ハズされ者の幸せ   作:鶉野千歳

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攻撃隊が帰還し、本土へと急ぐ艦隊。
しかし、その位置からして、やはり先手を・・・



臨時指揮権

攻撃隊を収容した楠木隊は、本土を目指して海上を全力で航行している。

低気圧は更に方向を変え、今は西に向かっている。

艦隊は、航空攻撃にさらされやすくなっていた。

逆を言えば、攻撃も出来る状況とも言えた。

今の楠木隊の航空戦力は、空母鳳翔搭載の艦戦13機と偵察機6機と由良搭載の水観1機だけ。

秦としては、航空攻撃にさらされるのはゴメン、と思っていた。

また、少ない機体で攻撃するのもゴメンとも思っていた。

そこへ北へ向かった偵察機から連絡がきた。

 

「呉隊と思しき艦隊を発見するも、被害甚大の模様」と。

 

また、北北東の敵艦隊Bが西へ変針した、との連絡もきた。

 

「どう思う、由良?」

 

「そうですねぇ、敵Bは、呉隊の殲滅を狙っているのではないでしょうか。」

 

薄いピンクの長い髪を風に靡かせながら答えた。

軽巡由良の艦橋は、当初は露天だった。そこへ天蓋を張っていたのだが、今はちゃんとした屋根がある。屋根と言っても雨風をしのぐためだけなので、防弾の意味は持っていない。

そんな艦橋のデッキに秦と由良は居る。

 

「そうだとすると、呉隊は、危ないな。」

 

「報告では残存8隻で、全艦が被弾しているようですし・・・」

 

(さて、どうするか・・・)

 

秦は考えていた。

楠木隊が北上すれば、呉隊に近づく。

敵Bが近づいている艦隊に近づくのだ。

楠木隊には、避難民を載せている艦がある。無闇に戦闘はできないと思っていた。

そんなとき、電探から報告がきた。

北方100kmに正体不明艦探知、と。

これ以上近づくと退避も困難になるだろう、戦闘は避けられないだろう、と秦は思った。

そして・・・

 

「ただいまを以て鳳翔以下朝霜、卯月、各輸送船は北西に針路を執り、呉隊の後ろ50kmを廻って、本土へ。目的地は武山だ。」

 

「はい?」

 

朝霜と卯月が驚く。

まあ、無理もない。 細かな指示は鳳翔にしかしていないのだから。

 

「はい、了解しました。」

 

と鳳翔が返答する。

 

「え? 鳳翔さん? 聞いてたの?」

 

朝霜が聞く。

 

「ええ。 提督から聞いてましたよ。 だから・・・ みんな、針路を変更して。」

 

「わ、わかったぴょん。」「り、了解です。」

 

卯月と朝霜が返答すると、鳳翔らは左へ、北西へと舵を切った。

朝霜を先頭にして。

 

「由良、椿、楓、欅、樫で単縦陣へ移行する。 由良、我々は右10度に変針だ。」

 

「了解しました。」

 

由良を先頭に単縦陣となし、艦隊速度を上げた。

 

 

電探が2つ目の艦隊を探知した。

艦隊の動きから、呉隊と判断された。

既に敵Bとも100kmを切っている状況で、秦は呉隊に連絡をする。

 

「こちら、横須賀鎮守府所属、楠木だ。 呉隊に告ぐ、応答されたし。 繰り返す・・・」

 

すぐに返答があった。

 

「・・こちら呉隊、長門だ。 よく聞こえる。 何用であるか?」

 

「そちらに向けて、深海棲艦の艦隊が向かっている。 そちらの状況知らせ。」

 

「! 敵の空襲を受け、半数が沈んだ。 残存は、大破3、中破5だ。」

 

長門が被害状況を秦に伝える。

 

「呉提督は? どうした?」

 

「旗艦武蔵に直撃弾、提督を含め首脳陣が壊滅状態だ。」

 

「!! そうか・・・ わかった。 では、私が臨時に指揮を執るが、いいかね?」

 

「それは有り難い。 よろしく頼む。 今の状態では、艦隊全艦まで目が行き渡らないのだ。 助かる。」

 

と長門はそう言って了解した。

 

「長門、各艦は、主砲は撃てるかい?」

 

「大破した艦は無理だ。 射撃管制がやられている。 中破している、私長門、陸奥、大和は大丈夫だ。」

 

「では、中破した艦は、長門を先頭に、単縦陣をなし、方位0-1-5へ。 右から来る敵艦隊に対し砲撃戦を準備せよ。 大破した艦は戦線を離脱せよ。」

 

「了解した。」

 

「距離3万になったら砲撃開始だ。 それまでは耐えてくれ。 いいね?」

 

「ああ。 分かった。 全艦に伝える。」

 

 

そして・・・

見張妖精から報告が入る。

 

「右舷、3時の方向に敵艦隊発見! 距離およそ3万5千! 複縦陣と思われます。」

 

これに各艦が対応する。

 

「「「主砲、右舷、砲撃戦、用意!」」」と。

 

次の瞬間、敵先頭艦から炎が確認された。

距離3万5千で敵が砲撃を始めたのだ。

およそ30秒後、測的が甘かったのだろう、艦隊の右に水柱が2本、上がった。

時間が経つにつれ、当然のごとく距離が縮まる。

3万5千・・・3万4千・・・3万3千・・・3万2千・・・3万1千・・・

その間にも敵は発砲してくる。 が、まだまだ当たるにはほど遠かった。

ついに距離3万になる。

 

「各砲、交互打ち方、撃てぇ!!」

 

残存艦の長門、陸奥、大和の各砲が火を噴く。

戦艦の砲撃は、1発目から命中させることは、本当に稀である。

撃つ方も、撃たれる方も動いており、さらに波がある。飛翔中に風の影響もある、などと様々な影響を受けてしまうのだ。

だから、長距離になればなるほど、当てる方が珍しいと言える。

2射、3射と打ち込んでいくが、ついに4射目に、長門の放った徹甲弾1発が敵先頭艦に命中した。

敵艦の艦中央部、左舷側に徹甲弾が飛び込んでいた。

飛び込んだ先は・・・機関室、ボイラー室だった。

弾頭が爆発する!

辺りかまわず爆風と衝撃が襲う。

そして・・・機関室が轟音と共に爆発した。

 

「敵先頭艦に命中弾! ん? 先頭艦が落伍します!」

 

「先頭艦はもういい! 目標変更して砲撃!!」

 

敵弾も命中してくる。

 

「ギャッ 第2砲塔に命中弾!」

 

と大和が叫ぶ。

幸いにも外郭で弾き返したようだった。

2つの艦隊の距離が2万5千となったとき、深海棲艦側の小型艦に砲撃とは別の水柱が上がった。

1本ではなく、数本。

長門達からは、砲撃による水柱か、と思われたが、水柱の高さと上がった位置が違っていた。

それは、魚雷による水柱だった。

必殺の酸素魚雷だ。

 

「よし。 魚雷攻撃は図にあたったな。」

 

「はい。 提督さんの思った通りになりましたね。」

 

そう。 秦率いる艦隊からの雷撃だった。しかも超長距離雷撃だ。

 

「魚雷命中ぅ!」「やったね!」

 

敵艦隊の左後方からの雷撃に、全く気付かれることがなかった。

旗艦由良と駆逐艦4艦からの雷撃は各艦2本づつの10本。

そのうち命中は5本だった。

敵が秦たちの存在に気が付いて小型艦が針路を変えてきた。

が、既に遅し、だった。

変針中に第2撃の魚雷10本が襲ってきたのだ。

舵を切って躱そうとする。 が!

命中が出た。 水柱は4本だった。

計20本の魚雷攻撃で駆逐艦と思しき小型艦3が沈没、1が航行不能、小型空母1も航行不能だった。

深海棲艦には更なる不運が続く。

砲撃と雷撃に気を取られている間に、空からの攻撃に曝されたのだ。

戦爆連合で120にもおよぶ航空機による攻撃だった。

 

「こちら、赤城航空隊。これより攻撃を開始する。」

 

「同じく、加賀攻撃隊、推参! 敵を潰せぇ!!」

 

既に上空援護もなく、長門らからの砲撃と由良達からの雷撃で無傷な艦は、既になかったが、赤城、加賀の攻撃隊が止めを刺した。

攻撃隊は容赦がなかった。

航行不能になっていた艦に、航空魚雷と爆弾の止めが刺される。

かくて、航空魚雷と爆弾を打ち尽くして、赤城、加賀の攻撃隊が引き上げていった。

残されたのは、沈みゆく敵戦艦が2隻、あとは既に海上には姿が見えなかった。

 

 

だが、秦も油断していた。

秦たちの後方から敵艦隊が接近してきていた。

 

「電探に感あり。 本艦・由良後方3万に不明艦隊。」

 

「なにぃ!」

 

背後に現れたのは・・・空母を失った敵Aの残存艦隊だった。

 

「戦艦と思しき大型艦を先頭に、複縦陣。およそ10隻。大型艦1、巡洋艦3、駆逐艦6!」

 

この時点ですでに敵艦が発砲した後だった。

艦隊の最後尾・樫の後方に着弾した。

 

「よし、今のうちに、艦隊、反転180。」

 

「ですが、提督さん、駆逐艦たちは、もう魚雷はありません!」

 

そう。 松型の駆逐艦は魚雷を4本しか装備していない。しかも予備も無いのだ。

今の秦が率いる5隻で、魚雷があるのは由良だけで、残存数は4本のみだった。

 

「由良、横須賀隊と大湊隊に対して、航空支援を要請して。 現在位置も伝えておくれ。」

 

「了解です! 直ちに!」

 

そうは言ったものの、横須賀隊の航空隊はさっき帰って行ったばかりで、すぐに来てくれるわけでは無いことは、わかっていた。

残るは・・・大湊隊の翔鶴、瑞鶴の2隻からなる、攻撃隊だ。

ただ、間に合うか、どうか、である。

秦は更に、

 

「長門へ。 時計回りに針路を変えつつ、距離3万になったら、敵艦隊に対して砲撃を開始。」

 

と指示をしていた。

由良と敵A艦隊とはすでに2万まで接近していた。

敵戦艦からの主砲攻撃にさらされていたが、この距離になると副砲からも砲撃が始まった。

 

「副砲からの発砲を確認!」

 

主砲弾ほど大きくは無いが、多数の水柱が上がる。

しかも、発砲間隔は主砲より短い。

距離1万9千、1万8千・・・と近づく。

後続の巡洋艦からの砲撃も始まった。

こちらも、回避の為のジグザグ運動や不規則転舵を繰り返し、砲撃を躱そうとする。

そして由良も主砲砲撃を開始した。

14cm砲を打てる限り放つ。

 

「由良を敵の左舷へ転進。 左舷、魚雷戦用意!」

 

酸素魚雷の超長距離雷撃を行う。

回避運動をしながら、敵に近づき、左舷を敵に向けた。

 

「魚雷全門、発射用意!   撃てぇ!」

 

由良から4本の魚雷が放たれた。

その時、由良の船体が大きく揺れた。

敵弾が命中したのだ。

 

「ぎゃ!」「うわぁぁぁ!」

 

由良も秦も、爆発の衝撃で身体を飛ばされ、壁や床に叩きつけられた。

 

「うう、直撃??」

 

そう。 由良の艦橋基部に敵砲弾が命中した。

 

「だ、ダメージコントロール! 被害状況確認・・・・」

 

と由良が言って倒れてしまった。

痛みに苦しむ秦は、飛び込む通信を聞いていた。

 

「こちら、翔鶴攻撃隊。 これより敵艦を攻撃する!」という通信を。

 

大湊隊空母翔鶴からの航空支援だ。 支援要請は、届いていた。

翔鶴隊の攻撃までに、由良に2発、楓、椿に各1発の敵弾が命中していた。

由良に、艦橋基部に1発、後部7番砲塔付近に1発が命中。7番砲塔が使用不能だった。

楓は、煙突付近に直撃を受け、船体中央部の上部構造物が吹き飛んでいた。

椿は、艦首付近に被弾。前部砲塔が使用不能だった。

翔鶴隊はまず戦艦に対して魚雷攻撃を行った。

右舷から8本、左舷から2本の魚雷の攻撃だ。左右からの攻撃で回避することができずに10本のうち9本が命中した。

命中から間をおかずに右に傾き、横転してしまった。撃破だ。

残りの巡洋艦、駆逐艦に爆弾と魚雷が襲いかかった。

その時、さらなる増援が到着した。

 

「瑞鶴攻撃隊、とうちゃあああく! 全機、突入ぅぅぅ!!」

 

敵艦から必死の対空射撃が行われるが、1機また1機と突入してくる攻撃機の爆弾が命中していく。

艦戦は艦橋に向けて機銃を放っていく。

急降下爆撃隊は爆弾を投下し、敵艦の対空能力を削いでいく。

攻撃隊が魚雷を放ち、敵艦の舷側を破っていく。

かくて、翔鶴、瑞鶴両空母の攻撃隊による攻撃が終了した。

この時点で海上に浮いていたのは、横転した戦艦と傾き沈みかけた巡洋艦2だった。

その他は、辺りには見当たらなかった。

 

「ふぅ・・ さすが翔鶴、瑞鶴の攻撃隊だ・・・。」

 

秦が感嘆の声を上げていたが、最後の命令を下した。

 

「敵艦を、沈めよ・・・ 稼働可能な砲塔で攻撃開始。」と。

 

比較的被弾の少ない欅、樫から主砲砲撃が行われた。

秦は、完全に沈めてやろうと思った。

復活が戸惑われるくらいに。

数射ののち、敵艦は完全に水没した。

そこには傷ついた秦たちが居るだけだった。

 

「はぁ、はぁ・・・ 終わったかな・・・・」

 

「えぇ・ 終わった・・ようです・・・」

 

痛みに耐えながら由良が応えた。

 

「では・・・ 帰ろう。 横須賀に・・・。 全艦、針路、横須賀へ。」

 

ここに、全ての戦闘が終了した。 

被害は・・・少ないものではなかった・・・・。

 

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