怪盗少女の守り人   作:世間の窓

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第3話です。
少し無理矢理感がありますが、目を瞑っていただけたら幸いです。




第三弾 『選択と誓いの証』

 

 ガツガツ、ムシャムシャ、バクバク。現在、ランサーの借り受けた部屋にはこの擬音の音のみが木霊している。

 テーブルの上には料理の盛られた皿が幾つも並べられ、できたてだと示すかのごとくそれぞれが湯気を立ち上らせている。そんなことなど御構い無し、りこはスプーンを片手に一心不乱に目の前に並べられた品々を平らげていく。

 しかしそれもまた仕方のない話。りこは食事と呼ぶののも躊躇われるほどの環境にいたのだ。彼女からしてみれば、目の前に並ぶ料理すべてが三ツ星レストランに匹敵するものに見えているのだ。

 

「そんなに急いで食べると詰まらせるぞ……っと、ほらみたことか」

 

「ゲフゲホッ!」

 

 料理を掻き込みすぎて()せるりこへ、呆れたように笑い水を差し出すランサー。それを手に取り一気に飲み干し、ほっと一息つく。

 

「そんなに焦らずとも料理は逃げたりはしないぞ? 君も女性なのだからもっとお淑やかにしないか」

 

「むぅ……」

 

 ランサーに諭され、不服そうにだが食事のペースを落とす。しかしそれでも食事のマナーとしてはどうかという程だが、彼女の食環境が苛酷なものであったことを知っているランサーはそれ以上の言葉を控える。ものの数分で全ての料理を食べ終え、満足そうな顔でお腹をさするりこ。

 

 こんなにお腹いっぱい食べたのはいつ以来だろうか。あの日から腐った肉を食し、泥水を啜る毎日だった。食事とも言えぬ食事を強いられ、生きるためにはそれらを食べる。服すら着ることすら許されない、家畜も同然の生活を送ってきた。

 

(本当に、あそこから逃げ出せたんだ……)

 

 そんな自分がこのような食事を取れている。そのことが、あの地獄を抜け出せたという事実を再確認させる。

 

「食事も終わったことだ、少し話をしようかマスター」

 

 りこが平らげ空になった皿をトレーに片付け、ランサーは静かな声で告げる。話と言われ、りこは体と椅子をランサーの方へと向ける。ランサーの表情は先ほどまでの笑顔ではなく、真剣なものへと変わっていた。

 こほん、と一つ咳をすると

 

「話というのはマスターの今後についてだ」

 

「私の今後……?」

 

 こて、と首をかしげるりこに「ああそうとも」と返すと

 

「マスターと出会ってからこれまでを振り返り私なりの推測をしてみたのだが、マスターは何者かの元から逃げ出し、現在は追われる身なのだろう?」

 

 幼い少女の身でありながら服すら着ず森の中を一人で走り、尚且つ獣の類に襲われていた。そして彼女の体の状態に、先ほど確認した身体中にある無数の傷。それら全てを踏まえれば自ずと答えは一つに絞られる。

 ランサーの問いに、りこは小さく頷き肯定の意を示す。

 

「追われる身ならば、マスターにはいくつかの選択肢がある」

 

「選択肢……」

 

 スッと人差し指を立てる。

 

「まず一つ目だが、このままその追っ手から逃げまわる。もちろん、相手が諦めるまで永遠とだ」

 

 次に中指。

 

「二つ目は、私がその追っ手を殺すことだ」

 

「え……」

 

 その言葉にりこの瞳が揺れる。その理由は何気なしに『追っ手を殺す』と言ったランサーへの驚愕からだろう。そんなマスターの心情を読み取ったランサーは口元に不敵な笑みを浮かべ

 

「私は君のサーヴァント、言うなれば使い魔であり従者だ。マスターが願えば、私は全力を睹してその願いを遂行しよう」

 

 バリトンのボイスは確かな自信と共に言葉となり、りこへと告げる。そんなランサーの姿に、りこは再び目を見開く。理由はその言葉にではない。男の威風堂々たるその佇まいにだ。この男ならやってくれる、そう思わせるような威風堂々としたその立ち姿に息を飲む。

 

(願えば、もう恐れなくてもいい……)

 

 きっとあの男は、あの怪物は逃げ出した自分を追ってくるだろう。執拗に、執念深く、この世界の果てまでも。故に、どこへ逃げても自分に安息の場所はない。あの男が生きている、ただそれだけで恐怖という名の(くびき)があの地獄を思い出させる。

 そんな思いをして逃げ続けるのなら、己をマスターと呼ぶ目の前の男にあの男を殺してもらえば、確かな自由が己の手の中に。

 

 頭の中にあるのは二つ目の選択肢のみ。そんなりこの頭をクリアにするかのように、ランサーはもう一つ、指を立て

 

「そして三つ目」

 

「……三つ目?」

 

 何度目か、驚きを見せるりこ。二つ目の選択肢しか頭になかったりこにとって、ランサーの三つ目の選択肢というのは予想外だった。

 

「何を驚いているマスター。選択肢は二つだけとは言っていないはずだが?」

 

 ふぅ、と呆れたように息を吐き、やれやれと首を横に振る。そんな人を小馬鹿にしたような態度に、りこはムッと眉根を顰める。

 

「じゃあ、三つ目ってなに?」

 

 抵抗にならない抵抗だが、答えを急かすように求める。プイッとそっぽを向けながらの、そんな可愛らしい抵抗にランサーは笑みを浮かべる。だがすぐに表情を真剣なものに戻すと、りこの頭に優しく手を置き

 

「それはな、マスター……」

 

 顔を向けたりこの目に映ったのは二つの青。その海のように澄んだ双眸の美しさに、そしてその迫力に思わず呼吸するのすら忘れてしまう。

 そんなりこへ、ランサーは三つ目の選択肢を与える。

 

「──君が倒すんだ、追っ手とその元凶を。君自身の手で、自由を手にするんだ」

 

「私の手で、自由を……」

 

 ランサーの提示した三つ目の選択。その選択に驚きを通り越し、呆然と呟くりこ。いや理解が追いつかないのだろう、よもやそんな選択肢があるなどとは。だが次第にその意味を理解し、それにつれてりこの顔は青ざめたものへと変わっていく。それはつまりあの怪物を自分の手で倒す、そういうことなのだから。

 そんなりこを見つめるランサー自身も、彼女にとってこの選択がどれほど辛いものかは理解している。だがそれでも、この選択肢を与えることは必要だった。

 りこの心の内に巣食う闇。1日にも満たない短い時間の中、ランサーは彼女の心を蝕んでいる負の感情を感じ取っていた。彼女がベッドの中、魘されながらみた悪夢。その根源は他者の手ではなく、己の手で断ち切らなければならない。

 

「さぁ選ぶといいマスター。君が望むこれからを」

 

 答えを求めるランサーの問いかけに、りこは俯き口を閉ざす。蛍光電気の淡い光と、まるで音がなくなったかと思うような静寂が二人を包み込む。

 選択肢の内、一つはいつまで続くかわからない(いたち)ごっこをするようなもの。一つは自身は何も傷つかず且つ可能性が高いもの。そして最後の一つは可能性が低く相応のリスクを負わなければならない。普通ならば二つ目を選ぶ者が多いだろう。加えて彼女はつい先ほど逃げ出した身だ。心身ともに疲弊しきっている状態で選択を迫られ、まともに考えることすらできないであろう。

 そんな状況下でランサーが選択をさせる理由は、(ひとえ)に彼女の強さを知るためである。

 

 聖杯戦争とは違う理由で喚び出されたこの世界。そして自分をここへ招いたあの謎の声の言う、いずれ起こるであろう世界の異変。自分のマスターたるこの少女がその異変に巻き込まれる可能性は十分にある。故にランサーは選択を与えた。己の心に正直な子供だからこそ、真にその心の強さを見ることができると思ったから。

 無論、どんな選択をしようがランサーは彼女に従うつもりである。迫り来る追っ手から彼女を守る盾となること、彼女を監禁した者を殺す槍となること、そして自らの足で歩む彼女を支える従者となること。

 マスターであるりこの意思を尊重し、彼女のためにその槍を振るう。そう心に誓うランサーはただただ、マスターの下す結論を静かに待つ。

 

 

 

 そんな中、りこの心中は揺れていた。自分が選ぶべき道はどれが正しいのかと。そして同時に驚きもあった。自分がどの選択をするのかを迷っていることに。

 

(なんで私、迷ってるの……?)

 

 選択肢は二つ目一択、そう思っているのになぜかそれを口にすることができないでいた。選ぶべき選択肢はこれではないと、そう訴える本能的な何かがりこの口を閉ざしていた。

 幼くも、りこという少女は聡明だった。たとえ落ちこぼれだと言われようとも、彼女の理解力や判断力といったものは同年代の者たちと一線を画している。だからこそ、ランサーが己にこの選択を与えたその真意をなんとなくだが察している。このまま現実から目を背け逃げるか、それとも正面から立ち向かうか。

 後者は文字通り茨の道となるだろう。何の才も持たない自分では、相応の修練をする必要がある。それに力を手にしたからといって、あの男に勝てる保証はどこにもない。だが自分をマスターと呼ぶ男のこちらを見つめる瞳には、一切の揺らぎがない。

 

 どうして出会って間もない自分へ、そのような真っ直ぐな視線を向けることができるのか。そんな視線を向けられることに不慣れなりこは、妙な気恥ずかしさと胸の高鳴りから視線を逸らしてしまう。

 ……だが同時に決心もついた。

 

「私に、できるのかな……」

 

 目を逸らしながら問いかける。ランサーはそんなマスターの言葉に、待ってましたとばかりに口角を上げ

 

「それは君次第だ、マスター」

 

 短く、そう答える。その先に言葉は続かなかったが、その口振りから彼の言わんとすることを読み取る。愚問だと、聞くだけ無駄なものだと。己のマスターである自分にできないことなど、不可能などあるわけがないと。

 そう読み取った自分は少し自意識過剰なのかもしれない。けれど目の前の男はそう言っていると、どこか確信にも似た何かをりこは感じていた。

 

 ふぅ、とりこは一度息を吐き顔を上げる。その瞳には、もう一つの揺らぎはない。

 

「じゃあ……これからよろしくね、ランサー」

 

「ああ、こちらこそよろしく頼むぞマスター」

 

 選択はなされた。りこの出した結論に、ランサーはどこか満足そうな笑みを浮かべる。

 

「さて、マスターの方針が決まったところで次の話に移るとしよう」

 

 するとランサーはそう言い、その右手に槍を出現させる。話はあれだけだと思っていたりこは、突然槍を出現させたランサーを呆然と見つめる。

 そんなりこへランサーは槍を右手に握ったまま、その場に片膝をつき頭を垂らす。

 

「マスター、君を真の主として認める証に我が真名を教えよう」

 

 真名を教える。それはサーヴァントにとって信頼の証ともとれる行為だ。己の真名を教えることは自身の伝承、つまりは武器や技さらには弱点に至る全てをさらけ出すに等しい。

 

 ランサーは顔を上げ、その青い双眸がりこを捉える。今はまだ幼く未熟なマスターだが、将来はきっと素晴らしい人物となるだろう。

 ランサーは、静かに口を開き、己の名を語る。

 

「我が真名は『ロンギヌス』。英霊としては半端な身だが、マスターのためこの槍を振るうことを誓おう」

 

 

 ──『ロンギヌス』。それは聖書に記された、ある丘にてイエス・キリストを刺した聖槍の名と同一のものであった。

 

 

 

 

 





いかがだったでしょうか?

オリジナルサーヴァントの名が出ましたね。
多分いなかったですよね?これでいたら少し恥ずかしいのですが……。

さて、戦うことを決心したりこがこの先どうなるのか。

次話も気長にお待ちください!
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