思い付きのネタ集   作:詞(みょん)

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原作:いま♡りあ


あのプロデューサー、殺っていいっすかね。


水原穂波(愛原ほなみ)の場合1

 自分が転生したと気付いたのは、目の前で女の子が転げたのを見た時だ。

 

「痛い……うわあああああああんっ!!」

 

 俺もガキと言って差し支えない年齢だったが、その子も同じくらいの年齢だった。

 

(俺……転生してるぅ!?)

 

 転生……一度死んで生まれ変わった。

 それを理解して驚いたのはもちろんだし、まさかゲームやアニメ、小説なんかで語られていた転生を俺が経験するなんて……いや、むしろ現実世界を生きていた俺が転生という概念を経験したこと……それが本当に信じられなかったんだ。

 

「……って、こんなことしてる場合じゃねえ」

 

 目の前で泣いている女の子を放っておくことが出来ず、一旦転生したこと云々の考えを捨て去って助けに動いた。

 

「大丈夫か?」

「うわあああああああんっ!!」

 

 その子は、とても大きな声を上げて全く泣き止まない。

 派手に転げてしまったことで膝を擦り剥いて血が出ており、彼女のような幼い子供からすればこの痛みを我慢なんて出来ないんだろう。

 周りを見ても面倒そうな視線を向けるだけで近付くことをしない大人たちに呆れるが、それなら俺が助けないで誰が助けるんだと逆に背中を押された気分だ。

 

「ほら、大丈夫だから。まずは水で傷口を洗おう」

「……ふぇ?」

 

 綺麗な亜麻色の髪を撫でながら、そう声をかけた。

 女の子は突然のことにビクッと体を震わせたものの、俺へと視線を向けた。

 

「ちょっと持ち上げるよ」

「わわっ!?」

 

 年齢が同じくらいとは思ったけど、体の大きさは俺の方が上だ。

 だからすぐに女の子を抱えることが出来た――俗に言うお姫様抱っこだが、すぐ近くの水道がある場所まで運んでいく。

 

「……………」

「えっと……顔にゴミでも付いてる?」

 

 女の子は、呆然と俺を見つめていた。

 

(凄く顔立ちが整ってる子だな)

 

 幼いながらも、大きくなれば美人になることは約束されているだろう。

 こういう幼い子に欲情する大人も居るだろうが、生憎と俺にはロリコンというか幼い子供に対するそういう気はないので何も思うことはない。

 むしろジッと見つめられることに困惑してしまう。

 

「王子様……みたい」

「……………」

 

 王子様……そう言われて俺はきっと目を丸くしたはずだ。

 

「俺は……」

 

 王子様なんかじゃないだろうと、否定しようとして気付く――俺がある程度、自分という存在を受け入れていることに。

 転生したことを思い出したとはいえ、今の自分が自分ではないとは思わないし、むしろ不思議なくらいに俺は自分のことを受け入れることが出来ていたのだ。

 

(……そりゃそうだわな。転生したことは変わらないみたいだし、そうなるとこの世界が俺にとっての生きる世界……ここから逃げるにはたぶん、死ぬしかないんじゃねえか?)

 

 そんなのは……流石に嫌だからな。

 

「王子様か、ありがとな」

「っ……」

 

 なら俺はもう、今の俺として生きていくしかない。

 そう思ったらやけに今の体が自分に馴染み、魂そのものがこの体と一体化したのを感じた……だからなのか、女の子の瞳に映る俺はぶん殴りたくなるくらいに綺麗な笑顔を浮かべていやがった。

 

「泣き止んだな。よしよし」

「……うん」

 

 ……思った以上に物分かりの良い子だな。

 育ちの良さは服装から感じるし、穢れを知らない人ってのはこういう子のことを言うんだろう。

 

「痛い……でも、王子様が助けてくれたから」

「王子様は止めようか」

「じゃあ……お名前、なんて言うの?」

「……………」

 

 グイグイ来るが、これもまた幼い子供の特権というやつだろうか。

 

「咲夜って言うんだ」

「さくや……さく兄だ! 私はほなみ! 水原穂波って言うの!!」

「?? 穂波ちゃんか。可愛い名前だな」

「でしょ~!」

 

 一瞬、何かが引っ掛かったが気にはしなかった。

 それから穂波ちゃんの世話を軽くした後、彼女のお母さんがやってきた。

 

「ありがとうございました!」

「いやぁ! まださく兄と遊びたいよぉ!!」

 

 嬉しいやら困惑やら……俺はどうやら穂波ちゃんに気に入られたらしい。

 

(……マジでなんだったんだ?)

 

 穂波ちゃんの名前を聞いた時……そしてこうして彼女の顔を見ていると、どこかで見たことがあるような……知っているようなデジャヴを感じている。

 

(……まあ、良いか)

 

 どうせ、この出会いも一時のはずだから。

 ……って、その時の俺は考えていたのに。

 

「さく兄!」

「え?」

 

「遊ぼうよさく兄!」

「えっと……」

 

「今日もあそぼっ!」

「……うん」

 

 連日のように、俺はそれから穂波ちゃんと会うようになった。

 決して示し合わせたわけではないのに、何故か出会う……穂波ちゃんの母親は、俺が居そうなところに穂波ちゃんが行きたいと言って、それで会えているとのこと。

 

(なんで……?)

 

 えっと、ちょっと怖いかもしれない。

 そう思いながらもこの世界のことを改めて知っていく中、何もなかった俺を慕ってくれる穂波ちゃんの存在はありがたかったというか、心の癒しにもなっていた。

 しかし、同時にデジャブも強くなっていく……そんな日々が続いたある日だった。

 

「……あ」

 

 今までの違和感が全て合致するように、俺は思い出したのだ。

 穂波ちゃん……穂波と出会って数年が経ち、相変わらず俺を慕ってくれる彼女の世話をする中で……俺はずっと抱き続けていたデジャブなんかを全て思い出したんだ。

 

(ここ……いま♡りあの世界だ)

 

 いま♡りあ――エロ漫画の世界だと、俺は唐突に理解した。

 

「……マジかよ」

 

 既に転生した事実が笑い話に出来るくらいに、この世界に順応したわけだが……俺はどうやら、生前に読んだことがあったエロ漫画の世界に転生したようだ。

 

「いま♡りあかぁ……続編で脳をぶっ壊された作品じゃねえかよ!!」

 

 いま♡りあ――それは主人公とアイドルの恋愛を描いた作品だ。

 だがただの恋愛を描いた作品ではなく、両想いだった主人公とアイドルは結ばれたものの……その続編でアイドルの子が身も心も堕とされるという内容だった。

 ジャンルとしてはNTRに分類されるものだろうが、まさか序盤に結ばれる描写をそれなりのページ数で描いた後、その続編で寝取られるとは思わなかった……おかげで数日は気分が浮かなかったのを覚えている。

 

「いま♡りあのヒロインは……水原穂波だ」

 

 そう……俺が知り合った穂波だ。

 芸名としては愛原ほなみという名前で活動する彼女は、順風満帆の大人気清純派アイドルとして活躍する。

 将来は約束され、主人公と幸せ一直線かに思われたが……熱愛シーンをリークされ、会社に五十億もの損害を出したということで穂波は怪し気な番組への出演を強要されるというのが物語の流れだ。

 

「五十億の借金ってなんやねん……はぁ」

 

 正直なことを言えば、まだいま♡りあの世界と決まったかと言われたら分からない。

 でもなぜだろうか……このまま何もしなければ最悪の展開になりそうな予感もあるし、何より穂波のお母さんに安心して預けられるとまで言われるようになっちまったからな。

 

「……どうにかしてやるかぁ」

 

 そう決意をしてすぐ、彼女がやってきた。

 

「さく兄~!! また来たよ~!」

「お~」

 

 中学生になり、色々と立派になった穂波が走ってきた。

 初めて会った頃のちんちくりん具合に比べれば、間違いなく美少女と言える容姿に変わった彼女は、街中を歩いていると多くの芸能プロダクションにスカウトをされるようだ。

 

(ま……そりゃそうだわな。美人はともかく将来は三桁を越えるバストにも成長するしなぁ)

 

 公式の設定でバストは100だったよな……確かそうだった気がする。

 まあでも中学生の今でも十分にデカい気もするけど……これ、漫画で見た時よりもっと大きくなるような気がするのは何故だろう。

 

「ど~ん!」

「おっと……」

 

 抱き着いてきた穂波を受け止めた。

 

「えへへ♪」

「……ったく」

 

 嬉しそうに胸元に顔を埋める彼女を見ていると、この笑顔を守りたいと強く思う。

 

(……はっ、そうだな。この世界で出来た妹分を守る……まずは色々と仕込んでいくか)

 

 仕込んでいく……別に悪い意味ではないぞ?

 妹分の笑顔を守りたいという純粋な願いと、将来に穂波が出会うであろうカズ兄とどこまでも幸せな生活を送れるように……俺がしっかりと穂波を教育する――感謝しろよカズ兄さんよ。

 

「っ……こうすると嬉しくてフワフワしちゃう」

「穂波はいつもそうしてくるよな」

「うん♪ だって好きだもん……毎日、さく兄を想ってその……」

「穂波」

「ひゃい!?」

 

 少し真剣な話をしようかと、穂波に顔を近付ける。

 

「そ、その……まだ心の準備が……っ!」

「大切な話をするからな――穂波の将来と、君自身を守るために」

「っ……分かった」

 

 穂波は、すぐに表情を引き締めた。

 こうして記憶を取り戻す前も、色々と厄介事を引き入れそうだったので穂波には色んなことを教えた。それこそ社会のことだったり、或いは世の中には人の愛を利用するようなゴミが居ることだったりも。

 

「今まで俺は穂波に色んなことを教えてきたけど、これからもっと教えていく」

「うん……さく兄、穂波に沢山教えてください」

「あぁ」

 

 既に穂波は、芸能事務所に所属することが決まっている。

 漫画のようなことにならなければ、穂波はずっとアイドルとして活動できる……あんな卑劣な魔の手に取り込まれることもなく、ずっと幸せに過ごすことが出来るはずだ。

 

(あのプロデューサーとか潰せれば早いんだが……まあでも、穂波のお母さんも力になってくれるだろうし)

 

 穂波の母親は実業家であり、各方面へのパイプも太い……おまけに強い信頼を置いてもらっているので、穂波のことならどこまでも力になってくれるはずだ。

 

「さく兄は……凄いね。ほんとに私の二つ上なの?」

「そうだぞ? ピチピチの十五歳だが?」

「……大人みたいに思っちゃう。いつも落ち着いてるし、頼りになるから」

「ありがとな。穂波――何があっても俺が守ってやる」

「……うん!」

 

 だから必ず、お前を漫画のような未来に進ませやしないから。

 

「ずっと……守ってくれる?」

「当たり前だろ」

「ずっと傍に居てくれる……?」

「もちろんだ」

 

 穂波が望む限り、傍に居てやるさ……それが兄貴分の務めってやつだろ?

 

 

 

 

 

 

「約束だよ、さく兄♡」

 

 

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