時間は0600。
ほぼいつもの時間に秦は起き出した。
もう少し寝ていたかったが、反対側の布団の主は既に居なかった。
階下の台所から声がする。
朝から母親と鳳翔が何やらやっているようだった。
隣の睦はというと、まだまだ起きる気配は・・・全くない!
階下に降りていくと
「あ、おはようございます、あなた。」
と声を掛けられた。
定番の小袖姿だ。
当の本人も結構、気に入っているらしく、わざわざ持って来たのだった。
「おはよう、鳳翔。 相変わらず、早いねぇ。もっとゆっくりしてもいいのに。」
「いえ。 お義母さんから教わることはいっぱいありますから。」
「今日は、特にすることもないから、ゆっくりしてね。」
「はい。」とにこやかに返事をする鳳翔だった。
「これ、鳳翔。 梅干しはこうするんやで・・・・・」
母親が、楠木家の梅干し作りを教えていた。
「ここまで漬けたら、天日干しするんや。 そしたら・・・」
まだまだ掛かりそうな感じだ。
母親の作る、楠木家の梅干しは、実家の裏庭にある梅の木の実を使っている。
だから、大きさは大小取り混ぜである。
しかも、表面は、真っ白なのだ。 塩がふいて・・・。
だから、すっぱい、よりも、しょっぱい、のだ。
鳳翔は母親の話すことをメモしている。
(どこにあったんだよ、そのメモ・・・)
「次は、らっきょうの甘酢漬けや。」
楠木家のらっきょうの甘酢付けは、ややすっぱめだ。
らっきょう自体は市販されている、鳥取砂丘産を使っている。
母親によると、実が大きくて、歯ごたえがいいのだそうだ。
「この漬け瓶に、ここまで入れて・・・」
まだまだ続くようだ。
「・・・ここまでしたら、あとは時間や。 浅漬けやったら数日で食べられるけど、ま、普通はかなり漬けとくけどな。」
「はい。」
そう言ってメモを取る鳳翔。
「疲れたやろ? お茶でも煎れよか。」
ようやく、終わったらしい。
「秦、あんたも飲むか?」
「ああ、貰うよ。」
そう言って、三人で朝のお茶を飲むことになった。
実家のお茶は番茶だった。
一番番茶が安いんや、と言いながら母親が番茶を入れてくれた。
夏の日の早朝。
三人が居間でお茶を啜っていた。
「秦。 あんたらはいつ帰るんや?」
「ん? 帰り? 明日のつもり。 明日は朝から鳳翔の実家へ行くんだ。 早朝に車で行こうと思ってるけど。」
「ほうか。 もっとゆっくりしたらええのになぁ。 鳳翔の実家は、何をしてるんや?」
「私の実家は、ここから車で2時間くらいでしょうか。 兼業農家ですね。 どちらかと言うと、地主なんですけど。」
「そうか。 畑を持ってるんやったら、ウチの野菜でも、と思たけど、止めとこか。」
なに? ウチの野菜を持っていかそうとおもってたらしい・・。
「あ、それやったら、鎮守府に送って。 向こうで食堂で使こうたるわ。」
「そうか。 今年は、特にようけ摂れてな。 腐らすのは勿体ないと思うてたんや。」
「あとで送付先を教えるから。」
そうやって朝の時間が過ぎて行った。
睦が起きて、四人となった実家では、睦を中心に話が盛り上がっていた。
その睦も小袖を着ている。
「二人とも、お揃いか? よう似合うとるな。 今や、小袖の方が珍しいのに。」
「へへへ、いいでしょ? お母さんと一緒に買ったんだよ。」
「お義母さんも着ますか? もう一つくらい、縫いますけど。」
「え? お袋も着るの? そうなると、俺だけ、のけ者やん。」
「あら? あなたの分も、ちゃんと縫いますから。」
「なら、いいけどさ。」
「ふふ。 作ってくれるんやったら、作ってもらおうか。 楽しみにしてるわ。」
「はい。 お任せください。」
そして、夕食後、お風呂に入って寝るだけ、になった。
「秦、先にお風呂に入ってしまい。」と母親が言った。
「じゃ、お先に。」
と言ってお風呂へと向かった。
そして・・・
「鳳翔、あんたも入りなさい。」
「えっ? いえ、後でいいですから。」
「なに言うてるんや。 夫婦なんやろ? 一緒に入って、なんの問題がある? 睦ちゃんはおばあちゃんと入るよね?」
「うん!」
「はぁ、それでしたら、お先にいただきます・・・」
そう言ってお風呂場に向かった。
脱衣所で、秦と鳳翔が鉢合わせになった。
「おわっ! どうした?」
「あの、お義母さんが、一緒に入れ、って・・・」
「・・・・」
しばし、見つめあった二人だったが・・
「あー、一緒に入るか?」
「・・はい・・」
そうは言うものの、広いスペースがあるわけでは無いので、秦が先に脱いでお風呂に入った。
掛け湯をして湯船に浸かった。
後を追うように鳳翔が入ってきた。
長い髪を頭の上でお団子にして、胸からタオルを巻いている。
掛け湯をして、秦が入っている湯船に入ってきた。
「お邪魔しますね・・・。」と。
向かい合ってお湯に浸かっていたが、
「何気に、二人で入るのって、初めて、だな。」
「そうですね。 あの時も睦ちゃんが居ましたね。」
と二人で笑いあった。
二人とも、頬はピンク色だった。
「こっちにおいで。」
鳳翔を膝の上に座らせた。
「綺麗な肌だね。」
白くて、艶やかで、弾力があって・・・
鳳翔が秦にもたれかかる。
秦が鳳翔を背中から抱きしめる。
お互いの体温が直接、伝わってくる。
「こんなに華奢な身体なのに、俺たち軍人より、危険な戦闘に身を置いているなんて、今でも信じられんよ。」
戦艦や空母組は、”大人な女性”が多いが、駆逐艦組は明らかに”少女”だ。
楠木隊に属している、朝霜にしろ卯月にしろ、大半が明らかに未成年の、十代の前半の少女たちだ。
「いつかは、みんなにお礼を言わなきゃと思ってるんだ。 俺は直接戦えないから、余計に思うのかもしれないが。」
「・・大丈夫ですよ。 提督たるあなたが、そう思ってくださるのなら、みんな、命を懸けて戦えるというものです。」
「命を懸けて、だなんて・・・そんな悲しい事を言わないでおくれよ。」
「でも・・ その中でも、私は、あなたに出会えました。 艦娘でなければ、出会う事は無かったと・・・。」
鳳翔が秦に向い合せになる。
「ですから、この出会いを大切に、離さないでいたいと思います。 そして、あなたも、離さないでください・・。」
「ああ。 離すもんか。 君と出会えたことは、奇跡じゃない。運命だと思ってるよ。」
二人はお互いをみつめる。
互いの距離が縮まっていく・・・
鳳翔が目を閉じる・・・
秦の唇が、鳳翔のを捉らえた。
んっ。
唇が離れると、二人の間に、水の糸が掛かっていた。
そして、改めて二人は抱き合った。
強く、確かめるように。
秦も、鳳翔も思いは同じだった。
離してなるモノか、と。
二人とも、まだ理性の方が強かった。
色白ではあるが、厚い胸板の秦に抱かれたい、と思う鳳翔。
華奢とは言え十分に膨らみのある、柔らかそうな乳房、つややかな肌を独り占めしたいと思う秦。
ずっと、このままで居たかったが、ここは湯船の中だ。
そう。 長い時間入っているわけにはいかない。 逆上せてしまう。
まだ、意識があるウチに、二人してお風呂から上がった。
脱衣所でも、互いに身体を拭き、また抱き合う。
裸のまま、再び唇を求めて。
十二分に唇を求めた後、浴衣を着て居間に戻っていった。
「お風呂、先にもらったよ。」
と声を掛けた。
「おや、長かったな。 ま、ゆっくりできたやろ。」
と母親に言われて、二人して顔を赤めていた。
続けて睦と母親が一緒にお風呂に入っていった。
秦と鳳翔のお風呂上がり。
冷蔵庫から、冷えたコーヒー牛乳を取り出してきて、二人で飲んだ。
「ふぅ。 冷たくて、美味い。」
「そうですね。 ちょっとお風呂は、長かったですかね? この牛乳がいつもより美味しく感じられますね。」
そう言って二人、寄り添い、見つめ合っていた。
そうやって今日一日が過ぎていった。