第6話です。
((´・ω・`)さん、誤字報告ありがとうございました!
イ・ウー艦内。その中のあるホールにてテストという名の戦闘を行うこととなったランサーと八雲。結果はランサーの勝利。彼が突きつけた槍の先には力なく項垂れる八雲が。
ギリリ、とそんな音が聞こえてきそうなほど歯を食い縛る様は、悔しいという言葉ではとても言い表せそうもない。
勝敗が決したのを確認し、パンパンと手を叩きながらシルクハットの男は二人声を掛ける。
「うん、二人ともとてもいい戦いだったよ。とりあえずはお疲れ様、とでも言っておこう」
そう労いの言葉をかけながら、男は二人の元へと歩み寄る。その顔には相変わらずの笑顔が浮かんでいる。
そして項垂れる八雲を見下ろし
「八雲君も、そう落ち込むことはない。ほら、立ちたまえ」
そう言われ、八雲は刀を鞘に納めゆっくりと立ち上がる。しかしその表情は未だに暗い。
理由はわからないが、彼女はイ・ウーへ何が何でも入りたいといった風だった。しかしテストでランサーに敗北。落ち込んでしまうのも無理はないだろう。
地面を見つめたままの八雲を見てランサーは、はぁ、と溜息を吐く。何を思ってのものなのかわからないが、それを耳にした八雲は反射的に顔を上げる。そしてそのクリクリとした目をこれでもかと鋭くさせ、目の前に立つランサーを睨みつける。
八雲の手は仕舞った刀の柄へと伸び、傍目には今にも斬りかかりそうにすら見える。
「そろそろ彼女に本当のことを言って欲しいのだが。このままでは私が斬り殺されてしまう」
そんな八雲を尻目にランサーが男へそう言うと、気付いていたか、といった表情を浮かべる。対し八雲は、ランサーの口にした言葉の意味がわからず、柄に手を添えたままランサーと男の顔を交互に見る。
男はそんな八雲の反応を見て、くつくつと楽しそうな笑顔を浮かべ
「八雲君、君は何か勘違いをしていないかい?」
「勘違い……?」
男の言葉の意味がわからないのか、ただただポカンとする八雲。そんな彼女にランサーが付け加える。
「つまりその男は、初めから私達を入れるつもりだったということだ」
「じゃあ、今のテストは……」
「我々の実力を試すためのものだろう。本当に悪趣味な男だ」
じとっ、と半眼で男を睨む。
「その言い方は酷くはないかい? 僕は別に負けたほうは出て行って、なんて一度も言ってないと記憶してるのだが」
「ふん、ならば貴様の遠回しな口調をどうにかすることだ」
「辛辣なことだ。僕は君に嫌われるようなことをしたかい?」
言葉の節々に見える棘。そんなランサーに男は苦笑し尋ねるが返答はない。「つれないなぁ」と、本当にそう思っているのかわからない笑顔でつぶやく。
一方、哀愁漂う雰囲気に包まれていた八雲だが、
「なんだ……よかった……」
近づいてくるランサーへ理子も駆け寄り、はしっ!──その腰へ抱きつく。突然のことにさしものランサーも少し驚き、目を丸くし理子を見下ろす。
「怪我……」
「む?」
「怪我、してない……?」
少し潤んだ金の瞳に心配そうな声音で尋ねる。もちろん、ランサーはあの程度の斬り合いで怪我などするはずもない。だが理子からしてみれば、初めて見るであろう真剣での戦いだ。心配するのも無理はない。
そんな小さなマスターの頭に優しく手を置き
「無論だ。私は君のサーヴァント、そうやすやすと負けたりなどはしない」
これまた小動物を扱うがごとく優し手つきで撫でる。頭に感じる暖かさに、理子は気持ちよさそうに目を細める。
「おやおや、これはまた仲睦まじい光景だ」
「ふふっ、まるで親子みたいですね」
そんな二人を端から温かい眼差しで見る男とリサ。
それからしばらくし、ひとしきり撫でられた理子はランサーから手を離し、抱きつくのをやめる。今の間に八雲も落ち着いたらしく、立ち上がりランサー達の一部始終を見ていた。
「さて、それでは自己紹介といこう。僕も君達も、互いが誰か知らないからね」
とは言っても、そう付け足す男。
「おそらく、君達は僕を知っているだろう。だがしかし、この場で相見えるのは初めてだからね。名乗らせてもらうよ」
またもや、その遠回しな口調で告げる。しかしその佇まいは気品と威厳に溢れ、理子は思わず息を飲んでしまう。
しんと静まりかえるホール。この場にいる誰もが口を閉ざし、ただ目の前の男の言葉を待つ。そして男は満を時してとばかりに嬉々とし、己の名を告げる。
「僕の名前はシャーロック・ホームズ一世。かつて、そして今も世界最高の名探偵と呼ばれる者であり、イ・ウーをまとめている者だ」
シャーロック・ホームズ。数々の難事件を解決してきた名探偵。世界中の誰もが知る、世界を股にかける男だ。しかしシャーロック・ホームズとは約百五十年以上も昔の人物。だというのに、この男は己のことをその初代シャーロック・ホームズだというではないか。
告げられた男の正体とその衝撃の事実に、理子とどうやら聞かされていなかったらしい八雲が目を丸くする。ただランサーは、男──シャーロックを静かに見つめる。
無反応なランサーにシャーロックは「おや?」と首をかしげた。少なからず、これまで出会ってきた人は皆、己の正体を知った時はその驚きの感情を露わにした。そこに個人差はあったものの、表情一つ変えないといった人物は……はてさていただろうか。
「二人と違って、君は驚かないみたいだね」
「なに、過去の英雄などといった存在は聞き慣れているんでね。それでも驚きはしたが、別段顔に出すほどではなかったというだけの話だ」
至極当然と、唇を真一文字に結んだ仏頂面はそう語る。聖杯戦争では神話やら伝承やらといった、数多くの伝説を残してきた英霊達と争うことになるのだ。たかだか一人の長生きの人間ごときに驚いていては身がもたない。
それでも、ただの人間でありながら百五十年以上を生きているということに関しては、少なからずは驚いたことは事実である。
「初めて会った時もそうだったが、なにかと僕を楽しませてくれる。実に興味深い人だよ、君は」
いったいなにが楽しいのかくつくつと笑うシャーロックに、ランサーは眉根を顰め怪訝な顔をする。しばらくして、笑いの波が収まったシャーロックは「さて」と切り出し
「いつまでも君、君、と呼ぶのは失礼だろう。さぁ、君たちの名前を教えてもらえるかな?」
次はランサーと理子に自己紹介を求める。視線が一転、シャーロックから二人へと移り変わる。その視線を受け、先に名乗ったのはランサー。
「私の名前はランサーだ。先の戦闘を見てわかったと思うが、槍を得意としている。そしてこっちが……」
「私は、峰・理子・リュパン四世」
次いで理子が名乗り終え、短いがこれで二人の自己紹介は終了となる。
『ここでは何をするも君たちの自由だ。とはいえ今日は夜も遅い。部屋でゆっくりと休むといい』
あの後、シャーロックに一つずつ鍵を手渡されたランサーと理子。どうやら二人は別々の部屋で暮らせということらしい。
「別々の部屋か。私は一向に構わないが、理子は大丈夫か?」
鍵と一緒に手渡された地図を見つつ、鍵に書かれた番号の部屋を目指す。そんな中、ランサーにそう聞かれた理子は小さくうなずき返し
「うん、それぐらい平気だよ」
小さく笑みを向け、トコトコとランサーの先を歩く。その先には一つの扉があり、地図を見るからにその奥が部屋になっているらしい。
扉を開くと、その先に広がるのは幾つもの扉。それはさながらホテルのような光景だ。確かにこれほどの規模の潜水艦ともなれば、人員の部屋の規模は相応に大きくなるだろう。
「ふむ、ここか……」
ある一つの扉の前で立ち止まるランサー。そこにはめ込まれた金縁の板には、己の手渡された鍵と同じ『302』の番号が書かれている。理子も自分の部屋を見つけたらしく、二つほど離れた扉の前に立っていた。
ランサーの視線に気づいた理子は、顔だけを向けると
「じゃあまた後でね、ランサー」
そう言い、ドアノブに手をかけ部屋の中へと入っていった。理子が部屋へ入るのを確認したランサーは、己も部屋へ入ろうとドアノブに手をかけ扉を開く。
扉を少し開けたところで、部屋の中に一人の気配を感じ取るランサー。どうやら一人部屋ではなく相部屋ということらしい。
「失礼する。この度、同室で過ごすこととなった者だ。よろしく頼む」
そう定型的な挨拶をし入室する。部屋の中には、ショートカットの黒髪と特徴的な藤柄の着物。後ろ姿だが、ランサーはそれが誰なのかを一瞬で把握し──心の内で溜息を吐いた。
「ん? ああよろしく。と言っても、俺もついこの間来たばかり、だか…ら……」
気さくな感じで返しながら振り返る目の前の人物。クリクリとした黒い瞳にその幼い顔立ち。
「なっ、ななななんでテメェがここにいんだよ!?」
彼女──石川 八雲は驚愕で瞳をさらに見開かせ、絶叫した。
(ああ、私も同感だよ……)
言葉にせず、思うだけで止めるランサー。ここでこの言葉を口に出してしまえば、さらに面倒臭いことになるのは確実。これ以上余計なことに気を使いたくないので、八雲の絶叫を流しつつ部屋の奥へと進んでいく。
部屋は広く、二人で過ごす分には何も不自由な点はない。それどころかちょっとしたキッチンや冷蔵庫、そして大きなクローゼットなどもあり、ホテルというよりは高級アパートと言い換えた方が良いのかもしれない。
ギャーギャーと、未だに叫び声をぶつけてくる八雲をスルーしつつ、ランサーは部屋の造りを一通り確認する。
「おい! 無視してんじゃねぇよ!」
「そう騒ぐな、子供に見えるぞ……っとすまない、子供だったな」
「子供じゃねー! 俺は18だ!」
ブンブンと頭上で両手を腕を振る八雲。その動き自体が子供っぽさを増大させているのということは、彼女自身は知らぬ方が良いだろう。
「それで、これはどういうことだ? 説明はしてくれるんだろうな」
「あ? 何言ってんだ?」
不意に振り返ったランサー。そしてその問いに八雲は首をかしげる。しかしランサーの視線が捉えていたのは八雲ではなく、その後ろに佇む人物にであった。
「ああもちろん、そのつもりだよ」
八雲の背後、扉の方から声が聞こえ振り返ると、そこには笑顔を浮かべたシャーロックが立っていた。
いつの間に、八雲はまるでずっとそこにいたかのように立っているシャーロックに疑問を抱く。そんな八雲を
「ここでは一人一人が先生であり生徒なのだよ。互いの持つ技術を教え合い、高め合っていく。才を持つ者たちが集う学び舎、それがここ、イ・ウーだ」
「教え合い高め合うか……」
イ・ウーに集まるのは天賦の才を持つ者達。そして集まった者たちは互いに自らの持つ技術を教え合い、その強さを増していく。それに上限などなく、限りなくどこまでも続いていく。それこそ神の領域にまで……。
シャーロックの話を聞き終えたランサーは腕を組み、聞いたことを頭の中で整理する。
「……
だが、とランサーはそう付け加え
「私が聞いたのは、なぜ彼女と同室なのかということだ。まさか面白半分、というわけではないだろう?」
「はははっ、僕がそんなことをするような人間に見えるかい?」
「ああ、残念ながらな」
無表情かつ無感情な声音で答えるランサー。こうも淡白に返されてしまってはさしものシャーロックも苦笑い。どうやら相当嫌われてしまったようだ。
ランサーはシャーロックという男を警戒するに足り得る人間だと認識している。抱く想いは嫌い、というよりは気味が悪いと言った方が良いだろう。
目の前の男、その身から感じる何か。きっとその何かは、英霊にすら一矢報いるほどの力であるはずだ。
そんな掴み所のないシャーロックの在り方を、ランサーは無意識の内に警戒していた。
(英霊として
「どうしたのかな、ランサー君。何か悩み事でもあるのかい?」
シャーロックの問いに「なんでもない」と、そう返すランサー。そのニコニコの笑顔の向こうでは、いったいどこまでを見透かしているのか。
一拍の間を置き、シャーロックは再び口を開く。
「君たちを同室にした理由は実に単純なものだよ。ランサー君、ここにいる間 君には八雲君の上司になってもらいたい。彼女を一人前に鍛えてあげてくれ」
「は……?」
「ほぅ……」
ぽかんと口を開ける八雲。ギロリと、その青い瞳を鋭くさせるランサー。反応は違えど、二人が思っている事は同じ。
ランサー達の反応に、シャーロックはさらに笑みを深める。非常に楽しそうだとわかる笑顔である。
「それじゃあ、僕はここで失礼させてもらおう。八雲君、彼からしっかりと学ぶことだ。それはきっと、君のこれからに役立つはずだからね」
そう言い残し、シャーロックは部屋を後にする。
残された、というかこれから共に過ごす事になった二人は、一瞬だけ視線を交差させると
「チッ、テメェが上司だとか死んでもごめんだぜ」
「同感だ。私とて、君のように手のかかりそうな者が部下など御免
その間にはバチバチと、見えない雷が迸っているようで……。
なぜこの二人を上司と部下の関係にしたのか。その真意がわからない八雲は、ただただシャーロックに怒りを抱く。そしてランサーもまた、小さく溜息を吐くと行き先に一抹の不安を覚えるのだった。
いかがだったでしょう?
八雲の上司となったランサー。
さてさて、この犬猿の二人はこれからどうなるのか?
次話も気長にお待ちください!