もしお待ちだった方がいらっしゃれば、本当に申し訳ございませんでした。
今後も不定期ではありますが、どうぞよろしくお願いします!
浦の星の入学式、まぁ一応僕の高校の入学式の次の日。
登校から下校まで、特に語る必要もない1日を過ごした後、僕は"果南ねぇ"の住む淡島へ向かった。
対岸の波止場からものの数分。直ぐに淡島へ行く事ができる。
船から降りて桟橋を渡りきった辺りで、家業の手伝いをしている彼女の姿が見えた。
松浦家の経営しているダイビングショップに向かって歩き始めたところで、こちらの姿を相手も捉えたようで、僕が声を掛けるより早く果南ねぇから声が掛かってきた。
「お、来たね彼方。久しぶり」
「うん、久しぶり。」
果南ねぇこと彼女、松浦果南。
昔からの付き合いだから彼女について今更多く語るところなんてないけれど、やっぱり千歌や曜に比べると背が高く、雰囲気も落ち着いていて僕たちのお姉さんだな、と感じる。
どうやら以前連絡を取ったところ、お父さんが骨折をしてしまい一家で経営しているダイビングショップの営業が難しくなってしまったようで、彼女は今学校を休学し毎日家の手伝いに明け暮れているらしい。
家の事を親任せにせず手伝っているのも、しっかりしていて姉御肌な彼女らしい所だと思う。
証拠に、彼女はダイビングスーツを着てタンクを運んでいるところだった。
「あ、果南ねぇ手伝おうか?それ重そうだし。」
「大丈夫大丈夫!慣れてるしさ。折角来てくれたんだからさ、ゆっくり座っててよ」
しかし座って待っているのも申し訳ないので、食い下がりせめて他の事を手伝おうとしたけれど、いいから座ってる!と言われてしまい座らざるを得なかった。結構頑固なんだよなぁ、果南ねぇは。
結局言葉に甘えテラスにある椅子に座って待っていると、果南ねぇはタンクをあっという間に片付け、僕のいる方へやってきた。
結構な重さのあるタンクが5個はあったんだけど、直ぐに終わらせてしまう辺り、昔からいくら遊んでも全然疲れを見せなかった果南ねぇらしい。
「ふーっ、きょうの仕事もおしまい!」
果南ねぇは一息ついて伸びをしている。
「お疲れ様。今日はお客さん結構来たの?」
「うーん、そんなにかな。また水温も高くないし、これから!って感じ」
「そうなんだ。お父さんがいない中、忙しさに苦しむことはまだなさそうなんだね」
「そんな感じだね。そのうち忙しくなるだろうから、頑張っていかなきゃだけどね」
大変なときであろうと後ろ向きにならず、前に進もうとする姿は変わらないな、と思う僕だった。
ただ、世間話だけを今日はしに来たのではない。
もっと重要な話が僕にはある。
「それでさ、果南ねぇ」
自分で温めた空気の温度は下がり、引き締まる感覚がする。
「ん?」
果南ねぇは柔らかい表情を崩さずに聞き返すが、瞳の奥では僕の意図を見通しているかのような、ぶれない視線を感じた。
それでも、いつも折れない彼女なら、あの子の力になってくれるんじゃないかと。そもそもがわずかな望みであって、自分のことなんて棚に上げてしまっている行為だとは重々承知しているんだけれど。
僕は嘘偽ることなく話題を提示した。
「スクールアイドルのことで、相談に来たんだ」
「…」
果南ねぇは少し動揺した様子を見せたが、直ぐにいつもの様子に戻ると、いつものおおらかな雰囲気をまといながら僕に言葉を返した。
「千歌からも聞いてる。千歌、スクールアイドル始めるんだよね。」
「…そうなんだよ。そう…」
僕らの間に重苦しい雰囲気が漂ってしまうのは、どうしようもなく「2年前」のことが関わっているんだけれど。
この類の話題を出せば自ずと空気感が最悪になってしまうのは流石に想像が付いていた。
それでも、僕には果南ねぇに聞きたいことがあった。
「千歌のことを、サポートしてあげられないかな」
「…」
果南ねぇは険しい表情をし、顔をうつ向かせた。
「…それは少し、難しいかな」
重々しく口を開いた果南ねぇ。
「…どうしても、かな」
「…うん、私には、できない。」
果南ねぇは言葉少なに、確実に拒絶の姿勢を示した。
「2年前、あんなことになっちゃったからさ。もうスクールアイドルはやらないって決めてるってのは、彼方も知ってるでしょ?」
「もちろん…そうだけど」
「それで私だけじゃなくて、関わったみんながつらい思いをしたんだから。もう私には、スクールアイドルに少しでも関わる気力がないんだよ」
険しい表情は変わらず、でもどこか寂しそうな表情を浮かべながら果南ねぇは答えた。
もしかして…という考えが僕にはよぎった。
その瞬間、頭に浮かんだ「仮定の話」を話さずにはいられなかった。
「もしさ、もしもの話なんだけど」
「…うん」
「それは、千歌に直接誘われたとしても変わらないの?」
「…!」
今日一番の動揺を見せる。その動揺を隠さないまま、果南ねぇは口を開いた。
「絶対に、絶対に変わらないよ。千歌から誘われても。」
言葉を震わせながら、彼女は答えた。
「そしてこの先、どんなことが起ころうとも。私は、スクールアイドルをやらない。」
ホテルオハラの方を睨みながら彼女はその凝り固まってしまった意思を、ただぶつけていた。
「…」
あまりの強烈さに、僕は閉口するしかなかった。
2年前のあの時から、言うなれば挫折の始まりから、より「僕ら」の世界が滲んでしまったのは事実だった。
だけれど、いつもみんなを引っ張ってくれた果南ねぇなら、ある程度見切りをつけて、前に進めているのだと僕は思っていた。
けれど、そんなことはなかった。
彼女は、「スクールアイドル」とそれらに関わる想い全てに鍵を掛け、封じ込めることで歩き始めていたんだ。
そして二度と見向きもしないと心に誓い、錆びついてしまおうがお構いなしに。
僕の見立てが甘かったと、苦虫を食い潰したような思いを抱くしかなかった。
何も言えないまま僕が固まっていると、そのうち果南ねぇは強張らせていた体を元に戻し、いつも通りの優しい雰囲気で僕に語りかけた。
「…でもさ、彼方はちょっとでもいいから、関わってあげなよ?別に無理する必要はないけどさ、彼方が動いてあげることが、千歌の何よりの支えになると思うから」
優しい果南ねぇだからこそ、ぼくにとっては凄く元気づけられる言葉だった。僕が踏み込んだが故に悪くなった空気まで変えてしまうのは、彼女だからなせることだな、と思わされた。
「うん。」
こういう他人想いの優しいところは本当に変わらないな、と思ったし、やはり、あの日生まれた僕らの歪みは、簡単には直らないのだと痛感させられたのだった。
久しぶりの話が重すぎて自分でも衝撃でした。
次もまた、よろしくお願いします!