落第騎士の英雄譚 破軍剣客浪漫譚「本編完結」   作:どこかのシャルロッ党

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第三十一幕「刃鳴散らす Ⅱ」

 

 

――――ボクは勝たなくちゃいけないんだ。ボクと父さんの

居場所を取り戻したい・・・だから黒鉄君・・・ボクにも守るものがある――

 

 

だからこそ相手を斬らないといけない。迷いや邪念を振り払って

絢瀬は一輝に襲い掛かる。《緋爪》の能力のお陰で一輝の傷はかなり

開いており、出血している。彼の伐刀絶技『一刀修羅』を出される前に

絢瀬は仕留める勢いで刃を降り下ろす。

 

「・・・ッ!」

 

「くっ!?」

 

しかしギリギリで一輝が陰鉄で彼女の刃を受け止めて、体勢を立て直す。

そこから互いにタイミングを見計らいながら攻防を繰り広げる。刃と刃、

何度もぶつかり合う陰鉄と緋爪。先に一手を取ったのは絢瀬・・・・・・緋爪の

刃が一輝に再び襲い掛かる。だが間一髪、柄で剣撃を防御する一輝。

 

「やっぱり綾辻さんは・・・僕が思っていた通りの人だ」

 

「・・・・・何を言ってるの?」

 

「(やっぱり、黒鉄君は優しいのね・・・)」

 

実況席に居る折木有里は、微笑みながら先程のことを思い出していた。

試合が始まる数時間前に有里は一輝から絢瀬のことを聞いていた。

恐らく今回の試合で綾辻絢瀬は間違いなく反則を使って来ると翔真が

予測していた。一輝はそれを聞いて今回の試合でも翔真を苦しめた

かまいたちのような斬撃を出してくるだろうと考え、有里に話した。

有里は直ちに試合を中止すべきと反対したが一輝にはどうしても

この試合で確かめたいことがあった。

 

「(助けてあげて・・・・・貴方の大切な友達を)」

 

「綾辻さんは間違ったことをして、平然といられるような人じゃない」

 

「突然・・・何を言い出すのかと思えば・・・君は知ってるはずだよ?

ボクが綾崎君をあんなにズタボロにしたんだよ?、よくも世迷い言を・・・」

 

「世迷い言なんかじゃない。太刀筋も踏み込みも・・・何もかもが

滅茶苦茶だ。僕が教えたことはおろか、元々できていたことすら出来てない。

どれだけ悪ぶった自分を装おっても魂は欺けない。心が迷っている剣に本当の

力なんて宿らないんだ・・・綾辻さん」

 

「何を・・・言って・・・」

 

「綾辻さんは・・・綾辻さん本人が思っている以上に誇り高い人だよ」

 

「そんなことないッ!!!・・・ボクは二年前に思い知らされたんだ!

どれだけ誇り高く戦ったところで、負ければ全部台無しなんだよ!

だったら・・・何をしても勝つ・・・取り戻さないといけないんだ!ボクは!」

 

どれだけ自分を悪くしようとしても、彼女は何処かに迷いがある。

必死に自分自身に言い聞かせる言葉には自分の心の悲鳴に耳を

閉ざしているように見える。一輝はそれを悟り、ある決意を固める。

 

「綾辻さんの気持ちはよく分かった。なら・・・僕は本気で行くよ。

僕の最弱を似て、貴女の誇りを取り戻す!!・・・・・一刀修羅」

 

「・・・!?」

 

即座に緋爪を振るう絢瀬。しかし全てを見切られ交わされてゆく。

恐れていた黒鉄一輝の伐刀絶技『一刀修羅』。次第に彼女は焦りを

見せてゆく。全ての剣撃が交わされ、追い詰められる。

 

「(ボクは・・・・・・負けられないッ!)」

 

「・・・!」

 

「(今のは!?)」

 

一刀修羅の影響なのか・・・速さによる残像が翔真達の姿を作り出す。

翔真、ステラ、明日菜、由紀江の幻。その幻は一つとなり、一輝は

空高くジャンプした。そして―――――

 

「第四秘剣――――蜃気狼」

 

静かにそう呟くと同時に、絢瀬に刃を降り下ろした。衝動により

力が抜けた絢瀬は場に座り込んだ。この瞬間試合の勝者は一輝となる。

歓声が沸くなかで、ゆっくりと彼女に近付く一輝。

 

「あははは・・・あんなに強気なこと言っておいて負けるなんて・・・

無様だよね・・・さあ黒鉄君、ボクを斬ってよ・・・もう・・・」

 

「斬らなくても綾辻さんは・・・もう戦えないから」

「バカにして・・・ッ!?」

 

立ち上がろうとしたが力が入らず、そのまま場に倒れ込む。

 

「そんな・・・・・・」

 

「綾辻さん。翔真からは一部しか聞いてないけど僕は貴方を助けたい。

迷惑かもしれない・・・けど、僕は苦しんでいる綾辻さんを助けたいんだ」

 

「なんで・・・なんでそんなこと・・・言うの?僕は君の友達に散々

酷いことしたんだよ!?なのに・・・ボクは・・・・!」

 

「力だけを求めても何かが見える訳じゃないんだ。もしそれが

見つからないなら一緒に探そうよ。そして一緒に道場を取り戻そう。

貴女は一人じゃない、僕やステラ、翔真達がいるよ。僕達は仲間でしょ?」

 

「ッ!・・・うわあああああ!!!!」

 

一人だと思い込んでいた。しかし、どんなことをしようが一輝達は

自分のことを仲間だと思っていたくれたことに絢瀬は涙を流した。

綾辻絢瀬――今回の試合で、大切なことを一輝から教わった。

 

 

 

 

 

 

 


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