってきた。
着ていた着物ではない。
(男物? スウェットだ・・・・。誰の?)
時計を見つけて時刻を見ると、9時30分だった。
部屋の外から声がする。
親子だろうか・・・・・・声のする方へと歩いていく。
部屋を出て廊下を進むとキッチンだ・・・・。
そこには、男の人と女の子がご飯を食べていた。
朝食を摂っていた秦が、物音に気付いて振り向くと、彼女が立っていた。
「あ、起きたのかい? おはよう。」
「おはよう、お姉さん?」
「お、おはようございます」
といってお辞儀をした。
「とにかく、朝ご飯を食べようよ。さ、座って。」
「はい・・・・・」
といって三人で朝食を食べた。 無言の時間ではあったが・・・・・。
朝食後、再び三人は居間に移動していた。
おもむろに秦が切り出す。
「さて、昨日の今日なんだが、君の話を聞かせて欲しいんだけど、いいかな? 私はこの家の主で、楠木秦。で・・・」
「私は睦。」
「わ、私は・・・・鳳・翔・・といいます。」
「ほうしょう?」と睦が聞き返した。
「はい。・・・え、えっと、私・・・・艦娘なんです。」
「(やっぱり)・・・・・ それがなんで、こんなところに・・・・。」
鳳翔がここに至るまでの話しをしてくれた。
自分は呉の鎮守府にいた軽空母であること、鎮守府では厨房を取り仕切っていたことを話した。
そして、最近、提督の交代があったことを。
その提督によって、鎮守府の方針が大きく変わり、軽空母の自分の居場所が無くなったことを。
新しい提督は、攻め一辺倒の考えだったらしく、第一線で活躍できない艦娘は転属や解体を指示された。
「私は、転属先が見つからず、解体されることになりました。解体後は夜伽の相手にされることになりました。私は・・・解体ならば、誰かの向上の為に役立てられるならば、と受け入れましたが、夜伽の相手になるのは嫌でした、絶対に!! それで、夜にこっそりと抜け出してきました・・・・」
「行く宛てはあったのかい?」
「・・・いいえ。 出たものの、どこに行けばいいか、分かりませんでした。 そこで、以前、舞鶴鎮守府では艦娘と提督の関係が非常によく、うらやましがられているという噂を聞いていたので・・・」
「噂を頼りに、舞鶴鎮守府まで歩いて行こうとした、と。」
「はい・・・。私、鎮守府以外での生活の方法を知りませんので・・・。」
鳳翔が話し終えると、無言の時間が流れた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はああぁぁぁ・・・・・・。なんとまあ・・・・・えらいこっちゃぞ、こりゃあ・・・・。 所謂、脱走艦ってことかああ。」
「どうするの? 父さん?」
秦は頭を抱えて、唸っている・・・・。
(類が類を呼ぶのは、運命か・・・・。)
「ご迷惑はお掛けいたしません。 今ここを出ていきます。 それであればこちらにご迷惑にならないと思いますので。」
「この雨の、暴風の中を、歩いていくつもりかい?」
俯きながら小さく答える。
「はい・・・・。」
・・・・・
「はあ・・・。まあ、何かのめぐり合わせと思えば、思えなくもないか・・・・・。」
「??父さん??」
(腹を決めるか・・・・)
「鳳翔さん、君には俺の事を詳しく話してなかったね。 俺はね、1年前までの3年間、君が行こうとしている舞鶴鎮守府で提督をしていたんだよ。」
えっ? と鳳翔が驚いた顔をする。
「正確には、現在は、海軍の予備役大佐なんだよ。」
「舞鶴の・・・ 予備役大佐??」
鳳翔の顔が強張る。
予備役とは言え、海軍に繋がりのある人間である。
そんな人間の家に一泊したことに驚いたが、もしかして、既に通報されていたら・・・と思うと急に不安になってきた。
「心配しなくてもいいよ。 通報とかはしてないから。」
鳳翔の不安は消えない・・・・。
「予備役とは言え、円満に予備役になったわけじゃないから。 軍に恩義があるわけでは無いんだよ。」
「はあ・・。」
「まあ、いろいろあったんだが、提督を辞めなければ、ならない状況だったんだ。 だから自ら進んで予備役になったんだよ。あのときはもう少し遅かったら命が無くなるところだったからね。」
秦はニコニコしながら話していた。
「退役でもよかったんだが、まだまだ働かないといけないから、予備役としたんだよ。その方がいろいろと有利かなと思ってね。」
「じゃあ、睦ちゃんは・・・・・」
「鳳翔さん。 ココに居る睦を見てホントに何も感じない?」
「・・・・ひょっとして・・・・・・ 睦月型の睦月ちゃん、ですか?」
「正解。」
「えっ? なんで?」
「ん~、舞鶴を去るとなったとき、睦月に泣かれたんだよ・・・・。「嫌だ、嫌だ! 司令官と離れ離れになるのは嫌だ、一緒に行く!!」って、大泣きの大騒ぎでさ。」
「にひひひ、だって、嫌なものは嫌なの!」
「散々、説得はしたんだけど、こいつの意志は変わらなかったんだ。 ただ、艦娘をそのまま連れて行くことが出来ないから、解体をさせて、人間として睦月を引き取ったのさ。
で、俺が父親、睦月を娘としてね。 で、その時に名前を”むつき”から”むつみ”に変えたんだよ。」
「なので、司令官を独り占めにゃしいぃぃぃぃ!!」といって腕にしがみついてきた。
そんな睦の頭を秦は撫でている。
「実際、艦隊における睦月型の影響は小さくは無いが、大きくもないから、申請したらあっさり認められたんだよ。」
「そ、そんなことがあったなんて、聞いたことがありません・・・・」
「まあ、そうだろうなぁ。 俺は、飛ばされた方、だからな。 記録も残っちゃいないだろ。」
はあ、と鳳翔も呆れている。
(ま、無理もないけどね。)
ここで鳳翔がハッとする。
「じ、じゃあ、今の舞鶴鎮守府って・・」
「ああ、君が言っていた噂の鎮守府では、既に無い。恥ずかしながら、その噂が出ていたのは知っているよ。俺の在任中の事だね。 俺の後任の提督が来たらしいが、いい評判は聞かないね。」
「そんな・・私は・・どうすれば・・」
ううっ うううっ と声を出しながら、両手で顔を覆い、泣き出してしまった。
外の雨音をかき消すくらいの嗚咽であった。
「鳳翔さん、そんなに泣かないで。 司令官が、ううん、父さんが力になってくれるよ。」
睦が鳳翔の頭を撫でている。
鳳翔の涙は止まらなかった。
いや、止めるつもりも無かったのかもしれない。
自分の行先が無くなったことの絶望、帰るところのない絶望に打ちひしがれて・・・・。
秦は、鳳翔を泣くに任せた。
「睦、こっちにおいで。鳳翔さんを一人にしてやろう。」そう言って。
「鳳翔さん、かわいそうだよ。 何とかならない、父さん?」
「ううん・・なかなか難しいなぁ。彼女はまだ艦娘だから、引受先を見つけないといけないし、見つかっても今の呉みたいなところじゃだめだろうし・・。」
「お願い! 父さん。」
「・・分かったよ。 何とか考えてみよう。 ただし、どうなるかは、神のみぞ知る、だぞ。」
「うん! やっぱり司令官なのです!!」
「父さんじゃないのか?」
「へへへへぇ。」
と言って秦の胸に飛び込んでいった。
「やっぱり、頼りになるのです! だから、大好きぃ!」
秦は睦の頭をずっと撫でてやった。
鳳翔の泣くに任せていたが、しばらくして泣き声がしなくなった。
秦がそうっと覗くと、泣き疲れて寝入ってしまったようだった。
「睦、掛け布団を取ってきてくれる?」
睦に掛け布団を取ってきてもらい、鳳翔にかけてやった。