ベルセルク 〜灰たちの行進曲〜   作:柳扇子

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3年ぶりの投稿がたったの3000文字ってマジ?

はーつっかえ!



妖精

目が覚めた平野から何か無いかとひたすらに歩き回って二日。鋼鉄の兜、そのスリットの下で、灰はこれまでで最も大きな驚きに目を見開いていた。

 

そこにあったのは大きな街と、それに見合う数の民の姿。整備された建物、見渡す限りの人。灰が長らく感じ得なかった命の活気が、ここには存在した。

 

暫し放心。危うく後ろから走ってきた馬車に轢かれそうになった所で正気に戻り、サッと馬車の通り道から離れる。数拍としない内に檻を引いた馬が灰を後ろから抜き去って行った。手綱を引いていたみすぼらしい格好をした老齢の男が抜きさりざまに灰を睨みながら馬を走らせていく。しかし、そんな事は灰の知った所では無い。当の本人はここで死ななかった事に安堵の溜息を着いていた。

 

周りの人間からは不死人独特の雰囲気(ソウル)を感じない。ここで灰が死ねば間違いなく一悶着起こるであろう事はこの状況を完全に理解し切れていない灰とて想像に易かった。良くて迫害、悪ければ檻に入れられて先程の馬車の様に何処かに連れられた挙句、永遠に隔離される事は想像に難くない。今更灰の膂力を以てすれば並の牢などそう時間も掛からずに抜け出せるが、折角生ある人間の世界を堪能しているというのに、無粋な真似は勘弁願いたい。

 

とりあえずは怪しまれない内に街に入る。獲物を腰に下げている人間が特に怪しまれる事も無く街へ入っていく様を見るに、どうやらこの街は傭兵や騎士等に寛容らしい。

 

街の入口と言わんばかりに設置されていた門を抜け、灰は大通りから少し外れた人の少ない路地に入り込んだ。不死として様々な場所を旅した灰から見てもやはり街並みは整然としており、建物の一つ一つから生命の賑わいが感じられる。街路の端にもたれ掛かるようにして頭を垂れている物乞いらしき男や貧民層と見受けられる子供らも見掛けるが、それも却って人らしさが感じられる要素だと灰は思った。

 

どうやら本当に彼等は人間らしい。それもダークリングの呪いに侵されていない、か弱きただの人だ。

 

本当に火継ぎは、己の旅路は終わりを迎える事が出来たのか。

 

灰の胸の内に安堵の感情が宿る。元より人の為に始めた訳ではなく、ただ自分が選ばれた、それだけに過ぎない理由で王殺しを行ってきた灰だったが、いざこうやって終わったと実感すると、感慨深い何かが灰の内を満たしていた。王を殺し、使命を棄て、世の理を変え、それでも自らの行いは間違っていなかった。

 

狭い路地裏で感傷に浸っていた灰だったが、視界の端、建物の影で何かが青く光っている事に気が付いた。

 

光の大きさからして魔術による光ではあるまい。誰かが落とした七色石か・・・・・・もしや結晶トカゲだろうか。成程確かにヤツらは建物や背の高い草の影など、見つかりづらい所によく潜む。

 

そこまで考えてから、灰の行動は素早かった。装着した者の立てる音を消す【静かなる竜印の指輪】を付けると、剣の柄に手を掛けながら、その正体を確かめるべく慎重に光へと近づいて行く。

 

「んー・・・どーすっかなー」

 

しかし予想に反して、建物の角から覗き込む灰の目に映ったのはトカゲなどでは無く、背中に羽を持つ人形の様な何かであった。水色に光るソレは疲労困憊といった様子でゼェゼェと荒い呼吸を繰り返しながら、何事か唸っている。

 

・・・・・・言葉も通じる様だし、話し掛けてみるか

 

背後から様子を伺っていた灰だったが、しかし大した時間を置くことも無く決断した。熟考した所で事態が好転する訳でもなし。それどころか、時間をかけ過ぎると別の人間が現れ(何者かの感知範囲に引っ掛かり)、邪魔が入る事さえある。過去に地下墓でアストラの騎士を見かけた際、そのまま近付こうとした所、不意に起き上がったスケルトンに背後から殺された事のある灰の経験を含んだ判断であった。……当時の事を今考えても仕方の無い事だが、しかし何故彼女は己がスケルトンに嬲られている時、一切の行動を起こさなかったのだろうか

 

「ひょわあああ!?!?」

 

敵意無く声を掛けたつもりが、それでも悪手であったらしい。小さな妖精は大袈裟に過ぎる驚きの声と共に四方八方へ飛び回り、周りに置いてあった樽やらランタンやらに激突しつつ、その後ポトリと地面に落ちる。

 

しまった、驚かせたか。墜落した妖精に灰は慌てて近寄るが、とうやら華奢な見た目に対して随分と丈夫らしい。ガバリと勢い良く頭を持ち上げると、そのままこちらに向けてプリプリと怒り出したではないか。

 

「ってーなー、ビックリするじゃんかー!」

 

少年の様な声で怒鳴る妖精の顔立ちは、その声や口調に相応しい幼げなものであった。一糸まとわぬ姿ではあるが一見して性器などは見当たらず、その体から発する光と同じ水色の髪と瞳に、耳は長い。正に御伽噺に伝わる妖精の様な出で立ちに、灰は驚きつつも自らの非を詫びる。

 

「ったく、心臓が口から飛び出るかと思ったっちゅーの」

 

そう愚痴を零しつつも見た目程怒ってはいなかったようで、頭にコブを乗せながらも己を許す妖精に、灰は嘗て関わった不死達とは全く異なる人間性(会話のノリ)との新たな出会いに、少しばかり気圧される。

 

それから暫くの間、灰と妖精は幾つかの言葉を交わした。妖精は自らをパックと名乗り、逆にパックが灰の名を聞けば、その回答に興味深そうに首を傾げていた。

 

「へー、アンタ自分の名前が分かんないのか。でも自分の事を灰ってのはどーよ?」

 

確かに『灰』は通り名の様なもので、名前としては機能しない。灰は苦笑しつつも、何故こんな裏路地に一人で居たのかと次の質問を口にする。

 

「んー、話せばそこそこ長くなるんだけどさ……」

 

パックの話がよく脱線する為に実際そこそこ長くなったので掻い摘むが、どうもこのパックという妖精、最初は旅芸人の一座に居たのだが、盗賊に襲われ一座が壊滅。以来盗賊の元で散々な目にあっていた所を旅の傭兵に助けられたそうな。しかし助け方が不味かった様で、街が襲われぬよう盗賊と取引していた領主がこれに激怒。傭兵はその後街の兵士らに捕まり、激しい拷問を受けているらしい。

 

「助けられっぱなしってのもどーかと思うし、借りは返したいんだけど、どうやって忍び込もうか難儀してんだ。どーすっかな……」

 

そこまで話してウンウンと頭を捻らせるパックはしかし数秒後、ふと此方を見て何かを思いついた様な表情を浮かべる。これは不死人として過ごしてきた灰の経験から来る勘に過ぎないが、断言しよう。パックはこれから絶対にロクな事を言わない。

 

「そーだ、アンタ見たトコ遊歴の騎士だろ?ちょっと手ぇ貸して……お願い待って最後まで話聞いて」

 

そら来た。クルリと踵を返そうとする灰へ突撃するパック。そのままレギンスに縋り付くと、子供の様に駄々を捏ね始めた。離してくれ、もう戦いは懲り懲りなんだ。

 

「いやいや別に戦えって訳じゃ無いから、看守をちょっと眠らせてもらえればそれで良いから!」

 

暫く後、結局は灰が折れる形で妖精対火の無い灰の格闘は幕を閉じた。より正確な理由を述べれば、鼻水と涎でグチャグチャの顔をこれ以上レギンスに擦りつけたくないからだったが。

 

しかし、命を救ってもらったとは言え、相手は名も知らぬ傭兵。更に聞いた話では、その後彼に礼を言おうとしたものの、冷たくあしらわれたらしい。恩義を感じる事こそあれど、普通なら命を掛けてまで救おうと思い至る者は多くはあるまい。何故そこまでする?堂々と体液まみれの顔を灰の鎧に巻いた布で拭うパックに問う。

暫くゴシゴシと顔を拭っていたパックは、布から顔を離し、ぷはぁと一息つくと、ニッと笑って言った。

 

「エルフは義理堅いのさ」




未だにダクソ3起動して耳集めてるよこの作者……
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