この話も引き続き、以前のままとなりますので、再読までしたくないという方はこのままバックをお願いします。
「何で……死ぬと分かっていて、俺を育てたんだろう?」
鯉繋のもらした言葉に淡島は応えられなかった。
その問いの応えは、簡単なようで難しいもの。
古今東西、妖怪も人も関係なく、与え……授かるもの。
しかし鯉繋に、嘗て彼の母の死に際を聞かされた事のある淡島には、簡単にそれを伝えることは出来なかった。
なぜなら……それを「愛」というには、あまりにも鯉繋がうけた痛みが強すぎるからだ。
「鯉繋……」
なんと応えればいいかも分からないまま、会話を止めることだけはしてはならないと、淡島は言葉を探した。会話を止めて一人で考え込めば、今までの経験上、鯉繋の思考は堂々巡りを繰り返して尚更土壺にはまるだろう。
無意識とはいえ相談をしようと酒まで飲んで頼られた手前、淡島とてそんな結果で終わりにしたいとは思えない。
かといって、どう返せば分からないからこそ、口の開閉を繰り返していた淡島はボスリと肩に重みが加わったことに気づき……恐る恐る顔を上げてその肩を枕に寝息をたてる、微かに笑みを浮かべた鯉繋の寝顔を見たときは、力なく肩を落としていた。
「助かった……って、言うべきなんか?これ……」
相談を持ちかけておいて寝るなといいたい所もあるが、酔っぱらいにそれを求めるほど空しいこともないかもしれない。
はぁと、再びこぼすため息を聞く者は皆無だ。その一挙のみで気を取り直した淡島は、さてと、鯉繋に改めて目を向ける。
「どうするかなぁ?」
呑気に寝息をたてる子供の寝顔に、淡島は次いで途方に暮れる。いくら勝手に酔っていたとはいえ、薄着で眠りこける妖怪を野外に置き去りというのはあまりほめられる行動ではない。
妖怪なのだから放置しても風邪をひくことは無いだろうが、グチグチと文句くらいは言うかも知れない。
(いや……それをやるとしたら冷麗くらいか)
黒い笑みを浮かべながら、畏れを解き放つ姿まで容易く想像できてしまい、淡島は乾いた笑みをこぼした。
声をたてずにくくっと笑った拍子に、体にぞわっと悪寒が走る。クシュッと、鼻を鳴らした淡島は……ようやくそれが、畏れの発動であったことに気付いた。
「随分と罪作りじゃのう。男だけでなく女さえも骨抜きにしておるとは」
傍らから聞こえた声。それは、聞き覚えの無い……知らない声で。敵かと咄嗟に身構えようとした体を、軽く押さえつけられてようやく、淡島はその襲撃者の姿を眼に映した。
「静かにせんか。起きちまうじゃろう?」
ふわりと浮き上がる長い髪。上半分が黒く、下半分が白い断層が1分の狂いも無く、根元から毛先まで続いているそれは、人ならばあり得ない髪色といえた。
しかし何より目を引きつけるのは……その容貌。その面影に目の前にいる子供を感じたのだ。その上僅かに釣り上がった眼が、鯉繋に向けるものは明らかに赤の他人に向けるものではない。
数刻前のイタクの様子。突然の鯉繋の酒の悪酔い。そして……淡島の知る鯉繋の複雑な家庭環境。
そこから淡島はある可能性にたどり着いた。
「まさか……あんたが「鯉伴様」か?」
「まさか……あんたが「鯉伴様」か?」
鯉繋の傍らにいた少女。それが発した問いは、いみじくも彼女が深く、鯉繋の根源に関わる問題を知っていることの証左となった。
「鯉伴様」。そう己の息子を呼んでいたのは、今も昔も息子が愛し、また息子に愛されたあの妖の女性だけだ。
他の者は総じて、二代目やら、総大将やらと他人行儀に呼ぶ。
近しい者は名で呼ぶこともあるが、そういう者達は呼び捨てにするのがほとんどだ。
そうでなくても、恭しい様付けが苦手な本家の妖怪は形を整えるとき以外は滅多に使うことはなかった。
「……もしそうだと言ったら、どうするんじゃい」
しばしの間を置いて、肯定ととりやすい言葉を敢えて放ったのは、まず面白そうだからだ。
ついで、鯉繋と距離が近いだろう相手の反応が見たかったのもある。そんなぬらりひょんの思惑は思ってもみない方法でかえされた。
前触れも無く薙刀が頬を掠めたのを認識して、ぬらりひょんはニヤリと悪戯小僧のような笑みを浮かべる。加減したとは言え、明鏡止水は使っていたというのに、それを難なく無効にした遠野妖怪のレベルの高さに思わず笑い出したくなる。
「褒めてやろう。良く儂に一撃入れたの」
飄々と続けた言葉に淡島は顔を歪める。
「わざと一拍遅れて動いていて、よく言うな!おっさんん」
薙刀の感触を確かめるように一振りして、改めて淡島はぬらりひょんに対峙する。
「悪いが、あんたが鯉伴様だってんなら、容赦しねぇ……!鯉繋に気づかれる前にここを出ていって貰う……!!」
その言葉に込められていた完全な拒絶にぬらりひょんは眉をひそめる。
考えていなかったわけではないが、それはあくまで鯉繋本人の反応としてだ。
あの鎌鼬の少年と言い、力こそすべてをうたい、仲間内でもあまり仲間意識をもたない遠野の地で、ここまで鯉繋に肩入れする者達がいることは少しばかり意外であった。
「遠野も随分変わったもんじゃな……それとも、あいつの畏れの一端かのぅ。妖怪を惑わせる術でも持っておるのか?」
茶化すように言ったぬらりひょんだが、その一言で相手が不機嫌になるのを容易に感じ取れた。
……そういえば嘗て大坂城にて、己の妻が同じ言葉を狐に言われていたなと、嫌な記憶まで思い出してしまい、ぬらりひょん自身も気分が悪くなる。
「そんなんじゃねぇよ」
苦笑に似た笑みをこぼして、淡島は目の動きだけで未だ眠っている鯉繋を見やる。
「気になるんなら止めるかい?儂はそれでも構わねぇが……」
気も漫ろな戦い程興の乗らないものはない。
鯉繋を気にする淡島の様子にその危惧を抱いて切り出したが、淡島は鋭い睥睨によって応えとした。
「こいつのことは気にする必要はねぇよ、あんたはな!ここでどんなに暴れたって……しこたま飲んだんだ。ちょっとやそっとじゃ起きねぇだろうさ」
刀を構えたままの淡島の体から、ぶわりと音が立つほどの畏れの放出を、ぬらりひょんは肌で感じた。
「だから……こっちも遠慮無くあんたをぶっ叩ける……!!」
そして笑った淡島にぬらりひょんも思わず笑みを浮かべた。
ぬらりひょん自身も、まだ若い相手に負けるつもりはなかった。
「あら……?」
それから数時間後。当番制の夜の見回りを行っていた冷麗はいつもの寝床に鯉繋がいないことに顔を曇らせた。
「あの子……まさか外で寝たんじゃないでしょうね」
思い返さなくても今日の鯉繋の様子がおかしかったのは覚えている。十中八九、赤河童様の客分であった彼の同族のせいだろう。
遠野妖怪は誰であろうと力に屈することはない。自身が望まない限りは引き渡される事など無いと分かっているのだから気にしなければ良いものだが、そこまで鯉繋はまだ図太くはなれないのだろう。
いつまでも成長しない弟弟子に溜息をこぼして、しかし現在の不在に僅かな危機感を抱く。
見たところ、寝床が乱れた様子がないのだ。もしかしたら、部屋を出てから1度もここへ戻ってきていないのかもしれない。
(あの子………生まれてから百年は経ってるってのに、まだ「寝るときは密閉した空間にいないと命にかかわる」ってこと、学習できないのかしら……!)
世話の焼ける弟子に再び溜息をこぼすと、鯉繋を探すため、冷麗は歩き出した。
そこに僅かな焦りが浮かんでいたことを、本人が気付けていたかどうかは定かではない。
遠野にいる若い衆の中でも、淡島、冷麗、鯉繋、イタクはやや特殊な生い立ちを持っている。
物心着いた時から遠野以外に故郷がないというのがそれだ。
正確には鯉繋は、物心着いたときはまだ母親と共にいたが、それこそ流浪の民のような生活で、郷里と呼べる安息の地などありはしなかったらしい。
母親が死んでからも、朧月夜によって遠野に導かれるまではいつ死んでもおかしくない状況だったと聞いている。
鯉繋は、滅多に自分の話をすることはない。特に命の危険にかかわったようなことはいつもぼかして話すのが常だった。
あいつの全てを理解できるなどと、傲慢なことは言う気はないけれど、父親を頼れなかったあいつがどれほど壮絶な人生を送らなければならなかったか、少しは分かるつもりだ。
「ちっせぇ頃から奴良組って大きな懐で、守られて、大事にされてきたあんたには解んねぇかもしれねぇけどな。あいつはここに来た当初、畏れで肉体を作るっていう、必要最低限のことしかできなかった……それがどういうことか、箱庭育ちのあんたに想像できるか!?」
薙刀と短刀が打ち合う音を聞きながら、淡島は問いかけるように言い放つが、答を聴く気は端からない。
彼の答えが如何あろうがすべては取り返しのつかない過去で……その経験は今も鯉繋の脳裏に刻みつけられているのだから。
(今更だ……なんで今更ここに来た!)
呼んだのは赤河童様で、責めるのはそちらの方が道理だとは解っていた。そして、彼が呼んだ理由も、解っているのだ。長い目で見れば同族である「ぬらりひょん」を呼ぶことは、鯉繋にとって間違いなくプラスに働くだろう。
鯉繋はいまだに、ぬらりひょんの能力をまともに使えない。四分の一しかない血の薄さも起因するだろうが、それ以上にあったことのないぬらりひょんと言う妖怪を理解できないというのが正しいのだろう。
(だから、会わせた!赤河童様のその決断は間違いじゃ無いかもしれない……!!でも……!!)
薙刀を力任せに震うも、風と遊ぶように、ぬらりひょんはひょいひょいと交わす。腐っても魑魅魍魎の主と呼ばれるだけのことはあると言うものだろう。
思うがままにいかない太刀筋にぎりっと唇をかみしめて、淡島はぬらりひょんを睨んだ。
(なんでよりによって……こいつなんだよ!!)
感情が揺れる。それだけは納得できそうも無かった。
気を高ぶらせている女は美しいと、この時ぬらりひょんは、場違いなことを考えていた。
鯉繋に大層気があるのだろう女妖怪は、どうやら鯉繋の父親が呼ばれたことに腹を立てているらしい。
(面白がってついた嘘がおかしな方向に働いたのぉ……)
面倒になった事態に己の責任と分かってはいるものの、終わる気配のないそれに嫌になる。
(訂正すれば済む話かもしれんが、この時点で信じてくれる可能性は……少ないじゃろうな)
一人そう納得して、さてどうすると、思考を巡らせる。時間が時間なだけに、偶然止めてくれる相手が出てくるという可能性は少ないだろう。
明日何も予定がないのなら朝まで打ち合っていても良いのだが、明日は朝から付き合えと、赤河童に頼まれていた。鯉繋に修行をつける時間が早いに越したことはないので、ぬらりひょんとしても願ったり叶ったりである。
彼が鯉繋に割ける時間はせいぜい一日から二日だ。それ以上はさすがに組のものを誤魔化しきれないだろうとぬらりひょんは踏んでいた。
(こうなりゃあ……逃げるが勝ちか?朝になりゃあ赤河童が説明するだろうし……!)
素早く方針を定め、逃げるために素早く使えそうなものが無いか思考を巡らせていく。見渡す限り木しかない景色は良くも悪くも開けていた。
期待していたわけではないものの、予想通りな風景に、ぬらりひょんは、溜息をついた。
「あまり……娘子に手荒なことはしたくないんじゃがのぅ……」
ぬらりひょんにとっては本心だったが、淡島にしてみれば、嘗められ、情けをかけられているとしか感じなかった。
怒りに目を染め、放出するばかりだった畏れが、一点に集中していく。
「女神の鬼發『戦乙女演舞』」
ふわりと、畏れが解放された瞬間、殺伐していた空気が変わる。雅な香りの花々。フワリフワリと、体を包み込む風が、戦場であるはずのここを、異なる場所と錯覚させそうになる。
「ほう……見事じゃのう」
解放された畏れを一心に向けられている筈のぬらりひょんには、全く慌てる素振りが無い。
未見の畏れに対して、身構えもしないのは、自信か、それとも淡島との経験の差か。
どちらにせよ、嘗められたものであった。
(余裕ぶっこいて居られるのも、今のうちだ……!!)
一撃でけりをつけることを決意し、淡島は一気に攻勢へ転じた。
「……なっ!?」
淡島の、女神の舞に目を眩んだ者は、誰でも動くことも適わず、ただそこに立っていることしか出来ないはずだった。
それであるにも関わらず、ぬらりひょんは、己の舞に紛れた薙刀の連擊に、合わせるように動き、受け流したのである。
「儂の明鏡止水と同じ、広域型の、牛鬼と同種の幻惑……いや、この場合は、魅惑と言うべきかのぅ」
しかもじっくりと観察した後、このような助言までしてくる程である。
「戦いの技においてだけで無く、もう少し日頃の所作でも女らしさを出したらどうじゃ?遠野の連中にとっても目の保養になるじゃろうに」
その内容は、余計な世話の何物でも無かったが。
「………このっ……クソ野郎!!!」
怒りで冷静さを欠いた淡島は、勢い余って、薙刀を手から何故落とした。
「……ん?」
「しまった……!?」
それが、ぬらりひょんの着ていた着物の裾を突き刺してしまい、一気にぬらりひょんが劣勢となる。
勝機を見いだした途端、淡島は早かった。女と侮られた怒り。子どもと嘗められた怒り。
やや、運に頼った結果となったが、それもまた実力と己に言い聞かせ、淡島は迷うこと無く拳を……獲物は薙刀一振りしかないので、不本意ながら……迷い事無く、ぶつけようとして……。
「あんたたち……何やってんのよ!!」
冷麗の怒声と共に、体半分を氷結させられた。
怒声と共に震われた強烈無比な一撃に、思わずぬらりひょんは本家にいる遠野出身の、容赦のかけらもない雪女を思い返した。
(雪女ってのは……どいつもこいつも皆こうなのかい?)
つい遠い目をしてしまうぬらりひょんに構うことなく、淡島は雪女に言いかかる。
「何のつもりだ!冷麗。邪魔すんじゃねぇ!!」
ぬらりひょんを鯉繋の父親と思っている淡島は、てっきり見回り当番の冷麗が、客分と、戦闘をしているという理由で、冷麗が止めに入ったのだと思ったのだ。
赤河童様がたとえ許したとしても、鯉繋の幼少期を知る分、淡島が彼の父親に向ける怒りは強い。
これ以上鯉繋と同じ空気を吸わせることも、我慢できないというのに、あまつさえ、無防備な寝顔まで見られて到底黙っていることは出なかった。
「何のつもり、ですって?……あなたこそどうなのよ!淡島!!」
ビクリと、思わず関係の無いはずのぬらりひょんまで背筋を伸ばしていた。
今この場の主導権が、冷麗に渡ったのが、確定した瞬間である。
「今の時間は、いつ?……日が変わる間際よ!間際っ!!」
その言葉は、ぬらりひょんからしたら、だから?としか言えないもの。しかし、いわれた淡島の方には、その意味が正確に伝わったのだろう。見る見るうちに顔は青ざめ、冷麗がふたたび口を開く前に、叫ぶように答えていた。
「木の上だ!鯉繋はいつもの場所にいる!!……早く連れてけ!!」
冷麗の行動は早かった。一瞬の内に畏れで己を雪に変え、その場から消える。
おそらく鯉繋のいたあの樹木へと向かっているのだろう。しかし、なぜあそこまで急ぐ必要があるのか。ぬらりひょんには分からないことだらけだった。
(単に怒るだけならあそこまで切羽詰まったような焦り方はしねぇ筈……何なんだ?一体)
首を傾げるぬらりひょんだったが、やはり解明しないが故に、直にこの場所にいる淡島へ問いかける。
……己が撒いた、厄介な嘘を、この時ばかりはすっかり忘れていた。
「てめぇ……本当に何も聞いてねぇんだな」
そこにあったのは、強い怒りと、悔しさ。
ぬらりひょんに勝てなかった悔しさと、彼を倒せなかった脆弱な己への怒りだろうか。
「聞いてない?」
気にかかった単語を繰り返すと、淡島はあぁと頷いて、ついで思い出したように変わる。
「あぁ……でも、あいつの話だと、確か産み落とされるまで、母親にも気づかれていなかったって話だし、しょうがねぇかもしれねぇな」
まるでこちらを嘲うかのような言葉に、ぬらりひょんは、僅かに目を眇めた。
あまり、コソコソと悪い噂をたてられるのは好きではない。無実無根なら更にだ。
「要領を得ないな。言いたいことがあるならはっきりと言え。……鯉繋の何を聞いてないって?!」
「……呪いだよ」
下半身を凍りづけにされているのも、影響していたのか、この時の淡島は、雪女以上に、冷徹な空気を纏っていた。
「あいつは、生まれながらに、京の狐からうけた呪いを持っている。あいつは……人の体を持たずに生まれてきた!」
その言葉を、純粋な妖怪であるぬらりひょんが、理解するには、コンマ数秒の間が必要だった。
半妖である鯉伴と、妖怪である乙女から生まれた、鯉繋は、その体の構成の4分の1は、人間の筈である。
(その4分の1を……持っていない?)
それがどういうことか、ぬらりひょんにはうまく理解できなかった。しかし続けて淡島は言葉を続ける。
「4分の3しか妖怪じゃねぇから、あいつは一日の4分の3しか妖怪じゃいられねぇ!一日の4分の1、日が変わってから最初の6時間、あいつは妖怪としての全てを失っちまうんだ」
吐き出すように言葉を投げる淡島に、ぬらりひょんは首を傾げる。一日の数時間、人間になる。それは血の混じるものなら、皆に平等に訪れる時間だろう。そこを責めてもしょうがないところだ。
(…ん?人間の体を持っていない)
……では妖怪の力が無くなったとき、どうなるのだろうか。
その答が、冷麗のあの切羽詰まった反応では無いのかと。
「単なる人間が、肉体無しで生きられるわけねぇの、分んだろ?」
「………っ!……だったら、何で今も生き続けてるんだ?鯉繋は一日一回死んでんのかい?」
ギロリと、射貫かんとばかりの殺気が宿った淡島の鋭い視線から、ぬらりひょんは目を背けなかった。
なぜならもし彼女が言ったとおりなら、これは正真正銘、己が受けるべき怒りの筈だからだ。その呪いはは、他ならぬ三百年前に羽衣狐を倒した己から、始まったものなのだから。
「死んでたまるかよ……!だから、鯉繋は妖怪の道を選んだんだ。幽霊の力を使うしか、生き残る道が無かったからっ……!」
そう。だからこそ、鯉繋は遠野に来た当初から、畏れで肉体を作ることが可能だった。
正確には肉体を作る“
“現身“は、畏れが使えなくなれば構成を維持できずに消滅するが、“憑依“は一度入ってしまえば、後は畏れを消費する事は無い。畏れが無くなれば、出ることが出来ないだけで、死なないわけでは無いのである。
「なのに、あんたらは……何も知らないのか……!」
淡島の声は、いっそ呪詛に近かったのだろう。僅かな動物さえ、弱々しく震えている。
「あんたらは!……何も!!」
その呪詛が終わるまで、ぬらりひょんは微動だにしなかった。
それしか、今のぬらりひょんには出来なかった。