真・恋姫†無双~日の本の恋姫~   作:ゲーター

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スプラトゥーン2が出るので初投稿です
緑チームも真夏の夜のインクも最終回迎えて涙がで、出ますよ

……タグマ? 知らない子ですね。
    
  


君臣

 

 青州の鎮定は特段の問題も無く進んだ。流石に黄巾党の数こそ多いが、その殆どは碌に戦闘経験も無い食い詰め農民。要は戦の素人、烏合の衆に過ぎない。最初期から張角に付き従う信徒達の中には、多少の訓練を受け「方」と言う軍団を組織している者達もいるらしいが──悲しいかな、多くの兵と、幾許かの指揮官が居たところで、兵法のへの字も知らぬ無学の徒。よほどの武人でもいない限りは、訓練を受け、あの大乱と韓での戦争を乗り越えた大和の軍隊が負ける道理は無いのであった。

 戦いと言うよりは正しく「鎮圧」という表現が相応しい過程を終え、一行はひとまずの安定を見た青州を離れることにした。菫と柳毅翁には負担をかけることになるが、二人の内政手腕は確かである。幸い青州の最有力者孔融も協力的であるし、あの人好きのする少年を老練な人物達が支えてくれれば、青州の治世は安泰であろう。……単純に激増した政務を別にすれば。

 

 馬首を西にし、目指すは兗州、州都陳留。漢の洛陽にも近い大都市である。

 ここで一行に村娘のような無邪気さでもあれば、まだ見ぬ城下に少々大人気なくはしゃいでみたりしたかもしれない。しかし、そんな可愛げなどを持ち合わせた者は無く。誰もが常と変わらぬ整然とした歩みを進めていた。──総大将御身を除いて。

 

 ふぅ、と溜め息。それはらしくない主の姿に呆れてのものと、都合十何度目かの、悩ましげな乙女の吐息が重なっていた。

 額に手をやり、さらに大きく、はぁ、と溜め息を吐き直し。横目に主君の姿を盗み見る。何故かは知らないが、我等が主は彼の地の刺史に並々ならぬ思いを抱いているらしい。恋に恋するタチでもあるまいに、初恋の男性(ひと)を思い浮かべる世間知らずのお嬢様もかくや、その名を口にする時は決まって口角を吊り上げるのだった。

 

「曹操──」

 

 こんな具合に。

 

「……兗州殿が、そんなに気になるのですか」

「勿論。都の魔物どもにも臆さず法を遵守して、疎まれ左遷された先でも太守からあっという間に刺史に登り詰めた。優しく正しく誇り高い、その内政手腕も確かなものだ。戦も上手いし学もある、おまけに外見も良いときた。本当、まさしく英雄だよ、彼女は」

「……左様で」

 

 何回目かの一人言に堪えかね、質問を投げかけた難升米に返ってきたのは、過剰とも言える程の賛辞の言葉。しまった、藪蛇か──と内心舌打ちをし、それ以上の面倒を避けようとぞんざいな返事をする。自分から訊ねておいて随分な態度であるが、それすら主は気にならないようであった。

 

 確かに、主の言う通り曹操という人物は中々優秀であるらしい。清廉にして勇敢、悪を誅し義を通すとは越境して初めて出会った村人の言である。始め陳留太守としてやってきた曹操が刺史を務め州全域を治めるようになってから、苛斂誅求は途絶え匪賊も減り、目に見えて暮らし向きが良くなったと絶讃していた。まだ話し足りなさそうな村人を撒いて進んだ先でも、曹操の人気は凄まじく、事実彼等の身なりは青州の民のそれより幾分か上等なものであった。

 

 ──しかし、英雄とは。

 

 確かに曹操は評判が良い。そう、所詮「評判が良い」程度でしかないのだ。新進気鋭と言えば聞こえが良いが、つまるところ経歴がそれほど長くない、要は若造。家柄も宦官の孫ということで、宦官を嫌う人間からすれば田舎の貧民出身の方がマシな部類だ。成してきたことも美談であるのに違いはないが、そこまで取り立てて稀有と言うほどでもない。 それに比べて、例えば北海の孔融などはずば抜けている。煌びやかな経歴と実績が有り、家柄は中華で一、二を争う名門の出。当然評判すこぶる良く、中華の名士で知らぬ者はないと言って過言ではない。その孔融にしてみれば、曹操など歯牙にもかけぬ小童であろう。

 

 主は孔融も評価していた。情けない支配者層の多い青州の良心だと言い、難升米も狗古智卑狗も卑弥狗呼も、皆満場一致で同意したものだ。

 けれど、そこまで。主は遼東に居た頃から耳にした孔融より、青州に渡ってから聞いた、彼より遥かに名声の低い曹操を高く買っている。まるでその人と為をよくよく知っているかの様に、まるで心酔した人物を讃えるように。或いは懸想した相手への睦言にも思える無償の賛辞。難升米は、主がこれほど賞賛する人間は知らなかったし、これから先居ないだろうとも思った。

 

 主が英雄と断言した曹操のことは、まだよく分からない。本人を見たことも無いのだから当たり前だが、例え見たとしても、はたしてそこまでの人物と感じるか。難升米は信じきれなかった。少なくとも今の時点では、自らの主君ほど英雄という呼び名に相応しい人間を知らないのだから。 

 

 思い返せば、主君のなんと俊英たることか!

 今や、遼東以東で豊鍬入姫の名を知らぬ者は無い。倭の統一、辰韓の征伐、三韓の臣従、遼東との関係構築。曹操が刺史となってから兗州が栄えたように、主が国政に携わってから大和は未曽有の大繁栄を遂げた。単なる東夷の一国に過ぎなかったのが、今や東夷諸国の盟主である。

 神の叡智、と本人は言う、革新的な知識の数々により民は潤い、兵は強く、国は発展した。遼東に渡ってからも、領主の子息と真名を交わし、親友として城下を歩く姿は遼東の民に好意的に受け入れられている。

 

 国を盛り立て、版図を広げ、強大な勢力とも結んだ。今や大和の国力は昔の比ではない。大国漢にこそ届かぬまでも、中華周域ではまず間違い無く二番手に着けている。ここまで国に報いたのだ。これを英雄と言わずして何と言う? 

 漢と大和。そこには確かな差があれども、現状為政者として実績があるのは曹操ではなく主の方の筈である。一国の姫ともなれば漢も無碍にはできないだろうし、もしも主が漢に仕官していれば、出自故位官こそ低くとも朝廷重鎮の懐刀として辣腕を振るっていたに違いないのだ。更にそこから長い年月を経て、大和における難升米の一族と同じように、漢で名氏豊鍬の祖となったとしても不思議ではない。

 その主がこんなにも高く買う相手──見定めねばならない。本当にそこまでの人物なのかを。そして主の見立て通りの英雄ならば、なんとしても良い関係を築かねばならない。そう命じられている。それが、臣たる者の役割なのだから。

 

 

 

 

 兗州入りしてからそれなりの日数を経た。補給も青州からでは難しくなりつつあるが、予め近隣の村に走らせた早馬には、孔融に頼んで刺史焦和に書かせた証書と幾許かの金子を持たせてある。そればかりで補給全てが賄える訳ではないにしろ、穏便に現地調達ができるのは貴重なことである。

 

 兵力を頼んで徴収するのが半ば公然と行われる方法でも、それを踏襲しては高潔な人物らしい曹操の心証を悪くすることは間違いない。領民の側も曹操に泣きつく可能性もあり、同格の刺史の権威で交渉を纏められるのは僥倖であった。 

 とは言え、どんな権威も金品も、それだけでは食えない。その食えないものにあっさりと物資を提供できる兗州の村の豊かさは、曹操が領地の隅々まで富とその徳を満たしている何よりの証左である。青州から離れ補給線が伸びるほど──曹操の居る陳留に近付くほど、届く荷駄が乏しくなる代わりに現地から受け取れる物資が増え、差引としては変わりない。まるで、近付くほどに曹操の徳の匂いが強くなっていくかのようであった。

 

 主のあまりの賞賛ぶりに疑わしげだった難升米達も、進むほどに曹操の内政手腕の高さは認めざるを得なくなってきた。地理的条件や足手纏いの数といった違いがあるにせよ、州全域で孔融の治める北海郡と同程度の生活ができているのは素直に称えるべきである。そんな様子を見て、主は実に満足げであった。

 

「ほら、言った通りだろう?孟徳殿は凄いお方だよ。刺史になってまだ日も浅いのに、もうこんなにも領が治まってる。さっきの小さな邑にも視察に来たって言うし、ここまで使命感に満ちた為政者はそうはいないよ」

「確かに、大したものだな。漢など腐り落ちる寸前と思っていたが、なかなかどうして、有能な者が残っている」

「道すがらまともに糧食が手に入るだけでも大助かりのところを、まさか酒まで出せるほどとはな。……癪だが、今回は貴様の言う方が正しかったようだ」

 

 壱与の言に難升米を除く二人が同調する。狗古智卑狗などは馬上にも関わらず、昨日小規模な賊を討った礼にと邑の人間から振る舞われた酒をまた飲んでいる。いつも携帯している大和のそれには及ばずとも、補充しにくい遠征中の代替品には丁度良いと、言葉とは裏腹にかなり上機嫌であった。

 ……絆されるのが早くないだろうか。

 

 一人だけ静かに意地を張る自分を主が見ていた。少しだけ吊りあがった口角には、にやにやしたものが明らかに含まれている。……一国の姫としてあまりよろしくない表情である。これは臣下として正さなければなるまい。人の上に立つものとしてより相応しい様が身に付くよう、今度の演説はもっと長く立派なものにしてお作り申し上げねば。

 

「……何か悪いこと考えてない?」

 

 滅相もない。

 

 

「おい、あれを見て見ろ」

 

 今日何度目かの杯を傾けていた狗古が、胡乱な目で彼方を睨んだ。

 

「土煙だな」

「ふむ、戦闘でしょうか?」

「あの規模だと、まあそうだろうね」

 

 何かがこの先で戦っている。陳留も間近な場所だ。間違いなく曹操の軍だろう。だが、ここまで本拠地に近い所で戦闘とは何なのか。

 不穏な気配を感じる。

 

「敵は黄巾だろうが、何故このような場所で接敵した?恩恵の受けにくい寒村ならともかく、ここは曹操が太守の頃からの領地。今更曹操の統治から蜂起する輩など居るまいに」

「討伐を逃れ山野に潜伏した者達が居たのやも知れませんが……。それでも郡の端まで討伐を行っている傍ら、目と鼻の先に今まで隠れていられたとしたら相当な事態です」

 

 黄巾は決して猟師の集団ではない。人間からしか補給の術を持たない軍事集団が人の生活圏を離れ、野山でその勢力を維持するのは難しい。食糧などを手に入れるため、必ず人里に降りる必要がある。

 しかし、そうすれば自らの存在を周囲に示してしまう。一人二人ならいざ知らず、少なくとも数百人の人間が兵士の山狩りから逃げおおせるとは考え難かった。

 

「まさか目先の脅威を捨て置いていた訳も無いだろうしな。いくら弱卒とは言え不用心過ぎる」

「……もしかしたら、他郡からの新手かも知れない。陳留は東以外の三方を他郡に囲まれてるから、余所で討伐から逃れた集団が流入してる可能性はある」   

 

 段々と翳りの見え始めた黄巾達。各地で敗退を続ける中の一派が、追っ手を逃れて郡を跨いだというのは、確かに納得できるものだった。むしろ、曹操ほどの人物が敵を見落としていたと考えるよりは余程現実的だ。

 

 まあ、何よりも。

 

「これは僥倖です。戦であれば恩を売る機会も有りましょう、これは兗州殿に我々の価値を認識させる良い機会です。急ぎ戦場に赴き、所領の治安維持に一役買ってみせるべきと愚考致します」

 

 敵の出自などどうでも良い。重要なのは、戦場での援軍という位置に自軍が立てること、これに尽きる。道すがら討ってきた賊を手土産に、ここでもう一つ、大きな手札を獲れる。

 結果的に、大きなお世話になったとしても構わない。無論本当の助けになった方が恩は売れるが、そうでなくとも、味方という一歩進んだ関係から始められるのは大きい。人間のできた曹操のことだ。一応手助けをしてきた相手を無碍にすることはできないだろう。

 柔和な表情を仄かに上気させ、謀を巡らす難升米。既に戦の後どうやって曹操から利を引き出すかを考えている彼を見て、はぁ、と主君は溜め息を吐いたのだった。

 

 

 

 




 執筆のペース落としちゃった!許さんぞって兄貴達は作者失踪には気を付けよう!(YUSK注意喚起)
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