怪盗少女の守り人   作:世間の窓

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第5話です。
オリキャラが出てきます!



第五弾 『いざイ・ウーへ』

「…………」

 

「これはまた、規格外な……」

 

 ボートに揺られること数分、ランサーと理子の眼の前には遠くに見えていた影がその全貌を現していた。それを目の前にした理子は口をあんぐりとさせ、あのランサーも苦笑を浮かべ茫然自失となる始末である。

 その影の正体とは全長300メートルを越えようかというほどの巨大な潜水艦。だがその見た目通りただの潜水艦ではなく、原子力潜水艦という原子炉を動力源とするものである。

 

「これがイ・ウーの拠点、原子力潜水艦『ボストーク号』です」

 

 想像以上の巨大さを誇る潜水艦に呆気にとられる二人。そんな彼らにリサはそう言うと、まるで迎え入れるように海面付近位につけられたゲートが開く。ゲートを通り潜水艦の内部へ入るとそこはボートの格納庫らしく、自分たちの他にも様々な種類のボートがある。

 

「では、これから『教授(プロフェシオン)』の元まで案内します。迷わないよう、リサについてきてくださいね!」

 

 そう言うと、リサは先導するように二人の前を歩く。彼女の背中に続くようにランサー、そしてその隣を理子が行く。

 

 艦内を歩く中、ランサーと理子は驚きっぱなしだった。まるで大図書館のような広大な書庫、太陽灯が光る植物園、様々な時代の動植物の剥製が飾られた博物館のような場所など、どれも“ここは潜水艦の内部か?”と思わせるようなものばかりである。

 そんなびっくりな作りをした艦内を歩くこと早十数分。ランサーと理子が行き着いた場所は、今までのような場所とは違い、殺風景なホールだった。文字通り何もない広い空間で、床はコンクリートで出来ている。

 そんな何のために作られたのかわからないホールの中央に一つ、いや二つの影が立っていた。それらに視線を向けたランサーは、一方の影を見て眉根を顰める。そこにいた人物とは、あの時お金を渡しにきたシルクハットの男だったからだ。

 

 ランサー達はホールの中へと入り、男と隣そのにいる少女の元へと向かう。そして互いの距離が数メートルまで近づくと、男の方から声をかけてきた。

 

「リサ君、案内ご苦労だったね。それとようこそ二人とも」

 

 にこりと微笑む男。彼の労いの言葉にリサは一礼すると、彼らの話の邪魔を得ぬよう脇へと移動する。

 

「さて、君たちがここへ訪れた理由はなんだい?」

 

「聞かずとも、私たちがここへ来た理由など検討がついているのだろう?」

 

 ランサーの言葉に男はただ笑顔を返すだけで答えない。その何もかもを見透かしたかのような笑顔にランサーは、はぁ、と溜息を吐く。

 

「私達はイ・ウーへ入るために来た……これでいいのだろう?」

 

「よろしい。イ・ウーへの加入を認めよう」

 

 ただし、と付け加える男。

 

「加入するにあたって、今から軽いテストを受けてもらうけど。いいかい?」

 

「テストだと……?」

 

 男の言葉にランサーはピクリと眉根を跳ねさせる。歓迎すると言っておきながらテストを受けさせるとはどういうことか、鋭く尖らせた視線はそう物語る。

 そんなランサーの視線を軽く受け流しながら男は言葉を返す。

 

「なに、ただ君たちの実力が知りたいだけさ。そのために、軽い模擬戦をしてもらおうというわけだよ」

 

 そして男は隣に立つ少女の背中を押し、ランサー達の前に移動させる。

 少女の見た目は白地に富士の柄が描かれた着物と紺の袴を着た中学生程度の女の子で、ショートカットの黒髪とクリクリとした黒色の瞳がより一層彼女の幼さを際立たせる。

 しかしその幼さとは裏腹に、左腰には白鞘に収められた刀が一振り下げられている。

 

「名前は石川(いしかわ) 八雲(やくも)君と言ってね。今回、君たちの相手はこの八雲君にやってもらう」

 

「相手って、この子が……?」

 

 男の言葉に返したのは理子だ。ただ彼女の言いたいこともわかる。見た目自分より少し上の子供が戦うというのだ。そう言ってしまうのも無理はないだろう。

 だが男は、さらに驚く事実を口にする。

 

「ああ、八雲君は見た目こそ幼いが、実年齢は18歳なんだよ?」

 

「え゛っ!?」

 

「ほう」

 

 驚く理子に、わずかに関心を寄せるランサー。そんな二人の反応をよそに、八雲は男へ言う。

 

「そんなこと今はどうでもいいだろ。そんなことより、本当にこいつらに勝ったら俺をイ・ウーに入れてくれるんだろうな?」

 

「……おい、これはどういうことだ?」

 

 八雲の口にした言葉に、ランサーは少し声音を低くし男へ問いかける。しかし男は相変わらずの涼しげな笑顔で

 

「なに、八雲君にも君たちと同じテストを受けてもらうだけさ」

 

 数秒、男と視線を交わし

 

「……いいだろう。そのテストとやら、私が受けるとしよう」

 

 そう言い、ランサーは一歩前に出る。

 見下ろすランサーと見上げる八雲。正面から対峙する二人は慎重さも相まって、大人と子供が互いに見つめ合っている図にしか見えないが、そこに漂う雰囲気はそんな生易しいものではない。

 

「悪りぃけど、テメェにゃ負けねぇぞ。俺はなんとしてもここに入らなきゃなんねぇんだ」

 

「ふん。目上に対するその口の聞きよう。どうやら少しばかり躾が必要なようだな、()()()()()?」

 

「──っ! この野郎っ……!」

 

 対峙して一言交わすだけでこの険悪ムード。八雲の方はどうやら挑発に乗りやすい性格らしく、ランサーの嘲笑とともに発せられた言葉を受け、額に青筋を浮かべている。

 なぜ出会って間もないというのに、ここまで険悪な雰囲気を醸し出せるのだろうか。そう思いながら、理子は二人をやや冷めた目で見つめる。

 

 そんな間にも二人の話は進んでおり

 

「ほら、テメェも得物を出せよ。それとも素手で戦うってか?」

 

「……すまないが、槍を一本貸してもらえないか?」

 

「ああ、いいとも……リサ君」

 

 男に指示を受け、リサはホールの中にある武器庫らしき場所から数種類の槍を持ってくる。ランサーはその中から一番手に馴染む槍を選び、八雲の前に立つ。

 

(そいつ)がテメェの得物か」

 

「ああそうだ」

 

 軽く言葉を返しながら、ランサーはその場で試すように槍を振るう。ヒュンヒュンと、穂先が空を切る鋭い音が鳴る。

 カツーン! 最後に石突きを地面に突き立て、甲高い音がホールに反響する。

 

 そしてそれは同時に、ランサーの準備が整ったということも表す。

 

「全力でかかってくることだ。こちらも相応の力で応えよう」

 

()かせ! すぐに参ったって言わせてやるよ‼︎」

 

 ランサーを睨みつつ刀に手を添える八雲。その構えは所謂居合の構えであり、ランサーは「ほぅ」と目を細める。

 

「その抜刀の構え、居合か」

 

「応とも! この剣閃、躱せるものなら躱してみろ!」

 

 その言葉を合図に、八雲は脱兎のごとく駆け出す。その速度は常人のそれよりも速く、瞬きの間にランサーとの距離を詰める。そして流れるような動きで鞘の中を滑らせるようにその刀身を抜き放ち

 

「疾ッ!」

 

 ランサーの首を狩るよう、その首元めがけて振るう。鞘から抜き放たれる磨き抜かれた刀身。それは光を浴び、またそれ反射させ眩い銀の光を放ち──一筋の軌跡を描く。

 対しランサーは八雲が刀を抜たというのにも関わらず、その場を微動だにしない。

 

(捉えた──っ!)

 

 相手は反応できていない。八雲は己の勝利を確信する──が、その刹那の時間にふと、一つの疑問を抱く。

 

 それは──

 

(俺を、見てる……?)

 

 ピクリとも動いていないランサー。しかしその青い双眸は確かに、八雲そして彼女が抜き放った刀の刀身を捉えていた。

 その底冷えするような、まるで深海のように暗い双眸、そして

 

(──ッッッ‼︎?)

 

 背中を走る激しい悪寒に視線を横にずらす。そこにはすでに、己の顔面を貫かんとする槍の穂先が──

 

「チィイッ!!」

 

 瞬時に振り抜いた刀の場所を変更し、槍と顔との間に滑り込ませる。

 キィイイン! 鉄と鉄がぶつかり合う音が鳴り響き、とっさの防御に入った八雲は勢いを殺せず横に吹き飛ばされる。

 

「──え?」

 

 その攻防が終わり、口を開いた理子から漏れでたのはそんな一言。理子の目には、今の二人の遣り取りを捉えることができず、気づいたらいつの間にか八雲が横に吹き飛ばされている、そんな光景が映ったのだ。

 それはリサも同じらしく、そのエメラルドの瞳をこれでもかと見開いていた。しかしシルクハットの男だけは、にこにこと笑みを絶やさぬまま二人の攻防を眺める。

 

「ほぅ……今の一撃、よく防いだな」

 

「たりめぇだ。テメェこそ、甘ったれたことしてんじゃねぇよ」

 

 睨みをきかせる八雲。

 

「あの時、力を弱めたろ。情けでもかけたつもりか?」

 

「なに、言動はともかく、愛らしい女性の顔に傷をつけるのはどうかと思ってね」

 

「ぁいっ!? テ、テメェなめてんのか!?」

 

 思わぬ言葉に頬を赤くする八雲は、その高い声をさらに上ずらせる。どうやらこの手の言葉には免疫が全くないらしく、先ほどまでの勇ましさが嘘のようである。

 しかし八雲は刀を鞘に仕舞い、それで心を落ち着かせたのかランサーへ静かに、しかし確かな圧を込めて言う。

 

「今度は手ぇ抜くんじゃねぇぞ。抜いたら本当にぶっ殺すからな!」

 

「とは言うがな。先ほどの君の一撃、あれは完全に私を殺すつもりで放たれたものだったと思うのだが?」

 

「あ、あれはちゃんと峰打にするつもりだったんだ!……ほ、ほんとだからな!?」

 

 見事に言い負かされ、再び顔を真っ赤にする八雲。「うーうー」と言いつつも、その手は抜刀の構えをとったままでいるのは流石というべきか。

 

「それより! さっさと続きやるぞ!」

 

「ああ」

 

 再び互いに構えを取り睨み合う。先ほどまでとは一変、両者一言も言葉を交わさぬ静寂に、理子は無意識に息を飲む。

 そして、次に仕掛けたのは

 

「はぁっ!」

 

 次に仕掛けたのもやはり八雲。先ほど同様一息の間に間合いを詰め、目にも留まらぬ速さで抜刀する。しかしランサーも先ほどと同じく槍による迎撃へと入る。八雲は先ほどとは違い、受け止めるのではなく刀身で槍の穂先をずらす。

 ずらされた穂先は八雲の顎下すれすれを通過し、防御の手段がなくがら空きになるランサー。八雲は腰に残った空の鞘を左手で握り、無防備な腹部めがけて振るう。

 

「ほぅ、だが甘い!」

 

 ランサーは八雲の顎下を通過した穂先の真下を右手で掴み、そのまま縦にして鞘を受け止める。

 

「知ってるよ!」

 

 だがそうなることも予想していた八雲は、右手の刀を逆手に持ち替えそのまま斜め上に振り抜く。それもバックステップで回避すると、置き土産とばかりに石突きを顎めがけて振り上げる。

 八雲もそれを躱し、左手の鞘へ刀を再び距離を詰める。得物の長さ(リーチ)が違う以上、相手の間合いでは戦わせないというわけだ。しかもランサーは槍を振り上げたばかりで迎撃する時間はない。

 

(今ならいける!)

 

 好機と見た八雲は開いた距離を徐々に埋めていく────だが

 

「だが、それは失策だったな」

 

 ランサーは槍を振り上げた勢いのまま背中まで持って行き、そして左手にパス。

 

(こいつは──!)

 

 八雲は未だ完全に距離を詰めきれてはいない。対しランサーの持つ槍は迫り来る八雲を射程圏内に捉えている。

 間合いとしては1メートルと少し。この距離では槍を躱せたとしても体勢を崩し追撃で終了。剣で防いだとしてもその後を防ぐ手段がない。

 

(だったら!)

 

 今まで以上に体を捻り力を込める八雲。彼女のその行動にランサーは警戒しつつも、槍を横薙ぎに振るう。

 

「っらぁああああ!」

 

 気合の込められた声音とともに放たれる一閃。それはランサーの槍とぶつかり合い拮抗する。

 

「……っ!」

 

 だがそれはわずかな間だけで、体格も力も違う両者では必然、八雲が力負けしてしまいそのまま吹き飛ばされる。

 地面を数度跳ねながらも、なんとか体勢を立て直そうと踏ん張り、なんとかバランスを元に戻すが

 

「これで終わりだ」

 

 眼前に突きつけられた槍先。それは己の敗北も突きつけるものでもあり、八雲は悔しそうに目を伏せ両手を力なく下ろす。

 

 それが終了の合図となり、この勝負は幕を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




初のバトルシーンでしたがいかがだったでしょうか?
うまく描けていたならいいのですが……。

では次話も気長にお待ちを!

感想等もお待ちしております!


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