DLC第二弾まで待てなかったよ……
嘗て暗黒だった世界に火を見出し、安寧の時代を見出した薪の王グウィン。その現物とも呼べる火の力を帯びた巨大な螺旋状の剣の切っ先が、目の前に立つ、下級騎士の防具に身を包んだ男、『火の無い灰』を貫くべく、勢いよく突き出された。
殆ど密着した距離から放たれたこの攻撃を避ける事が叶わないと判断した灰は、せめて体を貫かれる事だけは避けようと、左手に持っていた騎士の盾を咄嗟に構えた。
刹那、金属同士がぶつかる音と共に凄まじい衝撃が灰の体を襲い、灰が小さく呻き声を上げる。堅牢な金属の盾を持ってしても螺旋剣の一撃を完全に防ぎ切ることは叶わず、螺旋剣から発せられる炎とその熱が盾を容易く通り越し、灰の体をチリチリと焦がした。
並の人間であれば骨を砕かれ死んでいるであろう一撃を盾に受けながらも、灰は全身に力を込めて何とか堪えきると、地を蹴って素早く後退する。灰はそのままの姿勢で硬直している化身からなるべく距離を取ると、腰のポーチから黄金色に輝く液体の入ったエスト瓶を取り出し、中の液体を幾らか口に含み、そのまま飲み込んだ。すると、炎によって焦げ、焼け爛れた灰の皮膚がまるで時を戻すかのように一瞬で消えて行く。
中身の一割ほどを失ったエスト瓶をポーチに戻した灰は、螺旋剣の炎を大きくしながらこちらへ向かってくる化身を、鞘から愛用のロングソードを引き抜きながら見据えた。
助走を付けながら縦に振り下ろされた螺旋剣の一撃を、灰は横に転がって回避。転がりざまにその脇腹へロングソードを突き刺し、そのまま横薙ぎに振り抜く。
切り裂かれた化身の脇腹から炎が噴き出される。怒りを体現しているかのような、激しく、そして熱を持った炎だった。
痛みなど意に介さぬような挙動で化身が螺旋剣を両手に持ち、右へ左へと振り回す。炎の尾を引きながら迫るそれを、灰は何度も地面を転がってやり過ごし、ひたすらに攻撃の機会を伺っていた。
しかし化身は嘗て火を継いだ古き英雄達の集合体。意図して決定的な隙を見せるほど、そのソウルは愚かでは無い。最後の攻撃で左手を剣から離すと、離した左手を天に掲げ、巨大な雷の槍を作り出し、地面へと打ち下ろす。
人間の聴力など簡単に奪ってしまえるほどの轟音と共に、衝撃が周りを襲った。化身の周囲は未だにその力が残っているのか、雷が小さく地を這っている。
果たして、灰は未だ健在であった。片膝をつき、肩で大きく息を整えているものの、その甲冑に目立った損傷は無い。
否、その容姿に僅かな変化があった。先程まで持っていた騎士の盾よりも一回り大きく、派手では無いが装飾が施された金属製の盾を左手に装備していたのだ。
――すぐ出せるように予めソウルとして仕込んでおいて良かった
呼吸を整え、立ち上がりながらロスリック騎士の盾を見やる灰。彼が使命を覚え、旅を初めて間もない頃に手に入れた武具の一つであったが、嘗て竜と共に在り、それ故に竜狩りの武具たる雷に対して並外れた耐性をもつロスリックの武具は、気の遠くなるような長い年月を経てもその性能を鈍らせずに有り続けてくれていた様だ。
雷の杭を打ち込んだ姿勢からノロリと体勢を立て直そうとする化身に対し、お返しと言わんばかりにロングソードを縦横に振るう。神々の鍛冶素材としてその存在すらも疑われた強化素材、楔石の原盤を用いて強化された剣は、炎の熱にも弱ることなく化身の体をいとも容易く切り裂いていく。
何度か切り付けた所で、漸く化身が全身から炎を噴き出して灰を遠ざけた。素早く後ろに転がって距離を取った灰が、先程の雷の分も含めてエスト瓶を飲む。
対する化身は外見を見ると、既に満身創痍であった。悠然と立ってはいるものの、無数の傷口からは弱々しいが、まるで血の如く炎が噴き出されている。
化身が右手に持った螺旋剣を大きく引きながら駆け出した。恐らくこれを最後の攻撃とするつもりなのだろう、死の一歩手前とは思えぬ凄まじい突進力である。
対する灰はロングソードを両手に持ち、ロングソードを顔の横にピタリと付けながら刀身を水平に保つと、その切っ先を化身に向け、動かずに構えていた。化身の攻撃を迎え撃つつもりなのだろう。
化身の剣が灰の頭を突き砕く直前、構えの姿勢を保ったまま灰が右足を深く踏み込んだ。重心の位置が前へと移動し、灰の頭が沈む。
化身の剣が空を突き刺した。下級騎士であることを示す兜が砲弾のごとく突き出された化身の剣に接触し、灰の頭を離れて宙を舞い、灰の素顔が露わになる。
自身の眼前に近づいてくる化身の体を、灰はやけに遅いと感じた。同時に、灰がこれまで旅した場所や強敵、道中で出会った不死人達との思い出が走馬灯のように脳裏を次々と過ぎっていく。
そして灰は、水平に構えた剣をかち上げるように化身へと突き出した
鈍い音、確かな手応えがあった。突き出されたロングソードは化身の胸、人間であれば丁度心臓が存在する位置を掻き分け、貫いている。
化身の動きはピタリと止まっていた。傷口からあれほど勢いよく噴き出ていた炎さえも、まるで死火山の様に静かになっている。
ズルリ、と化身の胸から剣を引き抜くと、呆気なく化身は倒れ込んだ。その傷口からこれまで見た事の無い量のソウルがとめどなく溢れ、灰の体へと吸い込まれていく。強大なソウルが流れ込んだ事で、灰は自身の存在が一際大きくなった事を感じていた。恐らくこのロスリックで灰に勝るソウルの持ち主は存在しないだろう。
化身を倒し、灰が初めて感じたのは『静けさ』であった。燃え盛る炎の音も、吹き荒む風の音すらもここには存在しない。何も無い、ただの荒野。虚無感すら感じるこの場所に、灰は僅かな不気味さを感じた。
ーーこんな場所で、彼らは次の火継ぎを待っていたのか
既に灰となってその肉体を失った化身が倒れた場所を見て、少し離れた場所に落ちていた兜を再び被り直しながら灰は考えた。このまま火を継いでも、結局自分や薪の王のような生贄が増えるばかりでは無いのか。いつだったか祭祀場の火防女が言ったように、ここで火継ぎを終わらせる事こそが、自分の本来の使命なのではないか。
灰は心を決めた。自分、そして旅の中で出会い、そして死に別れた多くの不死人達のような思いを、他の不死人達にさせる事の無いようにと。不死の呪いも、亡者に怯える必要も無くなる様にする為にと。
火継ぎの為の篝火、そのすぐ近くに浮き出ている白い文字に触れ、火防女を呼び出す。
呼び出された火防女はそのまま真っ直ぐ始まりの火へと向かい、まるで掬いとるかの様に火防女が篝火の炎を手に取ると、途端に周囲が暗くなり始める。弱っていた始まりの火が遂に消え始めたのだ。
ーー始まりの火が消えていきます
ーーすぐに暗闇が訪れるでしょう
火防女の言葉を聞きながら、灰は黙ったまま始まりの火が消えていく様を眺めている。その顔には、微かな達成感と哀れみが浮かんでいた。
ーーそして、何時かきっと暗闇に小さな火たちが現れます
ーー王たちの継いだ残り火が
もう殆ど周りが見えない。辛うじて分かるのは、消えかけた始まりの火を抱いている火防女の姿と、その光を受けている螺旋の剣だけだった。しかし、それも直に見えなくなるだろう。
ーー灰の方、まだ私の声が 聞こえていらっしゃいますか?
聞こえているさ。灰は穏やかな声で言いながら篝火へと歩み寄り、地に突き立てられていた螺旋の剣を静かに引き抜いた。この後に不死人がここを訪れても、火継ぎを行うことが出来ないように。
音も光すらも無い暗闇の中、最初の火の炉に一つのメッセージが浮かび上がった。しかし誰も居ない荒野で、それに気が付く者は居ない。
『炎の導きのあらん事を』
キャラクター紹介
『火のない灰』
素性:騎士
SL:140
ステータス
生命力:35
集中力:15
持久力:40
体力 :37
筋力 :40
技量 :35
理力 :10
信仰 :10
運 :7
性別:男
年齢:若年
体型:標準 筋肉質
顔:平民顔
平民出の若い下級騎士。生前は実戦経験も無く、隣国との戦争時に矢傷が原因で死亡、初陣であった。
よく頼り、よく頼られる性格で、ロスリックを旅している際は白サイン、赤サインを通じて不死人に知り合いが多かった模様。