魔界とのリンクが切れ、世界は魔界との境目をなくしてしまった。
そんな中、いつもと様子の違うヒルダが現れた。
ヒルダは、本来望んでいた世界を目にし、何を思うか?
べるぜバブの二次創作です。

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べるぜバブの二次創作です。
稚拙な文で申しわけありません。


「形」

今日も至って平穏な1日だった。

 

男は右手に刻まれた特徴的なタトゥーもといその既に見慣れてしまった紋章。

又の名を「蝿王紋(ゼブルスペル)」をちらつかせ、のんびりと石矢魔(いしやま)の町並みを散策していた。

 

 

「なぁ、今日で何匹目だ?」

 

「アーイ」

 

 

その男が上を見上げ、退屈そうな口調で

空を浮遊する異生物を凝視していた。

 

男が声を上げると同時に

背中に乗っているーー全裸の赤ん坊

がより赤ん坊らしく合いの手を加える。

 

その赤ん坊といったら

空をまるで遊園地かのようにキラキラと

輝かしい碧眼をして眺めていた。

 

男は首に手を当て、コキッと鳴らすと

浅いため息のあと、軽く屈伸運動をする。

 

 

「なぁ、”ベル坊”。すまんが、壊すぞ」

 

 

そう言うと男の足元に蒸気のような

白い煙が生まれる。

 

高温であるかのように足に尋常ではない力が蓄積されていくと、男は跳躍した。

 

ーー数十メートル上空までに駆け上る。

 

 

 

「……喰らっとけ、”減り込みパンチ”」

 

 

彼の代名詞とも言える必殺技の名前を口にすると、空を漂っていた異生物の1つに

右腕の拳を食らわせる。

 

異生物は潔く地に落ちた。

その際、崩落してしまった建物があったが

今になっては関係なんてない。

 

 

「はぁ……このアホアホ大魔王が」

 

 

 

ーー空には無数とも言える異形の生物たちが席巻していた。

 

そのどれもが、地球上には存在しえない

醜悪なもので、主に【ヴラドの魔境】から

迷い込んだ魔物らしい。

 

 

 

その魔物たちは、つい1週間前

この世界と魔界とを繋ぐ”リンク”が一体化したせいで人々の前に姿を現した。

 

そして1週間後には

世界は無尽蔵に沸く魔物により

人類は破滅の危機に瀕していた。

 

 

そして、石矢魔の救世主であり

史上最強の不良と世界中で伝説化された

男ーーー男鹿辰巳(おがたつみ)は今。

 

魔界とこの世界とのリンクの根源を

探している真っ最中だった。

 

 

「せめて、んまい棒が食いてえな」

 

 

男鹿は今起こっている惨状が果たして

現実のものなのか、まだ納得がいっていなかった。

 

だからなのか、関係のないことで気を紛らわそうにしている。

背中にいる赤ん坊にでも気負いさせたくないのもあったのかもしれない。

 

 

事態は1週間前へと遡る。

 

 

 

 

 

ーーパリィィィィン

 

 

久しぶりに、リビングのガラスが盛大に割れる音が聞こえる。

 

 

「お、おい」

 

 

慣れているとはいえ、家のガラスが割れるのに耐性がついてしまいたくはなかった。

 

男鹿はいつも通り(?)

魔界からの郵送で届いたダンボール箱

を受け取る。

 

 

「それでは失礼しやsーーー」

 

「おいこら待てやアホヒゲ」

 

 

立ち去ろうとしている、ガラスを割ったくせに無骨にも郵送のやりがいを見出してしまっている女の胸ぐらを男鹿は掴む。

 

 

「あのな、怒られんのは俺なんだぞ?月に一回の家族会議の原因がコレだ、どうしてくれんだ」

 

「へ、へぇ、知らないでやんすよ」

 

 

「……お前のせいで窓ガラスの入れ方分かるようになっちまっただろうが、いらんステ振りさせてんじゃねえよ」

 

 

そう言うと男鹿は、ばっと手を離した。

と、意外とあっさりとした対応に郵便配達の少女は首を傾げる。

 

 

「あれ?今日はやけに優しいでやんすね」

 

 

「あぁ、まぁな。いいから荷物置いたら消えろ、特別にガラスは免除してやるからよ」

 

 

「優しい通り越してキモいでやんす」

 

「残念語尾が何言ってやがる、いいから消えろ、じゃねえとゼブルブラストかますぞ」

 

 

今日の男鹿は気持ちが悪いほど優しかった。

と言うのも、男鹿には少しだけ嬉しいことがあったのだ。

 

郵便配達の少女が居なくなるのを最後まで見届けると、男鹿は届いたダンボール箱を開けていく。

 

ビリッビリッと開けるのに雑な性格がこんな所にも表れていた。

 

 

そして中からケースのようなものを取り出すと男鹿はこれまでにない明るい顔を見せた。

 

 

「や、やったぜーーーーーーっ!!!」

 

 

歓喜に沸く男鹿に

ベル坊が興味津々になって近づいてくる。

 

 

「お、ベル坊。これが何かって?……はははっ!! これは去年俺が買いそびれてそのままどこにも売ってなかった”オワラヌファンタジーⅧ”のパッケージだぜ!実は続編の新作がよ、Ⅷがなきゃ全然分からねえって古市が言っててよ、借りたかったんだが貸してくんなかったから魔界で注文したぜ!」

 

 

 

ーー魔界は、人間のいる世界より少しほどゲーム機などが古かったりする。

 

その為、男鹿は一昔前欲しかったゲームソフトなら買えるのでは、と魔界に注文したのである。

 

我ながら孔明ばりの奇策に鼻を天狗にさせる、男鹿。

 

 

ついに右手に持ったそのゲームソフトを

上に掲げている始末だ。

 

 

と、その右手に持ったゲームソフトに

何かが突き刺さる。

 

顔を上げてみると、丁度ディスクが入っているであろう場所に仕込み刀が貫通していた。

 

 

「って、うぉおおおおおおおおおおおおお!!!?」

 

 

絶叫する男鹿。

だが重い届かず、ディスクは木っ端微塵に

なってしまう。

 

半ば泣きべそをかく男鹿。

そんな姿を見下すような眼光で牽制する

女性がいた。

 

 

「ーーおい男鹿(ドブ)。魔界をア○ゾンかなんかと勘違いしておらんか?」

 

 

冷淡な口調と文字どおり残虐な

振る舞い。

 

黒のゴスロリは夜目につくと

一段とドス黒さを増す。

 

 

金髪巨乳の美人マカ”オ”人だと

家族の皆は思っているようだが実際は

マカ”イ”からベル坊の侍女悪魔として

使いとされた者である。

 

故に世界を滅ぼしかねない

一族の関係者ということになる。

 

誰もが憧れ、あんなことやそんなことを

考えてしまうような色っぽい女性だが、、

 

そんな事実があろうと

彼女の色々な面での残念さを見れば

「ー」を加法され、もれなく幻滅するだろう。

 

 

そう、皆さんご存知の通り

ヒルデ・ガルダーーヒルダさんである。

 

ヒルダは眉間にしわを寄せ

男鹿を睨みつける。

 

 

「貴様、持っているゲーム全て差出せ。

今宵は解体ショーでもしよう」

 

 

「や、やめろ!! 俺にだって楽しむ権利とかーー」

 

 

「ない」

 

 

 

その一言で片付いてしまう。

それがヒルダの貫禄でもあり、ベル坊の母役として十二分に発揮されている素質でもある。

 

 

さて、男鹿家は今日も賑やかである。

居た堪れないのか、男鹿はおもむろにテレビをつけようと、リモコンを握る。

 

 

「おい、坊ちゃまは”おじいさんといっしょ”を見たいと所望しておられる。早く変えんか」

 

「まだコイツ何も言ってないだろ!?」

 

 

すると足を組み、紅茶を嗜むヒルダからまたしても睨まれてしまう。

 

 

「あ、分かったぞ。お前アレだろ?お前が見たいんだろ?」

 

 

「は、?」

 

 

ニヤリと男鹿の口角が上がる。

ーー前から気になってたんだ。

実はこいつは教育番組が好きな

脳内チルドレン((複数))かも知れねえってな。

 

ちなみに、男鹿から

ヒルダを煽ることはあまりなかったため

興味本位もあったのかも知れない。

 

ヒルダは顔を歪めると硬直していた。

 

 

「き、貴様…何が言いたいのだ?」

 

 

「はっーー。良いんだぜ?俺もそういう時あったからなぁ、あ、3歳の時ですけどねーwww」

 

 

反撃のできないヒルダなんて久しぶりだ。

珍しさと面白さについ歯止めが効かなくなり、必要以上に口撃を加える。

ーー止められない止まらない理論である。

 

すると、はじめは冷血を装っていたヒルダの顔にほんのりと染まるものが見えた。

 

 

「貴様…」

 

 

「お前ほんと面白えな。そんな顔するんだな」

 

 

気づけばヒルダの顔が赤面している。

頬を赤らめ、恥ずかしいのか怒っているのか

分かりづらい表情でもあった。

 

 

ふんとヒルダは

鼻を鳴らすと、どこかへ行ってしまった。

 

 

はじめは簡易的な家出のようなものだと思った。なぜなら、これまでもそんなことなんて沢山あったからだ。

 

が、それが1日2日続いたときは

珍しく心配するようになっていた。

 

そして3日目。

例の事件が起こる。

 

 

 

 

「ベル坊、ここらへんか?」

 

 

リンクを探すのには魔界のベル坊が居たため、至って手間は要らなかった。

 

だが、問題はリンクをどうやって閉じるか

についてだ。

 

 

今、男鹿は知恵を引きちぎるように

悩んでいた。

 

 

目の前にぽっかりと空いた穴のようなもの。

だが、野球場に存在したソレは

その球場いっぱいに広がっていた。

 

今も時空間が震えている。

また、魔界の生物たちが姿を見せるのかも知れない。

 

 

「ーーおい」

 

 

頭を抱えている男鹿の後ろで声が上がった。

 

 

「ん。あれ、ヒルダじゃねえか」

 

 

ヒルダが居た。

いつも通りのゴスロリを着込んでいる。

 

 

「なぁヒルダ、これどうしたらいい?こんなデカイ穴の閉じ方なんてあんのか?」

 

 

素っ気なく聞いてみただけだった。

ふとヒルダの顔を見ると、その瞳の目が合う。

 

 

「な、なんだよ」

 

 

「む…なんだ?」

 

 

まるで聞いていなかったような面持ちである。男鹿はため息を漏らしながらも、もう一度同じことを話す。

 

 

「だから、この穴ってどうやったら直るんだ?」

 

 

穴からは風が吹いていた。

まるで地獄の蓋を開けたような感じだった。

 

たくさんの彩色に形作られた

穴の中は、割れるおじさんをも思い出す。

 

ヒルダは口をゆっくり開ける。

出かかっている言葉と理性が拮抗しているように見えた。

 

 

「ドブ…いや男鹿」

 

 

「なんだよ改まって」

 

 

バツが悪そうな顔をしている。

彼女の心の中で今、葛藤が起こっている。

そんな様子をベル坊は心配そうに見つめている。

 

 

「おいヒルダ?」

 

 

いつものヒルダらしくない。

男鹿は、そんな奥手になっているヒルダの両肩をかしっと掴んだ。

 

微かだが

ヒルダの力が弱まっている。

 

 

「お前、何か言いたいことでもあんのか?」

 

 

「な…私は別に…」

 

 

尚もあやふやに流そうとする

ヒルダ。目を逸らそうとするその顔を

今度は手で抑える。

ヒルダにどうしても正面を見てもらうためだ。

 

 

頬にその手が触れる。

その頬は確かに温かかった。

 

 

「おい、俺はバカで鈍感でアホだがよ、お前が今困ってるってのは十分に分かった。だから隠すことなんてねえぞ」

 

 

男鹿は目の泳いでいるヒルダを

まっすぐを見つめた。

 

目が合っては逸らす。

逸らしては目が合う。

 

 

焦らし合いがヒルダの固い壁を崩していた。

 

 

「私は……」

 

 

と、そんな時穴から遂に来訪者が現れる。

 

 

ゴゴゴゴゴ

 

別漫画である。

そんな音が聞こえてきそうな地鳴りが

球場周辺を包み込んだ。

 

 

「こ、こいつは…ッ…」

 

 

あぁ、”ゴルゴンゾーラ”だ。

 

そう、ゴルゴンゾーラである。

魔界怪獣としてこれまで登場しては

存在感を放っていた、アレである。

 

ちなみにその登場頻度はベヘモットの手下であるヘカドス並と言っても過言ではないだろう。

 

 

「ちっ……下がっておれ、私が倒す」

 

 

仕込み刀に触れるヒルダが

目を血走らせる。

 

だが、そんなヒルダの肩を男鹿は掴む。

目を丸くさせたヒルダに男鹿は首を横に振った。

 

 

「なぁヒルダ、あの怪物ってよ、今頭しか出てないからあれだが、胴体はもっと大きいよな」

 

 

「な、何を考えているのだ…?」

 

 

男鹿はベル坊に合図を出す。

右手の蝿王紋が赤黒く輝く。

 

 

「よし、これならイけるぞ」

 

 

「なっ…」

 

 

男鹿は跳んだ。

そしてゴルゴンゾーラの頭の上に乗っかると

その頭に拳をつける。

 

 

「行くぜ…? …ッラァァッ!!」

 

 

拳がゴルゴンゾーラの頭に減り込む。

すると、電撃がその身体に響いた。

 

 

電撃により、ゴルゴンゾーラは体の融通が利かなくなる。たちまち体の動きは止まり

まるで石化したかのように硬直を余儀なくされる。

 

 

「なぁ、ヒルダ。これならいい”蓋”になると思わねえか?」

 

「き…貴様…」

 

 

理屈は簡単だった。

水分を蒸発させたことにより

全長100mはあるだろうゴルゴンゾーラの骨格”のみ”を残した。

 

いわば、巨大な骨により

穴を塞ぐ役割を作ったのである。

 

 

男鹿はゴルゴンゾーラの骸から降り、ヒルダの元へ近寄る。

 

ヒルダも近づいていく。

 

 

「全く……貴様は頭がいいのかバカなのか……」

 

 

「いや、馬鹿だぜ。お前らと出会ったのも、まぁ馬鹿だったからな」

 

 

 

初めて会った時のことを思い出した。

ヒルダは”ある男”をよく覚えている。

 

 

極悪非道で、残虐で、人を人とも思わない

最強の不良が。

 

だがそれでいて、他人行儀などなく

誰であろうが捻くれた神経でも人助けをしようとする、不良が。

 

赤ん坊を背中に乗せ

ガラガラを握り。

不格好な姿ではあったが

彼は彼自身のセオリーと道を進む、

まっすぐで青臭いーーそんな不良を。

 

 

「なんだ?」

 

 

「あぁ、いい極悪面をしていると思ってな」

 

 

ヒルダは心からその不良を信頼している。

言葉にこそできていないが、彼には色々と失望したり、驚いたり、笑ったり、泣いたり

そして、”形”こそ違うがーー母親としても。

 

 

「なぁ、これからどうする?」

 

 

男鹿は荒れ果てた地平線を見つめた。

そこにはまだ、分からないことでいっぱいだ。でも、何故か今は安心できた。

 

自身の主君も

彼の背中で過ごすことに

一切の躊躇いなどなかった。

 

誰もが尊敬する

ならず者。

 

主君の小さな背中はそう雄弁に語る。

 

だから、今胸の内に秘めている

気持ちを言えるかもしれない。

 

今、こうやって”形”が存在している

ことだからこそ、言わなくてはいけない。

 

だからーー

ーーだから。

 

 

 

「貴様に委ねよう、”辰巳(たつみ)”」

 

 

「た、辰巳? あれ、ヒルダさん?」

 

 

「うるさい、行くぞ」

 

 

ヒルダは男鹿の背中に乗っている赤ん坊を

自身の胸に抱き、彼より前に歩く。

 

 

そう言って

今日も想いを伝えることはできなかった。

焦れったいが、このこそばゆさこそ

ある意味”形”なのかも知れない。

 



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