それが終わると・・・
食堂での大宴会が終わり、時刻は1900となっていた。
楠木隊の秦、鳳翔、卯月、朝霜、楓、椿、樫、欅、由良と、秋吉、赤城、睦、間宮の13人で、寮のダイニングルームに椅子を持ち込んでささやかな宴会を催していた。
ここでの料理は、鳳翔と間宮、そして秦の三人の手によるものだった。
赤城の食欲には、みな驚いていたが、このメンバーであれば、そんなに大食いも大酒飲みも居なかったから、平穏であった。
「やっとご飯にありつけるぴょん!!! お腹ペコペコぴょん!!」
「ホントにみんな、働かせてくれたよ~」
と文句を言いながら料理に箸を伸ばす。
「みんなありがとうね、手伝わせてしまって。 さあ、文句言ってないでたくさん食べな。」
「ねぇ? これって、司令官が作ったのぉ? うっそぉぉぉ!」
と驚くのは朝霜だ。
「ひどい言われようだが、俺を含めて三人で作ったんだぞ。」
「やるじゃん!! 司令官!! うん、美味しいぞ! 美味しい!」
と褒めてくれている。
「提督の手料理は久しぶりですね。 ね、睦ちゃん。」
「そうだね。 最近は間宮さんとこが多いし、鳳翔さんも作っちゃうし。」
それを聞いてた秋吉が秦に向かって、
「なんだ、貴様はいっぱしの料理ができたのか?」
「ええ。 鳳翔や間宮さんみたいにはいきませんが、出来ますよ。 それに、結構、料理って楽しいですよ。」
「ワシには出来ん芸当だ。」
と秋吉は肩をすくめて言った。
「そんなことはありませんよ、中将。 今からでも始められては?」
「無理を言うな。」
苦笑いをする秋吉だった。
「今の感じですと、お母様は楠木提督の料理を食べたことがあるんですか?」
「ええ。 ここに来る前に。 なかなかの腕よ。」
それを聞いた赤城が、へぇ~と言った。
「料理のレパートリーもそれなりに?」
「ああ。 鳳翔や間宮さんみたいには無理だけど、普段の食事くらいなら、これくらいなら何ともないから。」
「そうだよ? 父さんの料理、結構美味しいよ?」
と睦がフォローしてくれる。
そして秋吉から、
「今回の作戦の最大の功労者は、楠木、貴様だからな。」
と秦を褒めた。
が・・・
「中将・・・ それは違いますよ。」
と秦はキッパリと否定して言った。
「今回、鳳翔を始めとする各人の働きによるモノですよ。 私がやったことではありませんよ。」
「えらく、謙遜するな。」
「そりゃぁ、謙遜もしますよ。 まずは、鳳翔攻撃隊による敵大型空母への攻撃です。」
秦は席を立ち、鳳翔の後ろに立った。 両手を鳳翔の肩に載せて、微笑みながら続ける。
鳳翔の手が秦の手に重なる。
「烈風を爆装して、かつ爆撃を見事に成功させてくれました。 4隻の空母の飛行甲板を見事に破壊してくれました。 これは大きい戦果です。」
続いて、由良達の後ろに回って、頭を撫でていく。
「次に我が楠木艦隊、由良、椿、楓、樫、欅からの超長距離雷撃です。 結果的に24本の魚雷で11本命中ですから、たいしたもんです。 あとは・・・ 赤城、加賀、翔鶴、瑞鶴の各攻撃隊による戦果です。」
そして、朝霜、卯月の後ろに回った。 右手で朝霜の頭を、左手で卯月の頭を撫でた。
「朝霜、卯月も避難船を良く護衛してくれました。 結果的に戦闘にはならなかったですが、この娘たちが居る、居ないでは安心感が違います。」
自席に戻ってきて、
「私の戦果ではありませんよ。」と。
そう言って、なお秦は思っていた。
(横須賀隊、大湊隊の支援が遅ければ、俺は、今ここにはいなかったかもしれない。 まったく以て、運が良かっただけなんだが・・・。)
「司令官がそう言ってくれると、アタイ達は、嬉しいよ。 今までそんなに言ってもらったことないし。」
へへへっと朝霜が笑っていた。
その目にはうっすらと光るものがあった。
「そうだぴょん! うーちゃんも、がんばったぴょん!!」
卯月も胸を張っていた。
「そうだよねぇ。 でも、だいたい、手柄は持って行っちゃうしさ。」
「どっかの鎮守府では、それが当たり前、っていうところも聞くよ。」
みんな、思っていた愚痴を言っていたが、
「まあまあ、文句はその辺にして。 過ぎたことはどうしようもないさ。 これからは、俺がいるウチは、まっとうな評価をするつもりだよ。 嘘偽りのない、ね。」
「うん、期待してるよ、司令官!」
皆の期待は大きかった。
「あ、そうだ!」
急に思い出したように椿が声を出した。
「ねぇ、司令官? 卯月ちゃんていつもこう、うるさいの? 睦月型ってみんなこんな感じなの?」
「どうしたんだ、椿?」
「え~、作戦中なのに、いちいち、ぴょんぴょん言ってうるさいんだもん!!」
「あ、あれは、椿ちゃんが怒るからぴょん!」
「アタイは怒ってないって言ってんでしょがああああ!!」
眉間にシワが寄って、怒り面だ。
「う~、また怒るぅぅぅ・・・。」
涙目の卯月だ。
「まあまあ、落ち着きな、二人とも。」
二人の間を割って秦が声を出す。
「まぁ、卯月がうるさいのは今に始まったことじゃないから、テキトーに流しておいてくれ。 こいつの性格は変わんないから、さ。」
「椿ちゃんも短気を起こさないで、ね?」
秦と鳳翔が二人を説得する。
「うぅぅ、司令官の言い草は、フォローになってないぴょんよ・・・。」
「そうか? ごめんごめん。」
ははっ、みな呆れ顔であった。
「そうだ、みなに言っておかなければならんことがある。 以前にも話したとおり、ワシは明日から長期治療に入る事にした。 そのため、暫くここを離れるから、後は楠木、貴様に託すことになった。 これは、大本営の決定だ。」
「やはり。 そうなりましたか・・・。」
「貴様に相応しい役職だと、ワシは思うが、楠木提督はそうは思わんようだな。 だが、先の結果からして、貴様以外にはおらんのでな。 嫌でもやってもらうことになる。 ま、悪く思わんでくれよ。」
嘆息しながら秦が答える。
「仕方がありませんね。 微力を尽くさせてもらいましょう。」
「頼んだぞ。」
そこまで言って、秋吉が別件の話をし始めた。
しかも口角が上がって・・・。
「そういえば、楠木? 聞くところによると貴様、鳳翔にプロポーズをしたそうじゃないか?」
「な! なんで知って・・・・」
「立華に聞いたぞ。 貴様がプロポースして、そして鳳翔が受け入れたと。」
秦と鳳翔は、互いを見て頬を赤めていた。
「で、それがあって、隣あって座っているのかな?」
今、秦の右隣に鳳翔が座っている。左は睦だ。
「いえ、そういう訳ではないのですが・・・」
と頭を掻きながら答える秦であったが、
「少なくとも、鳳翔は、すでに楠木家の一員と思っていましたので、そのままを口にしただけ、と言えますが、しかしながら、そういう事はきっちりとしたいと思いますので・・・」
改めて鳳翔を見つめた。
「鳳翔には、改めて言うつもりでいます。 その方が記憶に残るでしょうから。」
鳳翔は左手を左頬にあて、頬を赤めながら
「はい。 期待していますよ。 提督?」
と応じていた。
「やっとなのね、父さん? そう言う事は早めに言ってよ? 期待してるよ、父さん、お母さん!」
にひひと笑いが見える顔で睦が秦と鳳翔を焚き付けている。
「睦!」「睦ちゃん!」
二人が同時に声を荒げた。
そのあとは、皆で秦と鳳翔を揶揄する話で盛り上がり、楽しくも愉快な時間は過ぎていった。
◇
翌日、早朝から横須賀の港は慌ただしかった。
まず、大湊隊が抜錨した。
大湊へと帰るためだ。
各艦が房総半島を廻って北を目指すコースをとる予定だ。
続いて、呉隊が抜錨した。
呉へと帰るため紀伊半島を超えて四国を廻るコースをとる予定だ。
被弾した艦艇を中心にして、港を出て行った。
横須賀の作業員や艦娘らが岸壁で彼ら彼女らを見送っていた。
またいつか会おうと、約束を交わして。
それぞれの艦からの汽笛が、その姿が見えなくなるまでいつまでも響いていた。
これで戦闘シーンは終わりです。
次回からは、秦と鳳翔の二人中心に話が進みます。