外の雨は、まだ降り続いていたが、若干、小雨になってきたようだった。
秦は考えていた。
このまま鳳翔をMPに突きだすのは簡単だ。
脱走艦を見つけたと言えばいいだけだ。ただ・・・
そう。 ただ、秦はそれを良しとはしなかった。
(損な性分だなあ。)
と思いながら代案を探す。
鳳翔が抜けだしてきた理由からしても、今の呉鎮守府には返せないし、行くつもりだった舞鶴鎮守府もいい環境とは言えないので、行けない。
鳳翔が艦娘を辞める、というなら横須賀の元上官に頼み込めば何とかなるかもしれない。
ただ、それでも、解体後の生活支援に問題が残る。
何しろ、まだまだ戦時中であるため、解体する事なんて想定されていないから、何の保証もないのだ。
(ま、生活の保障なら、俺が保証人になればいいか?)
呉、舞鶴以外の鎮守府への転属なら、可能性としては一番高いのかもしれない。
(とにかく、本人に聞いてみるしかないね。まずは、そっからか。)
時刻は午後1時を過ぎていた。
「父さん、お腹すいた。」
「おお! そうか、そんな時間か! お昼にしよう。」
メニューは何にしようか・・・・
「睦、何がいい?」
「うんとね、睦、ラーメンがいい。」
「ラーメンでいいの?」
「うん。たまには。」
「ほいきた。 じゃ、白くまにしよう。」
「あたし、鳳翔さんを見てくるね。」
「ああ。起こしてきてくれる?」
部屋を覗いた睦が声を掛ける。
「鳳翔さん? お昼にしよう。」
目が赤く腫れ上がっていたが、「ええ。ありがとう。」といって台所へ睦と一緒にやってきた。
白くまは、某百貨店でやっていた北海道展で売ってたヤツだ。
麺を湯がき、どんぶりに盛る。
そこにスープを入れて完成となるが、煎り胡麻、刻んだ青ネギ、茹でたもやしをトッピングした。
「さあ、出来たぞ。 食べよう。」
「「「いただきます。」」」
麺を啜る音が響いていた。
睦はフーフーしながら美味しそうにほおばっている。
鳳翔はラーメンの熱さなのか泣いていたのか、分からないほど汗をかいていた。
白いスープがちょっと味が濃いかったが、その辺はご愛嬌だ。
三人とも完食してしまった。
「「「ごちそうさま。」」」
器を片付けて冷えたお茶を飲んでいた。
秦がおもむろに話し出す。
「鳳翔さん、今後についてだけど、いくつか確認したいんだけど、いいかな。」
「確認ですか?」
「まず、今の、呉鎮守府には帰るつもりは無い、ね?」
「はい。」
「つぎ、舞鶴鎮守府だけど、君の噂通りではないけど、それでも舞鶴へ行きたい?」
「それは・・・・・秦さんが・・提督の時ならば、行ってもいいと思いましたが・・・今は・・・・・」
「あんまり、行きたいとは思わない、かな?」
「は・・い・・・」
「では、つぎ。 今後も艦娘として戦場に出たい?」
「えっ? そ、そ、それは・・・・・」
「言い方を変えようか、艦娘として今後も居たいかな?」
「お料理をするのは、大好きですけど、戦場へは・・・・小型旧式の軽空母では、あまりお役に立てないと思います。」
「ん-、はっきり言った方がいいかな? 今後も艦娘として生きたいか、人間として生きたいか、と聞かれたら?」
「・・・・そこまで考えた事ありません・・・・・」
「まあ、そうだろうね。」
「最後、呉と舞鶴以外なら、転属しても構わない?」
「そうですね。今の呉や舞鶴より良ければ、ですけど。」
「その場所が、ココでも構わない?」
「え?! ここ、ですか? どういう事ですか?」
「父さん、どういう事?」
「これは、超法規的な対策なんだけど・・・・・ハードルは高いんだけど、正式に俺が君を預かるって案なんだけど。」
「は、はあ・・・」
「鳳翔さんがここに居れるの?」
「ハードルは高いけど、一応、横須賀の元上官に許可を取らないといけないんだけどね。」
「それは・・・・・有りがたいかも・・です。」
「ん-、分かった。ありがとう。」
「でも、それってどうするの? 父さん、予備役でしょ?」
「うん。 おそらく、現役復帰を条件にされると思うよ、たぶん。あの人が言いそうなことだからね。」
(辞める時も、散々、説得されたからなぁ。)
「あの人?」
「俺の元上官で、提督を辞める時に、散々説得してきた、横須賀にいる中将なんだけどね。」
秦にとっては、やりづらい相手であった。
(ま、こうなることは予想してたけどさ・・・・)
そして、話は変わる。
「鳳翔さん、とりあえず、服とか揃えないといけないから、今から買い物に行くよ。いい?」
「えっ? いえ、そんな、あの、着物があればそれでいいですので・・・・・」
「だめ!!」
「はい?」
「んんっ。 悪いとは思ったけど、着物を脱がす時に思ったんだけど、ちゃんと下着と肌着を着けないと、あかんよ? いつまでも湯文字だけで過ごすつもり? サラシでいるつもり?」
「ええ? そ、それは・・それ以外、持っていませんので・・」
俯いてしまった鳳翔だが、顔が赤いのは見て取れる。
「じゃ、揃えよう。 今、外の雨は小降りだからさ。車で行けばいいだろ?」
「でも、私、持ち合わせがありません・・・・・」
「いいよ。 俺が出すから。」
という事で三人で買い物に出かける事となった。
やってきたのは、秦の街にある、中規模のショッピングセンターだった。
ここは駅前ではなく、街外れのだだっ広い土地に10年ほど前に作られた建物だった。
ショッピングセンターに着くと、まずは鳳翔の下着だ。
さすがに男が女性の下着売り場で、あーでもない、こーでもないと物色するのは、はずい。
めっちゃはずい・・・。
なので、店員に話をして、鳳翔に選んでもらった。
色は・・・・
サイズは・・・・
と。
かれこれ30分は経っただろうか。
下着のセットを5つほど購入してきた。
「すみません、いろんな色があって、いろいろ悩んじゃって。」
にこやかにほほ笑みながら戻ってきた。
頬を赤めながら。
(うん、睦もそうだけど、女の子は笑顔が一番だね。)
次は服だ。
和の雰囲気のある鳳翔が洋服?とも思ったが、着物をたくさん揃える事が出来ないので、洋服で我慢してもらう。
やはり、着物と同じような色使いになった。
桜色のサマーセーターに紺のスカート・・・・。
「悪く無いんだけど・・・ いろんな服を選んでみようか?」
睦に、いろいろと似合いそうな服を選んでもらった。
白のワンピースだったり、花柄プリントのスカートだったり・・・・。
試着コーナーで、鳳翔が着せ替え人形と化していた。
かなりの時間を要したが、どうにか1週間分の服を買いそろえる事ができた。
「すみません、こういうお店には来たことがないので、迷ってしまって・・・。」
俯き加減で鳳翔が出てきた。
先に選んだ桜色のサマーセーターと紺のスカート姿で。
どうやら、買ってそのまま着てきたらしい。
「大丈夫だよ。鳳翔さんに似合いそうな服を選んだから。」
と睦が言う。
エッヘン、と聞こえそうなくらい自信満々に。
秦はちょっぴり心配になった。
(子供っぽい服を選んだんじゃないだろうな。)と。
最後に、食料品売り場である。
1週間分のまとめ買いだ。
牛肉、豚肉、葉物野菜、根菜類などなど、他に生活用品を買い揃え、店内のフードコートで小休止することにした。
「やあ、疲れたぁ。」
疲れたとは言え、三人の顔はにこやかだった。
「ふふっ。お疲れ様です。 提督。」
「へ? 提督?」
「はい。私、決めました。秦さんの元で働きます、いえ、働きたいです。なので、私の”提督”です。」
「じゃ、鳳翔さん、ウチに居るの? 父さん?」
睦が秦に向く。
「はい。そのつもりです。 今後はどうなるか、分かりませんが、提督にはご迷惑をお掛けいたします。ですから・・・・」
「元上官を説得して来いってことだな?」
「お手数をお掛けいたしますが・・・・だめ、でしょうか。」
鳳翔の目が、ジ-ッと秦を見つめる。
秦が思いっきり、ハァーっとため息をついた。
「分かったよ。 努力してみよう。」
「あ、ありがとうございます!」
「やったあ! 鳳翔さんがウチに来るぅ!!」
睦が鳳翔に抱き着いた。
二人の顔に笑みが広がっていく。
「なんだぁ、睦? 鳳翔さんに居て欲しかったのか?」
「へへへっ。」
と舌を出しながら笑う。
「まったく、もう・・・・。呆れてモノも言えんわ。」
それを見た鳳翔が、ふふふっと笑った。
秦と鳳翔はコーヒーを、睦はオレンジジュースを飲みながらしばし談笑するのだった。