理不尽外道神話録   作:EX=ZERO

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芸術的エンチャント

「んふふふふ~♪」

 

《やあ、今度は何をしているんだい?》

 

「見てわかるだろう?絵を描いてるんだよ」

 

そう言って『銀騎士』は森の中で子狐が昼寝するやたら可愛らしい絵を見せてきた。

『影の怪物』としては全く面白くない絵であった。

 

《つまらないね、もっとマシなもの描いてよ》

 

例えばこの狐が人間を食い散らかしている絵とかさ、と影はコロコロと笑う

心安らぐ絵を書こうとしてるのにそれはないだろうと銀騎士は顔をしかめる。

 

「お前には絵心っつーもんがわからんようだな」

 

《君もどうせわかってないだろう?海見てそんなもん書いてるくらいなんだから》

 

銀騎士が絵を描いている場所は断崖絶壁の孤島である

新鮮な魚が食べたいのと絵が描きたい衝動が混ざった結果なのだ。

 

「それこそわかってねえじゃねえか、いいか?

 海を見ながら森のイメージをより深く思い出す

 見えてないからこそより幻想的に描けるってもんだ、おわかりかい?」

 

《残念だけど私にはそういうのは理解できそうにないね

 ところでその絵はどうするつもりだい?》

 

「どうすっかねぇ?いくらで売れると思う?」

 

《どうだろうね、お尻拭く紙にでもなればいいけど》

 

ああ、君には必要なかったねと影の怪物はどこまでも笑顔で煽っていく

あまり時間をかけていないとは言えそこまで言われると銀騎士も腹が立つ

 

「ならこの絵を有効利用できるように改造しようじゃないか」

 

どうやら別の絵を描く発想は持ち合わせていなかったらしい

 

 

―・・・―

 

「付与魔法はわかるよな?」

 

《ん?いきなりどうしたんだい?

 魔法としては初歩の初歩じゃないか》

 

付与魔法、別名エンチャントマジック

物質に魔法を付与してさまざまな効果を得られる魔法である。

 

「そしてこの絵に付与魔法を使って回復呪文を付与する

 するとどうだ?絵を見るだけで回復魔法が掛かる仕組みだ」

 

《へぇ、いいじゃないか

 でもその回復魔法が君に効いてたら説得力があったのにね》

 

銀騎士は外部からのあらゆる魔法の効果を打ち消してしまう

防御力が高すぎて全く効果がないのだ。

 

「俺はいいんだよ別に、ともかく見るだけで傷が言える絵が完成だ

 これなら美術館の目玉にだってなれるほど金儲けができるぞ」

 

《でも初歩の初歩の付与呪文、君のソレみたいに永続効果がないとはいえ

 そのくらいなら人間の魔術師にだってできるだろう?価値があると思うかい?》

 

「なら蘇生呪文はどうだ?見るだけで死人が蘇る

 俺様の絵をきっと崇め奉る事になるだろうさ」

 

《君は美術館に死人を連れてくるつもりなのかい?》

 

たとえ蘇るのだとしても絵を楽しみに来ている客のそばで

死人を担いでやってくる奴がいたら気が狂ってるとしか思えないだろう

 

「死人さえも見に来たがる美術品、そんな売り文句ならどうだ?

 それならきっと美術館は繁盛するぞ?」

 

《それより見た人間が死人になる美術品を用意したほうが絶対に楽しいと思うよ?

 死にたい人間が我先にと絵を見に来るはずさ》

 

「ただの呪われた絵じゃねえか」

 

繁盛するどころか数日後に閑古鳥になりそうだ

それだけならいい、だが絵を燃やされるなんて事になったら目も当てられない

 

《ふっふっふ・・君の絵が暖炉の燃料になる日が近いみたいだ

 さてどうするつもりかな?》

 

「じゃあ燃やされないように火耐性も付与するべきだな

 他にも刃物に傷つけられないように、爆破されようとも傷一つつかない

 耐久性も高めて難攻不落のゴキゲンな絵画に仕上げようじゃないか」

 

《うん趣旨かわっちゃったね、何と戦ってるのさ》

 

「たとえ神の軍勢が攻めてこようとこの絵が破壊される事はない

 最後の審判すら耐え切った絵画をきっと誰もが崇めるに違いない」

 

《それ生存者いなくなるよね?誰が見るのさ》

 

「そのための蘇生呪文だ」

 

《ああ、そう繋がるんだねなるほど・・でも破壊もできない絵が

 死者を蘇生し続けるなら永遠に争いが起こるんじゃないかい?》

 

ここはやはり見れば死ぬ効果もつけたほうがいいとさりげなくおすすめしてきた。

影の言葉に銀騎士は目を閉じて考えてみる

死者を蘇らせる絵画、争いの道具として使われる可能性も高い。

人から人へ渡るような代物、破壊こそできないももの奪い合う事はできる

ならこの絵に必要なものは何か、ここまできたらそもそも絵である必要があるのか

いやもう絵である必要ないんじゃないかな、絵である必要はないな。

 

「と、言う事で絵の中から子狐を出したわけだが」

 

「……キュン?」

 

《うん、ついに絵ですらなくなっちゃったね》

 

銀騎士が絵の裏を叩いで出てきたのは白い子狐

生みだされたばかりの子狐はあたりを見回して銀騎士を見る

本能的に生みの親だと認識したらしく、トコトコと駆け寄って足元に擦り寄った。

 

「で、コイツに神格を与えるわけだ

 付与魔法もここまで進化できる、素晴らしいだろう?」

 

「キュッ!!!?」

 

《それ付与魔法じゃないよね、ただの転生だよね?》

 

バリバリと子狐の体中から電撃が走る

傍から見れば殺しにかかっているようにしか見えなかった。

 

「キューン」

 

《やっぱ神にしちゃったね、この子どうするのさ》

 

影の怪物としてはこの先の展開があまり好きではなかった

突拍子もない事を思いついて神を生む銀騎士だが

最後まで面倒見る事なく旅に出てしまう、必然的に面倒を見るのは自分だ

どうせ創るなら頭の中を赤ん坊ではなく

きちんと物心や知識を身につけた状態で創って欲しいとも思ってしまう

 

「どうしようかねぇ・・なあ『アルベ』?」

 

《その子にはすぐに名前つけるんだね、でも適当に決めたでしょ?》

 

神に進化し名を得た狐はもはや子狐どころか狐とすら呼べないほどに巨大だが

やはり中身は赤ん坊、銀騎士の顔をペロペロと舐めて嬉しそうに尻尾を振った。

 

「絵だった時の蘇生能力や耐久性はそのまま残っている

 蘇生させる相手を選んだり逆に命を終わらせられるようにしよう」

 

銀騎士がアルベの額に手を置くと両目が輝き始める

やがて光が収まると右目が紅く、左目が黒く染まった。

 

《魔眼にしたのかい?命を終わらせるなら噛み殺して欲しいもんだね》

 

「お前どんだけコイツに血なまぐさい事させてえんだよ」

 

《別にこの子である必要はない、それこそ君が滅ぼしてくれたっていいんだよ?》

 

「よーしわかった、ちょっくら人類滅ぼしてくるから

 これ以上その話題はするんじゃねえぞ?」

 

そう言うと銀騎士は断崖絶壁の孤島から飛び降りる

向かう先は人間たちのいる大陸

こうしてとくに理由もなく全人類に死刑宣告が降された。

 

 

―・・・―

 

「さあ人間は全て皆殺しにした、これで満足したか?」

 

数日後帰ってきた銀騎士の顔はやたらと艶のある顔だった

微妙に消えていない雌臭い匂いで蹂躙している最中に何をしてきたかを察した。

 

《ああ、十分だ、十分だよ

 とても楽しい時間だった、君には感謝するよ》

 

影の怪物は孤島でアルベと共に銀騎士の凶行を眺めていた。

頭に戦車をかぶって腕を四本にし、それぞれの武器で次々と人間を殺して回り

装着していた戦車が建造物を破壊しつくす、おまけに人が認識できないほど速い

人間たちはわけもわからず殺されていくのを呆けて見ているしかなかった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

《あーあー、でも可哀想に、君の気まぐれのせいで

 なーんも理由がないまま殺された人間たちは惨めでならないよ》

 

「求めたのはお前だ、なのにその言い草か、なんて酷い奴だお前は」

 

《それ直接手を下した君の言うセリフじゃないよね、極悪人は君だよ?》

 

「おいおい愉悦の表情が隠せてねえぞ?どうせ笑いながら見てたんだろ?」

 

《そりゃ君の奇行ぶりを見れば笑いもするさ

 弱いものいじめがそんなに楽しいのかい?》

 

「ああ最高に楽しいぜっ!」

 

一見すると喧嘩しているように見えるが

肩を組んで互いにサムズアップしながら会話してるあたりとても仲良しである。

状況を全く理解できていないアルベはただオロオロとしてはいたが。

 

《それはともかく人類が滅んでしまった

 この世界をこれからどうするつもりなんだい?》

 

「そりゃアルベを神としたモフモフ毛玉ワールドでも作ろうかなとよ」

 

《動物が繁栄する世界か、ふむ、悪くないね

 弱肉強食かい?それとも偽りの優しい世界かい?》

 

「弱肉強食だな、生存競争は本能だし奴らも思うがまま生きるべきだ」

 

《そうだね、すぐ近くに本能の赴くままに好き勝手してる見本もいるしね》

 

それからは銀騎士と影の怪物が手を加えるまでもなく

滅んだ人類にとって変わるように世界各地の動物たちの数が増えていき

唯一神として君臨するアルベに似たのか独自の進化を遂げて

どこを見ても毛玉が闊歩するような世界へと生まれ変わっていった。

 

数十年の時を経て世界が安定する頃には銀騎士は始めにやろうとしていた

自分の描いた絵に様々な付与呪文をかけて各地に展示したのだが

花より団子な動物たちにとって絵画は役に立たない無用の長物

誰にも見られる事なく銀騎士の計画は無駄に終わる

 

その後銀騎士は世界に興味を失ったのか

ある日突然『フェニックスが食べたい』と言い残し異世界へと旅立ってしまった。

ああ、やっぱりかと置いてけぼりにされた影の怪物は

とりあえず飼い主が消えて泣いている巨大狐にいい加減親離れを覚えさせるべく

虚空から『よい子のための狐の飼い方』を取り出した。

 

 

 




名前の由来は白狐→白→アルベド(白化)→アルベから

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