復讐の劣等生   作:ミスト2世

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破られた最強

 大黒竜也と謎の坊主が戦っていたその頃。

 司波深雪が藤林らと共にブランシュ日本支部が根城にしている廃工場に突入した。

 深雪が、矢継ぎ早に指示を出す。

「藤林さんは、このままここに残って退路の確保と逃げ出そうとする者の捕縛をお願いします」

「わかったわ」

「柳さん。迂回して裏口から侵入してください」

「了解したが、姫、貴方は?」

「私は水波ちゃんと正面から行きます」

「わかった。ならば無理はしないように。姫」

「柳さん、藤林さんもご無事で。行くわよ。水波ちゃん」

「はいッ!」

 そして、少女2名がブランシュアジトに突入を開始した。

 

 しばらく行くと工場の広間らしき場所に出た。

 そこに、長いマフラーに眼鏡を掛けた男が武装したテロリストを引き連れて出迎えていた。

「ようこそ、はじめまして。可憐なるお姫様がお二人で、ここに何の用かな?」

「貴方が、ブランシュのリーダーですか?」

「おお。これは失敬。いかにも、僕がブランシュ日本支部のリーダー、司一だ」

「そうですか。一度だけ聞いておきます。死にたくないなら武器を捨てて投降しなさい」

 すると、司をはじめとしたテロリストの笑い声が起こった。司が笑いながら右手を上げ、笑っていたテロリストらが武器を構え、銃を構える規律正しい音がする。

「はははははッ! 笑わせるなお姫様。君のその自信の源は何だい? 魔法が絶対的な力だと思っているなら、大きな勘違いだよ」

「そうですか。投降の意思は無いということですね」

「はははは。当たり前だろう」

「わかりました。ならば容赦しません」

 そして、深雪の周りに冷気でできた霧に包まれる。深雪が右手を上げる。

「ま、まさかこれは、振動減速系広域魔法『ニブルヘイム』……ッ」

 司が最後に見たのは、まるで裁きをもたらす美しき氷の女王の姿だった。

 油断しなければ、彼の邪眼であるいは、もあったかもしれない。

 だが、自分の下に来たのが可憐な少女2名ということですっかり格下とみて油断していたのが、彼の運のつきであった。

 テロリストらの声なき断末魔の絶叫が、その場に轟いたのはそれからしばらくしてのことであった。

 

 その後も残党は深雪が凍火(フリーズ・フレイム)で銃弾を凍らせて敵の武力を無効化させてから、深雪・水波の息の合ったコンビの活躍、柳の戦闘力によってあっという間に鎮圧されてしまった。

 後始末は藤林と柳が担当し、死体の始末などは全て魔壮大隊によって行われたため、この制圧事件が表に流れることはなかった。

 本来なら深雪はこの時点で四葉の関係を明かしていない一般人だから、過剰防衛、あるいは傷害・殺人未遂、魔法の無許可使用などで逮捕されてもおかしくないが、全ては藤林の迅速な処理により、警察の介入も無く、この事件は幕を閉じることになった。

 これにより、壬生紗耶香のスパイ行為は、最初からなかった事として処理され、司一はじめのマインドコントロールの影響を考慮してしばらく入院する事になった。

 後に十文字克人が桐原や渡辺と共に廃工場に突入した時、既にそこには誰もいなかったという……。

 

 リーナは、信じられない思いでそれを見つめていた。

(まさか……あの竜也と互角にやりあえる奴がいるなんて……何て坊主なのよ……)

 リーナが、唾をゴクリと飲み込む。

(この私、シリウスでさえ、竜也とやりあえば5分持てばいいほう……他のスターズなんか瞬殺されるくらいなのに……)

 しかしよく見ると互角ではない。わずかであるが、竜也にダメージが蓄積している。

「くそッ!」

 竜也が右の正拳突きを繰り出す。

 それを難なくかわすと、

「おかえしだよ」

 と、坊主が竜也の顎にアッパーを繰り出す。それをかわして距離をとる両者。

 竜也が、ペッと血の混じった唾を吐き捨てる。

(なんて奴だ……。俺とここまでやりあえるとは……)

 竜也はこれまで自分の力を過信していたところがなかったといえば噓になる。実際、四葉から追われた後の彼はただひたすら自身の向上、つまり誰にも負けない強さを欲した。だから九島烈に鍛錬してもらい、そして魔法力だけでなく体術も知力も何もかも全て一から鍛え上げた。アメリカに渡米してからも、アメリカの魔法師相手にさらに鍛錬を重ね、12歳の若さで総隊長の地位を手に入れ、世界最強と称される魔法師のひとりになった。

 それにうぬぼれていたつもりはない。彼は常に鍛錬は欠かさない。

(なのに、なんで目の前の男にここまで俺が押される!?)

 それが、竜也が感じる疑問だった。

 坊主が言う。

「どうやら君は、自分が押されているのを信じられないようだね……最強である自分が、目の前にいる僕に押される現実が信じられないかい?」

「…………」

「君は確かに強い。はっきり言って、体術だけなら君は僕より上だよ」

「…………」

「なのに何で僕に勝てないか? 君、いい師匠に巡り合ったことがないだろ?」

「…………」

「君の体術を受けていればわかる。君の体術はナイフのように切れ味が鋭い。まさに凶暴な虎そのものだ。だが、ゆとりがない。心や精神面に鍛錬がなされていない。それが君の弱点だ」

「…………」

「今の君じゃあ、僕にはおそらく死んでも勝てないだろうねえ」

「ッ! なめるなあッ! この、くそ坊主がアッ!」

 竜也が坊主に襲いかかる。

 竜也が分解を使えばあるいは勝てたかもしれない。だが、体術でこれだけ虚仮にされて、彼にはどうしても分解は使いたくなかった。意地でも体術で倒してやるとの思いがあったのだ。

 坊主は冷静に対応する。

「やれやれ。頭に血が上ったのかい? それじゃ、僕には勝てないよ」

 そして、坊主が身構える。

 竜也の拳が、坊主に向けられる。だが、

「ッ! 幻覚!?」

「え?」

 竜也とリーナが、同時に驚く。

「ま、まさかこれはッ!?」

「危ない竜也、後ろよッ!」

「ッ!」

 頭に血が上って正常な判断力を失っていた竜也は、反応が遅れた。

 坊主のかかと落としが竜也の頭部に決まる。

「ぐあ……ッ!」

「竜也ッ!」

 慌てて、リーナが間に入る。

 リーナが入ったことで、坊主が距離をとる。そして、

「さすがに2対1だと僕もきついからねえ。それに、深雪くんの用事も済んだようだし、僕は帰らせてもらうよ」

「……待ちなさいよ。何であんたが、あれを使えるのよ」

「あれ?」

「とぼけるんじゃないわよ、パレードのことよッ!」

「パレード? 何のことだい? 僕が使ったのは、『纏衣の逃げ水』さ」

「纏衣の……逃げ水……?」

「竜也くん。今の君じゃ、僕には勝てないよ。勝ちたいなら、もっと心を磨くことだ。それで初めて君は僕を超えられるかもね」

 そう言うと、突然、霧が発生して、その坊主は姿を消した。

 竜也は体術で手も足も出なかった、そのことにただただ、

「くそッ、くそッ、くそ……ッ!」

 と、爪で地べたを引っ掻き、悔し涙を流すのであった。




次回は「閣下と達也と」を予定しています。
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