圧倒的に幼馴染が強かったですね。
どうもありがとうございました。
ちなみになんですが。
自分が友達に初めて貸されたエロゲ―は“euphoria”ってやつでした。
……もうね、凄まじかったのと声優さん声枯れないのかなっていうエロとは無縁の心配を自分は感じた次第です。
つうか初めてやるゲームにこんなハードなモノ勧めるなと文句を言った気がします(笑)
あの日、修司がおかしくなってしまった日から水原家の日常は狂っていった。どうにか改善できないか、原因は何かと調べる沙希の努力を嘲笑うかのように、修司は段々とやつれ目に見えて真に笑うことがなくなっていた。沙希にとって優先すべきは修司の幸せ、そこに自分が居ればいい……自分の存在が修司を癒し、そして尽くしていくことが定めと考える沙希にとって今の現状はあってはならないことなのだ。
そう、あってはならない……そのはずなのに、沙希には現状を打開する方法が思いつかない。原因が分かっているならそれに対処することも可能になるというのに、その一切が全く分からないのだ。
「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」
原因が分からず前に進めない現状は焦りと苛立ちになって沙希を苛む。修司がやつれていると言ったが、それは沙希にも当てはまることだった。外出する時は化粧でいくらか隠しているものの、修司との関りがごっそり減ってからそういったことにも気を回す余裕さえない。まあしかし、それでも沙希が美少女然とした在り方を保てるのは彼女の持って生まれた美貌のおかげでもあるのだろう。
「兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん」
呪いの言葉のように囁いても愛しの兄は己を見てくれない、抱きしめてくれない……愛してくれない。挨拶をすれば返してくれるし、作ったご飯は食べてくれる。家族としての当たり障りない触れ合いはあるがそれだけだ。少し前までしていた恋人としての繋がりはもう失われていた。
ここまで変わってしまったのなら現状を受け入れた方が楽になれるのでは? そんな囁きが沙希の脳内に響くことがあるもののそれに耳を傾けることはない。何故なら明らかに現状がおかしいことに気づけているから。ここまで人が変わってしまうなんて何かしらの要因がない限りあり得ないからだ。修司に危害を加える者は居ない、己を狙う下種は排除した。沙希と修司の仲を引き裂く……その点における障害は沙希の目が届く範囲では既に存在しない。
「……ああもう! 全然分かんないわよ!!」
手に持った皿を思わず床に叩きつけそうになったが寸でのところで踏み止まった。苛立ちに身を任せ周りの物に当たるなんて野蛮な行為はできない。既にそのレベルを超えていることをいくつか仕出かしてはいるが、それでも物に当たるというのは沙希にとって越えてはいけない行為だった。
皿を置き少し深呼吸をしても苛立ちは収まらない、それでも少しは落ち着いた。改めてどうにかできないものかと考えようとした時、沙希に声を掛ける存在が居た――修司だ。
「沙希? 少し出かけてくるね」
「あ……うん。いってらっしゃい……兄さん」
問いかけではあったが、修司は沙希の目を見ることはしなかった。その行動に胸が締め付けられる苦しみを味わっても、沙希にはただ修司に対していってらっしゃいと言葉を返すことしかできなかった……修司に声を掛けられた嬉しさ、そんなものを感じることはなかった。
それでも、せめて見送りだけでもしよう……そう考えた沙希が玄関で靴を履いている修司の元に向かった時――それは一瞬現れた。
『兄さん、大丈夫だからね』
「っ!?」
本当に一瞬、刹那の一瞬だった。修司に纏わりつくように、黒い瘴気を纏ったソレがそう言葉を発したのだ。黒くモヤモヤとしたソレは人の形をしたような、或いはそうではない歪なモノにも見えはしたが……確かに一瞬、沙希はソレを目にしたのだ。
何だそれは、そう思ったら既にそれは消えており修司の元には何もない。今のは疲れた頭が見せた幻覚なのかとも考えたが、沙希はそれをただの幻覚と流すことはどうにもできなかったのだ。結局修司はそのまま出掛けてしまったが、沙希は今の光景を忘れることはできずすぐに外着を着て外に向かった。
沙希と修司の関係を表すように、冷えた風が沙希の体にぶつかる。
「……寒いな。今の時期、こんなに寒かったっけ」
半身のような存在が消えてしまった寂しさを紛らわせるように、沙希は修司の姿を追いかけるのだった。
気づかれないように、己の存在を悟られないように細心の注意を払いながら沙希は修司の後ろを歩いていた。修司が向かったのは近所の公園、こんなところで何をするのかと思った沙希はそこで信じられないモノを目撃した。
「修司さん!」
若い女の声が公園に響く。沙希が目にした光景、それは自分と同い年くらいの女が修司へと抱き着く瞬間だった。長い黒髪をなびかせながら修司の胸に飛び込んだその女は美しかった。凹凸のある体は男好きしそうで、修司に出会えたことを喜ぶその微笑みは愛らしかった。
その女は修司に抱き着き満面の笑みを浮かべているが、修司が覇気のない複雑な笑みをしていることは沙希にとっては少しだけ救いだった。それでも自分ではない女が愛する兄にベタベタとしている光景は殺意しか湧かないが……そこで沙希は首を傾げた――あんな女は知らないと。
修司の交友関係、特に女に関しては神経質なほどに調べ上げている沙希にとってこんな女は見たことがない。ここまで親し気なスキンシップをするのなら、絶対に沙希は兄の様子から気づけるはずなのだ。それなのに気づけなかった――まるで何もなかった場所から突然沸いて現れたような、そんな得体の知れない何かを沙希は感じた。
そして――。
「……っ!?」
その女の姿が一瞬ぶれて、見慣れた女の姿――つまり、己である水原沙希に見えたのだ。しかしその姿はひどいモノで、白い液体を全身に浴び男に媚びる薄汚い顔をしているようにも沙希には見えた。家の玄関で見た黒いモヤモヤとしたモノ、そして今見た光景……これを見間違いと流してはならないモノだと沙希は認識を改めるのだった。
それから暫く修司と女は話しをしていたが、修司がその場から離れることで二人の時間は終わったようだ。修司の姿がなくなるまで女はその後ろ姿をニコニコと眺めていたが、姿が見えなくなった頃にやっと女は修司とは違う方向へと歩き出した。
その瞬間、沙希は女の言葉を拾った。
「ふふ……兄さん本当に素敵。でも沙希を許してね? 私はもう……兄さんじゃ満足できない女だから」
兄さん、沙希、その言葉を聞いて沙希は全てを理解した――あの女は私だと。
荒唐無稽であり得ないことを沙希は思い浮かべたが、あながち間違ってはいないのかもしれないと沙希は女を尾行することにした。どうやら女は沙希に気づいておらず、そのまま鼻歌を歌いながら路地裏へと消えた。
こんな暗がりで何を……そう思った沙希の目に飛び込んできたのはある意味で予想通り、けれども進んで見たくはない光景だったのは言うまでもない。
さっきまで修司と笑い合っていた愛らしい笑みを浮かべた女が、周りを多くの男に取り囲まれ犯されている光景だったのだから。レイプ現場にも見えるが、女の浮かべている顔は与えられる快楽に悦んでおり嫌がっていない。寧ろ自分から進んで男のソレに手を伸ばし、己の下半身に咥えこんでいる姿から元々そういう目的だったのだと理解できる。
「しっかしエロい女だぜこいつは。ついさっきまで好きな男に会いに行ってたんじゃねえのかよ!」
「行ってましたぁ。でも……でも沙希は生まれ変わっても兄さんじゃ満足できないんですぅ……力強くて大きなソレじゃないと沙希は満足できないのぉぉぉ♡」
「生まれ変わったとかよく分からねえが、まあただでヤラしてくれるってんだから役得だよなぁ。おら、お前らも加われや!!」
「お願いします!! いっぱい、いっぱい私を犯してぇ♡」
薄汚い獣の乱交だと、沙希は冷めた目でそれを見つめていた。そして今なら良く見える――あの自分を沙希と言った女の周囲に漂う黒い瘴気に……修司の周りに漂っていたそれと同じものが。
やっぱりまだよく分からないが、それでも沙希の本能はそれが全ての原因だと答えを出した――故に。
「……消そうか」
やることは変わらない、いつも通り掃除をするだけだ。
女は恋に生きた人間だった。
愛する者とずっと一緒に生きたいと願う純粋な女だった。しかし、女に課せられた運命がその人生を捻じ曲げた。快楽を植え付けられ、犯されることに喜びを感じるようになった体は女の理性を溶かし男を求める。
ずっと与えられると信じていた快楽に縋りたくなり、愛する者を捨てた女を待っていたのはその縋ると決めた男からの“捨てる”という言葉だった。
愛する者を捨てるというある意味捨て身の行為を行った女にとって、その男の言葉と対応は女を自棄にさせるには十分だった。一時期は女は愛する者の元に戻ったが、やはり女は男を忘れることが出来なかったのだ。愛する者では満足できない体を鎮めるために、ありとあらゆる男を漁るようになった女……もうそこに愛しい繋がりなんて存在するはずもなく、愛する者は完全に女から離れることになったのだ。
その末に紆余曲折あり、女は生まれ変わった。しかし生まれ変わったと言っても、その体が男を求めることに変わりはなく、女自身も別にそれでいいと変えようとは思わなかった。
今度は上手くやれる。
愛する存在も快楽も、全て受け入れられるように上手く立ち回れる……そんな自信があった。しかし女にとって一つ誤算だったのは、この世界の自分は自分ではないということだ。
愛した存在を一途に想い続け、害になるだろう全ての障害を排せる強さを持った存在……そうとは思わなかった女の薄っぺらい自信がまさか破滅に向かうことになろうとは……流石に生まれ変わりを経験した女でさえも見通せなかった。
「……なんで……ここにいるの」
体を精液塗れにしている女は恐れた。目の前に立つ存在に。
「………………」
憎悪を滾らせた瞳、金色の長い髪を持った女は真っ直ぐに薄汚い女を見つめていた。その目はまるで家畜……否、それ如何に見下すかのような冷たい瞳だった。
ユラユラと幽鬼のようにゆっくりと、ゆっくりと歩く金髪の女の姿――それは薄汚い女にとって死神に見えたのは言うまでもないことだった。