怪盗少女の守り人   作:世間の窓

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どうも世間の窓です。
とりあえず三つ目です。やれるところまで頑張ってみます。

この作品も不定期更新なので気長に読んでくだされば幸いです。



第一弾 『英霊現界』

 

 暗い暗い森の中。そびえ立つ木々が空を覆い尽くし、星々も、月明かりすらも遮る漆黒の中。一寸先も見えない大地を踏み締め、駆ける幼い少女の姿があった。

 

「はぁっはぁっ……ッ‼︎」

 

 この暗闇の中でも煌びやかな色を放つ金色の髪。その髪と同じ色の瞳からは、絶え間なく涙が溢れ続ける。

 頬を伝った涙は地に落ち、彼女の走った軌跡を描く。

 

 必死に足を動かしながら、少女は胸元に下げた青い十字架を握りしめ、そして願う。背後より押し寄せてくる恐怖と絶望から逃げ延びたいと。

 

「ガルルルル‼︎」

 

「グルルルァアア‼︎」

 

 遠くから、しかし確実に近づいているとわかる血に飢えた獣の叫び。その叫び声を聞いた少女は、その表情をより一層恐怖で染め、まだ幼くか細い足を懸命に動かす。

 死にたくない、いや『戻りたくない』と、そう言ったほうが正しいか。少女の頭には、つい先日まで己の身に起こった出来事が流れる。追いつかれてしまえば、きっとまたこれまでと同じ、いやそれ以上に残忍で酷悪な日々に逆戻りしてしまう。

 

「はぁっはぁっ──あ……」

 

 しかし現実は少女に味方をしなかった。暗く視界も良くない森の中、数歩先の地面から盛り上がった木の根に気づくことができず、少女はそれにつまづき転んでしまった。

 勢い良く身を前方へ投げ出す少女。そのまま数度地面をバウンド、全身を強打する。

 

「う、ぁ……」

 

 身体中に走る激痛。少女は苦痛で顔を歪めるが、そんなの御構い無しに体を動かす。こんな痛み、あの頃に比べれば大したことはない。そう自分に言い聞かせ、四肢に力を込める。

 そして立ち上がった少女が、再びその足を動かそうとした──

 

 

 

 その、背後から

 

 

 

「グルル……‼︎」

 

 パキパキッ、と枯れ葉や小枝を踏み抜く音。そして餌を目の前にしたかのような低い、地獄の底から響くような唸り声。

 少女は恐る恐る、ゆっくりと、背後に待つ現実へ目を向け

 

「あ、ああ……」

 

 眼前に広がる光景にその瞳を揺らす。

 少女の前には銀色の毛並みを持った巨大な体躯の狼が複数匹並んでいた。その各々が気高き狩人のような殺気を身に纏い、獲物であろう少女に視線を集中させている。

 

 もう、逃げられない。この絶望的状況に少女の脳は無慈悲な結論を出す。

 一歩、また一歩と、まるで残り少ない自由の時間を楽しめと言わんばかりに、静かな足取りで近づいてくる銀狼の群れ。少女もまた、銀狼達が一歩距離を詰めてくるごとに一歩後ろへ下がる。

 今すぐにでも背を向けて走り出したい衝動にかられるが、ここで背を向けたらそれこそ終わりだと、少女の本能がそう警鐘を流す。

 

「いや、いや……りこはまだ『りこ』になってないのに……またあそこに戻りたくないっ」

 

 少女──リコは、ふるふると首を左右に振りながら小さくそう漏らす。

 だが銀狼達の猶予の時は終わったらしく、彼らはその巨体を屈ませ、少女に襲いかかる準備を整える。

 

「助けて、りこを守って──お母様‼︎」

 

 胸元の十字架を両手で握りしめ、あらん限りの声で叫ぶ。

 

「ガァアアアアアッ‼︎」

 

 そんな りこの叫び声を合図とし、銀狼達は一斉に駆け出す。たまらず、りこがその場にしゃがみ込んだ……その瞬間

 

「ガァ!?」

 

「──え?」

 

 りこの両手が、いやその両手が包み込んだ十字架から青い光が溢れ出す。りこはその現象に目を見開き、狼達は予想外の出来事に飛びかかるのを中断する。その光は徐々に明るさを増していき、りこはその眩しさに両目を閉じる。そして感じる左手の甲に走る熱のような何か。

 それから数秒ほどの時間が経過し、光が収まるのを感じとったりこは、恐る恐る両瞼を持ち上げると

 

「──やれやれ、喚び出された直後だというのに、なんとも物騒な状況だな」

 

 聞いていて心地よいバリトンの声は、どこか呆れたような声音でそう呟く。身長はしゃがんでいるからわからないが、自分よりもはるかに高い。胴、腰、手首から肘、膝付近まである具足、それぞれが銀色で統一されたプレートアーマーで覆われており、肩から背中にかけてマントのようなものが風に靡いている。

 

 突如眼前に現れた謎の男は、銀狼を一瞥した後自身へと視線を移す。無造作に切りそろえられた赤い髪、そして自身を見下ろす瞳は、まるで胸元の十字架のような青色をしている。

 男はりこを見るとその整った顔立ちに笑顔を浮かべ、まるで騎士が忠誠を誓うように胸に片手を当て

 

「サーヴァントランサー、召喚に従い参上した。君が私のマスターでいいのかな、可愛らしいお嬢さん?」

 

 この状況に唖然とする少女へ、そう尋ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し前にまで遡る。

 

『英霊の座』という場所にその男はいた。男は手にした槍を慣れた手つきで、鼻歌交じりに振るっていると

 

「──ん? これは……」

 

 男は自身の身が何かに喚ばれているのを感じ取り、槍を振るう手を止める。そして静かに笑った。まさか自分のような英霊が喚ばれるなどとは、と。

 

「さて、いったいどのようなマスターが私のようなハズレくじを引いたのやら……ん? いやこれは……」

 

 男は己の身に確かな違和感を感じ取り、その違和感の正体が何かを探ろうと意識を集中させる。

 

「聖杯、魔術による召喚ではない……とすれば何故」

 

 《──聞こえますか、異界の戦士よ》

 

 脳内に流れる女性と思われる声。突如聞こえたその声に、男は小さく目を開き多少の驚きを表す。

 

「驚いたな、まさか英霊の座(このばしょ)に干渉できるような人間がいようとは」

 

 《いいえ、私は人ではありません……。異界の戦士よ、時間がないので手短に話します》

 

「頼み、か。私程度の英霊で事足りるかはわからんが、聞くだけ聞いてみよう」

 

 男がそう答えると、その声は一拍の間をおき

 

 《私たちの世界に予期せぬ異変が起ころうとしています。貴方にはそれを阻止して欲しいのです》

 

「これまた、随分と手短な内容だな。それで、その異変とはなんだ?」

 

 《それはヒ…イ……が、異界…ら戦……召……世界を…乱……う……るんです》

 

「おい、言葉が途切れて聞こえないぞ? 誰が世界をどうしようとしているんだ?」

 

 突如彼女の言葉を遮るようにノイズが走り、大事な部分が聞き取れず男は聞き返す。

 

 《どうや……切れの…うです。これか…貴方…こち……界へと喚びます》

 

「おい!……こちらからの声も届かなくなったか」

 

 召喚が開始されたらしく、徐々に遠のいていく意識。いったいこれから向かう場所にどんな異変があるのか。まったくゼロからの出発だがやむを得ない、頼まれた以上は己が出来るところまではやってみよう。

 

 《世界を頼みます、英霊『──』》

 

 最後に聞こえた声はノイズに阻まれることなく、男の頭に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうした経緯があり、男──ランサーは今この場に召喚されたのである。

 

(さて、世界の異変がどうとかという話だが……先ずはこの少女の身の安全が先か)

 

 ランサーは呆然とした眼差しで自信を見上げる少女の左手、そこにある刺青のような模様を視界に捉える。それを見たランサーは、ふぅ、と小さく息を吐き

 

「ではマスター、今からこの場を収めるのでしばらく待っててくれ……と、その格好はさすがに見過ごせないな」

 

 己の纏うマントを脱ぎ、優しくりこの体へかける。りこは今、何も服を着ておらず生まれたままの姿で蹲っていたのだ。

 こんな年端もいかない少女がそんな格好で森を、しかも獣に追いかけられているなどとは。マントを与えたランサーは狼達に視線を向け、すぅ、とその双眸を鋭くし彼らを射抜くように睨みつける。

 理由が何かは知らないが、自身のマスターたる少女を追い回した。言うなれば己の敵も同然。

 

「……さて獣共、一度しか言わんぞ──『去れ』」

 

「──ガゥ!?」

 

 ランサーの一言に、銀狼の群れはびくりと体を震わせる。ランサーから放たれる殺気と彼が内に秘める危険なナニかに、狼達は無意識に後ずさる。

 戦う前から証明された圧倒的な力の差。だがそれでも逃げ出さないのは、自身の主君に対する忠誠からである。

 

「そうか……無駄に命を散らさぬよう気を使ったのだが、やはり無駄だったか」

 

 ランサーは(おもむろ)に右手を水平に伸ばす。するとどこからか、まるで手品か何かのように突然、その手の中に一本の槍が現れた。一見何の飾り気もない普通の槍に見えるそれを手に取り、ランサーは横薙ぎに振るい地面に突き立てる。

 そんな何気ない光景だったが、りこはなぜかその一連の動きに目を奪われた。そんな彼女の視線を背中に受けるのを感じながら、ランサーは再び口を開く。

 

「英霊としては脆弱な身だが、たかが獣に遅れはとらん。さぁ……死にたい奴からかかってこい!」

 

 一喝。怒声にも似たランサーの叫びに、たまらず耳を塞ぐりこ。そしてその怒声を正面から浴びた銀狼達はというと

 

「クン、クゥーン……」

 

 りこへ向けられたあの唸り声はどこへやら。まるで犬のような声を出しながらランサーに背を向け、そのままどこかへと走り去って行った。

 

 銀狼達がいなくなるのを確認し、ランサーは槍をその手から消す。

 

「初めからそうしていれば良いものを……っと、マスター怪我はないか?」

 

 振り返ったランサーは、未だしゃがみ込んだままのりこへ視線を合わせる。その優しさが含まれた表情と声音は、先ほどまで殺気を放っていた人物と同一人物とは思えない変わりようだ。

 それと、りこは一つの疑問を抱く。

 

「ますたぁって、りこのこと?」

 

「ああ、君のことだ……それにしても、身体中傷だらけじゃないか。本当に大丈夫か、マスター?」

 

 りこの体にある傷の数々を見て、ランサーは心配そうに尋ねる。

 

「肉付きも良くない……ちゃんと食事がとることができない環境にいたということか。年端もいかぬ少女にこの仕打ちとは、反吐が出るな」

 

 りこの体はお世辞にも肉付きが良いとは言えず、むしろ痩せ細っているほどであった。早く近くの町へと行き食事と傷の手当てをしなければ。そうと決めればと立ち上がるランサー。

 

「さてマスター……確か『りこ』と、そう言ったな? 少し失礼させてもらうぞ」

 

「え?……わっ」

 

 承諾の有無など関係なしに、ランサーはりこの体をお姫様抱っこの要領で抱え上げる。その体はやはり軽く、どれだけまともではない食生活を送らされてきたのかが手に取るようにわかった。

 突然抱えられ、ランサーの腕の中で目をぱちくりとさせるりこ。そんな彼女にランサーは笑顔を向けると

 

「近くの町まで飛ばすから、その手を私から離すなよマスター」

 

「……うん」

 

 まるで閃光のような速さで、近くの町を目指して駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──これは本来の流れから分岐した物語。出会うはずのない、交わるはずのない二人が出会い、この世界を生きていく話。

 

 

 

 

 

 

 





いかがでしょうか?

原作よりも前からスタートという設定でやらせていただきました。
多分あと数話ほど原作前の話が続いて、その後一気に原作付近へと飛ぶ。そんな流れを考えてはいます。

もし『こうして欲しい』という要望がありましたら、活動報告の方で色々と受け付けているのでそちらの方へどうぞ。

では次話を気長にお待ちください‼︎


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