思い付きのネタ集   作:詞(みょん)

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水原穂波(愛原ほなみ)の場合2

「さく兄……っ」

 

 一人の少女が、艶めかしい声を上げた。

 少女の名は水原穂波――今年で高校生になった彼女は、今をときめく清純派グラビアイドルとして活躍している。

 テレビ番組へのオファー、都市部や地方でのイベントはもちろんのこと、最近ではインターネット配信も主流とされる時代なので、とにかく引っ張りだこの売れっ子アイドルだ。

 

「さく兄……っ! 好き……好きぃ♡」

 

 デビューしてからそこまでの年数は経っていないが、穂波の人気が打ち止めになるようなことはなく、今もなおファンを増やし続けている。

 さて、そんな彼女は今……薄暗い部屋の中で、一人の男性を思い浮かべていた。

 彼の顔を思い浮かべるだけで頬は紅潮し、彼との時間を想像するだけで体が火照り、彼との情事を想像すれば手は止まらない。

 

「ぅん……あぁ……っ」

 

 高校生にもなれば、少女から女へと変化するその瞬間を経験することになる。

 ずっと抱き続けていた想いは大きく成長し、少女ではなく女として……少年ではなく男を求めることを穂波は止められない。

 

「さく兄……っ!?」

 

 一際強く訪れた快楽に、穂波は大きく体を震わせた。

 

「……私……さく兄にゾッコンだぁ♡」

 

 穂波の胸を焦がすのは、愛する人に向ける溢れ出んばかりの想いだ。

 幼い頃に出会ってから今に至るまで、色んな時間を共に過ごしただけでなく、多くのことを教えてくれた言わば人生の大先輩であり、誰よりも穂波のことを理解してくれている人であり、全てを犠牲にしてでも時間を共有したいとさえ思ってしまう相手――咲夜のことを穂波はここ数年をかけてどうしようもないほどに好きになっていた。

 

「好きにならないわけ……ないじゃん」

 

 ずっと一緒に過ごしていたとは言うが、咲夜は穂波のことを常に考えてくれていた。

 穂波が寂しい思いをしないように傍に居てくれたのもそうだし、その落ち着きある姿で穂波を安心させ、更に今となっては穂波と共に未来に向かって歩いているのだから。

 

『お前はずっと輝き続けるんだ。そのために俺がやれることはやってやる……正直、ここまで面倒を見ることはないと思ってたんだがな』

 

 そう言って苦笑する姿を、穂波はいつでも思い出せる。

 咲夜はいつも自分のことに関して謙遜するが、穂波だけではないのだ……彼に救われ、彼によって輝かしい未来を勝ち取ったのは。

 

「……さく兄」

 

 多くの人に慕われる咲夜の姿に思わないものがないわけではないが、それでも咲夜の一番は自分でありたいと思い続ける穂波の想いは、どこまでも燃え上がり日を追うごとに強くなっていく。

 

「私……さく兄好みの女になれたかなぁ?」

 

 鏡に映る穂波は、あまりにも淫らな姿を晒している。

 いつも綺麗と褒めてくれる長い亜麻色の髪、自分でも整っていると自負する顔、グラビアイドルとして活躍する武器でもある抜群のスタイル……胸は既に高校生でありながら三桁を越えるバストに成長したほどである。

 

「こんな姿……ファンの人には見せられないなぁ」

 

 ファンは大事だが、それでも穂波にとっては咲夜とは比べられない。

 とは言ってもこんな姿を咲夜以外に見せる気は毛頭ないし、プロとして活動する以上は応援してくれるファンのことを裏切るつもりもない……清純派アイドルとして偶像を演じ続けるのは当然ではあるものの、それでもこうして裏での穂波は咲夜のことしか考えていない。

 

『あなたはいつも穂波のことを考えてくれるものね』

『信頼には応えたいと思います……それに、俺は穂波にずっと輝いてほしいと思っていますから。誰にも汚されることのない太陽のように……そんな太陽を陰らせる何かが近付いたとしても、俺が穂波を守ってみせる』

『ふふっ、本当に頼りになるわ』

『任せてください。あいつの兄貴分として、精一杯頑張りますよ』

 

 ある日、偶然にそれを穂波は聞いた。

 家のリビングで母と話をする咲夜……その時の咲夜の声は、穂波が聞いてきたどんな声よりも真剣で、そしてどこまでも穂波のことを考えてくれるものだった。

 

「さく兄……私、さく兄のお嫁さんになりたい」

 

 それはずっと抱き続ける咲夜への想い。

 というよりもはや穂波にとっては咲夜は居なくてはならない存在であり、彼が消えてしまったらと思うと精神が崩壊してしまいそうなくらいに依存している。

 

「私……さく兄のことばっかり考えてる。さく兄のことを考えてこうすることも増えちゃったし、さく兄の匂いとか嗅ぐだけで軽くイッちゃうようになったし……あぁもう困っちゃったなぁ♪」

 

 色々と問題だが、それでも穂波は悪くない気分だった。

 ここまで精神だけでなく体さえも咲夜に囚われていることが、穂波は嬉しいのだから。

 

 

 

 

 もはや、咲夜の知る水原穂波は……愛原ほなみは存在しない。

 ここに居るのは一人の男に変えられ、狂おしい愛を胸に生きる一人の女……穂波の中にはもう、咲夜しか居ない。

 

 

▼▽

 

 

 転生したことに気付いて早数年が経ち、俺は高校を卒業した。

 当初は大学に行って色々と学びたいと考えていたのだが、既に就職してとある会社に勤めている。

 

「まさか……こんなことになるなんてなぁ」

 

 事務所と呼ぶにはかなり豪華というか、広い部屋が俺の職場である。

 

『あなたには重要なポストを用意したわ。すぐ傍で穂波を見守れるようにね』

 

 穂波の母親である美波さんの鶴の一声により、俺は穂波が所属する芸能事務所の幹部的立場になってしまった。

 

「……怒涛だったわ」

 

 そう、全てが怒涛の勢いだった。

 一応物語の流れとしては美波の事業が傾き、それに連動して穂波の熱愛がリークされるという流れだったが……この世界の美波さんは、あまりにも有能すぎた。

 全てがそうであるとは言わないが、芸能界にはクズが蔓延っている。

 そんな世界でアイドルになろうとした穂波を守るために、美波さんは自分の持つ資金と人脈を活用することで、穂波が伸び伸びと活動できるだけでなく、同時にどんな権力からも守られるように芸能事務所を起ち上げたのだ。

 

『はい、事務所を作ったわよ。難しく考えてなくて良いけど、咲夜君はこの事務所のナンバー2くらいの位置に据えておくわ。後、穂波のマネージャーとしても頑張ってね』

 

 そうして、高校卒業後の俺の進路はこうなったわけだ。

 最初は色々と大変だったが俺自身が仕事を覚えたのはもちろんのこと、やはり美波さんがあまりに有能なのと、美波さんが引き入れた人材たちも有能で、この事務所は一気に大きくなった。

 この事務所に穂波が居るということで、漫画で所属していた事務所との縁はない。

 だが逆に言えば、あの事務所はしっかりと存在しており……クズ共の巣窟になっているのはもちろんのこと、穂波や他のタレントたちが堕とされた裏番組も存在している。

 

「……ま、それも心配はなさそうだが」

 

 なんというか……美波さんのバックアップはもちろん、穂波や他のタレントたちのリスクマネジメントがあまりにも優秀なのが大きい。

 アイドルとして活動する自覚の凄まじさと、娘を守ろうとする母親の強い想い……それを俺は強く感じたのだ。

 

「っと、そろそろ戻るか」

 

 トイレを済ませ、俺はみんなの待つ部屋へと向かう。

 転生した特典は何もないはずなのと、特に優れた能力はないと思っていたが……どうにも俺は他者のモチベを上げたり、相談で心を癒し、閉じられていた才能を開花させるマネジメント能力があるようで、凄腕敏腕マネージャーとも呼ばれているが……ほんと、人生って分からないもんだ。

 

「俺がやったことは大したことないし、全部現場で活躍するアイドルたちの力だろうが」

 

 だから俺も雑誌の取材でインタビューを受けることはあるが、常にそう伝えている。

 

「ただいま――」

「おかえりさく兄!」

「うおっ!?」

 

 事務所の一室に戻ると、穂波が飛び込んできた。

 あまりの強さに俺も倒れそうになったが、穂波を怪我させるわけにはいかないので何とか耐えた。

 

「こら穂波、マネージャーが困ってるでしょ」

「気持ちは分かるけど……ふふっ」

 

 飛び込んできた穂波の後ろには、二人の女性が立っている。

 

「セイカにきさらも、穂波を止めてくれよ……」

「無理じゃない?」

「止められないってば」

 

 クスクスと笑うその二人もまた、この事務所に所属するアイドルであり俺の担当……更に言ってしまえば、彼女たち二人はいま♡りあの登場人物で、快楽堕ちする残りのヒロインだ。

 

(この二人までも引き受けるとは思わなかったが……)

 

 美波さんと仕事をする傍らで、見知った名前を見つけたのが始まりだった。

 穂波よりも圧倒的なボリュームを持つ胸のせいでアイドルとしての仕事を失いかけていた夢ノ木セイカ、妹キャラを演じるグラビアアイドルの向日きさら……活動に行き詰っている同時期に、穂波を有名に押し上げた俺を頼ってくれた二人である。

 

「セイカもきさらも、今日はオフのはずだろ? わざわざここに顔を出さなくて良いと思うんだがな」

「そんな寂しいことを言わないで? ここに居たかったの」

「そうだよ。穂波には帰れって脅されたけど、負けたくないし」

 

 穂波……さん?

 穂波に目を向ければ彼女は慌てたように下手くそな口笛を披露し、明後日の方向を向いてしまう。

 

「……ったく」

 

 それなら今日は、彼女たちと過ごすことになりそうだ。

 俺自身かなり忙しいとはいえ、美波さんが本当に優秀過ぎてちょっと暇を持て余すくらいに最近なってきたからなぁ……マネージャーとして、アイドルの気分を窺うのも大事な仕事の一つだろう。

 

「さく兄?」

「うん?」

「もっと甘えてもいい?」

「一応事務所だが……」

「いいじゃん。二人とも知ってるし」

 

 そしてここ数年で穂波は立派になったが、同時に逞しくもなった。

 

(なんつうか……穂波と一緒の時間が多いせいか、俺も傍に居てほしいとか思っちまってんだよな)

 

 俺は元々、穂波が幸せであるならば……カズ兄こと、大島カズヤと幸せになってくれたらそれで良いと考えていた……でも改めて考えた時、本当にあいつに任せられるのかと俺は考えてしまったんだ。

 

(カズヤは穂波の相談を受けても彼女を止めなかった……それどころかえげつないことをされていると分かっているのに何も行動しなかった……挙句の果てに、汚される穂波を見て興奮し、最後の最後に一緒に借金を返そうとようやく言い出した)

 

 その結果が、もはや取り返しの付かない場所だったわけだが……はぁ。

 

「どうしたの?」

 

 黙り込んだ俺を不思議そうに穂波は見上げている。

 気のせいかビクビクと体が震えている気がしないでもないが、俺は何でもないと言って彼女たちとの時間を楽しむのだった。

 

(つうか……穂波っていつカズヤと出会うんだったっけ?)

 

 もう、その辺りの記憶も薄れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん? どうしたの?」

「あぁ穂波……実はね。このアパートをどうしようかって考えてるのよ」

「アパート?」

「昔に買ったアパートなんだけど、もう一人しか入居者が居ないのよ。建物自体も古くなってるし、残しておく必要がないと思うんだけれどねぇ」

「じゃあ退居してもらったら? 残しておくだけで損するんでしょ?」

「そうねぇ……じゃあそうしようかしら」

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