落第騎士の英雄譚 破軍剣客浪漫譚〘本編完結〙 作:どこかの超電磁砲
「・・・・酷すぎる・・・・」
この数分間、ステラは一輝の過去が壮絶なものであった事に驚きを隠せない。
「・・・・日本を導いたサムライ・リョウマの家からFランクなんて
出してしまえば家名に傷が付く、それを嫌がった黒鉄家は学園に
圧力を掛けた。そして前の理事長がとった策。実戦教科を受講する
最低水準をわざわざ作り黒鉄が授業を受けられないようにした」
「ッ!」
「当然ながら単位が足りない黒鉄は留年する事になったのさ」
「酷い・・・・それが親の・・・・教師のすることなの!?」
「もちろん私はそんな事は許さん!着任した際にその手のクズは
一掃した・・・だが、そんな事しても黒鉄の一年が返って来るわけでもない」
黒乃は一息つく。例え何処へ逃げようとも黒鉄家という呪縛から
逃れられない一輝。それでも黒鉄一輝は諦めなかったのだ。
落ちこぼれと指をさされても自分の価値を信じて道を歩む。
そうした状況の中で、一輝は鍛練を欠かさず一刀修羅を作り上げた。
悲惨な過去を聞き、ステラは下に俯く。自分とは違う育ちであり、
差別され続けても自分の価値を信じて道を歩いた一輝の存在が
次第に気になってゆく。
「一体何が、アイツにそこまでさせるの?」
「さあな。ヴァーミリオン、今朝私がした質問を覚えているか?」
「はい。なぜ留学してきたのか・・・・それは
あの国にいると上を目指せなくなるからです」
ステラの留学。ヨーロッパの小国、故郷であるヴァーミリオン皇国にいた頃、
伐刃者として能力が高かった彼女は周囲から天才と持ち上げられていた。
そして次第にステラは気付いたのだ。心の中で天才と持ち上げられ
舞い上がってる自分がいた。だからこそ、ステラは決意したのだ。
この皇国で上を目指すのではなく、破軍学園で、己を鍛えてもっと
上を目指す為に。
「ヴァーミリオン、気になるなら全力で追いかけてみろ。
あの男の事を自分の目で確かめてみるのも悪くない」
黒乃はそれを言い残し部屋を出た。
「クロガネ・・・・イッキ」
誰もいないことを確認すると、ステラはベッドで寝ている一輝の側に近付く。
「(男の人の背中って・・・・凄く大きいんだ)」
こちらに背中を向けて眠っている一輝。ステラはその背中に魅力されていた。
だが次の瞬間、一輝はこちら側にいるステラの方に姿勢を変えた。
Tシャツからでも分かる、鍛えられた胸板と腹筋がステラをさらに
虜にしていく。しかも先程戦っていた一輝の身体である。
「(少しだけ・・・・少しだけならいいわよね?)」
興味を抱いたステラは触りたい衝動に駆られる。今まで
異性と関わりがなかったステラにとって一輝は興味の対象になった。
寝ている彼の腹の下に股がり、一輝が寝ているか確認する。
「(本当に起きないわね・・・・)」
確認しながらチラっと見える腹筋を指でなぞるように触る。
「(これが男の人の身体!ひゃ・・・・)」
触った事により息が次第に荒くなる。そして気付かずに胸板に手がいっていた。
「すごい・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・別に、エッチな事している訳じゃ・・・・
ないのに、ハァ、ハァ・・・・どうしたんだろ・・・・アタシ」
「いや・・・・それは僕が聞きたいかな」
「え・・・・」
「あはは・・・・」
「「・・・・」」
盛り上がっていたステラは一輝が起きていた事に気付いてなかった。
急いでベッドから降りようとしたが二段ベッドだった為に下へ落ちる。
「ふにゃ!?」
「ちょ!ステラさーん!?」
「ご、ごめんなさい・・・・下にあったトマトジュースをぶちまけちゃったみたいなの!」
「違う違う違う!!それはステラさんの中のトマトジュース(血)だから!」
―――――
「はい。これで出来上がり」
「あ、ありがとう。上手いのね」
「まあね。一人暮らしが長かったから」
怪我をした額にちょっとした治療を施し、絆創膏を貼る一輝。
「ごめんなさい」
「え・・・・?」
「アタシのことを枠にはめる人達を軽蔑しながらアタシ自身は、
アンタを枠にはめてた・・・・見ようともせず・・・・今回はアタシの完敗よイッキ」
己の犯したミスを反省しステラは一輝にそう告げた。それを聞いた
一輝は自然と笑みを浮かべステラの方に振り向いた。
「じゃあ、ステラさんは僕の下僕っていうことでいいんだよね?」
「え・・・・」
「確か翔真が出した提案で、負けた方は一生服従、並びに
下僕っていう案をステラさんは言ってなかった?」
つまり、一輝は今回の模擬戦で勝利を納めた。
ステラは負けた為、提案通り言うことを聞かなければならない
「ギク・・・・あ、あれは!言葉の間違い・・・・」
「言う事聞いてくれるんだよね」
あたふたするステラに、笑みを崩さない一輝。
「ヴァーミリオンの皇族は、約束も守れないのかな?」
「うぅ~・・・・わ、分かったわよッ!!いいじゃない!約束守ってやるわよ!
え、え、エッチな命令聞かせればいいじゃない!バカ!変態!スケベ!ふん!」
何か勘違いしているステラ。一輝は様子を見て笑いを堪えながらも口を開いた。
「じゃあステラさん・・・・・・・僕とルームメイトになってください。
もっとステラさんと仲良くなりたい」
「な、仲良くって!・・・・み、未婚の女性にそんな・・・・」
「やっぱりダメかな?男と同じ部屋だし。も、もう一回理事長に・・・『いいわよ』え?」
「いいって言ってるの!た、ただ命令であって・・・・仕方なく!なんだからね」
「そっか。じゃあ宜しく」
一輝は手を差し伸べる。
「アタシの事はステラでいいわよ。よろしくねイッキ」
「こちらこそ・・・・ステラ」
部屋の窓から差し込む夕日の光――二人は互いに笑みを浮かべて拳を重ねた。