ちょっと鳳翔さん中心にしてみました。
この日、鳳翔のお昼ご飯は、秦が作ったお弁当だ。
2段のお弁当箱。
下段はご飯。上段はおかず。
急須にお茶葉を入れ、お湯を注いでしばらく待つ。
そして湯呑にお茶を注いでいく。
お茶を一口すすって、ふう、とため息を一つする。
(それでは、あの人の手作りお弁当、いただきましょうか。)
蓋を開けて、お箸を持って、
「いただきます。」と。
まずご飯を一口。
(ん。このご飯は冷えても美味しいですね。コシヒカリの様に甘いですけど、ちょっと違うわね。)
次にイカナゴの釘煮を少し。
(甘辛く煮てありますね。山椒が効いていておいしいですね。)
卵焼き。
(あの人は言いませんでしたが、恐らく瑞鳳ちゃんから教わったようですね。でも、だし醤油ですか。ちょっと醤油が強いかもしれませんね。)
タコさんウインナー。
(懐かしいですね、これ。 うん、塩加減がいいですね。 あら、でも、これって、魚肉ウインナーですね。)
鶏肉。
(鶏の胸肉の塩焼きですね。ちょっと薄いかと思いましたが、冷えて堅くなることを考えれば、これくらいでいいのかもしれませんね。)
パスタサラダ。
(あら? ちょっとマヨネーズが多いかしら。 あの人、マヨラーかしらね?)
そんなふうに味を確かめながら、秦の手作り弁当を食べていく鳳翔。
そして気がつくとお弁当箱は空っぽになっていた。
「ふう。ごちそうさまでした。 美味しゅうございましたよ、提督。」
そういってまたお茶を啜った。
(ふふっ。 呉でも誰かに作ってもらった事なんて無いのに。 こんなところで提督に作ってもらったご飯を、お弁当を食べるなんて思ってもみませんでしたね。)
(でも、お弁当を毎日、作っていたんですね、提督ったら。)
そう思うと心がホッとする感じがしていた。
お弁当箱を洗い、水切り台に置いて、縁側に座った。
(この縁側はいいですね。 風が抜けて気持ちいい・・・。)
この家の縁側は、南向きになっており、小さいながらも庭がある。
午前中に、家の掃除と洗濯を終えていた鳳翔は、しばしの休息を取っていた。
庭の物干しの洗濯物が風に揺れている。
庭の端に1本の蜜柑の木が植えてあった。
秦の父親が、仕事を引退した時に、苗木を買ってきて植えたものだ。
既に毎年のように蜜柑が実る。
ただ、農家さんではないため、花を摘花したりしないので、実がわんさかと出来るのだった。
もちろん、食べられる。食べられるが・・・たくさん実るため、味がいまいちなのだ・・・。
(これは・・・ ちゃんと手入れをすれば・・・)
鳳翔は摘果しようと思った。
(剪定ばさみ、剪定ばさみ、っと。 たしか玄関のところに・・・あ、ありました。)
蜜柑の木をよく見ると、上へと伸びる太い枝が切ってあった。
全体として高さが150cm位になるように。
伸びすぎた枝や多すぎる青い実を切り落としていく。
(とりあえずは、こんなものかしら。)
葉っぱしか見えなかった木が、蜜柑の木らしく実が見えるほどになっていた。
切り落とした枝を集める掃除をしていると、睦が帰ってきた。
「たっだいまぁ!」
「あら。 お帰りなさい。 あ、もうこんな時間!」
時間は16時をすこし過ぎていた。
「? 鳳翔さん? 何してんの?」
「蜜柑の木の剪定よ。 そうだ、睦ちゃん? 去年はこの蜜柑、食べたの?」
「蜜柑? うん。 食べたよ。」
「どうだったの?」
「ん~、美味しかったのは美味しかったんだけど・・・沢山出来た割には、今一つ、甘味が足りないというか、小ぶりな実だったかな。そんなんだったよ。」
「やっぱり。」
「どうして?」
「提督ったら、間引きをしなかったんでしょう。 だから沢山出来たのに、甘味が足りなかったのね。」
と言い、ニコリと笑った。
果物の摘果は、一つの実に栄養が集まるように、沢山ある実から良さげな実を残して摘んでいくのだ。
また、実に日があたるように、多すぎる葉も摘んだり除けたり、と手を加えていくのだが、
本業の農家ではないので、自然に、成るがままにしておくと、実がたくさんできる代わりに味が落ちるのだった。
鳳翔が、
「さあ、晩御飯の用意をしないと」
といい、台所へと入っていった。
睦は手を洗い、自室へと入っていった。
睦は、単にランドセルを置いてきた、だけ。
すぐに鳳翔の後を追い、台所へと入っていった。
「睦ちゃん、お弁当箱、出してくれる? 洗うから。」
お弁当箱を鳳翔に渡して、
「はい、お弁当箱。 きれいにたべちゃったよ? 父さんのお弁当。」
「まあ。良かったわね。提督、喜ぶわよ。」
睦のお弁当箱を洗い、水切り台に置いた。
そこには、鳳翔の分が既においてあった。
「あ、鳳翔さんも今日はお弁当だったの?」
「ええ。 提督の、手作りお弁当でしたよ。」
「どうだった? 父さんのお弁当。」
「そうね。 男の人が作るお弁当にしては、出来は良かったと思うわよ。 ただ、塩気が強かったかしら。」
「やっぱり、そう思うよね。 今日はちょっと塩気が、ね。」
二人で、秦の弁当にダメ出しをしていた。
そのころ・・・
「へっくしょん!!」
「あれ? 楠木さん、風邪ですか? うつすのは止めてくださいよ~。」
「いや、風邪はひいていないけど・・・ 誰かが悪口でも言ってんのかな?」
と、ダメを出されて事には気づいていない秦だった。
「今日のお夕飯は、ハンバーグでいいかしら?」
「うん!! やったぁ!」
「え~っと、材料はっと・・・。 あら、これがあるじゃない。だったら、煮込みにしましょうか。」
「え? 煮込みハンバーグ?」
「ええ。 この缶詰めのデミグラスソースを使って、ね。」
(冷蔵庫に、合挽のお肉があったわね。これと、玉ねぎ・・・ね。 それと野菜は・・・定番で人参、ブロッコリーはないから、ロマネコンティで代用ね。あ、マッシュルームもあったわ。)
(調味料はっと。 塩、胡椒、ナツメグ・・・ケチャップ、ウスターソース・・・こんなもんかしら。)
「まずは、お米を5合くらいでいいかしら。これを砥いで、炊飯器にセットして・・・よし。」
ハンバーグのタネだ。
玉ねぎ半分をみじん切りにして、鍋に油をひいて炒める。
焦げないように炒め、キツネ色になったら取り出す。
ボールに合挽き肉を入れ、塩、胡椒を入れて、香り付けのナツメグを入れて、手早く混ぜる。
手にお肉がつかないようにオリーブオイルを塗る。
あらかた混ざったら、成形だ。
タネを手に取って小判形に形を整えるが、素早く、両手でキャッチボールみたいにして空気を抜く。
鳳翔の手は小さいので、一人2つとなるような小さ目のタネになっていく。
(手が小さいと、数を作るので大変ね。)
3人分で6つのタネが出来た。
次に、人参、ロマネコンティを茹でる。
茹でる間に、マッシュルームをスライスする。
スライスしたマッシュルームも一緒に茹でる。
人参に火が通ったころに、火から外し、ザルにうつす。
デミグラスソースの缶を開け、鍋に入れる。
鍋を火にかけ、コク出しに、ケチャップ、ウスターソースを少量入れ、混ぜ合わせる。
(すでに出来上がっているソースだけど、ちゃんと味を調えないと・・・)
一度味見をして、塩を振って味を調える。
鍋の火を止めて、次はタネを焼く。
フライパンに油をひいて、片面から。
まずは焦げ目が付くまで焼いて、裏返す。
裏面も焦げ目が付くまで焼く。
オーブンで中まで火を通したいが、オーブンは無いので蓋をして蒸し焼きにする。
(こんなものかしらね。)
焼けた頃合いを見て、火からおろし、デミグラスソースの鍋に投入する。
マッシュルームも一緒に入れてしまう。
しばし煮込めば完成、だが、秦がまだ帰ってこないので、調理はここで小休止となる。
あとは、サラダだ。
サラダは、レタスを敷き、キャベツの細切、玉ねぎのスライスを載せて、トマトを8等分して載せている。
あとは、食べる直前にドレッシングを掛ければOKだ。
ここまで来て、睦と鳳翔は居間でテレビを見て過ごしていた。
今、睦は鳳翔の膝を枕にしている。
そう。寝ているのだ。
小さく肩が上下する。
軽い寝息をしながら。
その頭を鳳翔は、目を細めながら、優しく睦の頭を撫でていた。
(今日も、散々、遊んだのね。)と。
時刻が19時になろうとしていたとき、秦が帰ってきた。
「ただいま。」
と言って居間に入ってきた。
小声で、
「あ、お帰りなさい。提督。」
と。
秦も同じく、小声で
「どうした?」と。
鳳翔が膝の上の睦を指さす。
(あ、なるほど。)
秦は睦の前に、座った。
「気持ちよさそうに、寝ちゃって。」
「もう少し、待っててください。 お夕飯の用意は出来てますから。」
「鳳翔さん。」
秦が改めて鳳翔を見た。
「はい?」
「ありがとうね。 睦の事も、家の事も。」
「いえ。 そんなことはありません。 私も楽しくてやっている事ですから。」
「そう言ってくれると、余計にありがとうと思うよ。」
「提督・・・。」
秦は鳳翔を、鳳翔は秦を見ていた。
無言の時間であったが、二人の頬が次第に赤くなっていくのが、分かった。
「う、、うん、、、ふわああああ・・・ あれ? 私、寝ちゃったの?」
睦がようやく目を覚ました。 睦の目の前には、にこやかにほほ笑む秦と鳳翔の顔があった。
(父さん・・母さん・・みたい・・・)
「よく、オネムでしたよ。」
「起きたか? ご飯にしよう。」
「うん。」
そう言って3人での夕食が始まる。
今日のメニューは煮込みハンバーグだ。
調理の最後は、デミグラスソースをひと煮立ちさせて完成だ。
一人ずつハンバーグを取り分けていく。
付け合わせの野菜を載せて。
三人は今日あったことを話ながら箸を進めていく。
賑やかな話声が外に聞こえるくらいであった。